第157部 ひかるvs亜衣音……女の戦い
「なんだ、。、何を言いたい。」
「ごめんなさい、ひかるを倒して連れて帰ると言いたいのよ。表に出て。」
「俺は強くなった。だからお前は俺には勝てない。」
「そうかな、では表に行きましょうか。」
ひかるは私の隠れ場所を知っていたはず。なのに見逃していたのはひかるのもの言う口が証明していた。こいつは一人でバーガーを食っていたという事実を。
私も朝から何も口にしていない。きっとひかるも同じよね。男らの飯さえもひかるは全部を食らってさぞや力も出てくる事だろうさ、ね、ひかるちゃん。
「俺、元気になった。かかって来い。」
「うんいいかな、じゃぁ行くよ?」
「……。」
「エアー・ショット。」
私は右腕を伸ばして叫ぶと空気弾のような攻撃が出来る。巫女の力としては小さいものだが、受ければ痛くて身を捩るほどに苦しむはず。
「フン・フン。」
ひかるは無造作に私の空気弾を手で払ってしまった。まぐれだよね、あんな見えない空気の弾を弾くなんて不可能よ。
「そんな、あり得ない。」
「お前、こんなものなのか。もっと撃ってみろ。」
「エアー・ショット。」
「フン・フン。」
「エアー・ショット。「エアー・ショット。「エアー・ショット。」
「フン・フン、フン・フン。」「痛っ、」
「あ、当った。」
「こんなの蚊が刺しただけ。痒い。」
「う~……そんな~もっと痛いと言ってよね。」
「フウ……できるか。次は俺からだ、……あれ?」
「どうしたの?」
「俺には魔法が使えないのか。くそ~打撃のみのなか。」
「あ、あの顎砕きね、あれは痛いから勘弁よ。そうね、足蹴りや突きを食らわずに逃げて遠方から攻撃すればいいのね、エアー・ショット。」
「フン・フン。それでは俺は倒せない。ならば俺は投擲!」
ひかるの馬鹿力で投げ出される石は大きくて速く飛んで来る。避けるのが不可能と感じられた。でもね、モーションが大きいのよ、だからモーションを読んで先に横へ逃げればいいのよね。
「へへん~だ、当らないね。」
「クソが。ガキんちょ、逃げるな。」
「ガキとはなによ、教祖さまに向かって。」
「教祖?……正月の酒か。もう随分と飲んでいない。今度はこの丸太を持って、」
「いいのよ、そんな棒きれで私を叩くなんて言わなくていいのよ。」
「ふん、知るか。大人しく叩かれて伸びろ。」
「やだ、エアー・ショット、エアー・インパクト。」
「ギャン、バキ、バ~ン……。」
ひかるの横を大きな音を立てて飛んでいく空気弾。その後に放った突風の風でひかるの持つ丸太が折れて近くの岩に当る。
「うぎゃ~……、いて~だろうが、アホ。」
「ごめんなさい、もう降参しなさいよ。貴女では今の私には勝てないよ。」
「ふん、なめんな!」
「エアー・スプラッシュ!」
私は両手を前に向けた。渦巻く空気の刃が飛んでゆく。これではひかるにも対応が出来ない……はず。
(え?……ひかるに涙?)
「ヤ! 砕けろ、私の魔法。」
私はひかるの顔を見てとっさに魔法を解除した。ひかるに当るすん前で弾ける刃の魔法には威力もある。だからひかるの胴体は寸断されなくてもそれなりの衝撃でひかるは弾かれてしまった。
「ひかる?」
「う~もう少しで殺される処だったわよ、亜衣音ちゃん、酷~い!」
「あれれ?……ひかるちゃんがもチョに戻った。」
「もチョとはなによ、舌噛んだのの。」
「のの……? それはお互い様でしょうね、ひかる……?」
「うん、ごめんなさい。どうにか元にじょうきにもどちゅたかな。」
「アハハ……可笑しいね。」x2
ひかるの口に血が付いている。衝撃が口の中にも入ったのかな。痛かったよね、ごめんなさいだよね。
私のエアー・スプラッシュは、相当に威力を増している。以前だったら身体に命中しても両断はしないはず。でも車のボデーが両断されていたのも事実だ。これは自分の目で見た物を感じ取って、威力を調整していたのかもと考えるも、やはりそれは違うと考えた。
ひかるは服を捲り上げて、
「亜衣音ちゃん、私のお腹を見てよ。痣だらけになったわよ。」
「赤ちゃん……大丈夫よね。」
「脂肪が厚いから大丈夫。まだ十ミリ位の大きさよ。」
ひかるのへその両側には赤いミミズ腫れの跡が残っている。これが渦巻く空気の刃の跡なのだろうか。
「それって私が付けたのよね、本当にごめんなさい。」
「違うって、これはあいつらにやられたのよ。だから怒って殺して……?」
「どうしたの?」
「う……私、人を沢山殺したのよ。人殺しだよ。どうしよう……。」
「正当防衛、私も黙っているから判らないよ。」
ここミコノス島で出会った男を思い出した。あの男がここを調査すれば直ぐにでも知られてしまう。
「もう……出たとこ勝負よ!」
「どうしたの?」
「あ、え、いや何でもないのよ。向こうの島でヒッチハイクした男にね身体売っちゃった……。逃げなくてならないの。」
「身体売ったって、もうやっちゃったの?」
「今晩の約束で躱してきた。戻ったら待っているかもしれない、どうしよう。」
「今日はここで泊まって、明日の朝に男たちを海に流してしまいましょうか。」
「そうね、隠蔽は大事よ。」
このひかるの提案を受けたのが悪かった。直ぐに二人でミコノス島に逃げていたら痴漢もいるのだが殺される事はなかった。
この島には私の魔法で刻まれた跡が今でも残っている。この模様のようなものはどうして出来たのだろうか。丸い円の中にCAと言う文字。それに続く四角い線が付いている。さながら日本の前方後円墳と同じだよ。
夜、不吉な夢を見た。私はひかるから寝込みを襲われてボコボコにされる夢。それからまたしても簀巻きにされて男たちに担がれて船に乗せられる夢だ。その後、私は死んだようだった。
「おうおう、今朝は何だか冷えてしょうが無いよ。九月だろうに、ワシも耄碌したかえ。」
「おい婆さん、あの馬が二頭とも暴れて手が付けられないよ。」
「ホニャ、そげんかこつ……あるのかい。クロと雷神が暴れるのは、きっと孫に何か起きたんだべ。」
「ブヒ! ベヒ!」
「ボフ! ブ……。」
「亜衣音、無事だよね。孫に先立たれるのは親不孝だて。」
「ブヒ! ベヒ!」
「お前たちもそう思うのかい?」
「ブヒ! ベヒ!」
「好きに走っておいで、気の済むまででいいよ。」
「ブヒ! ベヒ!」
「亜衣音が死んだかえ……。沙霧には耐えられんだろうな。ワシも沙霧の泣くところは見たくないぞ、亜衣音!」
「おはよう教祖さま!……返事はないよ。」
「よくこの女を殺せたな。」
「油断大敵よ。寝込みを襲って怪力で殴ればイチコロだって。」
「服、取り替えろ。それにその乱暴な言葉遣いは早く直せ。」
「それで、私の死体は持ってきているよね。」
「苦労した。同じ病院での整形手術だったから、ま、楽は出来たな。」
「私、この魔方陣で、この醜女に似てくるのかしら?」
「あぁ勿論さ、もう巫女としての力も受け継いでいるだろう。」
「試してみてもいいかしら?」
「外でしてくれ。と、この女はまだ使い道を残している。遺体は食べるなよ。」
「どうするのでしょうか?」
「最後の生命力まで吸い取って次の巫女を二人創る。」
「私の……予備?」
「お前の巫女の力の予備だ、お前自体の予備は無い。死ぬなよ。」
「お前の身代わりはミコノス島に放置するから、その遺体をボートまで運べ。」
「重たい、」
「お前には軽いだろう、文句言うな。」
「それでお父さん。この遺体をどうして持って来たのよ。ミコノス島に置いておけば良かったじゃんか。」
「いや、お前の特徴を身体に移す必要があるからだ。判るか!」
「お父さん、大地は貰えるのよね。」
「もう……教授と呼べ。(こいつ、理解出来ないみたいだ。)」
「はい、キモい教授!」
「……まぁ……いいか。あの女は俺を嫌っていたしな。今晩からは胸をあいつ並の大きさに改造する。少しばかり脂肪を抜くから。」
「う~寂しいで胸が少し小さくなるなんて。追加は出来ないかしら。」
「お前、あの女にソックリに化ける事が出来たな。」
「はい、あの祭壇は恐ろしく良く出来ていました。この容姿ならば誰も私と亜衣音が入れ替わったなんて思いませんわよ。」
「でもよ、仕草とか話し言葉とか、まだ少しは違うだろう。どうする。」
「姿と声が同じならば問題ありません。序でにあの女も馬鹿だから丁度いいです。」
「お、似てきたな。ならばあと数日は隠れて過ごすか。」
「はい、ご随意に……。でも新しい服は買って下さい。」
「交換していないのか。」
「いやですよ、あんなダサい服はこの私には似合いませんものね。」
「いや交換だ、この死んだ女とな。」
「そうですか、仕方ありません。臭いです。」
「文句言うな、着替えろ。引き裂けば直ぐに脱げる。」
それから直ぐに……。ニセひかるの遺体が発見された。内に外にと級友たちが大騒ぎする。桜子お婆さまも顔面蒼白になって働かない警察を動かしている。
ひかるの遺体の決め手はやはり服だ。それからは教授による買収で直ぐに死亡診断書が書かれた。しかし、日本で追加の死体検分があってはかなわないのだという理由からあちこちを切開させたという。
白川 亜依音……私は殺された。ニセの亜衣音が今後は登場する。
今のα世界線上へと物語は続く。




