第130部 派手に……跳んだ!……落ちた!
1971年5月25日
*)元乗馬クラブ員、誘ったよ
私は天国にいる大地をこの馬事公苑で姿を探していた。きっと何処かに……。それにね、何かある度に大地の名前を心で呟くようになっているの。
今朝は元気よく登校できた。だってさ、美保や未来、碧と翠。それに年下の二人の智子と眞澄も誘ったんだ。勿論よ、二つ返事でOKを貰ったわ。
でも、蛇足が……付いてくるのは仕方がないのだろうね、大地。
「うぉ~~! 俺も行きたい!」
この悲鳴? 雄叫びをあげる石川海斗くんだ。何処にでも付いて行くと、豪語していたから、ま、当然だろうな。ついては付随する二人の女子がいた。
三浦珠子と岩野夕霧の二人である。三浦珠子まで来るとは予定外だが、それはそれでいい。私のカッコイイ処を見せつけるのだよ、大地。
う~バカ大地、雷神が寂しがっているよ。美保ではダメみたいと事前にね、ホロお婆さまには伝えておいたよ。今日の放課後には全員で行くかもしれないとね。
私たちを見たホロお婆さま、それはもうとても喜んでくれたんだ。
「うっひゃっひゃ、若いおなごは……えぇのう……。」
「お婆ちゃん。またお世話になります。」
「おうおうよく来た。馬も待っていたで~の~。美保しゃん。」
「ご無沙汰してました。お世話になります。」
「ほ~……随分とべっぴんさんになりましたな~未来はん。」
美保ホはたまに遊びに来ていたので、そうでもないのだが未来は本当に久しぶりだった。ましてや智子と眞澄には、
「あんた……誰ぞ!」
「お婆ちゃん、それはあんまりです、智子と眞澄ですよ。」
「お~ぉ、そうじゃったのう~。」
何処まででもボケたふりが上手なお婆ちゃん。遅れてきたというか、紹介をしたいので最後に連れてきた三人。でもね、ホロお婆さまは札幌で見ているよね。忘れたなんて言わせないよ。
背筋を「シャキーン!」と伸ばして、順次握手して何やら確認しているよね。
「ほう~……あんさんが、石川さんだね。孫を守ってくれた事を亜衣音から聞いているよ。これからもよろしゅうたのんます。」
「はい、全力でお守りいたします。」
「おやおや……岩野夕霧さん、初めまして。それに三浦珠子……さんも、いつも孫がお世話になっちょります。」
「え……はい、亜衣音ちゃんにはこちらがお世話になっている方なんですよ、お婆さま。」
「そう緊張せんでもええ、ほれ、馬が怯えてしまうでの。」
「ブヒ!」「ブルルル……。」
「いえ、そうは思えませんが?」
「ま~可愛い……この黒い目がとても可愛いわ!」
「そうかえ、そうじゃろ……うっひゃっひゃ、」
冷静な夕霧、それに馬が可愛いと喜んでいる珠子である。お婆ちゃんは多分、クロと雷神の感情を推し量っている事だろうか。だってお婆ちゃんの目が笑っていないよ、口は緩ませて笑っているのだけれどもね。
「おやおや……クロ、どうした。」
「ブヒヒ~ン、」
「おう、そうかい、乗せてもいいなだね。」
「ブヒ!」
「もうクロ。もっとマシな返事は出来ないの。」
「べ~!」
「ブギャー!」
「亜衣音ちゃん、クロと同じなんだね、もうソックリだよ。」
「うぐぅ~……、似てないもん。藍のバカ!」
クロは「べ~!」とは言えない。藍が言ったのよね。
「お前たちの騎馬民族衣装は、またロッカーに札を書いてなおしておいたよ。着替えてくるといい。」
「もうお婆ちゃん。騎馬民族衣装ってなによ、も~、」
「亜衣音、分るのだろう?」
「そりゃ~分りますがクラブ活動のユニフォームです。変な呼び方はしないでよね、べ~。」
「アハハ……可笑しな亜衣音ちゃんだこと。是非ともその民族衣装とやらを見せてくださいね……亜衣音さま!」
「夕霧さんの意地悪。」
「うんうん、夕霧は意地が悪いよね、そう思うでしょう? 海斗くん。」
「まぁな、俺も時々は思うぞ。」
「海斗、シカトするからね。」
「べ~……、」
「委員長、公平にお願いよ。そんな事は言わないで頂戴。」
「亜衣音さん、ごめんなさい。」
「え”……そ、それでいいのよ。うんシカトとか絶対にいけません。」
「タイムワープ!」
「なによそれ! 頭が壊れたの?」
「ほら、時間の節約なの。これでみんなが着替えたところよ。」
「ぶ~……、」x10
「だって私が着替えるのが恥ずかしいし、藍に手伝って貰わないとね、とても一人では出来ないんだ。」
「そうね、私なら何時でもお手伝い致しますよ。」
「藍ちゃん。ありがとう~……。」
「うんうん。」
私の乗馬衣装、ロングパンツだから右足が上手に隠せるのよね。でも松葉杖は手放せないよ、大地。
藍は今の私が視線を泳がせたのを見抜いた。
私、今でも大地がね、フィールドで雷神を走らせているのかと探していたのは事実よ。もう……散々大地をバカにしてきた馬事公苑、最後にはこの私よりも上達してたわね。駆けっこも負けたままで悔しいわ、バカ大地。
「ブルブルウ……、」
「きゃ~!」
「あら雷神、美保のお尻を囓ったらダメだよ。」
「はいはい雷神。私を乗せてくれるのですね、お願いね。」
「ホロお婆さま、お願いします。」
「あいよ、先に美保ちゃんからだね。で、次は……、」
「はい、未来がクロに乗ります。」
「二人とも同時に走るといいよ。ほれ、そこの男はん。」
「あ、俺? 石川です。」
「あ~そうじゃった、尻を押してやりんしゃい。」
「む~りです、嫌われます。」
「え~若いもんが女の尻を怖がってどうする。亜衣音、教えてやりなさい。」
「無理だよ手が離せない。藍ちゃん。」
「いいわ、この私が教えて……しんぜようか。」
「は~い、」
美保ホと未来を先ずは手本としてそれぞれに実践させてみる。三人はね、うんうんと言いながら見ていたのよね。
「な~んだ、簡単だね。」x3
「ホ~ッホッホ、次は乗せるからね。」
「はい、お願いします。」
二人が馬場に出たから私は、
「タイムワープ!」
「ほら、二人の番……誰がババ引いたかな。」
「俺、あとでいいよ。笑ってやりたい。」
「はは~ん、笑われたくないのね。後も今も同じと思うよ。」
「未来、そうよね。でも随分と乗ってなかったよね。」
「そうね、いっぱい緊張したよ。」
「私は全然よ、雷神が喜んでくれて嬉しいわ。」
「美保ホ、良かったね。」
美保は、いつのまにか名前にホが付けられていた。私が付けたのだけれどもね。美保ホの方が可愛い響きがあるわね。
「ほれ、どちらにするかの~、、、。」
「お馬さんの言う通りにお願い。」
「あいよ、クロ……、おや夕霧さんを選んだかい。」
「雷神……お前もいいようだね。決まったよ亜衣音。」
「はい、お婆ちゃん。……藍ちゃん、またお願いね。」
「うん、任せて。」
「美保ホが背が高いよね、お願いね。」
「いいわ、私がお尻をくすぐってあげる。」
「いやよ、変な処を触らないでね。」
でも藍と美保は二人をくすぐっているので、ホロお婆さまより叱責を受けて? 以後、乗馬禁止令を受けてしまう。
「もっと真面目にしなさい、落馬して死ぬわよ!」
「は、はい。」
この二人、クロと雷神が上手に乗せてくれたから落馬は無かった。でもね、いざ乗馬となると怖くて乗れないのよね、最後はキャーと叫んで乗ったわ。
馬の視点はとても高いから、ま~ダンプカー……に乗ったようなものね。
「亜衣音、丁度いいだろうさ、ナイトの騎士さまと一緒に乗るかえ。」
「う~……そうね、徹さんはもう居ないし、そうしようかな。だって私を守ってくれるのよね?……ナイトさま!」
「お、おう、任せろ。乗馬くらい、何とでもなる。」
「きゃ~、亜衣音先輩!」x2
この二人は一個下だから私たちの関係は殆ど知らないの。だからね、黄色い声援を送るのよね。一個下とは学年が一つ下という意味よ、年の差ではないよ。
「うるさいわね、貴女たちも二人で乗ったらどうよ、競争する?」
「はい、競争します。」x2
「おいおい亜衣音さん、俺、走れるのかな。」
「大丈夫よ、楽勝よ。」
「そ、それならばいいよ、競争は任せる。」
「うん、任せて!」
私が左足を鐙に乗せて右脚を大きく跳ねあげるのだけれどもね、膝下が折れてクロの腹に当るだけなの、助けてよ大地。でも藍が創ってくれたマネキンの足を外す勇気はなかった。
私がクロに必死になって乗馬を挑戦するも中々出来ない。馬事公苑の騎士さまの数人にお願いしてようやく乗馬が叶ったが、腫れ物に触るような騎士さまだ。
でも後ろで見ている事務員さんの目が、私を呪っているのよね。わ~最悪。
あんな無様な格好を見せていたら、そりゃ~世の男共は私を丁寧に扱うよね、そうですよね、徹さん。小倉でクシャミしているかな、お兄ちゃん。
女の敵だと呪われながらクロに乗馬が出来たら次は海斗くん。これはすんなりと出来たわ。だってもの凄く力持ちなんだからね。お婆ちゃんは私の周回が終わるまで、と、騎士さんたちを引き留めてくれたんだ、良かったな。
「嬢ちゃん、いいかな。」
「はい、ありがとうございます。海斗くん、行きます。」
「オ~!!」
「智子……、」
「はい、」x2
こうやって四人でスタートを切って馬場の周回始めた。
「二周目から競争よ、いい、」
「はい、勝ちます。」x2
私のお尻、競争でも何とか一周はもつだろうと判断して、
「智子、ごめん、一周だけでお願い。」
「へ~大差で負けるのが怖いんですね。」
「ち、違うわよ。終わったら話してあげる。」
「はい先輩。」
そうよ、楽に周回は出来たわよ。これならば競争だって……、
「お婆ちゃん。お願いよ。」
「あいよ、合図するよ……ドン!」
私は……速攻で落ちた。クロの背中を両足で挟む力が足りなかった。それに背中に乗るだけだからやはり無理だった。海斗くんを後ろに乗せていたからね海斗くんも同じく落馬して、私のクッションになってくれたわ。文字通りにね私を守ってくれたのよ。
「キャッ!……ドテ……わ~ドテ……ギャ~~!!!痛~~~!!」
「う~~ごめんなさい、大丈夫かしら。」
「亜衣音さん、ご無事でしょうか。」
「はい、ナイトさま!」
私は瞬時にしてクロから落馬して、海斗くん上に落ちていた。海斗くんごめんなさい。痛かったよね、痛み止めを今、チューしてあげる。」
みんなが駆け寄って私たちを起こしてくれたんだ。騎士さんたち、どうもありがとうございます。でもね後ろで女たちが笑っていたわ、呪いに負けて悔しい。
「亜衣音、もう乗馬は禁止っしょ。」
「う~お婆ちゃん悲しいよ~。」
「おうよしよし。もう泣くでない。」
「泣かないから乗せて~お願い。」
「もう諦めろ。でないとな、このワシが苫小牧に帰されてしまうで。」
「う~……うん、もうダダこねません。」
騎士さんたちに抱えられた海斗くん。医務室で服を脱がされてね、それから全身に近いほどにシップ薬を貼られたんだ。
「使用期限が過ぎたものばかりだから気にしなくいいよ!」
何だか私、気になったのだがな?
家に帰れば両親からは、
「ごら~亜衣音、他人様に怪我させるとは、なんですか。」
「亜衣音、もう乗馬は禁止です。」
「うぐぅ~……はい、もう私は乗りません。」
二人しての次は父が一人で私を長々と説教だよ。お母さんはしきりに海斗くんに謝っていたんだよ、可笑しいね大地。
「亜衣音、全部お前が悪い、バカだから。」
と、天国から大地の声が聞こえて来たんだ。んで、お母さんが海斗くんの自宅へ電話して、この夜は家に泊めてしまっていたよ。
「だったら私も泊まります。」
「夕霧、帰れ!」
「委員長……そんな~、」
海斗くんと私が反対したけれども、根負けしたんだ。よっぽど私に信用が無いのだと、悟った日でもあったな。
「違うわ、海斗の方が心配なのよ。」
「へ~私が海斗くんに夜這い掛けるとか、出来ないよね、藍ちゃん。」
「そうよ、これは一人ではな~んも出来んもんね。」
「そ、そうよね、一人では出来ないよね。安心したわ~、」
「それ、どう言う意味かしら、委員長さま!」
「さ、海斗を看病しなくちゃいけないわ。で、亜衣音はドサクサに紛れて海斗にチューしてないよね。」
「さぁ……どうでしょう、海斗にされたかもしれないよ?」
「それ、どう言う意味かしら、亜衣音さま!」
私をこれ呼ばわりする藍に、嫌に私を警戒している夕霧と、遊び遊ばれのとてもイイ関係なれそうだわ。その夜、藍は夕霧に押し出されて、私は夕霧の監視の下で寝る事になってしまう。
きっと夕霧は眠れないに違いない、夜は決まって脚が疼くのである、どうしてだろうか。
この時もそうだが、私ってバカなのかアホなのか、それとも素直なのか、私が失った右足がどうなったのかを詮索すらしていない。
「大地がきっとね、天国で寂しいからと持っていったんだよ。」
う~……天然で生粋のバカであるかな?
「俺の抱き枕!」
「ウキョー……。」




