第162部 私の出番が……いっちょん無い!
1972年1月20日 東京
*)少しは私の事も考えてよね……出番がありませんが?
私は亜衣音の偽物、今のところ順調に時を重ねることが出来ている。お腹の子だって順調よ。問題は大地の事かな。大地にも大学へ進学して欲しいから、口を尖らせて言っているのよね、勉強しなさいって。元々は頭がいいのにと思っていたのが悪かった。努力で優秀な成績を勝ち取っていたのが、今までの事件やら外国へ行ったりしたから勉強する気が失せたらしい。もう甘ちゃんだ!
「大地、ほら勉強するわよ、早く来なさい。」
「え~まだ晩飯を食っているから後で行くよ。」
「も~いつもそうやって逃げるのだから、引きずってでも連れて行きます。」
「おいおい亜衣音、帰宅を遅らせて学校で勉強したらどうだ。」
「あ、お父さん、それいいわね、その方法で勉強します。」
両親や藍、それに新しく同居し出した委員長とそれを補佐するのか? 海斗がまとわりつく。これって別な呼び方があるのよ、それは「同じ穴の狢」だよ。私が大学進学を決めて勉強しているものだから、その煽りを受けてこの三人も仕方なく勉強に励んでいる。
「だから……この家も平和なんだな!」
「亜衣音の奴さ、勉強ばかりで何も事件を起こさないよな。」
「海斗くん、もう家の娘になったんだから何もしないかもしれないよ?」
「そうよ海斗、大地くんだってすっかり信用しているからね、思いっきり尻に敷かれているじゃない。」
「おいユウ……俺だって勉強したいが気になって仕方ないからな手に付かないよ。」
「元々があんた、勉強は嫌いだったわよね。それでいて成績が良いのはどうしてかしら。」
「これが俗に言う、頭がいいと言うんだ。」
「バッカじゃないの、そう思うでしょう? 藍ちゃん。」
「いえ、そこまでは思いませんが番茶を飲みたくはありませんか?」
「バッチャみたいなことを言うのだな、この田舎人!」
「だったらコーヒー……海斗くん、」
「あいよ、直ぐに淹れてやるよ。砂糖も入れて飲めよ。」
頭を使うと糖分を消費する。だから砂糖なのだろうが入れすぎると高血圧には要注意だな。
「おい歴史の問題だが、『シュガーロード』とはなんだ。」
「それはあれよ、お砂糖が輸入されて江戸まで運ばれた街道の二つ名よ。」
「あ~あれか、長崎に入って長崎街道を通り江戸まで~というやつか。理解した。」
「ほら、今海斗が食べているお菓子がそうよ。福岡にはお菓子の老舗が多いのもこれに由来しているのよね。」
「へ~そうなんだ、知らなかったよ。じゃ~金平糖はどうなんだ。」
「あれもそうだよ、戦争に必要な糖分の補給にと沢山作られたそうよ。」
「これも軍需産業というのだろうか。」
「う~ん、どうだろうね。」
「そんなことは試験に出ないから二人とも勉強してよね。さもないと私たち、亜衣音に手も出せなくなるから。」
「私はバイトもあるから集中してやらないいけないのよ、分る? 海斗!」
「そうだね、居候は疲れるわな。」
「海斗くんもバイト始めなよ、あ、でも私は専業主婦のお手伝いがあるから二人でよろしく~……。」
藍ちゃんは私が自由に歩けるようになっても、家のお手伝いは欠かさずおこなっている模範的な同居人だ。追い出されたら行く処が無いから切羽詰まっているとも言う。
一方、双子を寝かしつけた両親は、
「ねぇあなた、時々亜衣音の気配を感じるのよ。まさか出た訳ではないですよね、私とても心配になります。」
「出たのなら訊けるが出ていないのならば健在だろいう。心配はしても手も足も出せないな。」
「いっそのこと、カムイコロさんをギリシアに飛ばしましょうか。」
「あの人は野生の勘はいいのだが、銭の勘定が出来ないから問題が多くて無理としか言えない。」
「飲み食いが激しいですから、」
「頭が痛いですね~!」x2
あれは家に置いても死んだ亜衣音を探させるのも、等しくお金が必要という事らしい。もう一人誰かお目付役を派遣出来ればと思い悩むのだとういう両親。
「ホロお婆さま!」
「同類だ、火に油の関係だから却下。」
「お母さんだって綾香と彩香にべったりだし、麻美さんは牧場で忙しいし、唯一暇かもと言える人は智治のお爺ちゃんだけになります。」
続けてお母さんが言うには、
「でも何かと仕事が舞い込むからどうでしょうね。だから暇ではないようよ。」
「こちらも仕事の依頼として発注してみてはどうだろう。どうせ農機具の修理が仕事だろうし、日本にはまだ有能な技師はいるはずさ。」
「お金はどうしますか、あの人も酒豪でしょう?」
「だよね~……交番の在る土地を売ってはどうかな。ジジイに高く買わせるか。」
「お爺ちゃんに出させるのもいいわね、そうよ、孫の為に出させましょうよ。」
「よ~し、直ぐに行ってくる。」
「銭は急げよ!」
お父さんが夜中に実家を訪問するもお爺ちゃんは留守だった。行き先は毎度の如く不明だとう言う。だいたいが家にいるならばお寿司を持ってひ孫の顔を見に来るのだが、もう孫の私は洋梨らしいわ。
「お婆ちゃんもさ、爺さんにロープと鈴を着けておいて貰いたいもんだよ。」
「あの人には似合いませんよ、思い立てば尻も軽いからね凧と同じよ。それで何の要件かしらね。」
「それが……亜衣音を探しに智治さんとカムイコロさんをギリシアに派遣しようと思いまして、言いにくいのですが金の無心です。」
「亜衣音は家にいますよ、いったい誰を探しに行くのですか?」
「あ!……そうでした。お母さんには話していませんでしたが、訊かないで欲しいのですがよろしいでしょうか?」
「穣がそう言うのならば仕方ないですね。悪い事には使わないと信じていますから、私が出してあげますよ。お幾らでしょうか?」
「ヨーロッパの旅費二人分と滞在費、それに二人の酒代ですか。」
「最後が一番値が張るわね……五百万で十分かしら。」
「私も行きたいです!」
「穣はダメでしょう。でしたら私がお財布になって洋行致します。」
「え゜”゜”……。」
「目が点(゜゜)になっていますよ。これでもまだまだ若いつもりですからね。」
女の六十代は脂の乗りきった年代だ、旅行に行くには丁度良い。突っ走る二人のお守り役と言うのか、酒代のスポンサーには文句も言えずに従うだろう。
「是非! お願いします。すると何ですね、亜衣音を探す意味を説明しませんとなりませんか。」
「あの亜衣音ちゃんは偽物と言うのだろう? 私にも少しは分りますが、今はもう同じにしか見えませんよ。」
「あ~やっぱりそうなりますよね。私たちだって最近は信じたくなってきていますから、今のうちに事を起こしたいのです。」
「分ったわ。うんとお洒落して行きますよ、ルンルン!」
ニセ亜衣音と本物の亜衣音が一緒に思える、これが「同化」と言うのだろう。段々とそう思わせられていたら本物になってしまうのか。
母と同じように時々感じるオリジナルの亜衣音の気配に私は、
「さっさと天国へ帰れ!」
*)お婆ちゃんの洋行……決定!
いつもお留守役のお婆さまにパスポートなんてものは無い。写真館へ行って五x五cmの写真を用意して貰ってそれからちょっと都庁へ連れて行かれた。
「ここは爺様の名前で早くこしらえて貰いましょうね。」
「はい、何かと便利ではありますが私だって元は外交官ですからね。」
「おや、どうして辞任したのかえ?」
「さてどうしてだったか思い出せません。いつの間にか無職になっていましたから謎ですね。」
オリジナルの亜衣音がいつも事件に巻き込まれていたから、お父さんはあの飛行機に搭乗した時に何かの平行世界が作用したらしいのよね。それを不思議とも思わないお爺ちゃんは、もしかしたら宇宙人?
あの西郷さんだって史実から消えた事があるのよね、あの人も平行世界が作用して異次元に飛んでいたのです。これって私と同じかもしれないわ。歴史家の人たちは途中で西郷さんがひょっこりと現れたとしか解釈出来ないんですって、未来人……?゜
「あの頃沙霧と秋葉原でデートしたのが懐かしいですよお母さん。」
「なんで私まで秋葉原に?」
「護身用にスタンガンを買ってあげようかと思いまして、必要になりますから買っておきますね。」
「おや、そうかい。ありがとうよ。」
他、沢山の防犯グッズを買ってきたお父さん。後になって教えて貰ったら全部空港で没収されるとか! 自慢話にもならないのだからね。
「あ~ほんにほんに、息子がこげん馬鹿だとは思いもしなかったよ。」
「お婆ちゃん、お父さんを悪く言わないでよ。お婆ちゃんも持って行く気満々だったくせに。」
「おや、亜衣音ちゃん。いやに家族思いだね~。」
「も、もちろんよ、当たり前でしょうが。」
反対にカムイコロさんはとても喜んでいて、どぎついサングラスを買っていた。もう姐さんの貫禄が充分だよ。それでいて智治お爺ちゃんはヤクザのボスのような格好の服で纏めているのは何故なのよ、桜子お婆さまの趣味なのかしらね。
「亜衣音ちゃん、私は暫くヨーロッパ旅行に行ってきます。護衛が二人とも優秀だから安心して行けるわ。」
「お婆ちゃん良かったね。鬼の居ぬ間になんとやらかな。」
「爺さんが帰って来たら私を弁護して頂戴ね。あのジジイと結婚してからというもの、旅行のりょの字も無かったんだからね当然の報酬ですよ。」
「それで何処に行くのよ。」
「それはね、道路に犬の糞が転がっている国よ分るわよね。」
「なんだフランスか、お絵かきの趣味と合致していますね。」
「そうね、時間があればイタリアにも行きますよ。」
「う~いいな……ルネッサンス!」
当時のヨーロッパ旅行費用とは幾らだろうか。ジャルパックのヨーロッパツアーは五十万から七十万円で、現在の貨幣価値に換算したら優に十倍以上に相当するようだ。だからさ簡単には行けないよ。
「ねぇお父さん、私の時のように軍用機には乗れないのかな。」
「それは無理だ。だってアメリカみたいな同盟国が無いし、軍の飛行機だって簡単には飛ばせないのだからね。」
「麻美お義母さまは帰って来られたのでしょう?」
「あれはあれで大枚をせびられて大変だったよ。」
「わ~ごめんなさい。……でもお父さんはその代金を払っていないとか?」
「うっ……沙霧さん、麻美さんの事はどうなった。」
「あら、お話がまだでしたかね。あれは……出世払いにして貰いましたよ。」
「うだつが上がらないから、踏み倒し確定だよね?」
「親に言う言葉ではないぞ、なぁ大地くん。」
「はいそれはもう。亜衣音、反省室へ行こうか。」
「え~ちゃんと背中は洗ってよね、最近は手が届かないから掻けないないのよね。」
「違うだろうが、バカか!」
「また親の前で私をバカ呼ばわりして、お母さんから叱られても知らないよ。」
バカと呼ぶのも一つの愛情表現になるのだが、こと、私に関しては本当にバカと言われているようだ、う~残念だわ。で、反省室って何処よ!
また両親の会話になる。
「ねぇ穣さん、あの方を亜衣音の教授に推薦出来ないかしら。」
「亜衣音が合格すればだろうが合格出来るかどうかだよ。お産だって控えているし、亜衣音が学長に嫌われていなければいいがな。」
「大丈夫よそこは私が説得してみせますから、あなたは少しお休みになってて下さいな。」
「俺には言えない作戦か!」
「いいえ見せられない作戦ですよ、ここをこうやって……、」
「抜かせ!」
「あらあらウフフフ……嫉妬ですか?」
あの方とはあの人、今は家族と水入らずだとは思うが、阿部寛、北海道大学の元教授だ。年賀状が届いているから元気だとは推測出来る。大学をリタイヤしたと報告を受けたのはつい最近の事。年齢からして七十歳前あたりか、今でも若く見られているという。
「客員教授の薄給だったら学長もうんと言うだろうさ。」
「手出しは……どうしますか?」
「黒川くんに頼むよ、クロと雷神で稼がせて頂こうか。」
「はい、良い考えですよ。」
「八百万の神様頼みだ。」
別名が八百長……競馬で稼ぐというのか、この親たちは。
二月になり東京農業大学の試験に私の眷属たちは無事に入試を終えて採用された。一部は合格だという……。で、私はと言うと、不合格だったんだ、残念無念だよ。
でもね、お父さんの口利きで十月の編入二次試験を受けさせて頂けるとの事。私のお腹がスッキリしたらまた来なさい”という事だった。入試の点数はだって合格レベルだったんだからね。
採用……裏口採用だそうだ、誰だろうね。金持ちにしか出来ないという条件が付く。そう考えたら……あの女しかいない。
春になって桜が満開になり、我が眷属に混じって東京農業大学へは通学していたんだな。だってさ、二次募集では学業に追いつくのが大変だからね、黙認されたのかとも?
私も学生の時、お腹の大きい先輩がいた。いつも夫婦で仲良く学校に来ては授業を受けてあったと思う。授業までは知らないが仲睦まじい二人だったな。
「私の主人を見ませんでしたか?」
久しぶりに再会した先輩のお腹が大きかった。その後、退学されたそうだ。また、細い後輩がいたが彼女が出来て……大いに変化した。体格が五割増しの筋骨隆々として。また、文化祭の出し物でお茶碗のセットを販売していたら、同じ性の名前の女の人が段ボールの箱ごと買っていく。勿論、遅れてきた旦那は声をかける。
「おい、そんな物を買ってどうするよ。」
「だって必需品だよ。」
実は私の妻も……?
閑話終了……。
あ、この頃の桜は四月の上旬から咲くのが普通なんだよ。今は三月から咲いて入学式の頃には……散るのよね。他のみんなよりも半年遅れで入学する予定だ。私は農学部で他の皆は、応用生物科学部、生命科学部、地域環境科学部、生物産業学部や国際食料情報学部。全員が満遍なく配置されていた。
特に藍ちゃんは他の大学の経済学部へ行きたかったらしいのよね。経済を学んで女社長になりたいとか豪語していたな。それがね、私たちも知らない間にさ国士舘大学は経営学部を受験していて、さっさと私を置いて国士舘大学に入学してしまった。
東京農業大学の合格発表に行きながら、合格して喜んでおきながらも私たちを裏切って一人で行くのだとか、あんまりだよね。
「私、三流大学へは行きませんわ!」
これって侮辱されたのよね、私が……。それでいて二回生に上がる頃にはもう女子大生兼ホビー会社の女社長に納まってしまう。何でもお父さんの錬金術が功を奏したらしいのよね。ぐやじぃ……わ!
「実は俺も、日本大学の獣医学研究科へ行く事に決めた。」
う~海斗も他の大学に行くのだとか。もう私を裏切るモノは居ないよね。
「私たち双子は国際短期大学へ行きます。だって授業料が少ない方がいいので決めました。」x2
これってお爺ちゃんがお金を出すので、短期大学ならば二年で済むからという理由
で決めたのよね。
「う~私の眷属たちが……。」
「私と大地くんがいますよ。」
とは夕霧さんが言うのだ。他は美保も未来も東京農業大学に来てくれるという、とてもありがた~い友人たちだ。残るは後輩の二人だがツバを付ける事は忘れないでおこう。美保は直ぐに社長夫人に格上げされるという、羨ましいよ~。
欣ちゃんがそれだけ有能らしいのよね。まだ若いのにね親父が仕事をしたくない、ただそれだけが理由なのかもしれないな。
みんな、みんな、進路が別れてしまい寂しい気もするが、家では顔を合わせるし、立花の名字が白川に変わった双子も、私が「来るな」と言っても顔を出す。
それとお爺ちゃんの家が寂しいからと、海斗が下宿に行った。何でもお婆さまが帰国したくないらしい……。女の二人だけでは物騒だという理由だが、海斗の方こそ女二人に襲われるとか心配する夕霧さんが可笑しかった。お爺ちゃんも相変わらず留守が多いのだとか。
東京農業大学……
で、大学に通う先は……オカ研よ、オカルト研究会。私が部長で顧問の先生は阿部寛先生だな。北海道大学を離職されて塩鯖の目になっていたとか。それが今ではオオカミの眼になっているんだなこれが。
「次は出産かな、大地……いっぱい働けよ!」
「ギャフン!!」
大地の午後はバイト三昧、だから身体も幾分か引き締まってきた。
「今日のバイト先は何処よ。」
「今日はバーガーキングだな、明日は酒屋の配達だよ。」
それが可愛そうだとは思わない、私はとても冷たい女なのよ。そんなこんなで大学の入学まではこき使ってやったわ。お産に足りない分は母の費用に積み増しをお願いしている。
それから私と母が臨月を迎えた。それにもう一人も臨月だという。途中途中で思い出しはしても、情景を挿入し忘れたというのが本当か。昨年の五月に私が妊娠を言い当てたが、外れであったらしくて母姉妹……母と澪お姉さまの妊娠を何処で書いたのかを思い出せなくて。話の流れの修正だという事で、三人がですね、臨月を迎えるという方向へ持って行きます。
いいよね、これくらい……。
……その内に修正させて頂きます。
たまには誤字を受け狙いで書いたりするものだからか、本当の誤字に指摘が
無いのは何故か。作者想いはいりませんのでドシドシ指摘して下さい。




