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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十章 エピローグ……新しい命の誕生……

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第140部 亜衣音改造計画……襲撃?……奪われた私の唇


 アメリカへ渡るメンバーはね、

亜衣音 碧 翠 藍 美保 未来 智子 眞澄 珠子 夕霧 海斗。この十一人と、パパ、麻美ママ、カムイコロ、ジジィの十五人なんだよ。


 もう着陸だよ。……機内で密談かな、パパとジジィ。このタイミングを見計らかってだよ。着陸の、あの微妙なお尻の感覚で機内には黄色い声が湧き上がる。


 だから二人の会話は誰にも聞かれていない。


「穣……実はだな、大地くんが……。」

「え”親父、ウソだろう……。」

「いや本当なんだ。病院へ行けば分る。」


「わ~着いたよ、アメリカだよ!」x11


「お父さん、何よお爺ちゃんとさ、早く行こう!」

「あ、あ~いね、前、前!」

「え”……なに?」



 1971年4月15日


*)奪われた私の唇……


「ぶちゅ~……、」

「ウグッ……、」

「……あ、あ、あ、あ……。」

「キャッ! なにすんのよ、このゲス野郎……、」

「う、う、う、……あ、あ、あ~……、」

「あ~~~亜衣音ちゃん、」

「え~い、離れろ、バカ野郎……、」

「……あ、あ、あ、あ……。」

「誰よ、こいつ、お爺ちゃん助けてよ、どうして放置している、きゃ~、む、胸を触るな!」

「俺だ、な、亜衣音……俺だ……。」

「知らない、ド変態……、藍、見てないでこいつをぶっ飛ばして頂戴。」


「亜衣音ちゃん、その人……後ろ姿が……いや、ウソよね、そんな、どうして!」

「どうしてでもないわ、助けてよ、いや~~大地、助けて~~おねが~~~い! 大地~天国で見ているのでしょ~……、」


 私は必死になってこの変態男を振りほどこうとしるが、力が強い、とても強いから私には振り払う事が出来なかった。とっさに藍に頼んだが動いてくれない。


「いや~……海斗~助けなさい。」

「海斗くん、待って……、」x2

「美保、未来……、どうして止めるのよ。」


「亜衣音……俺だ、大地だ……、」

「ウソよ、こんな醜男、形が異形よ!」

「ウソじゃない、俺だ……大地だ亜衣音、会いたかった……。」

「お父さん……この人は誰よ。」

「亜衣音、ここで会わせる予定ではなかったが、大地くんだ。俺もこの腐れジジィに今聞かされた。本当は病院で説明して再会させる予定だったが、すまない亜衣音。」

「亜衣音……、」

「お爺ちゃん、それ、本当なの?」

「ホ~ッホッホ、無事に再生手術は終わったようじゃ、良かったの~。」


「バッコ~~ン!」


 空港中に響く私の一撃を受けて飛んで行く……いや、ビクともせずに踏ん張る男がそこには立っていた。


「ひで~な~、俺は本当の大地だ、生き返って天国から降りてきたよ、亜衣音。」

「キャ~~~!!」x9

「ホントなの? これがあの大地なの? 好きな食べ物はなによ、」

「あ~シシャモの尻尾、それにホタテのヒモ。持ってきているよな。」

「あ、そうね、お母さんがたくさん持たせてくれたわ。でも、税関で没収されたわよ、残念ね!」

「おい、ウソだろう? 干物が没収だなんて、豚コレラじゃないだろう。」


「おい見つけたぞ、脱走犯……。」

「あ、ヤベ……見付かった。」

「大地くん、待てなかったんだね、もう捕まってもいいだろう。娘も序でに捕まえておけ。」


「亜衣音ちゃん、松葉杖の予備を持ってきているからね!?」

「え”……これ、折れているわ、ニセ大地、大丈夫だった?」

「本物だ、」

「ううん違うわよ、顔が違ってるモン。偽物の大地だよね、お父さん。」

「いや、本物らしい。親父がそう言っている。それに声はどことなく似ているだろう? 亜衣音。」


「亜衣音ちゃん、大地くんの後ろ姿にソックリよ、間違いないと思う。」

「思うだけでは不十分よ、お尻の痣を確認して!」

「亜衣音、俺には無いぞ。それはお前だろう。」

「え”? ウソ、私には痣があるの?」


「亜衣音、ついこの前、育ての親が見ておいた。間違いない。」

「この前って、あ~~~麻美ママが尻触った……。」

「そうよ、この『尻に痣!』が合い言葉なのだよ、残念ね。……でも良かった~大地くんが生き返ってくれて。」

「あり得ない、バカ大地が生き返るなんて、頭が元に戻って……いるの?」


「形はまだ修理中で、次の手術で直せるらしい。お前の足の手術と平行して大がかりの整形手術らしいぜ。」

「直すって、叩けば治るのかしら?」


 このニセ大地の声が昔の大地の声を覆い被せてきた。段々と大地の声だと感じられて、それにね、笑うえげつない顔も段々と大地の面影が脳内に浮かんできた。


「あ~本当に大地だ、アハ、大地、大地、バッコ~~ン!」

「わ~大地、」


 私は二本目の松葉杖をも折ってしまった。それも藍によって折られたのだから大地が可愛そうだよ、藍ちゃん。酷いよ大地を叩くなんて! あ~大地がぶたれて喜んでいるよ!


「亜衣音ちゃん、もう杖は必要ないようね?」

「亜衣音、脚見せろ、」

「キャッ、なによ、こんな人が多い処で……。」

「あ、すまね~、他人に見せてしまったか、亜衣音ありがとう。」

「なにがよ、どうしてなの?」

「この足に俺は救われたんだ。生きているのも亜衣音のお陰さ、うん。」


「お爺ちゃん。酷いよ、こんなビックリは要らないよ。」

「そうなんだが、生死を彷徨っていたからな。変に希望を持たせたくはなくてな。それに大地くんからの断っての願いだったからで、」


「う~……大地の意地悪、さ~私をお姫様だっこして運びなさい。脚は見せてもいいわ、その方が格好ついていいでしょう。」


「亜衣音ちゃん着替える? 実はミニスカートもお母様に持たされているのよね、お母様の先読みは凄いわ。」


「おい藍ちゃん。それって、まさか……。」

「穣、すまん。お前と亜衣音には黙っておいた。沙霧にはとうの昔に相談しておった。」


「この~耄碌ジジイ……よくも騙してくれたな、亜衣音の義足しか聞いてはおらん。この仕打ちどうしてやろう……か!」

「お~大地くん、助けてくれ。お前だったら片手で済むだろう。」

「お爺ちゃん。もう両手が塞がっていますので無理で大人しく叩かれて下さい。」


 この時は既に私のマネキンの足は外されていた。今では白くなった私の太ももが大衆の前に晒されて義足が外されていた。もう~大地の腕の中だから怖いモノ、恥ずかしいなんて、羞恥心も欠片もないよ、大地。だって私、大地に思いっきり顔を埋めているもん。


「お前、軽くなったな。足があんなに重いとは知らなかったぜ!」

「バコ~ン、」

「亜衣音ちゃんに失礼よ、」

「藍、いいのよ、何を言われても……、」

「へ~何を言われても……嬉しいのよね? 馬鹿な亜衣音。」

「うぐぅ~……、藍ちゃん泣かないで?」

「泣いてない、嬉しいのよ、私の事のように嬉しいわ。」

「うん、ありがとう、」


 クラスメイトたちが私と大地を隠すように周りで丸くなっていた。これならば私の脚は見られていないかも知れないよ、大地。


 私たちはホテルへ直行だね。私はこの世の大地の温もりを感じている。もう大地とは離れたくない。必死にしがみつく私の両手が大地の首を締め付ける。それでも大地は何ともないらしいわ。もう……ホテルの玄関だよ。



「大地を置いていってよね……お願い。」


「脱走犯は病院です、お嬢様。」

「だったら私も!」

「これから検査、それから四日間の隔離です。」

「そんな~コレラは持っていません。」

「コロナ……の検査です。」

「同じでしょう?」


 私の知識とは所詮こんなものなのよ。違いが分らないわ。そして大地から袋を渡された。


「それ、俺のおやつを食べないでお前に食わせようと残しておいた。だから、

 食べろ。」

「うん、ありがとう。これは?」


「シトラス。」

「シトラスとはなによ。」

「カリフォルニアオレンジだ。骨が柔らかくなるそうだ。」


 オレンジを食べて骨が柔らかくなるなんて、あり得ないわよ。でも嬉しいよ。私を思ってくれていたなんて。そんな感傷はホテルに着けば、吹けば飛ぶような事だと認識させられた。あの女ども、恐ろしい程に口を開けて私のオレンジを奪って逃げて行った。誰もがホテルで食べるおやつの持参を失念していたからに他ならなかった。残ったのが金色のレモンが一つだった。これは酸っぱくてとてもではないが食べるようなモノではないだろう。


「私、片足だから追いかけるなんて、無理。」

「あいつらも飢えているんだろうから許してやれよ。」


「うん、そうする。大地のおやつだなんて、ウソでしょう。」


 レモン、Citrus limonという学名。クエン酸が豊富だというから、確かにカルシウムなんかは良く溶かしてくれる、かも。


「あ~そうなんだ、歯磨きが嫌い、いや出来ない大地の歯が白いのはこのレモンの所為なんだ。」


「そう言えば漁師さんちに、イイダコを買いに行ったら植木鉢に実を付けたレモンが在ったな。枝を貰ってくれば良かった。」


 栽培も容易で挿し木で増やせるし、自宅ででも安心安全なレモンが食べられる。このレモンを大地に強制的に食べさせる意味が分らないよ。


 グラサンのSP……一人に一人が付いているのか、廊下に立って警護しているのが気に入らないし、外出にも漏れなく付いてくるのよ。


「私にだけ、バストイレつきなのかな。」


 これを聞いた藍ちゃん、うふふと笑っていた。外国に日本の常識で判断している、滑稽な私を嗤っているんだね、酷いよ藍。


「亜衣音ちゃん、私も……付いてくるのよ、感謝しなさい。」

「亜衣音、俺だって漏れなく付いてくるぜ。いいだろう。」

「うん、ボディーガードだよね、ありがとうございます。」

「そうそう、感謝しなさい。」x2


 ホテルの夜。時差かな、眠れないよ……。四日間の隔離とは時差ぼけ解消なんだと初めて気がついた。だってこの前は着いて直ぐの手術処置だったよね。単に型をとっただけだったかな、どんな足が私に着くのかな、楽しみだよ、大地。


 それからというもの、私は短いスカートを履いている。ここアメリカではね、人の有りようなんて気にする人は居ないのよ。マネキンの足も外したから右脚が軽くていいわ。


「ミス亜衣音、お日様に 当って時差ぼけを なおしてく ださい。」


 たどたどしい日本語。英語でも私、分るのよ。言ってみなさいよ。


「…………。」

「へ~言えないんだ。」

「……、……。」


 ニューヨークの街並みを見学したら、時差ぼけなんて起きないわね。これってまさかね。


「亜衣音、真夜中に出立した意味がね、この時差ぼけ解消に大いに役に立つと親父が言っていたぞ。」


 そう言われて思い当たるのが機内での馬鹿騒ぎ。もう客室乗務員さんまでも捕まえてトランプで遊んでいたね。



*)秘密の客室乗務員さん……



 時間は遡る。機内での事なんだ。多分だけれどもアメリカ軍に所属しているから軍服は分る。それが日本語を話して私たちの面倒をみてくれたんだよ。ありがとうだよ、感謝だよね。


「お父さん。この人って日本人だから私たちのお世話係にさせられたのかな。」

「多分、そうだろう。これがアメリカ軍人だったら放置プレイになっている。」

「だよね、でも、この人……何処かで見たように思うんだ。それが誰だか思い出せなくてイライラだよ。お父さんは覚えがないかな。」


「……俺も知ってのかい?……思い違いじゃないかな。」


「ミスター……ウヰスキーはいかがですか?」

「ありがとう、頂くよ。」

「お嬢様にはグレープフルーツですが、いかがですか?」

「したっけ、?」

「はい、かしこまりました。」


「あ・・・思い出した。」

「何がだい、」

「うん昔の記憶だよ。とても懐かしい記憶よ。お父さんのような誰かの記憶だよ。」

「おいおい、それって俺が迎えにいく遙か昔だよな。」

「うん、麻美ママに明パパ。それにね……もう一人のパパが居たんだよ。」

「その不明なパパを思い出したのかい?」

「うん、そうなんだ。」


 でも違うよウソなんだよ。こうやって遙か昔の事にしていないと、聡明な父にはバレてしまうかも。


「お父さん。妹たち元気にしているかな。」

「もちろんさ、何かあって堪るものか!」


 お父さんの気持ちは産まれた時の事件を思ってだろうか、語気に力が入っているよ。私だってあんな事件はイヤだよ。


「六人の写真……出したよ。どの妹も可愛い。」

「そうだな、」


「お父さん。お爺ちゃんと飲んでおいでよ。私、この客室乗務員さんとお話をしたいんだ。」

「おいおい、親の前でもうナンパとは良い度胸しているな。」

「ふん、お父さんには関係ありません、よ。」

「では親父の横に行くか。強者が居るから俺も無事かどうか心配してくれよ、な!」

「麻美ママは、多分もうすぐ潰れるよ。」


 お父さんはそう言いながらウヰスキーグラスを私に手渡す。なによこれは、もうお父さんは酔ってるのね。


 父が去って私たちの会話は聞こえない。だから私は、ナンパの続きよ!? 最初に明子さんの家族の写真を振ってチラつかせた。


「ねぇ客室乗務員さん。この子たち、可愛いでしょう。」

「はい、拝見させて頂いても?」


 その男の人は眼が鋭くなっていた。さっきの私を哀れむ目つきではないのよ。もっと、そうなんと言うか、心から欲している、欲望が見られるよ。


「私の妹たちの写真なんだ。」

「拝見……、」


 私は三枚の写真を重ねて一度に出して見せる。その順序は上がお母さんで次ぎが澪お姉さまの三人で、そして最後に明子さんの三人の写真なんだよ。私は確信をもってその男性客室乗務員さんを見つめた。



「はい、双子の……妹? さんですね、可愛いです。あ~次も双子さんですか、これは偶然でしょうか、三枚目が、あ、……、」


 身体を硬直させて三枚目の写真に見入る。写真を持つ腕が顔に近づいている。もっと見たいという目つきなんだからこれで確定だよ、お父さん! なんだね。



「あ、ありがとうございます。良い物を見せて頂きました。」

「はい、みんな私の妹です。家族ですよ。最初は私のお母さん。次が母と双子の お姉さま。最後が私の育ての親の娘さん。その人は明子さんと言うんだよ。そのお姉さまも双子だったんだよ、奇跡だよね。」


「は、はい、そうですね、無事にお産まれになってよろしゅ……、」


 もう言葉に詰まるお兄さま、何度かしか会ったことしかないが、紛れもない明子さんの旦那さまだよね。


「すみません、この家族にはもう一人、お姉ちゃんが居ませんでしたか?」

「はい、今では二歳くらいなっている女の子さんが居るはずです。でも何処に居るのかは教えて貰っていません。よくご存じでしたね。」

「あ、いいえ、その、何処かで見たような人でしたので、つい。すみません、」

「いいえ、二歳になるお姉ちゃんを聞いてみます。でも、聞くのが怖いです。だって今まで教えて貰えないという事情があれば、なおさらでしょうか。」


「し、仕事に戻ります。」

「はい、飲んべ~には、ほどほどでいいですよ。」

「では、向こう女性の方にはジュースを勧めてまいります。朝食は六時間後となっております、お嬢様。」

「はい、よろしくお願いします。あ、あぁ~私もあの中まで連れていって下さい私もトランプをしたいです。」

「よろしいですか? こんな男がお嬢様を抱き上げて、」

「はい、大丈夫です。お兄さまのような感じがしますので、感激です。」

「そんな~……。」


 私は抱っこして運ぶジェスチャーでお願いしていた。これは私が明子さんの旦那様のポッケに写真を入れたいからなんだよ。


 それからというもの、私の世話にはもう一人の男性が担当にさせられていた。だって明子さんの旦那様とはそれっきりだったんだ。どんな事情でアメリカ軍に転籍したのかな、確か航空自衛隊だったはずよね。


 本当にそれっきりになっていた。もう一人の客室乗務員さんは立派なアメリカ軍人さんなんだよ。でも、特技があってね、カードの魔術師さんだよ、もう……ビックリだよ、松尾 昭さんだよ。およよよよ……。


 私の貴重な写真の一枚がこんなに役だつなんて、思ってもいなかったな、大地。


 Mr.マリックの魔法……私には本当に魔法にしか見えないよ。バカだからさ。


 

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