第132部 私って……駄女! なの?
1971年5月25日
*)その日の夢……
私は未来から「駄女!」だと宣告を受けた。みんなの居る前で未来に反論すると見苦しいかと考えてその場は引き下がった。その理由はね、どうもね、藍が未来に耳打ちしたようなんだよ。少し前に藍ちゃんからさ「駄女!」という単語を聞いた覚えがあるのよ。小さく言っていたし、それに私の注意が直ぐに逸れてしまったからよ。
私、物事に複数の要因が次々に襲ってきたらね、直ぐに注意が逸れてしまう癖があるんだよ。例えば、料理中だとしよう。お鍋で煮物……う~ん、いい香り。んでね急に夕立があったとして、
「雨、お布団干したままだったわ!」
これでお鍋からお布団へと私の注意が逸れてしまう。急いでお布団を取り込んでいたらね、濡れた処を上にしてお部屋に広げるのよ。も~すっかりとお鍋の事は忘れるのよね。で、……こうなる訳だよ。
「亜衣音ちゃん、焦げてるわよ!」
「ギャ、やば!」
「あんた、またポカしてのね、お母さんが作りなおしますから、お勉強をしていなさい。」
「ふぁ~い……、」
まぁ~こんな感じかな。閑話終了~っと。
「うん、帰宅後に藍と喧嘩するかな。」
「亜衣音ちゃん、……独り言なの?」
「うん、聞こえていないよね。」
「聞こえないよ……きっと都合が悪い事だったんだ。」
「藍~……、ほんま、いい女やわ~。」
「よしてよ、キモいわ!」
帰宅後直ぐに藍ちゃんに連れられて大地の前に、と言っても虫歯が見えそうな写真が在るお仏壇だよ。
「亜衣音ちゃん、終わったら呼んでね。」
「うん、ありがとう、お部屋に居るのかな。」
「そうね……だと思う。」
「大地、今日ね、大地が残してくれたお年玉を使ったんだよ。そしたらばね、私の耳に大地の声が聞こえたんだよ。私、幻聴は耳鳴りだけだと考えていたら、そうでもないのかな、ね~大地。」
「お前らしいよ、バカは治らないと言うぜ!」
「ウキャ……大地のアホ!」
と、訳の分らない独り言を続けていた私だ。丸い椅子から立ち上がる事がやっと出来るようになった。右手に持つ松葉杖を使えば立てると気がついたんだよ。それで左脚に力を込めて……ブッ!
「あ、。・、。ダメ、もう出そう……、」
「藍、もう出てこれるかな~、ドンドンドン。」
「も~今入った処よ、冷たいパフェでお腹壊したかな。」
「うん私もなんだ。何か悪いモノ入れられていたんだよ、きっとね。」
「そうね・・・パンケーキを食べて以来だねって、気が散るから余所に行ってよね。」
「そこ……私専用よね、藍ちゃんが利用法違反だよ。」
「そんな法律は無いわよ。もう少し……。」
「う~……夕霧め、何か入れやがったな。」
「いいから早く交代してよ、きっと頭のフケだよね。」
「そ~なんだ、今パン*はくからね。」
「そのまま出て……。」
「イヤン!」
馬鹿な藍ちゃん。もう今日の事はどうでも良くなったわよ。と、帰宅前まで藍を怒ろうと思っていた感情は失せてしまった。もう~……お腹が痛いのよ。
「ピンポーン、」
「は~い、」
「宅急便デ~ス。」
宅急便……造語であり、ヤマト運輸の登録商標である。宅急便と書けばそれはもうヤマト運輸を指すのだ。
「あ、ヤマトさんが来たわ。」
にこやかな声が聞こえて、小走りで玄関へ向かう藍の足音。
「はいは~い、……いつもありがとうございます。」
「ここに……、」
「ありがとうございました。」
「これは……だよ。お父様の好物だよね、北海道産の*鼠!」
これを最初に食べた人は偉かった。キモい食べ物に分類してもいいよね、海鼠はね。今は高級食材にまで進化したかナマコ。べらぼうな値段が付けられている。
スーパーでカット、味付けされたナマコの五片が「298円」だよ。俺の水槽には十匹からは居るな~……今宵も食べるか。
「早速だから、酢のもを作っていようかな。」
と、このわたを取り出して一品多く作る藍ちゃん。この女は女子力が高い、お得なお嫁さんになれるだろうか。ルンルンとすぐさま全部を切り刻んで纏めてポン。酢とお醤油に砂糖を適当に。適宜ではない、何でも適当な藍。
「うっほ~、旨いよこのナマコ。」
「お父様、美味しいでしょう?」
「うっ……硬い、」
「だってカムイコロさんが今、美味しいって、」
「藍ちゃん。これ、湯がいてないよね。さくっと湯に潜らせて柔らかくするのよね、藍ちゃん。」
「え……そうなんですか、お母様。」
「へ~藍のドジ。今から湯に入れたらどうよ。」
「亜衣音あんたがしなさい。それとも藍ちゃんに謝るとか?」
一度、酢で締めたナマコは湯通ししたら風味が飛んでいくのだとお母さん。
「藍ちゃん、ごめんなさい。」
「いいのよ、私も知らなかったのよ、私こそごめんなさい。」
「藍ちゃん。もしかして調理は初めてなのかい?」
「お父様、毎年作っていました。同じ作り方でしたよ。」
「あ~もしかして、そのナマコは黒い色ではなかったのかな。」
「そうですね、前までは黒でした。」
「あれだけは生のままでも柔らかいんだよ。緑というかな、あれは硬いのだな。でもこれはこれで美味しいよ。」
「ありがとうございます。お父様!(顎の鍛錬、頑張って!)」
「藍ちゃん何処からだったの?」
「苫小牧の白鳥さまでした、他にホタテの紐とか……、」
「ヒモ……直ぐに焼いておくれよ。」
「はいホロお婆さま……。」
杉田家や黒川家にも人数配分すれば直ぐに無くなるナマコなのだが、乾物は配られていなかった。
「お婆ちゃん今晩の寝酒にしたらいいよ。桜子お婆さまとお爺ちゃんも来るだろうしね。」
「おう亜衣音、お前も入りたいよね、ホ~ッホッホ、」
いつもは入っているシシャモは無かったらしい。食卓の椅子が空いている。そこは大地の指定席だったよ、シシャモを食べたいよね、大地。
ふとした拍子に大地を探す私。いつもの席が空いているのは、本当に寂しいのだと思う。家族が集まればなおさらだよ、バカ大地。
や~さんたちの密漁が絶えない北海道産のナマコ。売れば一つが千円とかするのだろうか。うん、本当に良い値段だよね。九州は福岡県、ある地方はとうの昔に絶えている。それほど数が激減してるようだ。
どうして福岡のあの場所が「絶滅したんもかね~。」
これからは甲イカ漁の為に多くの籠=仕掛けが海に沈められていく。イカの習性を狙っての漁法だ。産卵に寄ってくる甲いかを根こそぎ捕ってしまう。産み付けられた卵が網全体に付着しているが、これは後ほど港で網を洗浄して港の海に捨てられてしまう。多くの卵が孵る事無くうち捨てられる。これだと甲いかは捕れなくなるよね。因みに甲いかの卵は水槽でも孵化させる事が出来ます。それから大きくも出来るんだよね。
「亜衣音や、飲み過ぎてはおらんかの~、閑話が長かったぞい。」
「あ……ごめんなさい。ついその、地が出てしまいました。」
「夏のナマコって、何処でどうしているのかな、お婆ちゃん。」
「きっと、ワシの腹の中じゃえ、ホ~ッホッホ、」
「うん、納得だね。」
今宵はカムイコロさんお休みらしいよ、ホロお婆さまに桜子お婆さまが三人も集まればさ、一升瓶が転がるのがとても早いよね。一度部屋から退席すれば二度と部屋に戻る気が失せるような……お酒の臭いだよ、大地。そういえば大地はのんべ~の素質があったのかな、こんな臭いは気にもしてなかったな。
「藍~……お風呂。」
「はいはいお嬢様。今宵もご一緒させて頂きます。(髪の毛が臭いよ……。)」
「うん、ありがとう……。」
今宵の宴会に顔を出した私だ。せっせとホタテのヒモを焼いていく。火鉢の熱が私の顔を兎に角温めてくれるのだ。火とはなんとなく神秘的だよ、どうしてかな。眺めているだけで時間も退屈なく過ぎていく。
今宵の私の夢はね、大地がさ、火鉢でね私から焼かれていたんだよ。可笑しいよね、大地。
今宵もまた脚が疼いて寝言を言う。そんな私に付き添う藍。もう頭が上がらないよ。
「そう言えば藍、私が唸っているときは何をしているのかな。」
(勿論、亜衣音の脚を足蹴りしているわよ。うるさい、黙れ、ばか! とね。)
そうよね、恨めしく思うのが人情よね。だから藍が私に意地悪してきてもね、
私、耐えるからね、藍ちゃん。
「でもね~御弁当にナマコとか、ないよね~!」
「あらいいじゃん、杉田先生が食べたそうにしているわよ。」
「え! 何処、何処よね~、居ないよ。」
翌日にはもう藍の意地悪が行われているのよね、今日のお昼よ、
五月も下旬だというのに何だか肌寒いのよ、どうしてかな。翌日から一枚多く着込むの、だって藍ちゃんが出してくれたのよ……ババシャツ……。
「あんた、最近寒がりよね、どうしたのよ。」
「うん分らないわよ、とにかく寒いんだもの、このババシャツ……暖かいよ。」
「スリーマーと言って貰いたいわよ、亜衣音ちゃん、さ。」
「へ~……そうなの?」
「きっと食べる量が少ない、カロリー不足かしら!」
「もう御弁当は作ってやれません。」
「そんな~……藍さま!」
「アハハ……、」x7
いつものメンバーは五人。でもここで笑うのが七人よ。いつの間にか二人も増えているな。あ、私を外してだからね。文字の知恵は六人だったのが八人になっている。
「亜衣音ちゃん、バカは治らないようね、文殊の知恵だよ。」
「あは~……そうだったかな。留年確定だね、藍も一緒にどうよ。」
文字の知恵とは大地が言っていた言葉だよ。私はそのまま鵜呑みにして信じていたよね、嘘つき大地。天の声が聞こえる。
「お前がバカだからさ疑わないよな。何でも疑ってみないとダメだぞ。」
「やだっピ! 絶対に付き合わないよ。」
「でも、この中に一人ぐらいは居てもいいよね。」
「あんた一人で十分なのよ。私は学費も出せないと知っていますよね……お嬢様!」
「藍ちゃん亜衣音ちゃんに勉強を教えているのよね、まさか放置していませんよね。」
「全然、どうして教えなければならないのよ。無駄だよね、駄女さま!」
あ~……私が駄女という語源がここにあったのか。そうなんだね全部私が悪いのと気がつきました、見てろ……中間考査を!
でもね、段々と私、貧血で保健室にお世話になりだしたんだな。どうしてよ大地答えてよ、ね~! 血液が不足すると身体は寒気を覚えて震えてしまう。
「……まさか、ね!」
「そう、そのまさかだよ、お嬢様。」
「また赤点のラッシュ……。」
とにかく私の身体が異常に調子が悪くなってきた。妹たちが出来たから、また巫女の力を抜かれて寝込むのかな。う~ヤダよ~……。
「ママの授業さえ赤点なんて、も~最低だな。」
「この答案を読み返してもね、温かい母親の甘い採点です。それでも二十九点とかあり得ないんですけど、」
「藍、追試を替わって!」
「この、デコピンが~……ピンピン。」
「……痛い、痛いよ、」




