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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第二章 親子(父と娘)……

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第13部 初めての……お帰りなさい


*)帰り道


「ねぇ雨宮さん、さきほどだけれども何か言いかけたよね。それはなに?」

「あ、私も聞きたい、なになに!」


「私も……飛行機で来たんだ! それも朝一で乗せられたのよね。」


「え、うそ!」

「ホンとだよ。」

「本当に二人とも飛行機で来たの?」


「そうだね。」x2


 亜衣音、藍、未来の三人で高校からの帰路に就いているのだが、後ろからは飛行機並の速さで二人が迫っていた。


「ねぇ、私たちも混ぜてくれない?」

「帰っているだけだよ。」

「分ってる。」

「判ってるってば。」x2

「二人揃ってなによ、押さないでくれない?」

「いいからいいから。其処を左に折れた処に喫茶店があるんだ、行こうよ。」


 この姉妹、どうしてかしらね私たちと喫茶店へ入りたいらしくて、右側から二人してグイグイと押してきていた。


「私、電車賃が無くなるからパス。」

「え~未来ちゃんは電車通学なんだ、いいな!」

「良くないよ、お尻はガードも出来ずに触られてるし足は踏まれるし、それに大好きなラノベの本も読めないのよ。」

「ふ~ん本が好きなんだ。で、何を読んでるの?」

「うん、人狼と少女。主人公が途中で死んじゃうのよ。もう悲しくて涙が出て先に進まなくてね、読んだら貸したげる。」(貸してあげるではない)


「わ~ありがとう。」

「コーラでいいわ!」

「え、何が、」

「喫茶店で奢ってくれるのよね、後でちゃんと本は貸すから。さもないと帰っちゃうから。」


「う~~~、碧いいかしら。」

「う~~~、藍いいかしら。」

「う~~~、亜衣音!」

「えぇ良いわよ、どうせ私で打ち止めだものね。それに私は歩いて帰るからいいの、大丈夫だからね足は速いし。あんな駄作を読む必要は無いはずよね。」

「え~酷いよ亜衣音ちゃんは~。」


「何処まで歩くのかしら。」x2

「え~と、ここは何処かしら。私の高校はどこかな。」

「バッカじゃないの。そうね高校の名前も未定かしら。」

「だよね~きっと私たちで決めていいのよ。」

「そうだ、秀昭学園はどうよ。息子の名前ですって!」

「いいわ、では住所は何処が良い。最寄りの駅から決めようよ。」

「さんせ~い、ねぇ喫茶店に入って考えようか!」

「さんせ~い。」


 馬鹿な私たちは双子の誘導にあい簡単に喫茶店へと入ってしまった。五人で初めて入った喫茶店、クラシカルなたたずまいに歌謡曲?


「ここ良いね!」

「そうだね、コーラを四つでいいかしら。」

「いいよ、それで亜衣音さんは何にするの?」

「水、だから半分でいいから分けて?」

「そう……みんな、亜衣音さんにコーラの半分を分けてあげてね。」

「うん、いいよ!」x3


「私コーラを二杯も飲めるんだ!」

「あんた……水でいいわ!」

「わ~冷たいの。」


「ねぇ日暮里駅はどうよ。いつでも『ひぐれ』で響きもいいわ。」

「秋葉原駅がいいわよ、もう~素敵な繁華街よね~。」

未来みく、それって貴女の趣味よね。大体得体の知れないラノベを読むくらいだもの。」

「そこはメイド喫茶もあるし~、」

「はいはい今度連れて行ってくれるよね。」

「うん、喜んで~!」


「とても大事な事を思い出したの。聞きたい?」

「え、なになに、どうしたのよ。」


「私たち、何処に住んでいるのかしら。」

「上野公園の森の中とか!」

「私、くま!」

「アナグマね! 決定。」


「アハ、アハハハ……。」x5


「あんた達ここでバイトをしないかい。お給金はいいよ、ブラックだけれども。なんなら五人で交代勤務とかどうだい……制服貸与だよ?」

「え~どうしようかな。」


「お店の名前、なんなの?」


「喫茶JK。安直過ぎないかしら!」

「帰ろう!」x5

「日暮里駅はイヤだ~人が歩いていないよ~。」



 世田谷駅で皆は別れて帰る。他の三人の住所もいずれは決まることだろうか。



 因みに高校は某有名な関東農業大学付属高等学校でね、世田谷区桜丘という何だか憧れるような住所なの。最寄りの駅はね東急世田谷線の上町駅なんだよ。


 あ、一番肝心な私の家は……少し遠いかな、千歳烏山駅から歩いて七百メートル北の世田谷区立北烏山六丁目なんだな。静かでとてもいい住宅地? 直ぐ横が小学校があるから煩い五月蠅いうるさいのよね、でも通学する私にはなんも関係ありません。それで以て憧れの電車通学なんだよ……未来みたいに私もお尻を触られるのかな~? 今度秋葉原で大きい鉢金を買ってこなくてはね、それをお尻に巻いておくのよ。


「お婆ちゃ~ん……只今~。」

「おかえり~ぃ、」

「聞いて聞いて……今日ね………………、」



 1968年4月11日(昭和43年)東京都 



*)初めての……お帰りなさい


 私は東京に出てきてから今日まで祖父母の自宅に泊まっていた。父のみのるが最後の出張で留守にしていたからなんだな。そして今日は帰って来る日だ。東京に来た日は確かに泊まりはしたが、白川家の全員が揃っていたからだった。また、父は私に自室を見せてやりたかったらしい。



「お爺ちゃんは計算してたんだな~、自宅と高校の間に祖父が建てた家が在るのだからね。ほんま、思惑が滲み出ているよ。」


 いやいやその前にハッキリさせる必要があるのが祖父母の家だ。千歳烏山駅から南に行くのだから私の通学路には無いのよね。そりゃ~自宅と高校の間と言っても間違いではないよね。


 もし私の通学路に在るとしたら私は寄らなければならない? と脅迫観念が起きたと思うんだな、そこは年の功でちゃんとお爺ちゃんは考えていたんだね。


 うふふ~ん、でも毎回実家に寄って父と一緒に寄生するのもアリなんじゃないかな? それでジジババが喜ぶとしたら……いいじゃんか。


 お爺ちゃんは私がバス通学をするのだからと踏んでいたらしいのよね、残念ながらそれ間違いよ。私は憧れのパパと電車通学をしたいのだよ? お爺ちゃん。あ~パパも電車にも憧れているんだよね。



 昨日は喫茶店でだべっていたので、今朝も祖父母の家から高校に通う羽目になった。遅くなると独りで留守番するよりも安心出来る家が在る。そう、それがこの家だ。昨日の遅くなったというのは、言い訳でウソみたいなものだ。このフレーズは今度使う事にして残しておくね。


 本当は私、昨日は遅くならなかったら自宅へ帰る予定にしていたの。だって今日はパパが長い出張から帰ってくる日だもの掃除とかしておきたかったんだな。とは言い訳だったりするし、


「お婆ちゃん今日はお父さんが帰って来るのよ。だから台所を貸してね。」


 孫が台所を貸してと言う事はだ、何かしらの料理を作る意味と捉える事になるのだが、捻くれた作家は全く違っていた。


 お婆ちゃんごめんなさい、私はね台所を借りて冷蔵庫を漁って帰るだけだからね。私の所作を見つめて呆れているお婆ちゃんだわ。


 あ、あ~それは私が作った筑前煮なんだがね~亜衣音。


「それは良いけれども穣は此処には寄らないよ。料理は持って帰るのかい?」

「(当然よ)うん、まだ買い物が済んで無くてね。それに何処にお店が在るのか判らないの。だからお休みの日にデートするんだよ。」


 楽しそうに話す孫を見て目を細める祖母、しかし東京で生まれて育って尚且つ祖父の仕事柄か、別の事が頭に浮かんだようだった。


「ほう、それは良かったね。(穣、逮捕されなければ良いのだけれどもね)」

「お婆ちゃん何か変な事を考えているね、なに?」


「はいはい、タッパを出しておくよ。」

「うん、ありがとう。」

「それでまた冷蔵庫が空になるのは、もう……どうしてだろうね。」

「でも、まだいっぱい入っているよね。」

「誰の所為だと思っているんだい。これはみ~んな孫が食べるのだからね。」

「うわぁ~お刺身が在る。これ、貰っていくね。」

「おいおい亜衣音、俺の分は残しておけよ。」


「お爺ちゃん居たんだ……お爺ちゃんの分はさつま揚げだよ。美味しそう。」

「ふん、それでいいよ、今度穣にたくさん買わせるから。(孫よ、儂を忘れてくれるな)」


「ふふふ……お爺ちゃんごめんなさいね。(引退していたのを完全に忘れていましたわ)」

「亜衣音、この家の心配は要らないから早くお帰り、言いたいのだろう?」


「うん、とても楽しみ。初めてだものね。」


「そうだよね、十四年間も離ればなれだったよ……。」

「お婆ちゃん泣かないで、ね? 亜衣音は元気で戻って来たんだよ。そりゃ~随分と心配を掛けたと思うけれども……。」


「なんだ二人して泣きだしてよ。そうか穣も良く我慢が出来た……。」


「お爺ちゃんも泣いているのかしら。」

「ふんビールを飲みたくなっただけだよ、今日は暑いね~、」


 まだ四月なのに暑いの?……そう言ってタオルで顔を拭いていた。祖母は気を取り直してタッパに穣の好物のからすみを詰めている。これはもう完全なる私のペースに落ちた祖父母だわ。


 お爺ちゃんがこの烏丸に住居を構えた理由が分ったような……烏魚子と書いてからすみと読む。何だかからすまとからすみが同じに思えてきたのはなぜだろうか、今度お父さんに尋ねてみようっと。(烏魚子は台湾の漢字)


「お父さんの好物はさ辛子明太子だよ、それはお爺ちゃんの好物。」

「あれま~そうだったかい。」


 亜衣音は祖母の顔を見た。涙で潤んでいてきっと見えていなかったのだろうか。共に薄い赤い色をしていたのだから。でも烏魚子……お爺ちゃんは可哀想かも。


「爺さんは長崎が一番気に入っていたからね。穣は博多でお酒を覚えたし私は佃島の佃煮で育ったからね。」

「ふ~ん、そうだったんだ初めて聞いたよ。するとホルモンとか好きかな。」

「あれは何でも食べるから、豚足トンソクでも美味しいと言って食べるよ。」

「そうなんだ、私もお父さんと一緒に転校できたらいいな。」


「ないないない、それだけは絶対にないよ。もしもの時は穣、独りで行くよね。」

「水くさいな~私も連れて行けばいいのに。」

「こればかりはね~。」

「うん知ってる。麻美お母さまから聞いた……この高校で大人しくすると約束したもの。」

「そうかいそうかい。……これ位でいいかね。」

「うん十分だよ。きっとお土産のお寿司もあると思う。」


「そうかい? 穣はそんなに気が利くとは親でも考えないよ。」

「わ~酷いお母さまだこと。お父さまが可哀想です。」


「あれま~随分と重くなってしまったね。これでいいかい?」

「はい! お爺ちゃ~ん……これで帰るね。」

「あ~ぁ、また来いよ…待っている。」


 遠くで聞こえる祖父の返事はどことなく弱々しかった。出て来ないという事はまだ泣いているのかも知れない。きっと寂しいんだ。


「少しの間でしたがお世話になりました。」

「ま~ほんにほんに……こん子は~、」

(?……外国語かしら。)


 私は急いで帰り自宅の玄関を解錠した。玄関で荷物を置いた処で座り込んでいる。何だか恥ずかしい思いがこみ上げてきたのか、顔が紅くなっていると思う。


「お帰り、お父さん!」

「おう、ただ今……お帰り亜衣音!」


「うん……ただいま……戻りました、これからお世話になります。」


 玄関で正座した亜衣音の潤んだ瞳が赤く光るのだった。


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