第121部 さっぽろ雪祭りと、私の巫女の力が無くなる日……その六
翌朝は早くに目が覚めた。それで寒い台所へ行き母の手伝いを始める。
「お母さん、おはよう。」
「あら、珍しいわね、おはよう。」
「うん、お手伝いしたい。何が出来るかな。」
「そうね、妹にお乳をあげるのを手伝って。」
「母乳……?」
「いいえ、哺乳瓶でいいのよ。沢山飲んで……直ぐに出すのよね。」
「うぎゃ~、ご飯前だよ、よく平気でいられるわね。」
「あら亜衣音だって……そうね、」
お母さんは少し気分が落ち込んだ様子。私と母の黒い歴史を思い出したに違いないのだが、私はもう覚えていないよ。でも麻美お母様から聞いた事は覚えているよ、お母さん。
「うん、いいのよ。気にしないで。忘れたわよ。」
「そうね、ありがとう。でも、私は忘れていません。」
「う~……でも、ごめんなさい。いくら小さい時とはいえ、本当にすみませんでした。」
「アハハ……冗談よ。」
当時、私が幼児だった時に、お母さんは誰? とかなんとか言っていたようだ。
「お、何だか楽しそうだな、今日は雪でも降るのか。」
「そうだよ、私に春がきたんだよね、お母さん……。」
「はいはい、どういう春なのかが疑問だけれどもね。」
「へ~仲直りしたのか?」
「大地、顔も忘れたの。」
「おいおい、俺の息子だぞ。追い出すなよ。」
「えへへ……、」
昨日は大型トラックに荷物を積ませて先に札幌へ。今日は各個人で荷物を纏めるのだよ。明日は上野から夜行列車で行くのよね、さっぽろ雪祭り。
さっぽろ雪祭りは初日から見学なんだ。スクエアダンスは二日目からの参加だよ。だって衣装が届いていないから二日目なんだ。
二十七日、上野に各自で集合よ。夜行列車は大変、一両の貸し切りではないのよ。も~最低の虫食い状態での席だったんだ。クジビキアンバランス、私はオジサンの横に決まったわ。いやジジイだわ、あらら……校長先生……?
「亜衣音、車両の中心だから一番安全だろう。」
「で、お父さんは何処よ。」
「別の車両で一番の問題児の警護だ、カムイコロさんも手伝ってもらってな。」
「へ~大地だよね。」
「まぁな、」
ジジイは早々に退散させてしまって、前後で元のクラスメイトで占拠してね、お母さんから叱られて、皆が頭にゴツンと、やられたな。
「早く寝なさい。」
「無理だよ、初めての修学旅行だもん、眠れない。」
他の乗客には席を替わってもらってね、大いに迷惑を掛けていたんだ。
1971年1月28日
*)札幌……到着……
トンネルを過ぎたら雪国だった。短いトンネルでもままある事だ。車でトンネル過ぎたら積雪、直ぐに右カーブ、それは昨年に経験した。
今年は山の紅葉が綺麗だったから積雪は無いのよ……。細君の言葉だ。今でも進行形で進んでいるが、高い山にはうっすらと……バーコードが在ったり?
大寒、、、寒かった。山が少し白かったよ。
一晩で七十cmの積雪で私は驚かないのよ。だけどね、外国育ちだった帰国子女の皆さん、こめかみがピクピクしていたよね。でも直ぐに顔は緩んでいたからいいかな。あ、列車から降りた時にピクピクだったかな。
「ま~懐かしいわ~。雪女になって帰郷するなんて、考えてもゾッとするかも。でもホント! 懐かしいわ。」
「わっ……、」
「あらあら穣さん、先に転ぶなんて
無様ですわよ。」
「お母さんこそ気をつけてよ。もしもの時は私が下敷きになるから早めに教えてよね。」
「出来ますかいな~そないな事が!」
「麻美お義母様が来ています。早く行こうよ。お父さんなんて放置よ。」
「はいはい、でも娘たちは何処かしら。」
「もう改札口です、ほら、あそこに。」
「あらら、娘を転がしています、まだ早いわよ。」
赤ん坊を抱いたから身体の重心がとれないのか、美保が滑ってやんの。でかいお尻が痛いだろうね。二人して泣き出している。可笑しい……。
「もう小百合が心配だわ。早く宿に入りたいわね。」
トラックには衣装だけでは無いの、着替えだって入れているのよ。美保はコートを濡らしたから大丈夫かな。そんな美保から小百合を取り上げる人物がいた、麻美さんだ。
「こら~バカチンが~、赤ん坊抱いて転ぶな、殺す気か!」
「す、すみません。」
赤ん坊を軽々と抱えながらも、美保さえも抱き上げてしまうほどの力持ち。お歳なのに凄いな~、感心しちゃった。
「あ~ぁ、綺麗なコートがこれでは台無しだよ。で、他のみんなは何処だい。」
「あそこにお母さんと亜衣音ちゃんが居ます。」
「あ、あれね、ありがとう。」
私が大きく手を振り、ホロお婆さまはぺこりとお辞儀をする。桜子お婆さまは当然とばかりに麻美お母様を呼びつけているのよ。これで性格が判るというものだね。美保も麻美さんに付いてきた。皆から置いてきぼりにされて寂しいのよね、み~ほ。
「美保……その靴、」
「え~せっかくだから綺麗な靴を選んだよ。えへへ、いいでしょう。」
「そうね、革靴よね、随分と早死にしたいようだね。」
「え、、、どうしてよ。」
「靴底が平たいだけだから美保、帰り着くまで何度転ぶか数えてみたい。」
「やだ……ウソよね。」
「先生が言っていた注意事項、聞いてはいなかったわね。」
「あたたた、そうだね。……ヒャッ!」
「あ、二回目……。」
「んも~早く起こして、」
「あいよ……きゃっ!」
「亜衣音ちゃん、転んだ……。」
「アハハ……。」x2
父はおいてきぼりは当然だとしてもさ、娘まで置いていく我が家族たち。もう目に入らないのかな。おいてけぼりとも言うが、現、東京都墨田区のため池がホラーの発祥らしい。う~近くかな……。
「お前ら……な~。転んで笑えるんだからいいよな~。」
「お父さんは、はは~ん、泣きたいほど痛かったんだね。」
「余計なお世話だ、三本目の尻尾をモロに痛めた。」
「下手くそなんだ転び方は。前だったら良かったのに!」
「バカ言え! 当たり前だ、東京生まれだからな。」
「江戸っ子で、序でに墨田区だったら笑える……。」
「そりゃ~失礼に当るというものだ、謝れ。」
「墨田区の皆さん、すみません。」
ピコピコと歩くお父さんが可愛そう。同じく美保の綺麗な白のコートには尻餅の跡でこれまた可愛そうなんだな。でもここ札幌では日常だからこれで、よそ者だとは直ぐに判別がつく。
「なによ亜衣音ちゃん、」
「ううん、今日は観光客で超多いからさ、直ぐにお仲間が増えるから安心していいよ。笑われないから大丈ブ、ブッ……。」
「もう笑わないでよ、笑わないで下さいませんか。」
「はいはい、右手を持ちましょうか? お姫様!」
「うん、ありがとう。」
美保は私に荷物を押しつけてくる。両手がフリーになった美保は、これまた身体をフラフラ……、両手を宙に舞わせて、まるでチークダンスを踊っているようだわ。
私は小声で、
「笑える~……。あらあら三回目。」
これならば雪の上を歩くコツを教えたがいいのかな。明日のスクエアダンスは転倒する人多過ぎでしょうね。でもね、伊達に大きい荷物を輸送している訳ではないのだよ!……秘中ありだよ、ね? お父さん。後ろでお父さんが返事した。
「あいや~……イテテ……。」
ホテルに着いて各自の点呼に居ない生徒はいない。荷物を置いて皆はグループ毎に散っていく。ただ一人、私を残して……。ダンス用の靴は今晩に着くから、皆……転ばないでね。
私は家族と仲良くお留守番なのよ。もう~外出させないという両親の方針には逆らうことさえ出来ないよ。くそ~バカ大地、ひかるの手を引いて……転べ!
「巫女魔力、転倒!!」帰ってきたら何回転んだのかを聞くんだ……武勇伝をね!
麻美お母様を中心に、いや明子さんの双子を中心に座論梅状態だな。私はね、妹の二人にお乳をあげてね、少し離れた処から皆を見ているのよ。それだけでもう十分に幸せなんだ。でも徹さんは外れているよ。
私は、そうよ、妹にお乳をあげるの。
「ほらほら、零さないで飲んでね。」
「バブ~、」x2
「う~出来ないよ、二人一緒にミルクなんてあげられない。というか、お母さん方が器用なんだ。」
母は二人を向き合わせるように抱いて、哺乳瓶を胸の前にくるようにして授乳させている。これはもう……神業よね、あの姿はマリアさまでもまね出来ないよ。そんなこんな苦労を私がしていたら、明子さんが手伝ってくれたんだ、ありがとう。
「亜衣音ちゃん、どうかしら双子の苦労が理解出来るよね。」
「うん、できる。二人を平等に育てるとか、もう神業よね。」
「うふふふ、そうね。なにも双子だけではないのよ。兄弟や姉妹にね、それこそ平等に育てないとね、私みたいな跳ねっ返りに成長するものよ。」
「へ~知らなかったな。明子さんは偉い! 私の勉強見てくれたからね。」
「そうね、長女というのも得でもあるけれどもね、次が産まれたら損する方が多いものよ。だから悪が出来るのね。」
決してそのような事はないのだが、お母さんの育て方が一番大変なんだよね。跳ねっ返りに育たないように、と。最初に私が反省すべきかしら。
「綾香と彩香はここに置いて、私たちだけでレストランへ行こうか。」
「うん、行きたい。白クマパフェ食べたいよ。」
「無理だよ、亜衣音ちゃんは知らないんだね。」
「なにがよ、どうして?」
「白クマパフェは、南国鹿児島が発祥よ。ここではせいぜい雪にあんみつを載せるのが関の山かしら。」
「そうなんだ、随分とお安いパフェなんだ。明子さんが作るとそうなるんだね。」
「随分と作って食べたわ。砂糖も掛けたりしたかな、行くわよ。」
「徹さん、二人に、いいえ四人に付いていって頂戴。」
「そうだね。家族を守らないとね。」
「お願いします。」x2
最後は私の両親の言葉だった。まだ昼過ぎだし安全だろうと思われる。私だってもう腹ぺこなんだ。定食を二人前……。
外に目をやると、行き交う人々が多いこと多いこと。ホテルのレストランで定食とは、育ちがバレてしまいそう。
「もう昔以上に人口が増えているんだね。」
「でもね、苫小牧は今も変わらないよ。」
「そうだといいね。」
「亜衣音ちゃん、そんなに食べて平気なの?」
「だって私だけが、ババだよ、今頃は皆、露店で美味しいもの食べているよね。」
「へ~やけ食いなんだ。」
「うん、最近は食べる量が増えてね、制服が着られなくなったな。」
「帰ったらお手伝いするよ、制服の手直をしようね。」
「はい……。」
暫くしたら、
「あら、雪が降ってきたわ。」
「だったら今晩の石像の力作は拝めないよ。」
「誰かがホウキで落とすだろう。そんな心配いらない。」
「そうね。どうせ私は、夜も同じく雪隠詰だもの!」
「お前、埋められるのか!」
「せめて神隠しと言う方が可愛いぞ、亜衣音ちゃん。」
小百合ちゃんがもぞもとして、私の乳房を求めていた。お腹はいっぱいのはずよね。
「はいはい、もう寝てなさいよ。ここではお乳は出せません。」
「オギャー、オギャー、」x2
「あらあら、水脈ちゃんまで起きちゃったわ。」
「亜衣音ちゃん、お部屋に戻ろうか。」
「はい、明子さん。」
と言うことでネタ探しの動画鑑賞……。う~私もさっぽろ雪祭りに行きたくなっ
てもうた。行きたい……。LEDで綺麗だろうな。




