第139部 亜衣音改造計画……「たぬきケーキ」
1971年7月21日
*)自宅に全員が揃った……
藍は珠子に協力を強制しながらすまし顔で夕食の準備をしている。澪お姉さまの台所と桜子お婆さまの台所も借りる程の忙しさなんだよ。申し訳なく思う私に藍は、
「亜衣音ちゃん、ジャガイモ、」
「はい、喜んで~。」
「亜衣音ちゃん、タマネギ。」
「ふぁい、グシュン、よろごんで~、」
「亜衣音ちゃん、にんじん……。」
「食べていいの?」
「ば~か、これも簡単に皮を剥いで頂戴。」
「了解であります、藍御母様。」
食卓の上には家で一番大きいザルが置いてある。これに野菜の皮を剥いで満杯にせよ!……これが私の仕事なのだ。正しく私はタマの手にされていた。三つの家でお鍋も三つを使ってカレーを作るのだという。こりゃ~大変だ。
「亜衣音ちゃん、心で思ってくれてもね、手が足りない訳。あんたはここでお鍋の番をお願い。タマ……澪お姉さまの家で煮込んで頂戴。」
「はい、藍さま!」x2
二人が出て行ってからね、「アハァ、」沢庵のシッポ囓るんだ。
亜衣音 碧 翠 藍 美保 未来 智子 眞澄 珠子 夕霧 海斗。この十一人が若くて騒がしい。それから、パパ、ママ、ホロ、カムイコロ、ジジ、ババ、それに一番可愛い双子の妹。これで総員かな、麻美ママはまた杉田家に行って頂く。
「藍ちゃん、ご飯足りないよ。」と、私が言うと、直ぐにご飯の差し入れが届くのよね、何だか都合良くできているわよ。」
「亜衣音、ご飯。」
「亜衣音ちゃん、ご飯持ってきたよ。」
「う~ありがとうございます。それでご家族の方も~……。」
と、こうなるのは自明であり予想通りだわ。
お座敷の続き間、ギッシリと詰め込んで~これでは藍と珠子が動けなくなる。ご飯を盛るお皿はてんでバラバラで、小さいお皿が私に回ってきたよ。
お櫃に入れたご飯が丁度良い温かさで、カレーライスを食べるスピードが速くなってしまった。これでは晩酌組には二番手のご飯が十分に間に合ったかな? いやいやそのご飯さえも……ほぼ無くなってしまう勢いだった。それでも汗を拭きながら海斗くんがモリモリ食べていた。
「ねぇ藍、海斗くんの汗は異常よね。」
「あ、あれね、特製の特辛いスパイスを入れておいたわ。それも夕霧にもね。あれはすまし顔で食べているから、根性が座っているようなものね。」
「うわ~藍の意地悪が出たよ。」
「夕霧は味覚が無いのよ、きっとそうよね。」
「辛いモノが好きとか?」
「いいや、二倍近く入れておいたわよ。きっと舌が麻痺しているわね。」
いいんだ私には関係ないモン。んで他のみんなはね、同じくがむしゃらに食べているよね。碧と翠は生卵を入れて食べている。福岡ではそういう習慣があるのかな。ニンニクを入れておいたよ、誰に当ったかな、後が楽しみだわ。
「このクソ暑い中を走ってきたんだ、お腹は空くよ。」
と、言う美保、欽次郎さんに送って貰っていたよね、先の角で車が止まる音がしていたよ。
「お父さん、こんなにゆっくりとお酒飲んでいてもいいの?」
「あぁ酔わないようにね、チビチビと飲んでいる。」
「お爺ちゃん、何時になったら出発するのよ。」
「今宵……遅くじゃ。飛行機の時間まではまだまだあるで~。」
「あれで~って、まだ飲む気でいるのね。」
「亜衣音、言ってなかったか?」
お爺ちゃんによくよく訊いてみたら、真夜中の三時に空港に着けばいいらしい。それって、私たちには時間が余りすぎだよ。
「だってお爺ちゃん今はまだ十七時だよ。お日様出てるし!」
「う~……空港まで車で小一時間かの~穣。」
「はいお父さん。余裕をみて一時になって出ましょうか。」
「お父さん、私寝る。運んで頂戴よ。」
「ナイトさまに頼んでみろ。返事はダメだろうとは思うがな。」
「う~海斗くん、運んで、」
「イヤです。僕怖いですもん。」
海斗くんが怖いモノとは夕霧だろうか。多分、行動を共にされた海斗くんに散々言い聞かせたに違いなかった。だって夕霧、ニコッと微笑んでいるよね、
馬鹿ユウが……。
「委員長、海斗くんと仲良く家に着いていましたね。」
「そうね、先の路地で偶然会ったのよ。それがなにか?」
「いいえ、なんでもありません。」
「亜衣音ちゃんさ、美保は……だよね。」
「珠子さん、はっきりと訊けばよろしいでしょうに、私に振って口喧嘩を期待するとか、それはないよ。美保ホ、角だったね。」
「んも~バカ亜衣音。うるさい、」
「お別れのチュ~が大事だものね、いいな~。」
「フン、知るモンか!」
「ねぇ……それで終わりなの?」
「当たり前です。」x2
私と美保ホが一緒になって珠子に返事をした。こいつ……もうお腹がいっぱいなよね、後片付け……させてやるわよ。
楽しい夕食も終わりに近づく。これからは男たちの夕食の準備だよ。腹いっぱいで誰も動こうとはしないよ。どうしよ……お父さんたちのご飯。
「キャ~・・・。」x7
「さ、これを食べたい人はジジイにご飯を出してくれないか?」
「お母さん、」
「お母様……。」
「たぬきケーキ……!?」
「お爺ちゃんだよね。」
「おいおい、俺は狸ジジイではないぞ。……ご飯食べたいな~。」
「あ、藍ちゃん。お茶づけ海苔のおにぎりよ。カレーでもいいかな。」
「うん、頑張る。」
「ユウ、お前も手伝え。」
「海斗、いいわ、女子力を見せてあげるわ。」
「食器の片付け、洗い物は私たち双子が得意ですよ。」x2
「うわ~後輩にも仕事を振って下さいよ~。」x2
「ウッシッシ、これは効果覿面じゃの~なぁ婆さん。」
「はい、だから買って正解でした、ジィジさま!」
可愛いタヌキの顔が載った、ロールケーキと小さなプチケーキ。もう誰がどれを先に奪い取るか!……直ぐに争奪戦だよ。
お婆ちゃんの若いときに流行ったという、タヌキケーキ。きっとお婆ちゃんもこんな楽しい経験があったんだね、……いいな~。ひふみ・・・あ、一つ足りないかもしれない。ロールケーキに包丁を入れるお父さん。
「うぎゃ~……お父さん! それはあんまりだよ。」
「どうして、こうやって半分にタヌキを切れば済むことだろう。」
「うん、お父さんとお母さんが半分だよね。」
「いいや亜衣音と、と、と、お父さんにするか。」
「うん、それでいい。その一番小さいの……。」
表題のタヌキケーキ。私とどんな関係があるのよ。ねぇ、お婆ちゃん。
「可愛い内孫だて!」
内孫、外孫……なんだか悪い日本文化の言い回しだ。もしかして、お父さんに妹とか姉とか居たりして。
「お婆ちゃん。もしかしたら再婚なの?」
「……いいやぁ違うよ、初婚だね~このジィジといはね。」
だったらどうして私に可愛い内孫と、言ったのよ。
珠子が宣誓したんだ。
「片付けが終わったらさ~、亜衣音ちゃんのファッションショーがあるんだ。みんな、手伝って~!」
「いや~……とても楽しみだよ~。」x6
「私をロボットみたいに改造しないでよね。壊れちゃうから!」
そう言っても誰も私の言うことを聞かないつもりだよ、これでは私、みんなから押さえつけられて、胸ポロリのゴスペル衣装を着せられてしまうわ。
「海斗くん、助けてよ、ねぇ海斗くん、ヤ、いや、くすぐるな、だれ……いや
ギャハ、きゃ、アハハ……、」
「亜衣音ちゃん。俺には無理だ。見学だけ……させてくれないか。」
「男子禁止、出て行きなさい。」
「もういいわよ、胸見られているし、」
「パ*ツも黒に履き替えよ、」
「いや~・・・・だずげで~・・・!」
「亜衣音~観念して着替えろ、試着だ!」
「これ、カムちゃんの仕業だよね!」
こんな衣装、アメリカで着せられたらたまんないわよ。
「お父さん! お願いよ、時間を早く先送りにして~……。」
「おう、いいぞ、もう次は……アメリカ到着だ!」
「わ~い、アメリカだ~い!」x10
これでジジイたちの飛行機内の醜聞が省けるのよ。助かったのは私だけではないのよね。




