第153部 親の顔……思い出したくも無いのよね
飛行機が水平軌道になって歩けるようになって、藍と夕霧が私に挨拶しに来たらしいのよね。そこで迎え撃つのが珠子なのだが、珠子も夕霧を嫌っているらしいのよ、可笑しいよね。
「あらあら亜衣音さん、疲れて寝てしまったのね、可愛い。」y
「でも白馬のナイトさま! 口から泡噴いていますわ。」a
「……。」y
「そうでしょうね、私、貴方の赤ちゃんを妊娠しました~なんて言われたら、」t
「そりゃ~鳩が豆鉄砲を食らったように驚きますわよ。」a
「んで、貴方の赤ちゃんを産みたいの、と言われてみなさいよ、誰だって泡噴いて卒倒しますわ……。」t
「私の海斗、可愛そうにね。」y
「委員長、これで良かったのですか?」a
「し、仕方ないじゃありませんか。私、海斗に好かれていなかったという自信だけは付きましたわ……わわわ……、」y
「あらら、ここにも可愛そうな人が床にしゃがみ込んでしまいました。」a
「海斗……に赤ちゃんが出来た……あ~海斗、ウソよね、赤ちゃんが……」y
「そのようね、」t
「いや、いやよ亜衣音ちゃん、身ごもるなんて許せない。」a
夕霧さん、海斗と亜衣音の間に赤ん坊が出来たと聞いて、床にヘナヘナと座り込んでしまった。藍は怒ったように私の横で仁王立ちだったとか。
そこに色白の面立ちで、黒いサングラスをした婦人が通りかかって、
「貴女たち、その子を許してもらえないかしら。この子も色々とあのクソジジイに騙された口だからね、お願いするわ。」x
「……はい、納得できませんが……務めます。」a
「それは良かったわ。」x
その婦人はカツカツと靴音を残して歩き去る。
「ねぇ、あの人は誰!」y
「さぁ~知らないわよ。突然現れたらしいのよ。それにさ、誰もが口にしないのよね、」a
「ミステリーウーマンなのね。」x2
「私たちの大ボスです。謂わば……大司教さま的な、雲の上の存在です。」t
「珠子の上司……?」y
「はい、山の上のボス猿的な、大きな存在の人らしいです。」t
「亜衣音さん、嬉しそうな顔して海斗くんに寄り添っていますね、これはこれで許せません。今日から女の戦争です!」y
「夕霧さん、そう鼻息を荒立ててももう手遅れです。」t
「藍、貴女からも諫言……よろしくです。」y
「うん、一応言ってはみるけれどもね、無理かもしれない。」a
「委員長……、もう立てるかしら?」a
「もう少し……腰が抜けて立てません。」y
「珠子さん、手伝って、引きずって席に戻りますから。」a
「イェッサー。」t
「海斗さん……無様です……。」?
三人の内の誰かがそう言ったのが夢ごごちの私に聞こえていた。誰?
三人の会話を聞いた私の脳が、現実的な夢を見させてくれたのよ。寝ていても情景が理解出来たわよ、藍、夕霧、タマ……。
*)私たち……帰国しているのよね?
私はお腹の抗議を受けて目が覚める。胃袋が、こう……何とも言えない違和感そう、空腹という事だと気がつく。
「そう言えば昨日から何も食べていなかったわね。……こいつ、いい夢みているのかな。」
私は海斗をこいつ呼ばわりしていた。どうしてかしら。
「ねぇ、この飛行機は離陸してどれ位たったかな。」
「う~……二時間くらいかしら。お腹が空いた?」
「うん、何も食べていないんだ。眠る事さえ出来ないよ~。」
「はいはい、今貰ってきますね、お嬢様。」
通路を挟んだ反対側の席には珠子が座っていた。
「タマ、いいわ。あんたに頼んだら何が出てくるのか判らないもの。自分で行きます。……わ~綺麗な海……。もうグランドキャニオンは過ぎたんだね、残念だわ。」
「そうよ、ず~~っと綺麗な海が続いているわね。」
「へ~?……?……? すると、これは何処に向かって飛んでいるの?」
「日本でしょう? 帰国するからと聞いております。」
「そうなんだ、東回りは遠いかしら?」
「東……? あ、アメリカ大陸!」
「ニューヨーク市の空港から飛んだのよ。どうして大陸の上ではないのかしら。珠子、訊いてきてよ。」
慌ててボスの処へ駆けていく。途中、寝相の悪い誰かの右脚を蹴飛ばして、躓き転けそうになりながらも。そうしてものの三分もかからずに戻ってきた。手にはジュースのコップを持っていたよ。誰からくすねたのかしらね。
「ありがとう……、」
「これ?……私が飲むのよ。驚いたから喉が渇いたのよね。」
「で……?」
「なによ、あげないんだからね。」
「要らないよ、残り少しだもの。それよりも聞いて来たのよね。」
「あ、そ、そうなんだ。これ、パリを通過してルーマニアに降りるのよ。どう? 驚いたでしょう?」
「うん、驚く以上に珠子の能力不足に驚いたね。この。ノータリン。」
「え~どうしてよ。行き先は聞いてきたんだよ?」
「目的はなによ、ま~た、何されるのか……心配だわ。」
「あ、ホントだ。何だろうね、ボスは、」
ボス……どうも前の方に搭乗している人だが、何者よ。
「うん、綺麗な女の人で、黒いサングラスを掛けています。私だって初見なのよ。怖い印象はいっぱいあるわ。」
「そうなんだ、訊くに訊けない印象なんだね。」
「うんうん、怖い……。」
手強い相手が出て来たんだろうか。何時もはお爺ちゃんだけれどもね、どうしよう、落ち着いて考えるのよ私。
「グ~……、あ、やだ。」
「私、貰ってきます。何も入れませんので安心してください。」
「藍に頼んできて。」
「アイ藍サー!」
「またまた馬鹿言って、寝てたらいいわよ。」
「はいはい、お嬢様。」
真っ黒な上下のスーツ姿に黒いサングラス姿の美女。考えるだけでマフィアのドンを思い出す。機関銃持って……「快感……。」という、あれだ。今ならこの私も十分に演じられるお年頃……。セーラー服が無いのが残念だわ。
「暑いわね、クーラーは効いていないのかしら。」
「亜衣音ちゃん、暑くないよ、熱があるのね。」
「ん?……いたって元気だけど。早くご飯頂戴。」
「貴女の嫌いな、ダブルバーガー……。食べる?」
「うん、この際だから何でも頂くわ。もう腹ぺこでさ、藍も食べてしまいそう。」
「わ~たしは美味しくないよ。ほら、食べて!」
「ありがとうございます。藍さま!」
「イヤだ、どうしたのよ。」
「うん、何だか元気が出て来たんだ。私の脚が繋がったからだよね。」
「そんなことはありません、……どれどれ、ヒャ! あんた、なんでこんなに熱いのよ。もう、熱があるという段階ではないよ、直ぐに入院よ!」
「え~……ウソだい、海斗だってこんなに……冷たい、海斗が死んでいる!」
「いや、ウソ!……海斗くんは平熱よりも熱いくらいかな。あんたが熱源だよ。」
「そんな事ないよ、だって離れて座っているしさ。」
「いやいやお嬢様。私は貴女の恋心が海斗くんに火を入れたと申したいのですが、ユア、アンダスタン……?」
「何よ、下手くそ。」
「あんたよりもましだわ。これ、亜衣音ちゃんの辞書よね。これ見たらあんたがどれほど英語ベタと言うのが判りました。例えば、Missing。何と翻訳すのかしら?」
「それね、ミスからミセスになりかけの、謂わば私みたいは女の子という意味よね、そう書いてあるから。」
「そうよね、この辞書にはそのように書かれてあるわ。最低の辞書で使えないわ。直ぐにでも海に捨てなさい。」
「いやいや、それ、違うの?」
「大きく違ってるわよ。捜し物とかお尋ね者とかいう意味だからね。」
(これ、事実です。昔、辞書を見ましたら、ミスになりかけの女の人とかと書いてありました。意味が分らないので良く覚えています。)
「そんな……あり得ないわ。藍ちゃん窓開けて、投げ捨てるから。久保田利伸さん、リスペクト!……好きなのにな!」
「……。」
「久保田利伸さんって、誰なの?」
「あ、未来。聞いてよ、亜衣音ちゃんさ、本当に残念な、」
「あ~そういう事ね、ホンとよね、藍ちゃんは残念だわ。」
「ねが抜けていると思うんですが、未来さま。」
「藍音、そうね、今度から二人纏めて呼ぶときに使いましょうか。」
「ギャバ!」x2
お調子者の未来。誰とでも直ぐにお友達になれる才能を持っている、とても残念な女の子だと私は考える。みんな、それぞれに残念な才能を持って産まれるものよね……あ~ホンと残念だわ。
「未来、あんたのコーラも全部私に頂戴よ。」
「え~……ウソ! だって亜衣音ちゃん、バケツでジュースを貰っていたよね?」
「飲んでしまったわね、まだ足りない。」
「珠子、あんた女王様にまた一服盛ったんでしょう。」
「違います、お嬢様は、その、ご病気です。熱は四十三度はあります。」
「熱いけれども、平気だよ。」
「珠子さん、亜衣音ちゃんを外に出して冷やしましょう。」
「出来ません。無理です。」
「お水で冷やすしかないのね。」
どうも私の身体の魔力暴走だと診断が下された。機内の後方で飲んだくれの主治医が引っ張りだされてきて、そういう診断をもらった。散々、私の胸を揉んでおいてそれは無いでしょうが。海斗が薄目を開けて見ていたわよ。
「お嬢様は、前から魔力暴走だとは考えておりましたが、これでは到着まで身体が保てるかどうか。」
「先生、亜衣音ちゃんが可笑しいのは熱の所為だったんですか?」
「藍……さんですよね、残念ですがそのようです。これでは近くの男が犠牲になった事でしょうか。ほら、鼻血だしてあります。」
「海斗、鼻血出てる!」
「ギャボ! タヌキ寝入りしてた、」
こんなやり取りで急に目眩がしてきた。鼻息が荒くなり海斗に抱きつきかける騒ぎとへ発展する。
「みんな、この女を押さえて……!」
「オー!」x5+1
私は両手両足に頭を押さえられた。序でに胸を押さえたのが一人居るのよ、誰だろう。海斗だよね?
「タマ、珠子。私のウヰスキーの混じったバケツを知りませんか?」
「奥様、あのバケツは藍さんが持って行かれました。」
「そうなの……え””””あれは誰にも飲まされませんわよ。何処に行ったの?」
「はい、多分ですが亜衣音お嬢様が既に飲まれたかと……存じます。」
「あれま~~~、今頃は酔い潰れていますでしょ、困ったものです。」
「いかが致しますか?」
「放置……するしかありません。どうして飛行機に乗ると酔いが早いのかしら。」
どうも私は水割りを飲んでしまったらしい。道理で美味しいと感じて一気飲みをしていた。
「く~~、へぼ医者め! 胸揉みの金払え!」
この飛行機に乗って感じた事は、どうも家族は日本に帰国しているらしいのだと。私には誰も報告しには来ないのよね、でも、方々から聞こえる会話で判断ができそうなんだ。痛いものには触れない。別な言い方だを考えたら、
「臭い物には蓋を、だよね。私は腫れ物ではないんだからね。」
「フン! 子供を放り出した親なんて、顔も忘れたわ!」
と、私からは関与しない方針を立てた。
「もう……知らない! クソババァが……。」
と、虚勢を張りたい。
こんな私の言葉を聞いて涙を流す女性が一人いる。
「そんな……、私の教育がなってないのよね、ごめんなさい、亜衣音。」




