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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第九章 私の……巫女の力が無くなる日

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第117部 二人の素性詮索……試験前のさっぽろ雪祭り旅行


 1971年1月14日



*)さっぽろ雪祭りに……決まる


 お父さんがある事ない事を並べ立てて、校長先生を説得したらしい。母には身体にぴったりのスーツを着せていたのはこのためか! カムちゃんをヒグマに変身させてはいないよね? お父さん!


 という事で新しいクラスが修学旅行へと行ける事が決まった。資金はお爺ちゃん持ちで異論はない。旅行明けからは期末試験なのだが、中間試験も無いので三学期の成績は一か八かの一本勝負だ。だが、二度目に行ける者が多数を占めるのだから少しの反対も押し切られる。


「旅行で赤点は追試があるからな。」

「杉田先生、追試……上等、頑張ります。」

「おう、頑張れや。下駄履かせてはやらないぞ!」


「追試……常套……?」と聞こえた私が異常だとは思えない。乗りのいい先生だ。顔がほころんでいるよね。



 恐らくだが、つがい作戦の一環だとは思われる。巫女たちに充てがう男の選別かはたまた、将来の婿捜しだろうか。私には思っても言えない、役立たず大地の二の舞にならないようにとの判断か? 今の大地の行動が、スカートチェイサーが異様に映るのが、未だに原因が掴めていない。


 大地は男としては体格も十分で私には似合っていると思う。でも、お爺ちゃんには不服らしい。だって、急に他の女の尻に興味を持つのだものね。親から見ても違和感があるらしい。未来で家庭の崩壊だとか古いお爺ちゃんの頭では、過去の職場の長として見てきた第六感がそう思わせるのだろう。


「未婚の母だって、成田離婚だってもう普通だよ? お爺ちゃん。」

「おい亜衣音、成田離婚とはどういう意味だ!」

「あ!・・・お爺ちゃん、未来の事だから気にしないでいいのよ。」

「お前の未来だ、大いに心配しよう。(成田……? あの千葉の……?)」


 成田空港はまだ出来ていない。だが、お爺ちゃんは計画に反対する異分子の事はもう掴んでいるよね。もうだいぶん激化した騒動になってるよ。そう言えばさ活動の資金は何処から流れていたのだろうか。支援する新左翼活動家らって誰?


 今は沖縄で暗部に潜んで活動資金をだしているのだとか、本当かな~。


「もう私の事は大地に任せたわよ。お爺ちゃんの出る幕はありません。」

「そうか、修学旅行は楽しみだよな、特にあいつらには、さ!」

「お爺ちゃん、卑怯よ。美保たちは関係ないでしょうが!」

「お前が怒った処で俺には関係……大ありか。これは問題だ。」


 決して表には出ないお爺ちゃん。でも、裏では何をしているのかが、未だに私にも理解出来ない。お父さんだって判らないと言うありさまだ。でも、私たち大家族のお金の出所だもの、生きている間は言う事を聞くわよ。



 翌朝、担任の杉田創先生が修学旅行の説明で丸々午前中が費やされた。


「いいか、お前らには強制させる事が出来た。今日の放課後からダンスの特訓 を始める。ここにはとても若~い沙霧先生がおいでだ。みな、ハッスルしようぜ!」

「先生が、ハッスルしてどうよ。」

「亜衣音……お前が言うのか。お前の母だよな。」

「へ~……色目使うんだ!」

「ばか、よせ、黙れ……。」


 スクエアダンスはアメリカ発祥だが、近年は全世界に普及している。教室の後ろには段ボールで五箱が置いてあるのが理解できた。


「先生、そこの箱ってまさかね~。」

「夕霧、ご名答。着て貰う衣装が入っている。ヒラヒラした女の子らしい衣装だ。男にはアメリカンカントリースタイルだぜ、お前ら、女にかっこいい処を見せろや。」

「ウィス!」x?


 このスクエアダンスは、瞬く間に全校生徒に伝播してしまう。イヤイヤながらに始めた生徒は好きになり、見ている他のクラスの生徒たちも、帰宅を遅らせて見学に興じている。も~こうなったら体育館での練習にハッスルするしかない。気を引きたい女の子が見学に来ていたら、もうお笑い者にされる有り様だ。


「男は所詮、バカなのよね。」

未来みく、それ言い過ぎよ。」


 四人をひと組にしたこのスクエアダンスは、段々と組分けが出来てきた。お父さんは影に隠れてビデオ撮影をお爺ちゃんから強要されている。勿論お爺ちゃんがビデオを分析して男女を決めるらしいのね。


 クラスは合計で三十七名。これに両親とカムちゃんが混じって四十名になる。丁度四で割り切れるのだが、お母さんは指導の立場だから参加は出来ない。


 異様にハッスルしている担任は員数に含まれないのはなぜ?


「校長先生……?」

「白川さん、私に何の用事かね?」

「一人足りないのです、だから参加して下さい。」


 母が校長先生を高見から底辺に引きずり下ろす。勿論笑われる方にだ。一番の年長者は動きが悪いのは当然か。黙って一人で椅子を暖めるのが仕事だものね、校長先生……?


「あ、いや、ワシは……。」

「心配無用です。ちゃんと教えて差し上げます。」


 可愛い衣装の母は私の姉並に若く見えるから、校長先生はイチコロだったな。


「あんた、ほんまに沙霧さんかね。」

「はい、娘はあそこで踊っていますわ。」

「同じ衣装では、ワシには見分けがつかん!」


 総理大臣だって、ピンクとキャンデーの違いが判らないのだ。爺ちゃんだから校長先生も同じだろう。


「むっふっふ~、ワシは違うぞ!」

「お爺ちゃん、目つきがイヤらしいわよ。ビデオで良く判るわね。」

「なに、足の大きさが目安だが、腰の振り方を今覚えている処だ。」


 お爺ちゃんの前世はきっと吸血鬼なのよね、そうに決まってる。次の物語の副に据えたものを書き上げるわ。「アセナと吸血鬼と蒼き狼。」がいいかしら!


 うん決めた。年老いた吸血鬼が私を追い求めてストーカー、若くなりたいので私の血を追い求める物語よ。


「ワシは、そこまでして若くはなりたくはないぞ。」

「はいはい、お爺ちゃんは今でも十分にお若いですよ。明日は練習を見に来るのでしょう?」

「そうだな、行くか……婆さんと踊るのもいいかもな。」


 コケにされるお爺ちゃんは、きっとコケたお爺ちゃんは見物だよ、大地。


「俺、知らない。というか、ひかるを修学旅行に行かせる説得で忙しい。」


 そうなのだ、唯一ひかるだけが行きたくないと言っているのだ。きっと体格でイヤなのだと思う。


「大地、ひかるちゃんを男装させたらどうよ、」

「あ、いい、それいい!」


 私の発言がはっちゃけた。事実になってしまう。それからというもの、ひかるも私たちの組に入って来たのだ。大地が誘うのよね、……断り切れなくて。


「あぁ~私の、つがいになってくれる男は居ないの!?」


 石川海斗……北海道の産まれらしい。この私に色目を使う唯一の男子。確かにね大地と遜色ない体格をしているのよ。親を顔を見たいわ……。グラサンだったらお断りだけれども、どうだろうね、大地。


 担任の杉田先生だが、校長先生が魔女の一撃で撃沈する事を祈っているとか、ホンマ可笑しな担任の先生だ。事実はそのように転んでしまう。校長先生は簡単な動きにも付いては行けずに、ギックリ腰で病院へ送られた。


「お母さん。校長先生は修学旅行に間に合うのかな。」

「大丈夫よ、お母さんがベッドの上で治してあげるからね。」

「なによそれ。校長先生を殺さないでよね、もう結構なお歳なのだから。それに今の言葉……どういう意味かしら。」

「はいはい、アメリカでカイロプラクティックの施術を一通りね、習ったのよ。それ位は私の一撃で直ぐに治せるわ。」


 カイロプラクティック……あの魔女の一撃でも、対沙霧の一撃で治すという。腰を左右に捻って終わりなのだが、お母さんも魔女だったとは思わなかったな、……大地。


「俺、一度治療して貰ったが、直ぐに歩けるようになったんだ。あれは凄い技だぜ!」

「いつなのよ、腰を痛めたのは。」

「お前の所為だ、忘れたよな。」

「都合の悪い事は直ぐに忘れるわよ、いいでしょう……。」

「おめでたい性格してるよ、ホント。」


 大地を苛める事が好きな私だ、思い当たることが沢山あるのよね、ゴメンね大地。


 ホロお婆さまも見学に欠かさずに来ている。目つきが鋭いのよね、誰を見ているのかな。




*)石川海斗……


 この男子、未婚の母らしい。事情が分らないが、そうらしいのだ。いや母が未婚で産んだのだ。父親は居るのか居ないのか、居る意味が違うが、現存しているのか?


 ダンスを組んでみて違和感を覚えた、そう大地のような怪力の力持ちだったの。私を軽々といなす様は大地と同じ。私は重くは無いのだけれども、踏ん張ればそうそうには動かないほど強いのよね。でもこの男子は意に介さないのよね、誰よこの男の子は。


「大地、一度喧嘩してみてよ。」


「ヤだよ、俺。負ける方だよ。」

「え”? それ、ウソだよね、大地は負けないよね? ハンサムでは負けているけどね。」

「あれは危険だぜ、巫女の誰かの男かもしれない。悪かったな醜男で!」

「巫女は居るんだね。」

「あぁ居るよ。だが俺にもまだ見つけられない。お前よりもきっと綺麗だろ。」


 大地との会話で思わず寒気を感じてしまった私だ。あの大地が負けるのだいうからね、巫女は本当に誰だろね。


 私よりも綺麗ならば一人しか思い当たらない、夕霧だけだ。


「う~大地の意地悪。私が一番きれいだと言えないのかしら。」

「お前、未来にも美保にも劣っている。特に性格がな。」

「うぎゃ~、大地、殺してやる!」

「ほら、だからブスなんだ。黙っていればそれなりに可愛いのによ、……醜女、」


「いいわ、石川くんの事、お爺ちゃんに尋ねてみる。」

「特に出身地が問題だろう。外国産とかあり得るかもよ。」

「そうよね、ハンサムだしね。私、石川くんの事、好きよ。」

「乗り換えるかよ、いいぜ、俺もひかるの方がいいからな。」

「キ~~~、バカ大地、嫌い!」

「へいへい、嫌いでけっこう、俺は構わない。」


 そんなこんなで大地と私は段々と疎遠になっていく。大地が私を嫌う理由は無いのよね、でも、ひかるに惹かれる理由が分らないわ。それに石川くんが私に接近してくる事は、そうね、巫女の力を確かめたいのよね。


 その日の夜。


「ねぇお爺ちゃん。亀万へ連れてって!!」

「おう亜衣音。珍しいな、ジジイとデートしたいのか?」

「うん、大地が疎遠にするからさ、私も大地を袖にしたいのよ。」

「もう倦怠期かい、婆さんも連れていくかい?」

「うん、お婆ちゃん……大好きだよ。」


 と、言ったら、なんと、ホロお婆さまの方が誘われていた。お婆ちゃんは私の両親の引き留め役に回されたとか。巫女には無縁のお婆ちゃんだもの、ここに居ても仕方ないか。


 ホロお婆さまは無類のキャビア好きなの。でも日本では高すぎて食べれられないからと、イクラをどんぶりで食べるのよ。お爺ちゃんはもう真っ青になっているわ。お寿司は……ウニを頼んでいるのよ。他はホタテに鮭だよ。


「なに、ワシは北海道産が好きなだけじゃ。」

「ホロお婆さま、鮭はチリのサーモンだよ。それにこの東京では北海道産なんて在りませんよ。」

「なに、、、、何も無いのかえ、……知らなんだ~。」


 ホタテが一番近海だが、それでも青森の陸奥湾産らしい。


「え~い、こうなったらマグロでええわ!」

「ホロお婆さん、それも……もう勘弁してくれ。」

「あんた、男でしょう。領収があれば経費でしょうが……。」


 さすがは元公務員。生活安全課での勤務が物を言うのだ。木之本署長による公金横領……、署員の飲み食いは横領ではないだろうか。すっかり味をしめたホロお婆さまだ。


 ウッシッシと笑う亀万の親父はご満悦だ。いつも宴会があると贔屓にされる亀万のお寿司だが、今日はケチに徹するお爺ちゃん、どうしてだろう。



「お兄さん、私にはトリガイとアワビを追加してね。赤貝も二つお願い。」

「へい、毎度!」


「亜衣音~~~、、、。」

「お爺ちゃん。どうせ税金なのでしょう?」

「それがな……もう予算を全部雪祭りに回してしもうた。今日はワシの財布からじゃ。だから二人しか誘っていないぞ。」

「あじゃぱ~……それはすまなんだ。ワシも出していいぞ、半分だがね。」


 とっくにコンベア旋回式食事台は完成していたから、そちらに行けば良かったのにな~。あれは……見ていても飽きがこないからいいのよね~。始めて見た時は笑ったな。 


今は……普通に通う。


 ホロお婆さまが会計の半分を出すとはいえ、その半分ででもね、予算超過のお爺ちゃんなのよ。愚~の音も出ないとか。


「愚かなり……。」

「亜衣音、あとはカツ丼にしてくれないか!」

「ヤよ、お兄さん。私もいくら丼頂戴。」

「へい、毎度!」


 年度末になるからもうお金が無いのね……公務員さまは!


「ホロ婆さん、あんた、旅行には連れてはいけん。」

「ほ~つほっほ。ワシわ自腹で行きますわ。」

「う……負けた。」

「ほれ、飲め、ワシの奢りでいいぞ。」

「はい、頂きます。」


 すっかりと気弱になってしまったお爺ちゃん。お酒を飲んで気を大きくしてうんと失敗してよね、まだお代わりもしたいから。ホロお婆さまの接待術は半端なく高尚の頂にあった。年の差だもの、お爺ちゃんなんて赤子と同じよね?


「で、亜衣音。石川くんの事だが、あれの出生は判らん。国外に間違いはないがの。ロシアだとも予想ができん。あんたはどうじゃ。」

「ワシからみたらあの男、人狼に間違いないのう。だが巫女は、ワシにも見当がついておらぬ。亜衣音、どうじゃ。」

「うん、大地が言うには、夕霧だとさ。顔が綺麗だからと言うのよ。」

「ハーフだよ、あれはね。ロシア産には間違いなかろうが、誰の子供か予想もつかぬ。婆さんどうだい。」

「あの娘さんは……判らん。一度叩いてみるかのう、亜衣音。」

「いやよ、叩いて殺されたくはないわ。私にとっても怖いくらいなのよね。」


「ほほう、亜衣音も怖がるとは、強者かね~。」

「うん、ホロお婆さま。」


 ロシアや北欧には元巫女が大勢いる、居たというのが本当だ。でも、桜子お婆さまらによって、巫女の力は消滅したはずなのよ。何処で復活したのかな。私と同じ、イレギュラーなのかな。

 

 石川海斗……判らない。岩野夕霧……巫女かも知れない。これが今宵の答えだった。お爺ちゃん、私は食べ過ぎて頭が回らないのよね、ごめんなさい。


「決めた。亜衣音、お前の組に入れろ。」

「ひゃ~!」


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