第154部 九千メートル……狂気とともに……
*)私の過去……
「く~~、へぼ医者め! 胸揉みの金払え!」
「はいはい、とりあえずはお元気の様子。そう奥様にはご報告申し上げておきます、イ~ッヒッヒ!」
藪医者め、私の胸の感触を思い出すかのようにして、両手を軽く持ち上げてあの、モミモミのジェスチャーをしている。もう……キモいのよ、早く何処かに行きなさいっつうの。
機内は静かになった。相も変わらずジェット機のエンジン音には馴染めない。一番騒いでいたのがこの私だったらしのよね。今は簀巻きにされて座席に置かれている状態かしら。
「これを飲んでお休みください。目を覚ましたら気分良くなっておりましよう。」
そう言って私に錠剤を飲ませる医者は、私の頭を撫でている。これはきっと、私の頭が冷める薬なのかもと勝手に予想してみる。あの手はやはりキモい。それに酒臭いはずなのだが私には判らなかった。
「亜衣音ちゃん、よくもあんな酒臭いジジイに胸を許したわね。」
「え?……酒臭かったの?」
「だってず~っと飲んでいたようだよ。」
「へ~……って、私も飲んでいたから臭いが判らないのかな。」
「そこじゃないよ、胸よ!」
「うん、いいんだ。もう誰に触られても、揉まれてもいいのよ。大地の胸ではないんだからね。」
「亜衣音、叩くよ。女の価値が下がるのよ。誰でもいいなんて、そんな事を考えたらいけません。」
「藍も私の胸を揉みますか?」
「揉みません。もう酔っ払いが、寝なさい。」
「ふぁ~い……。」
一方機内の前の方では。
「奥様、お嬢様の診断ですが、あれでは先が困るでしょうか。」
「そう……、どうしたらいいのかしら。」
「とにかく、ふん縛って逃がさない事ですね。今は逃げ場がありませんので確保する必要はありません。今だけは……。」
「そんな、可愛そうですわよ。」
「で、お嬢様は魔力がですね、そうですね、気分がよろしくないので制御が出来ない状態でして、もしかしましたら、過去にも意味不明な行動や言動がございませんでしたか?」
「そうね、小さい時は親も私も嫌われていて、匙を投げてしまいました。」
「小さいお子さんの時ですか?」
「はい、二歳とかその以後でしたでしょうか。」
「あ~……それはきっと魔力と身体の成長バランスが狂っていたのですよ。身体の成長が膨大な魔力に追いつかない、ただそれだけなのでしょうが、かなりのご苦労があったかと。」
「はい、麻美、私の友人である麻美に託していたそうで、私は……そうですね、途中で死んだんでした。」
「そ……死人ですか? 私にはゾンビにも見えない普通のご婦人のようですが、」
「あら、嬉しいわ。そうだったんですね、あの子が不憫でならなかった。それが溢れる魔力の所為だったなんて、当時に理解出来ていたらきっと孫の未来は、あの子の未来は明るかったかもしれませんね。」
「はい、そうだと思いますよ、奥様。これならば早くかの聖地巡礼を済ませて本来の巫女さまになって頂くほかはありません。」
「お前も、よくぞ彼の地を探し当ててくれました。お礼をいいます。」
「何を仰いますか、奥様……。これは私の恩返しでございますれば、一向に気にかける必要はございません。」
「それで麻美は現地に到着しているのかい?」
「はい、その話は未来ですので未定です……。」
この医者、判らないのだと言うが、事実だからしょうが無いよね。誰かが未だに考えていないのだからさ。バカ晃……だよ。
「でも、これでよろしいのでしょうか? もしかしましたら、もしかしましたらですよ、お嬢様の人格が多重に膨らむのかもしれません。」
「いえ、それでは沙霧も可愛そうです。その時は私の生命を譲ります。」
「囲繞……されますか? もしそうなさるのでしたら、さらにもう一つの何方かの命も必要になるかと思いますが?」
「内と外ですね、外は私としても内になる人ですか……本当に必要でしたら困りますね。」
「わ、ワシは反対ですぞ。」
「お前ではあの子が嫌がりますから大丈夫ですわ、オホホホ……。」
「ワシもお断りじゃ。」
(もし麻美さまでしたら、このワシは全力で阻止させて頂きますよ……。)
*) 第86部 母娘の絆!
私は夢を見ている。この話に最も都合の良い夢だ。そう、それは私の二歳の時の夢だわ。意味も分らずに急に背が伸びた時だった。
そうだわ、私、お母さんが泣いていても平気だった。どうしてなのかな。それに周りの大人たちも何だかとても変だったよ。今ならば当たり前に声を掛けれるのになんで?
綺麗なお母さんが泣いている……。
「お母様! お願いです。亜依音を、亜依音を何とか人間に戻してください。」
沙霧は大粒の涙を溜めて桜子に縋り付いた。
「どうしたんだい? 沙霧。なにがあったの?」
「もう、私ではこの子は育てきれない。お母さん。ねぇ、どうしたらいいの? お母さん、おか……、」
沙霧は大声で泣き出してその場に崩れて突っ伏すのだった。
亜依音はそんな母には気にもかけずにごはんを食べているのだ。普通ではありえない。親が大声で泣いているのに、娘は気にもかけないとは。
「沙霧。そうだね。これは異常だよね。私が封印を試してみるよ。」
ミーナとアレクサンドラは、この異様な光景を見て抱き合って見ている。声も出ないようである。自分らが巫女として宝石を持っていたとしたら。もしも、自分の身に置き換えたらと、考えたら冷たい感触と共に背筋が伸びきってしまい、両腕には鳥肌が立っている。
桜子は沙霧を宥めて亜依音の所に行った。そしてとても驚いた。亜依音の身長が昨日今日で10cmは伸びている。亜依音を触ろうとした手が止まった。
暫くして桜子は、改めて亜依音を力強く抱きしめる。
「亜依音ちゃん、とてもお腹が空くのね。もう少し持ってくるからね?」
沙霧は桜子の左肩に縋って泣いている。桜子は後ろ手に沙霧の右手を握り締めていた。亜依音からは見えないようにして。そう言って桜子は亜衣音を連れて台所に歩いて行った。
麻美と澪霧は、そんな悲しい母娘を見送った。麻美は亜依音に声を掛ける。
「亜依音ちゃん、クロに乗ろうか・・・・」 「うん!」
それからの私の夢はクロと楽しく乗馬を楽しむ夢へと変わった。いつも傍で私に寄り添っていた麻美お母様。そうだ、麻美ママもきっと若い時に苦しんだんだね。だから上手に私を育てる事が出来たのだと思いだした。
*)九千メートル……恐怖する人たち
「当機は現在、ギリシアの地中海上空を順調に飛行しております。このまま空の旅をお楽しみください。これより、お昼の配膳を行います。」
「グ~……、」
私は珠子に揺り動かされて目を覚ました。涙を拭いていただけだと言うのだが何処かが可笑しいのよね。いったい、何処が?
「なによタマ、私の楽しい夢を邪魔しないで。」
「わ、ごめんなさい。だって亜衣音ちゃん、涙を流していたから拭いていました。
でもでも、拭いても拭っても清拭してもね、涙が流れてきてね。」
「え……あ、ホントだ。目やにで少し霞んで見えるわ。」
「どうしたの? 楽しい夢で泣くなんて。」
「大したことではないよ、失恋しただけだよ。」
「ふ~ん……失恋か~、亜衣音ちゃんには重いのよね。でもね、お腹がそうとは言っていないみたいね。」
機内アナウンスに反応したか、私のお腹。グーグ~と言っているからどちらかと言うと、自分の腹に起こされたようなものだが、そうとは言えない乙女心の複雑さよね。ここは知らぬ振りして涙の意味を取り繕うのがいいわ。
「大地、好きなのに大地が私から離れていく。耐えられない。」
「海斗くんに鞍替えしなよ、あいつ、ハンサムで頭も私よりいいのよ。」
「タマが悪いだけで、そうね、あんたの脳みそは猫と同じよって、」
「うわ~……教祖さま、酷すぎますわ。」
「酷いと言えば私の方だよ。はやく縄を解いて頂戴。」
「逃げません?」
「なによ、それ!」
「縄を解いても逃げませんよね?」
「あったり前だしょう? だって逃げ場は無いよ。」
「はい、今解きました。」
「う~やっと自由になれたわ、珠子、ありがとう。で、あんたはどっちの珠子さんなのかしら?」
「護衛兼見張りの珠子はスパイの方です。」
「お腹空いた、ご飯!」
「はいはい。キングサイズのバーガーを今お持ちします。」
「コーヒーもお願い。」
「ハイハイ、ウヰスキーを少し垂らしておきますね。」
「もう失敗はイヤ! 入れたらダメだよ。」
「どうしよ~かな~、」
珠子は私の昼食を取りに行って、代わりに教授が見張りに着く処だ。
そう言えばあの医者、目が覚めたら気持ち良くなっている、と言うてたよね。うん、確かに気持ちがいいみたい。お腹は減るし頭は冴えた感じがするし、身体も確かに調子がいいみたいだ。これならば巫女の魔法が使えそう……、試すか!
「目標……設定、キモい医者……。」
私は自由になった両手を挙げて、
「エアードライ…ブ…、」
「うわ、わ! ダメだよここで魔法を発動したら。」
「……したら?」
「飛行機が落ちて全員が死ぬ。」
「あ……そうだったわね。飛行機よね。で、何処に行くのかしら?」
「ルーマニアのドラキュラさまに挨拶しまして、それから人狼の、ご先祖さまのお墓に参る予定です。」
「お墓?……あの、蒼き狼の嫌な男のお墓?」
「あれはモンゴルでございましょう。紅き王女さまだったお墓でございます。」
「モンゴルは国民全体であの人のお墓を守っていますよね、羨ましい。」
「で、直ぐ着陸するように、機長に言ってよ。そうね、落としてもいいよね。」
「いやいやそれでは困ります。ご学友の皆さんをご家族の元に戻しましょうよ。」
「そ……うだね、」
「ふ~やれやれ、ワシが見舞っておいて正解だったわい。」
私が起きたので調子を見に来たのだろうが、どうも私のアンポンタンは治らないのだと心配していたらしいのよ。嫌なやつ、キモい。
魔法発動の両手を挙げるスタイルの、私の両腕を医者は掴んで下ろさせた、まではいいのよ、我慢できるわ。でもね、今の私の胸に止まっている手は誰の!
「エアー・イン・パクト!」
「うぎゃ~……、」
と、キモい医者は機内を飛んでいる瞬間速度はマッハ1。前の方に飛ばしたからそうなるよね。事実は数メートル先に藪医者が転がるだけの軽めの魔法だったが、
出来たわ。
「やったぁ!」 「パチン!」
と、指を鳴らして喜んでいる私。
「私、身体の気功をあの医者から突かれてたんだ。道理で身体の調子がいいんだね。」
「デヘヘヘ、東洋の医学は素晴らしい。」
「乳を揉むだけであんなに巫女の力が甦るなんて……。あ~ワシは不幸だ。もっと揉ませて~、」
幸せの間違いじゃなくて?
「中国、六千年の歴史は伊達ではないと、今更ながら認識させられたわい。」
気功術……なんと素晴らしい事か! でも私は信じない。だって理解出来ないモン!
「亜衣音ちゃん、」
「亜衣音。」
「教祖さま!」
教授が前方に飛んできたものだから、グラサンの美女が私に……そうね、苦情を言いに来たのかしら。とにかくハイヒールの靴音を立てて来る。あれ? 何処かで見たような……お婆ちゃんだよ。
「亜衣音、やり過ぎだよ。あれは……ゲロ吐いて伸びたわよ。」
「天罰だよ、だって私の胸を揉んだんだよ、桜子お婆さま。」
「で、この教授も引きずってきたわ。」
「え”~~~……お婆さま?」x?
桜子お婆さまの正体を知らない者が大声を出して驚いている。桜子お婆さまは教授の襟首を掴んで怖い顔をしているよ、こ。殺さないよね?
「そうね、孫をいたぶった事については謝罪を受け付けないわよ。機長に言ってドアを開けて貰いましょうか、教授さま!」
「ねぇお婆ちゃん。この人は教授なの?」
「あ、そうね、昔命を助けた人がたまたま教授になっていただけよ。そうそう、昔はうだつの上がらない、しがないサラリーマンだったんだから。」
「随分とご出世なさいましたですね、ニセ医者。」
「免許カイデンいたしましたので、免許も放免して頂きました。」
「ふ~ん、気功術に免許制度は無いんだ。」
「オフコース。」
中国六千年の歴史という得体の知れない気功術。でも私はそれで生き返った気分だよ。この無資格の医者は、検非違使から放免されたという意味なのかしら? 中国の文明の歴史として紀元前14000年ごろからと言うから、もっと古いかもしれないな。しかし、気功として統一されたのが大凡六十年前。
中国六千年の歴史とは、ウソぴょよ~ん。その前に信じる人は居ないよね!
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機内の後方では、あ~見たく無かった、大地とひかるがイチャイチャしているのが見える。
「もう……怒ったゾ! 藪蛇医者のカタキよ! エアー・スプラッシュ……」
でも、機内の物は何も飛んで行かない。さっきはキモ医者がマッハ1で飛んだのにな、おかしい。
それから程なくして飛行機が大きく揺れた、揺れた、逆さまになっているよ。左右で大きな音が聞こえた。
「ドッコ~ン、」x2
エンジンの破裂音が二つ同時に聞こえる。
「ウギャ、」「きゃ~!!」
「フン! バカ大地め、ざま~みろ!」
私の巫女の魔法、まんざら捨てたものではないね、大地とひかるが天井に落ちているもの。あれ?……天井が床になってる!
「ごら~亜衣音、お前の仕業か!」
「いいえ、大地をぶっ飛ばしただけよ。」
「だったら全員がどうしてひっくり返る。」
「あら、ホンとね、不思議だわ。私は何ともないわよ?」
「イカれ亜衣音。早く飛行機を元に戻せ、これは墜落コースだぜ!」
「ウキャ~……!」
今度は全員と物も宙に浮いている。そういえば私、先ほどから宙に浮いたままだわ。それで何ともないのか。
「亜衣音ちゃ~ん。あんたがやったの?」
「私、なにもしていません。飛行機の制御は機長に頼んでください。」
耳がツ~ンとなりだす。これは確かに危険な前兆だわよね、気圧が上がるから耳がおかしく感じるのよね。
「ま、その内にどうにかなるでしょう。」
大地とひかるが転げ回るのを見ていたら私、興奮している。狂気に満ちていたんだよ。死んじまえ~っとね。
「皆さま、申し訳、ギャ~、ありません、ウギャー。当機はまもなく不時着をこころみる、ゥワ~……、死んでお詫び申し上げ……チーン!!」
「おい、機長が死んだぜ、これはやばいよ。」
「わ、わ、わ、亜衣音ちゃん、早く何とかしなさい。私、死にたくないよ~おかぁさ~ん!!」
「あんた、母親は居ないのでしょう?」
「天国にいます。でもまだ行きたくな~い~よ~~~!!」
「バカ委員長、一遍死ねば?」
「珠子、どうして亜衣音を解放したのよ~、恨むからね。」
「え~……もう一人の珠子。一緒に死のうね?」
「ヤダ!」
私以外の全員が恐怖で叫んでいる。遺書は書ける状態ではない、これでは本当にお陀仏になるよ、困っただよ。
「エアー・ドライヴ!」
私は両手を上に挙げた。最大の風魔法、強い風が渦巻くバリアの巫女の魔法だ。これで校舎から落ちる誰かを助けたのを思い出した。美保ホだったかな。
私の一言で飛行機の速度が落ちたようだ。同時に私以外の人は残らず前の方に落ちて行くのよね、可笑しい。でも大地はひかるを庇うようにして抱きついているのよね、もう離れなさいよ~、バカ大地が!
この飛行機、ギリシアの有名な観光の島のミコノス島国民空港に無事に不時着するも、もう飛べない程の損傷を受けた。翼……が無いのよ、途中で落としたと言う説明を受ける。
ミコノス島国民空港の滑走路横の草地に、ゴロンと横たわった飛行機はさながら大きな丸太だろうか。ここなら安全よね。それから私は叫ぶのよ。
「これ、私の所為じゃないのよ、絶対に違う……から~~~。」
「ペシペシ、ゴツン!」
「私、まだ魔法は使えな……、」
「ペシペシ、ゴツン!」
「絶対に、モゴモゴ……、」
「ペシペシ、ゴツン!」
私のほっぺたは紅く腫れて無事ではなかった。頭にも幾つものコブが出来たし……。皆して私を叩いてタラップを降りていくの。悔しい……絶対に私ではないのよ、助けた方だよ私を苛めないでよ。最後は大地とひかるだった。この二人は叩く事はなかった。当たり前よね、嫉妬に狂ったという哀れみの目で見て
行くのが、心に刺さるのは間違いないみたいだ。
海斗が皆を降ろしてから私を迎えに来ているのが見える。
「亜衣音さん、無事で良かった。」
「うん、海斗くん。……あんたは私をぶたなくていいの?」
「いいわけないだろう。今晩、ベッドで離さないからね。」
「うん、嬉しい~~!」
この夜、私は身動きできなくされて、海斗からは逃げる事も出来なかった。簀巻きにされてベッドの上に放置だよ、も~……私の所為じゃありませんっぅの。
「こんなの、お粗末よ~~!」「私じゃありません。」
そう言っても海斗は聞いてくれない。更にさらりといいのける海斗は全然? 優しくはないの。
「珠子さん、もう簀巻きを解いてはダメだからな。」
「タマ、背中が痒いの、縄……解いて?」
「……。」
人狼 Zwei (ツバイ)の第86部 母娘の絆! から文章をコピーして
きたが、短い文章にも関わらずに訂正箇所が満載。いかに拙い文章だったかと
思い知らされた。精進しませう! とは思うのだが、加筆の速度が非常に遅いし
期間も空くから前後のつながりやストーリーの流れが統一されないというとても
残念な……。
因みに我が娘は、家族で里帰りをしていよいよ家に帰ろうというのに、我が娘は
事もあろうか、私ら両親にバイバイをするではないか。娘としては今暫く外で遊び
たいだけだったようで、二十分後には家路につく事が出来ました。こういう事は
数度はありましたか、この実話を元にして書きました。
もう少しで第一部として終わらせて頂きます。ターニングポイントです。伏線
を張って終わります。




