第161部 両親と……妹たち(その三)
1972年1月2日 東京
*)それから年も明けて……
帰国してからというもの大変な苦労もあったが無事にやり過ごせた。自分でも凄いと思ったらクソ親父は退散している。なんでも長い過ぎてボロが出るのを警戒しての事だと、何処まででもアホな親父である、あの教授は……。
初詣なんて知らない私だ、こんな普通の日常を知らないとは。あれもこれもあのクソ親父が悪いのだ。私には何も経験させてはくれなかったから。
一つ疑問なのはどうして私に母親が居ないのかと、禿げクソ親父に尋ねたことがあった。答えは至極真っ当で簡単だった。
「あ、お前は石狩川で拾うてきたわい。」
「え~ホンとなんだね、だったらお父さんは私の命の恩人だよ。」
「ホ~ッホッホ……。」
と、昔の私はチョロかった。真面に信じてもいたのだから。いつも自由にさせてくれる父が好きだった。他人様のように勉強しなさいとは言われていないが、捨て子とバカにされたくない一心で勉強をしてきた。だから友人なんて一人もいない。
とにかく親父殿は私に実験だ~と、何度も何度も引っ張り回すのには苦労させられたものだ。他は……食い物が豊富にあるのであの巨体にまで成長したらしい。お菓子とカップ麺が豊富に置いてあった。
事実は親父の実験の副作用で人間が壊れて破裂する寸前だったとか、もうあり得ませんわ。
で、年初から脱線した。昨日は無事に初詣を済ませた。相手は大地や藍、美保らと代わり映えがしないので苦にはならないのが良かったが、お参りを知らないのだとバカにされた。
「え~お参りは三回手を叩いて三回お辞儀して、九回も手を叩くのよね。」
「そうね良~く知らないのだと、良~く知りました、このバカ亜衣音!」
「いや~ん!」
もうこうなったら綿飴を買って囓って無口になるに限るのよ。何でも無口が一番簡単なのだからね。
「おい亜衣音、そんな埃の付いた物がよく食えるな。」
「大地、美味しいわよ、食べたら?」
「要いらね~……、帰ってからシシャモ焼いて食べる。」
それは昨日の事であって、今日は二日。毎年しぶんぎ座流星群を鑑賞していたと言われたらそれを実行するしかない。あの亜衣音が寒いのを我慢してまで見る価値はないと思うのだが、これも亜衣音を演じるには不可欠だろう。何時ものように庭に椅子を並べてみる。いや、大地に並べさせるのだ、私は順序なんて知らないからね。
「大地、お願い、」
「おういいぜ、何時ものように丸く置いていいのだよな。」
「……あ、はい。」
夜はお団子を添えてと思っていたら、誰も何も準備はしないのだ。唯一はカムイコロさんとホロお婆さまが酒の用意をしていたくらいだ。私はお酒が飲めないので、ノータッチなのだが大地はシシャモやスルメを焼いている。ホロお婆さまはホタテの紐を焼いていたよ。ボロが出ないように一人早く庭に出て夜空を仰ぐ。
お座敷には六人の妹たちが転がる。家族会議で杉田家や黒川家の引っ越しを案じられていたというのに、その後は平和に過ぎて行くものだから、そのような計画は頓挫してしまったらしい。
私も大学へ行きたいと念じて勉強に励むものだから、家族は私には何も言えないのが良かった。でも重大な事実がある。私の妊娠がそうだ。何処でしくじったのかは不明だが妊娠は事実で……大きくなった。
いやいや自分が望んで妊娠したというのにね。
「亜衣音ちゃん、そろそろお腹で動く時期だよね。」
「藍ちゃん、まだ実感がないよ。自分でも腹に子供がいるなんて考えられない。」
「ちゃんと産んで育てるのよ。」
「う~ん、大学に行きたいから麻美お義母さんに預けると決めたのよ。」
「産んで直ぐに? ふ~ん何だか妹好きな亜衣音じゃないみたい。自分の娘が一番可愛いのにね。」
「うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……、うぎゃ~……うぎゃ~……、」
と、六人の妹たちが大声で泣き出した。何時産まれたのかを知らない私だ、なので誕生日を訊きたいのに聞けないよ。ハイハイをするのでもう一歳は過ぎているのかと思った。
「あらあらどうしたのよ、お~よしよし。」
「また全員で泣くなんて久しぶりよね、どうしたのかしら。」
「亜衣音ちゃん見てないであやしてよ。」
「う~ん、油だと思うけれども育児の練習よね。」
「水脈ちゃ~ん、」
「違うでしょ小百合です。もう覚えてよ。」
「だって見分けがつかないし私も困っています。」
「うう……もう産まれた時は見分けが出来ていたんですよ、ならば今も……いえそうね、みんなソックリだものね。こうなると母親だって怪しいわよね、ねぇ澪?」
「え~なんで私に振るのよ。食事に困っていても子供の入れ替えなんてしていませんよ! 失礼しちゃう。」
「え~澪お姉さま……時々入れ替えていると、仰っていましたわよね?」
「澪……メ!」
「いや~明子さん、もうバラしたらダメでしょうが。」
「私だって授乳をしていたんですから離乳食くらいはいいのですよ。」
「もしかしたら明子さんまで入れ替えをしていたんですか?」
「だって六つ子の服は、みんな同じですのもね。」x2
何処まででも悪い事には息が合う澪お姉さんと明子お姉さんだ。
そんなバカな話は無いだろうにと思いながらも小百合を抱き上げる。
「おや、今日は泣きませんね~、息が止まってる?」
「なにバカ言っているの、」
「無呼吸なだけです。」
「無呼吸……? まぁ大変、替わりなさい。」
「あ、はい、」
「小百合、小百合、どうしたの、返事しなさい。」
「……び~ぇ~、・・・・、」
「うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……、うぎゃ~……うぎゃ~……、」
又しても大合唱が起きた。これでは私にもどうすることもできない。ただ単に大きく息を吸って泣く準備をしていたのだろよ、妹のアホ! これに付いてはお母さんは何も言わないので安心しきっていた。何度でも同じだからか。
私はまた庭に出て夜空を仰ぐ。もう見えてもいい頃だろうか。するとお母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「亜衣音、亜衣音。」
「え、なんだろう……。」
呼ばれてお座敷に行くとお母さんが驚いた顔をしていた。
「あんた、台所に居たわよね、それがどうして庭から上がって来られるのよ。」
「え~お母さん。私、庭で星を見ていました。台所には行きませんでしたよ?」
「変ね~確かに亜衣音が居たような気がしたんですよね、思い違いだったのね。」
「そうですよ、お母さん。それで?」
「あ、そうだったわ、マミーちゃんを持ってきて貰いたかっただけだから。」
「うん、持ってくるよ。」
「そ、ありがとう。」
母は時々私と台所を交互に見つめて首を捻っていた。これは私の幽霊が、いやいや死んだ亜衣音の霊が出戻りしたのかと寒気を感じた。
「さっさと天国へ帰れ!」
そうオリジナルの亜衣音は六つ子によって召喚されていたのだった。でも実体までは実現出来なかったようだ。この前のように近くから数人を召喚したのとは訳が違うそれ程遠いのだから。
もしこれが本当で死んだ亜衣音が現実に舞い戻ってきたら、私、どうしようもないのかな。永久に出て来ませんように……なむ~。
二つの物語を平行して書く予定です。少し捻れた処が出るでしょうが皆さまは
スルーされて下さい。斜め読み、大いに結構でございます。




