第129部 四つの生……
うなだれた徹さん。少し可愛そうだったかしら! 賑やかだった夕食を終えて、それぞれの家や部屋へと引き上げる家族。
「ケッ! 俺だけかよ。」
「まぁまぁ熊っこ、そう嘆くでない。嫌ならトカップチへ帰るか?」
「そうだね、もうすぐ春も来るからいいかもしれないね。」
「お前さん、男が居たよね。」
「あれは熊だから、今頃は肝を抜かれて干されているだろうさ。」
「人を食うからだろう。ま~仕方なか。」
因みに、トカップチとトカプチとは意味が違う。トカップチは「水は涸れて魚は腐れ!」 だそうだ。トカプチは乳房というアイヌ語でね、十勝の語源なのですが、トッカッチは異国語です、お隣です。
すっかりと故郷の郷愁にとらわれたカムイコロさんが、またお布団へ戻って行った。私たち町内の一角にはお爺ちゃんが手配した交番も在る。ここにやや体格のいいお巡りさん……どうもね、カムちゃんのお気に入りのようなんだ。
そのお兄ちゃんは、多分今日はお休みだね。
「冬眠を思い出したんだ、文句あっか!」
「いや、なかばい。」
「さ~て徹さん。身体に訊いてみましょうかね。」
「う……いや、何もお話しすることはございません。」
「私にも三人目を下さい。沙霧だけでは不公平です。」
「俺に出来るかな~、亜衣音ちゃんに頼むかな~。」
「なんですって! あ~やっぱりあの子に色目を使われたのですね。」
「いやいや違う、今日あの子の右足が見えたんだよ。ばっちゃんが故意に見せたものだと思う。俺、見舞いに行っても見る勇気がなくてよ。それに今はロングのスカートだろう? あの時は驚いて声も出なかったよ。」
「どんなに見えたのかしら。」
「在るものが無いなんて、やはり異様に見えた。不憫だろうとは脳か解釈する自己都合な感情だろな。」
「徹さんだって馬から落ちたらどうなるか。踏まれても蹴られても死なないでくださいよ。」
(いや、それだと普通に死ぬよね!)
「亜衣音ちゃん、もう立ち直ったように元気だけれども、心はどうだろう。」
「まだですよ、女はうわべと深層は違います。」
「男は素直で同じだよ。俺だったら未だに寝ているだろうさ。」
「子供が二人居たら違いますよね、働きますよね?」
「さぁどうだろう、自信はないよ。娘だって親に預けて逃げ出す男も居る事だし、俺はどっちだろうね。」
「あの子、ちゃらんぽらんなのだけれどもね、私、感謝しているのよ。」
「そうだね、事件は起こすというか、持って生まれた運命だろうから、
文句は言えないが、」
「言えないが、なによ。」
「言えない。」
「ふ~ん、何だか言いくるめられた感じだわ、……」
「クシェン!」x2
「あらあら、お布団からはみ出していたのね、今に暖かくなりますよ~。」
「この二人にも、何の運命が起きるのか、とても心配だよ。」
「ごめんなさい、私はとうに死んだ人間なのでいいことは言えませんが、なにかが起きても……きっとね、亜衣音が助けてくれます。私、そういう気持ちがあるのですよ。多分、多分だけれども桜子お婆さまも同じだと思います。」
「そうだね、杉田さん家族も少し違うが同じだろうね。」
「孫にべったりだから、二人の性格がどうなるのか心配だわ。明子さんがジジババの行いを拒否できればいいのでしょうが。」
「ありゃ~無理というもんだろう。これから先、六人は仲良く育ってくれるさ。心配は要らんよ。」
「あの子、ちゃらんぽらんなのだけれどもね、私、感謝しているのよ。」
「それ、さっきも言っていたぞ。」
「んまぁ、でもね、死んだはずの私が生まれてきて、それから徹さんにも見初められて、双子も産めました。これって、私、四つの生……を受けたのと同じです
わ。」
「俺も一つの生か。だったら俺は三つの生だな。四つ目……いきます!」
「うきゃ~……嬉しい!!」
1971年5月24日
*)すっかり日常となった藍は?
「お母様、おはよう……。ご飯……炊きました。」
「そう、ありがとう、……ギャピ! あ~いさん、この炊飯器の黒いモノは、な、な~んですか!」
「あ、お母様は初めてですね、木炭です。これを入れたら美味しくご飯が炊けるのですよ。」
「……?」
「おはよ……どうした!」
「穣さん……これ!」
「お!……良い匂いじゃないか。これは美味そうだ。」
「お父様、ありがとうございます。」
時……同じくして、
「徹さんおはよう。」
「お兄ちゃん、食卓間違えています。」
「だって澪……あ~そうだったね。今日からは俺の家だったよな。」
と、台所の藍の浸食も順調なようだ。だからという訳ではないが澪お姉さまには朝のお手伝いは要りません、と断っていたようなんだ。私には言わない藍だよね。
「亜衣音ちゃん、あんたは朝食の準備で邪魔です、要りません。」
あちゃ~……そう言えば私にも言われていたな~。カムイコロさんとお部屋の交換をしてから階段を使わなくなって、今では藍の手を煩わす事が少なくなったからかな。藍ちゃん、いつも朝食の準備をありがとう。
「亜衣音ちゃん、今日の御弁当の卵焼き、明太子入りだよ、嬉しい?」
「うん、とても。……まさか、卵に混ぜて焼いてないよね。」
「えぇ~それが普通でしょうが、この前のテレビで言っていたよ、ほぐし 混ぜるとね、」
「子だくさん……。」
う~……がさつ~。そんな前兆があったよね、卵焼きに混ぜてた刻んだネギ。あれは良いのかな? カレー粉も入れてたし、これから先は何でもありかも。
「大地くん、自分の卵焼きには色んな物を入れて食べていたわよ、知らないの? チーズも入れてたかな。」
「うん、全部同じだと思ってた。だって遠くで食べていたからね。」
「……ごめんなさい。」
「いいわよ、顔も忘れた。ヒゲもじゃのアゴだったな。」
「ヒゲは覚えているんだ、」
「チクチクして痛かったから。」
「……。」
ざま~見ろ、藍、返事が出来ないよね。チューさえも経験ないよね。
「あ~……亜衣音ちゃん、また意地悪言ったな、この~。」
「あ、あ、あ、……私の卵焼きが……。」
「没収です。代わりに明太を入れておく。」
お昼になって藍は隣のグループに行った。だからだろう……。
赤い明太子……実は梅干しだったな。怖い顔にはなったけれどもね、何も言わずに美味しく頂きました。
「きゃ~亜衣音ちゃん、その顔、」
「なによ、美保ホ。」
「とても変!……あ、あ、おにぎり、そ、それは……、」
私は美保ホのおにぎりの一つを取り上げて口に入れたんだ。
「私がお口直しに頂きます。」
「うぐぅ~……梅干し……なんだ。」
「おかかはもう食べました。」
遠くで藍が口からご飯、、、吹き出して笑っているよね、可愛いな。
「きゃ~藍ちゃん、なにしてくれるのよ、も~……。」
私は……、
「今晩、見てなさい、藍……。」
「徹さん、起きて下さい。もう朝ですよ。」
「あ~……?……ゲッ、ホントだ。」
「もう朝食抜きですね。」
「お隣に行ってくる。澪もお出で。」
「そうね、今朝は前の食卓へお邪魔しようかしら。」
藍が私に合わせて作ってくれた、超……ロングスカートだ。最近、藍が部屋に居ないと思っていたら、お母さんの手ほどきで作っていたという。私は部屋の机の前に置かれたらトイレにだって行くのも出来ない。都度、立ち上がるのを手伝って貰わないとね。
「一人で勉強してなさい、とは、なによ、フン!」
工期……一週間で造られた私専用の洋式トイレだ。座るまでは出来る。だが天井から太いロープが直ぐに下げられた……。
「私、首、くくってもいいんだね!」
「キャーだめだよ、亜衣音ちゃん、」
「これはね、こうやつて掴まって立ち上がる時に使ってね。」
「なんだ……水が流れないな~、と思ってた。」
「テレビ……見過ぎやな。」
「だって藍、少しも構ってくれないもの。」
「忙しいのよ、直ぐに暇になるから、それからは大いに……。」
「くすぐるのよね、」
「そうだね、笑うと服がくると、言うじゃない。」
「服?……福だよね。」
「ウフフフ……。」
このトイレは私専用に造られたはずよね、それなのに味をしめた女たちが使いだしてしまうから、私が自由に行けなくなってしまう。「あんた、時間が長いから最後よ!」
だよね~……。
その超ロングのスカートだが少しだけ長過ぎみたい、だからと裾に手を加えるとおかしくなる。それならばと腰周りに追加、加工してあった。うん、丁度良いサイズに仕上がっているよ、藍ちゃん。
昨晩は寝る前に藍から散々なめにあわされたんだな、久しぶりに大笑いをさせられたよ。
「朝が早く着ますように……コチョコチョチョ……。」
「着ます、直ぐに朝が……来ますだよね。」
「あら~そうかな~・・・お休み~。」
そうして夜が明けたら、こんな素敵なスカートを贈られたんだよ、大地。
「藍ちゃん。誤字の当て字が多かったわよ。」
「あら~いいじゃん、面白いよね。」
「おいおい、笑う門には福来たる!……か!」
「あら、お兄ちゃん……。」
「おう、亜衣音ちゃん、その元気がいいね。」
「へへ~ん、イイでしょう。」
「徹さん。服、服を褒めないとダメでしょうが。」
「あ……。」
「いいのよ、澪お姉さま。それに、徹さん(もう遅いわよ)。」
「なによ、亜衣音ちゃん。薄ら笑い……。」
「おね~ちゃん、おにいちゃん、……おめでとうだよ、きっとね!?」
「亜衣音、それなによ、本気にしちゃうからね!」
「徹さん。頑張ったんだ……、」
「こら、お兄ちゃんをからかうな!」
「俺にも……四つの生……が出来たのか!」
「うん……!」
「え”~……!!」
どうして母に、澪お姉さまに、第三子が出来たのかは分らないよ。でも良かったね! となると明子さんが可愛そうかしら。え~~い、出来ちゃえ!
「亜衣音ちゃん、先に旦那さんを連れてこないとね、いけないよ。」
「あ……明子お姉さま……さん。」
「おはよう、亜衣音。」
「……きゃ~!」
「このデコピンが~・・・。」
お~怖い、明子さんが私を呼び捨てにしたよ、怒っているよね。自宅に居るばかりの明子さんには春が来ないのかな? 澪お姉さま譲りのデコピンが私に指を剥いた
のだ。
「あ、逆むけ、手の荒れが酷いよ!!」
「う~……そうなのよ、水仕事はぜ~んぶ、私一人に押しつけられているわ!」
明子さんに春……来ればいいな。
澪お姉さまは可愛い妹にインスタントを与えて、今では二人で騒いでいる。確かに澪お姉さまのお腹には、新しい巫女の力を感じているよ。
学校の杉田創先生、独身だったよね。養子に来ても名字は変わらないから、いいかもよ! 生徒にはバレないからね。




