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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第九章 私の……巫女の力が無くなる日

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第120部 私の巫女の力が無くなる日……その五


 1971年1月24日



*)その日の夢……


 私は久しぶりに独りで寝る。夢を見たんだよ、勿論、豚さんがカエルを咥えて私に迫る夢だったな。思わず飛び起きてまた寝たけれどもね。


 私は迫り来る豚に巫女の力で吹き飛ばそうとしたのよ。でもね、何も起きなかったわ。それから私は走って逃げたの。最初は走っていたけれどもね、時期に走りが四つん這いになって、それでも必死になって先に進もうとしたわよ。それでも先には進めなくなって夢から覚めたのよ。


 そう、ヤな夢だった。それもこれもお父さんが悪いの。


 階段を下りて台所に行くとお父さんが新聞を読んでいたから、無視したな。それも出来るだけ不機嫌な顔をしてね。あ、大地は居なかった。



「なんだ澪お姉さまたちは家なんだね。」

「おう、随分と寝坊だな。昨日は練習が長かったから疲れたか。」

「お父さんが悪いのよ、カエルを食べたとか話すから、私にも夢に出てきてもう、すっかり寝不足だわ。」


 父はアハハと笑って冷えたコーヒーを飲んでいる。新聞に夢中なのだから味とかは二の次なのね。


 この日のトップページには、アポロ14号の特集だったわ。


「へ~もうすぐなんだね。」

「あぁ三十一日が打ち上げだね。だが残念。俺たちには見られる時間が無い。」

「そうだね、家族も大家族で移動だものね、大変だね~。」

「何を言う、お前らと一緒に行くんだ。妹たちも可愛い女子校生に抱かれてさぞや嬉しいだろうて。」


「お父さん、クラスメイトに妹たちを任せる気なの? それ、あんまりよ。」

「器量よしだから自慢したいのさ、母さんがな。」

「ウソばっかり。でもお母さんが楽になるのならば賛成かな。」

「親父に全額出させたからな、どうだい俺も凄いだろう。」

「うん、凄いと思います。でも、ゲテモノ食いは嫌いよ!」

「あは~、許して貰えないのか、それは残念。」


 自分で薄いコーヒーを淹れて飲む私に自動的にでる朝食って、とても贅沢な事だと未だに認識していない。お母さんには感謝しないといけないのにな。いつまで経っても子供気分なのよね、大地~は居ないか。


 私の巫女の力はカエルに食べられた。もう二度と巫女の風は起こせなくなってしまったらしい。だって外に出て試してみたら、つむじ風さえも吹かないのよね。少し怖いよ。


 病院を退院してひと月になる。あのキチガイから血を抜かれてしまったのがそもそもの原因だよね。でもこの事実は誰にも話せたものではないな。あ~美保とか藍とかにも話さないで秘密がいいのかな。


「偶々かも知れないのだし、ここは一つ秘密にしておくかな。」


 隣の公園では力を余している大地の声が聞こえる。なにバカしてんだろうね。今日はホコ天にも行く気力がないな。タケノコ族と呼ばれるには後十年は必要だが、その走りとなるダンスは始まっていた。


「私、人出は苦手なんだ。それにさ、命を取りに来られたら困るもん。」

「う~サブ!」

「あ、カムちゃん、おはよう。」

「ばぁろう~、亜衣音、熱燗を頼む。ほら、これは大きかったぞ。」

「うん、いいよ、付き合おうか。」

「勉強してろ。試験は難しいぞ。」


「保温のポットに半合は入るかな、熱燗……。」

「亜衣音、ワシもおるでな。二本を頼むよ。」


 で、二本とは一升瓶が二本の事だと後々になって理解できた。勉強しろと言うカムイコロさんが私に白くて大きい大根を渡すのよね、これって料理しろ、と言っているのよ。私が得意な大根のお料理とは……これいかに。



「で、大地はどうした、今でも喧嘩中かい。」

「うん、カムちゃん。只今冷戦中だよ。隣の公園の木に登って吠えているよ。」

「ほう長くなる戦争だね。雪解けとどっちが早いかな。」

「木から落ちる方が早いよ、きっとね。でもさっぽろ雪祭りの雪が解けて通行人に当るとか、今年は事故は起きないでもらいたいな。」

「石像にも鉄筋を入れておけばいいだろうに。将来は中止とかあるだろう。」

「え~こんなに寒いのに、中止とかあり得ないわ。」

「気温が高くて雪が降らない、積もらない、あり得なくはないだろう。」

「そうね、今では人がウルフムーンまで行く時代だものね。でも、どうやってお月さままで行けるのか、疑問だわ。」


 私は只管になって火鉢で干物を焼いて番茶でお相伴している。これって他人が見たら滑稽に映るかもしれないな。


「亜衣音、たまには制服を着たらどうだい。」

「そうね、転校になったらまた着るからまだいいわよ。でもどうして? ホロお婆さま。」

「うんにゃ、気にするな、ただの気まぐれじゃて。」

「そうか、明日着ていくのもいいかな。石川くんの事を驚かせて……面白いかもしれないし、大地の注意を引けるかも!」

「そうだよ、大地はあれでも亜衣音を大事にしているはずさ。」

「そうかな、バカ大地だから今頃は公園でおにぎりを食べているかもね。」

「亜衣音、そうらしいぜ。帰る途中でとても大きなゴリラを見かけてよ、ありゃ~あの女だろう。」

「う~カムちゃんは嫌いです。もっと私を労って下さい。」

「ば~ろうが、俺らは夜警で貢献してるだろ。」

「はいはい、もう一本お父さんのお酒をチョロっと貰ってきます。」


 朝から飲んで明日の朝に起きるのだから、うんと飲んでもいいのよ。三本目も頂いてこようかな。


 カムイコロさんが夜警に回ってくれていてとても有り難いことだ。でも、事件と言えば、泥棒猫がお魚を咥えて逃げたとか、犬が隣の靴を公園に隠したとかで、あ~平和だな。


 そう言えばこの二人の酒の肴だけれども、乾物だけでいいのかな。お塩が強すぎるとかないのかな。鱈が珍味だという外国生まれのホロお婆さま、同じ家の中に吊されている……あの藁の中の食べ物にだけは毛嫌いしている。子供が嫌いな食べ物とは思うが、大人は好んで食べている。


「あたしゃ粘っこい物は嫌いだよ。」

「匂いが嫌いなんだよね。だって私はチーズの匂いは嫌いだもの。」

「バカこくな、あんないい匂いはないぞ。ワシは小さい時から作らされていて好きだったぞ。」


 チーズと納豆の相性は最悪なのだ。納豆菌がチーズを腐らせるとか?


「はいはい、冷蔵庫から切り出してきます、チーズ。」

「亜衣音、俺にもくれないか。荒鮭も欲しいな。」


 ここは母に代わって私が動くんだ。お母さん……その分ゆっくりとお父さんとくつろいでいてね。台所では妹たちへのインスタントだよ。もう大きくなったからと、母乳を粉ミルクに変えたんだって。お父さんは必死でリンゴを摺り下ろしているから、ホロお婆さまたちの大根すりすりは無しでいいかな。


 たまに口を歪めてリンゴの摺り下ろしを拒否している。あれって、そうなんだ大根の味が混じっていたんだね。主に私が綺麗に洗わないのが原因かな。可愛そうな妹たちだ。


「あの二人、ちっとも泣きはしないよ。」

「出番が無いだけだろう、気にするな。」

「ふ~ん、そうなんだ。生きているのかさえ判らないよね。」

「亜衣音ちゃん、勝手に娘を殺さないでくれないかな。ちゃんと生きています。」


 これが親子で話す会話だとは、も~あり得ない……。



*)制服が……


 やっと酔っ払いが寝てくれた。夕方には一度起きてお風呂に入って夕食なのだが、お酒は飲まないのよ。今宵は日曜だから賊も休みだという論法でね、二人とも寝るんだって、おっかしいな!


 私はお風呂を済ませてお母さんの横で制服を着てみたんだ。


「亜衣音……。」

「うん、ホロお婆さまが着てみろと言ったのよね、理由は言わなかったわ。」

「……太ったのね、」

「うわ~!! お母さん、酷いよ。」

「あら事実じゃん。私、な~んも悪い事は言っていませんよ。」

「うぐぅ~……、」


「もう寝る!」

「明日からご飯を抜くなんて言わないでね。」

「御弁当が無くなるから同じよ。」

「あらあら、そうだわ、明日からの亜衣音の御弁当はどうしようかしら。」


 ペタペタと夜のお化粧の手を休める事無く呟くお母さん。


「もう可愛くないわよ!」


 制服の下に着る服を少なくすればいい……こんな簡単なことすら気づかない、バカな私だった。あれこれと太った事が気になって眠りに落ちない、眠れないって、乙女だよね、私は……。


 翌朝、制服の下に着るセーターを着込まないで制服を着てみた。


「もう……ブラとシミズの上に制服、寒くても我慢だわ。」

「亜衣音、カーデガンが在るわよ、着るでしょう?」

「うん、お母さんくれるの?」

「いいわよ、上げるわ。」

「ありがと~……。」


 女同士の会話、心がほっかりとするのはなぜかな。大地とは別の意味で安心出来ていたのにな。


「亜衣音、寝癖を直してくれない?」

「は~い、お母様!!」

「まぁ現金だこと! この前までイヤだと言っていたのにね。」

「うん、ごめんなさい。女同士って楽しい。これからはお母さんの横で着替えをするよ。」

「あらあら、お化粧もするのかしら。」

「それもいいね。うん、楽しいかも。」


 お母さんが寝間着を脱いでブラだけになった。


「お母さん……。少しお腹が出すぎよ。」

「亜衣音、カーデガンは要らないようだね。無理言わないでよ、二人もお腹に宿したのよ。まだまだ伸びた皮は縮みません。これは亜衣音の時からよ。」

「ち、違うもん。……四人目……なの?」


「いやね、亜衣音ったら何を言うのよ……。」

「お母さん……、私、巫女の力が出ないのよ。本当かも知れないよ。」

「そうね、そのようよ。どうして子供が授かったのかな。」

「お父さんには、どうする?」

「病院で確認してからにするわ。あ~どうしよう。学校の仕事もあるよ。」

「いいのよ、もうじき転校だからさ、お母さんも解放されるし。」

「そうね、そうよね。うん、亜衣音の妹を産むわよ。」


 本当におめでただった……。私は母を守りたい一心でべったりとくっいてしまう。お料理だって手伝うと決めたよ。お風呂も二人で入り……ません。


 でも、妹たちとの入浴が増えたのは事実かな。妹……可愛いな!


 それでも普通にスクエアダンスはこなすのよね? 私は今後、また動けなくなるのかな、でも私は頑張るわ。


 それからの私は、もう春が来たような気分で穏やかになったんだよ。


「大地?……顔も忘れたわ……。」


 二十七日からの修学旅行が楽しみな、普通の高校生で居たいのよね。えぇぃ、二十七日にワープしちゃえ!


 1971年1月28日~31日がさっぽろ雪祭りだ。


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