第158部 最終章……帰国……
*)ひかるの遺体と亜衣音
ひかるの遺体が見付かった。ホテルに届いたニュースで全員が驚く。大地と桜子お婆さまが一番悲しむ。
「お婆さま、私が亜衣音ちゃんの代わりに出頭いたします。」
「いいかしら、お願いね。」
と、ひかるに身代わりを許した桜子お婆さまが一番後悔している。大地は最後まで守れなかったという後悔で塞ぎ込む。
夕方になり、そんな悲しみが充満している処にひかるの遺体が届いた。死体検分で時間を取られていたという。
しかしこともあろうか……トラックの荷台に載せられて帰ってきたのだ。二人の警官が手早くひかるを降ろして一通の封書を桜子お婆さまに手渡して帰っていく。
「遺体の確認を。」
「はい、ひかるに間違いありません。」
ひかるを収めた棺、大地がへばりつき他は遠巻きに大地を見ている。皆は悲痛な面持ちで声も出ないが泣き声だけは聞こえてくる。
もう大地を癒やせるのは、亜衣音の私しか居ないのだと言いたいのか藍ちゃんは、ポツリと一言。
「亜衣音ちゃん、戻ってきたらいいね。」
「藍ちゃん。戻って来ると信じているのかしら?」
「委員長。いいんねそれで、亜衣音ちゃんが戻らなくて。」
「海斗、私、どうしたらいいのよ。亜衣音さんを守るのが私たちの仕事の約束でしたわよね。探しても見付からないからと藍と二人で帰ってきて。」
「狭い島だからもう探す処は無くて。仕方ないだろう?」
「私、探しに行きます。」
「おいユウ……。」
「止めないで、きっと何処かで死んでいるのよ、遺体を探してきます。」
「バコ~ン、」x?
夕霧は海斗から何度も何度もぶたれていた。夕霧も亜衣音の遺体を捜してくるとは、真面な思考ではあり得ない一言だ。夕霧はぶたれて頭が元に戻った?
逆に海斗は頭が混乱して来たのか、今度は大地に突っかかる。海斗はひかるの遺体に縋る大地をも殴ろうとして桜子お婆さまから止められる。
警察の検死によってひかるの遺体は顔以外は切り刻まれて、棺に収められているのが本当に死んだのだと感じられる。ベッドに寝かされているだけならば起こせば起きるような錯覚を起こすから、死を受け入れる事は難しい。
「穏やかなひかるの顔だよね。苦しんで死んでいないのは良かったかしら。」
「大地くんのハンカチを握り締めていたらしいわよ。」
翌日の朝になって教授が汗を垂らして部屋に駆け込む。
「おいおいおい、ビッグニュース、亜衣音ちゃんが見付かった。」
「え”……本当ですか。」
「ウソを言ってどうする。今は警察に保護されている。直ぐに帰すそうだ。」
「教授。あんた今『返す』と書いて、急いで『帰す』に書き換えたでしょうが。」
「はい、遺体だったら『返す』なもので……。」
「みんな、ロビーに下りるわよ。」
「は~い。」x5
それから程なくして一台のパトカーがホテルに到着する。警察官は教授によりお金を握らされた残念な警察官である。本当に警察署に保護されていたら帰すはずはない。しかしこんな裏話は誰も考える事はないのだから、それは亜衣音の笑顔がそうさせる。
「只今、ごめんなさい。帰ってきちゃった。……みんな、どうしたの?」
笑顔が可愛い私に皆は騙される。ひかるが死んだ事は知っている。でも、そこは知らないふりだよ。一番喜んだ桜子お婆さまが私に抱きつく。
「亜衣音……よくぞ無事に帰ってきてくれた、嬉しい……。」
「お婆ちゃん……どうしたの? 逃げ切れなくて捕まって放免になったよ。どうしたのよみんなは。」
「それが……ひかるの遺体が昨日届いたの。ひかるちゃんが死んだのよ。」
「え”……ウソよ、どうして……。藍ちゃん、どうしてひかるを行かせたのよ。」
「だって、ひかるがあんたの身代わりで出頭したのよ。でも警察ではない人が攫っていって、それっきり判らなくなっててごめんなさい。」
「うわ~……、ひかるは何処?」
「今案内します。可愛い顔しているわ。大地が離れないと思うけど、」
「大地、無事なのよね、安心したわ。大地は私が守ります。」
ホテルのロビーに残った海斗は夕霧を掴まえて、
「なぁユウ。亜衣音さんはおかしくはないか?」
「いいえ、全然。」
「だってさ俺を無視するし、一番はさ、どうしてひかるを行かせたのか、と言っていたよ。亜衣音は先に逃げたから知らないはずだよ。」
「警察で聞いたのよ別に不思議ではないし、海斗にだって私に亜衣音ちゃんははっきりと言っていました、海斗とは別れると、ね。だから無理しているのよ判る? 女心というやつ。」
「わかんな~い……。」
「アホ、バカチン。」
「そうなのかな~……俺は納得出来ない。」
「諦めて私を好きになりなさいってば。」
「いやだ、亜衣音さんがいい。身体も捨てがたい。」
「一遍、死んじまえ!」
「バコ~ン、」……「チーン!」
「藍にも聞いてみろ。どういう反応を起こすか教えてくれ。」
「うん、後で一人になるはずだからその時に訊いてみます。」
「あぁ、よろしくな。」
夕霧さんと海斗くんはロビーで別れて、夕霧さんは藍ちゃんの動向を探る。
私と藍ちゃんは一緒になって部屋まで重い足を引きずって歩く。ひかるの霊安室と呼ぶには悪いとは思うがここは悲痛な面持ちの顔を作り無言で歩く。他の人とは一緒に居たくない。
「ここよ亜衣音ちゃん。大地くんをお願いね。」
「はい任せて。また私とよりを戻させるから。」
「うん、お部屋で待ってる。」
藍は私と大地、それからひかるを残して出て行った。後方には夕霧さんが見えていたからどうしようかしら。でも目先は大地を私の物にすることよね。
「大地……、どお? 私、帰って来たわよ。」
「あぁ……亜衣音? 無事で良かった。でもな、お前の身代わりでひかるが殺されたんだ。俺は悔しい敵を討ちたい。」
「うん分る。でも、事故死だと警察は言うのよ。きっと事故死だよ。」
「もうひかるの身体は見れない。悲痛過ぎる程に切られていた。」
「え”……見たんだ、それでどうだったの?」
「子供が居たらしい。そう聞いた。俺の子供だったんだ。」
「そうね、だったら私に大地の子を産ませて欲しい。私は今でも大地のこと忘れていないのよ。この身体がよく覚えているわ。」
「亜衣音……少し変わったか?」
ここは否定せずに追認しておくの、その方が疑われなくいいのよ。
「はい変わりましたよ。この島は巫女の発祥の島らしくてね、教会に行ってお祈りを しましたら、ほら巫女の力がいっぱいになって戻ってきましたよ。外で確認しましょうよ大地のことが好きなのよ。私、大地の赤ちゃん……欲しい。」
私は戸惑う大地に構わずに抱きついた。そうして依然と変わらない巫女の血で大地の感情を惑わす。
「ほら、今は巫女の血が素敵に香ってきたでしょう? とても落ち着くよね。」
「う~・・・・・・そうだ、亜衣音の匂いとひかりの匂いもする。それにお義母さんの匂いもする。どうしてだよ。」
「多分アメリカでひかるちゃんの血も頂いたからだよ。お母さんの血も貰っていたんだよ。」
「そうか、……何だかひかるのようでとても懐かしい。嬉しいよ。」
「うん、大地。私の大地、私の物よ。」
「あぁ、俺はひかるを守りたい。もう二度と離さない。」
「大地、私は亜衣音だよ間違わないで欲しいな。」
「あ……そうだった亜衣音だよ、亜衣音……好きだ。」
「うんうん、お部屋に戻ろうか。お風呂も入りたい、汗臭いよね。」
「洗ってやる。」
「ウフフフお願いするわ。一緒に入りましょう。」
「あとは、Hを十回はしたい。」
「う~ん身体がもてればいいわ。私、教会で強くなったから朝まででも大丈夫だよ?」
「お、・・・嬉しいぜ、亜衣音。」
私は大地を虜に出来た。そうして……お腹には赤ちゃんが居る。先に出来た赤ちゃんが居るのよ、大地。
(教授、お腹に赤ちゃんを忍ばせていたなんて、グッジョブ! 父さんはあの子と励んだ……なんて、考えたら寒気がしてきたわよ、愚息馬鹿親父。)
「亜衣音、どうした?」
「あ、いえ、ただの考え事よ。楽しみだわ。」
「そう言えば亜衣音、お前は海斗の子を妊娠していたよな。」
「あれは敵から逃げる口実よ、珠子さんが機転を働かせてくれていたのよ。今度訊いてみてよね。」
「おう、そうするよ。珠子もなかなかやるな。」
「お友達だものね。(あ、やばい、バレていないよね。)」
「そうだな。」
スパイの珠子とは組織内で面識があるからつい口に出してしまった。ほんの最近になって会ったスパイの珠子が、亜衣音からみて友達だとは言えないからね。
少し心配だよ。スパイの珠子は二重、三重のスパイなのだ。どっちが……と考えるも私には分んないよね。
「珠子……私の味方だよね。今度訊いてみるわ。」
馬鹿な私が考える事だ、珠子は『そうだよ、亜衣音ちゃんの味方だよ。』と答える、当たり前だろう。だが、亜衣音はどちらの亜衣音なのかをはっきりと言えないなからここが拙いよね。
私のそんな心配をよそにして、大地は亜衣音の妊娠の事を訊いてきた。
「そうだった、ニセの検査薬で敵を誤魔化して逃げてきたと言ったよ。」
「ほら、でしょう? 頑張るからね私。藍にも言ってきたわよ、お部屋には来ないでとね。」
「そうか……うん、うん。」
あらあら、私の口はドンドンとウソをついているわ。これも大地の為だよね。
その夜、私たちは合体した、朝まで続く……。
で、時間は巻き戻り、藍が夕霧に声を掛けている。
「ねぇ夕霧さん、今晩泊めてほしいのよね、いいかしら。」
「いいわよ、でもね、」
「海斗には手を出しません。いいでしょう?」
「はいはい追い出されたっていう訳ね。いいわよ可愛そうだから。なんなら今から戻って大地くんと三人で励んできてもいいのよ、黙っているから、」
「う~ん、そうしよう~かな~。」
「わ、ウソよ、冗談よ。ね、本気にしていないよね?」
「バ~カ、茶化されてどうすんのよ。」
「う……からかわれたんだね、私。」
「そうだよ、でも海斗の方が魅力的だよね。」
「えへへ……そうでしょう。海斗は、」
「あ、俺がどうした?」
「うひゃ、海斗、居たんだ。」
「居たよ、それでどうだった。」
「あ、それよそれ。ねぇ藍ちゃん。亜衣音ちゃんはおかしい処は無いかな。そう……偽物とか!」
「いやよ何を言うのかしら委員長は。本物ですよ顔が同じだし声も同じ。だから本物よ。どうして偽物とか言うわけ?」
「海斗、お願い。」
「いやもういい。俺は信じない、ただそれだけだ。」
藍ちゃんが海斗に迫る。
「抱いてみたら分るのかな、ねぇ~海斗くん、」
「よせやいあれは亜衣音じゃない。だから抱けない。絶対に俺を無視するから抱けない。」
「……変な海斗くん、どうしたら信じるのかしら。血液でも調べる気かしら。」
「お~……それはいい考えだ。帰国して調べるか。病院ではカルテを見て、」
「見せてくれないわよ、おバカさん。」
「盗む、協力しろ藍。」
「いいわよ、でもね、」
「いいから協力頼む。」
「いいわ、夕霧さんもそうなのかしら。」
「私も本物だと思いたい。でもね海斗の言う事も信じたいのよ。」
「迫りたいのね、今晩は二人で海斗を落とす、ねぇ、いいでしょう?」
「いけません、海斗は私が落とします。」
「俺は落ちないよ。亜衣音を探してみたい。」
「そうかそうよね。だったら本物の亜衣音ちゃんは何処かしらね。」
「天国だろな、組織が片付けているだろうし考えたくもないよ。」
「そうだね、でも探すのはやめられないよ。明日から実行!」
「残った時間は短いが探しに行く。」
「オー、」x2
これからは、海斗、夕霧、藍の三人がグループから外れて他のメンバーと対峙する事となった。亜衣音に付かず離れずだ、難しい舵取りが要求される。
この海斗と藍の二人は歩いて行けない小島には行っていない。行けば会えただろうに残念だ。
*)帰国……
「ひかるちゃんの遺体が痛まないうちに帰ります。」
「でも事件は解決していません。」
「この国の警察は、いち旅行者には優しくはありません。事故死という検死結果そう
言う死亡診断書が出ています。」
「でも誰が殺したのか、判らないのですよね。」
「貴女が残りますか? 私はこの子を日本へ帰して葬儀を行う義務もあります。それに ……もう疲れました。この旅行は亜衣音を本来の巫女に戻す事でしたがもう諦めました。亜衣音いいかしら。」
「……はい桜子お婆さま。異存はありません。急いで帰国しましょうよ。」
高校生が残ると言っても外国では何も出来ない。英語圏でもないのだし口も無い達磨さんと同じよね。海斗にも無理という表情が見てとれる。
ミコノス島の空港からアテネに飛ぶ。ここで日本大使館の協力を受けて全員が悲しい帰国を果たした。ミコノス島……巫女の栖の島だったのだろう……。
あの小島が巫女の発祥だったりしたのかな。そんなこと分らないでいいのよね。もう終わった、あの亜衣音は死んだのだから。
機内では動けないからグッタリとして過ごす。横には大地がこれまたゆだれを垂らしてグッタリしている。こいつ……生命力が半端なか~。
「着いた~~……、うぅ~~~ん、」
東京の羽田空港、背伸びをしていたらお爺ちゃんと智治お爺ちゃん、それにお父さんが迎えに来ていた。
「これからは私が主人公の亜衣音になるのよ。」
タクシーに乗って自宅に着く。美保や未来らの家族が待機していて温かく迎えてくれた。
「私には経験が無いよ家族ってこうなのかしら。理解出来ないからここはとても悲しいのよと、お芝居で頑張ってみるわ。」
それと各人も久しぶりに家族と会えて嬉しそうにしている。家族が居ない人もいるのだがそこはそれ、台所に寂しく屯する。他の面々は多大なお土産を玄関から室内に運んでいた。
「亜衣音……お帰り。」
「(この人はお母さんかな。)……うん、只今戻りました、お母様……。」
「……? それで、お前は大丈夫なのよね。」
「はい無事です。ただひかるちゃんが死んで悲しい。良い子だったのに、」
「うんうん、悲しいよね。」
教授からは予備知識は教えて貰ったがいきなりの対峙は無理だよ。ここはお父さん兼教授に色々と助けて貰おう。
「おと、いいえ教授。私の健康診断をお願いします。」
「あ、そうですね、お嬢様の巫女の魔力診断を先にいたしますか。」
「では二階の部屋へどうぞ……。」
「おいおい二階は俺の部屋だ。奥に変えただろう?」
「え、あ、そうでしたね、カムイコロさん。」
「……。」
「あ、そうでした、気が動転していましたわ。お母さん失格ですね。」
「いいえお母様。」
私は自分の部屋らしき部屋を探してみた。通路の部屋の襖を全部開けてみたのだ。
「ここかしらね、」
「そのようですね、お嬢様。」
「う~お母様にはウソが通じていません。」
「大丈夫です、私が何とかいたしますから。」
「亜衣音ちゃん大丈夫かな。」
「うひゃ~……藍ちゃん。」
「え~この部屋は私も使っているのよ、忘れたの?」
「いえ少し疲れているから、その驚いただけです。」
「冷たい物、飲むのか聞きに来たんだよ。飲む?」
「はいお願いね。」
「いいわ、待ってて。」
「うん、」
やはり一緒に生活していないからなりすましは出来ない、難しいよ。
「無口で通すしかないか、口数を減らせ。」
「はい頑張ります。」
いづれは高校が問題よ、クラスメイトたちの名前はいいとしても顔と合致しないと、その後はとても面倒になるかしら。
「お前、もう一度口を切って包帯巻き姿になれ。」
「そうですね口を怪我するって、いったいどうするのよ。」
「二階の階段から落ちろ。それも口からだぞ。」
「イヤです、怖くて死にますよ。」
でも階段からは落ちなくても、教授によって玄関の上がり框で突き落とされて自転車のごついスタンドにぶつかった。もろに口を怪我してしまう。
(俺はおでこに深い傷を負ったのだった、頭骨にも深い傷が残る……。)
「ふがふが!」(ご飯が食えないだろうが、バカ親父が!)
「作戦成功、傷が治るまでに家族関係の学習せよ。」
「フガフガ!」
「なになに勉強は出来ない、バカだから?」
「フガ!」
「それ位我慢しろ。Hは何時でも出来るだろうが。」
「フガ?」
「間違ったのか……それはすまん。」
自宅に着いて早々に怪我をさせられてしまった。夕飯抜きなんて何の拷問なのよ。お風呂も奪い合いで入るにも苦労した。お座敷に泊まる海斗たちは放置して私も急いで休む。でもガキがうるさくて眠れない。妹たちが泣き止まないのだから
大地……どうにかしなさいよ。
「お前の妹だろうが、乳飲ませてこい。」
「え~大地が飲んでよね。」
「そう言えば亜衣音、乳が出ていなかったな。」
「疲れているからね出ないのよ。」
それから真夜中になる頃、騒ぎが起きた。
お座敷の続き間に安置されたひかる、火の玉が上って……、
「うきゃ~……、」
とうとう私は死んでしまったようだ。次回からはニセ亜衣音が主人公となる
物語へと進む。亜衣音を勝手に殺して、どうもすみません。
亜衣音……β世界線の準備が出来ましたら掲示いたします。
次回からは新章へと進みます。 これからも続きますので、乞うご期待!




