第114部 私が変になっちゃう……
1971年1月7日
*)大地の災難……
校長先生の挨拶と転校生の紹介が済んで、もう教室へ行く頃だと思っていたらあの男性教諭の杉田創先生が校長に寄ってきて耳打ちをしている。その声を聞いた校長先生は、思いっきりハットした表情になった。そして杉田先生に指示をだしている様子。講堂の正反対で並んでいる来賓の列、ここからだと顔の表情もはっきりとは見てとれないが、何かのアクシデントだろうか。アナウンスが入る。
「ここで新しい転校生の紹介となりました。本来は明日からの予定でしたが、再度紹介の場をつくらせて頂きます。校長……。」
「あぁ、今……。」
新しい転校生とは、誰だろう。私も大いに気になる処だ。父でさえ怪訝な顔をつくっている。
「お父さん、大地だけなの?」
「いいや、大地は明日の予定にしているが、ま~今日連れてきたから、今日に変更になったかな。」
教職員の背後の入り口に数名の人影が見えた。大地も居るし、あ~……あの藍ちゃんも居るよね、未来に一年E組の山口智子と岡田眞澄らしき姿も確認出来たが、まだ居る様子。
「お父さん、巫女たちの全部を転校させたのですか?」
「いいや、俺は知らない。さっきの四人と大地だけのはずだがな、誰が入れたのか考えも及ばない。」
「お爺ちゃん?」
「いいや、あの顔を見れば判るだろう、違うようだ。」
「もう、最初から問題が起きたのかな、確かに困った顔のようだね。」
「……。」
大地と智子、真澄の他にも三人の名前が呼ばれたのだ。ま~帰国子女を受け入れるのだから、一度に沢山の転校生があっても不思議ではないのだが、一度に十人とは多過ぎだろうか、いやいや本当になんでか、どうも多過ぎらしい。
才賀ひかる……三浦珠子……岩野夕霧……と、女の子らしい? 三人のがいた。
才賀ひかる……、大柄な女の子。色黒で体格が女らしくない。
三浦珠子……、長身でいて体格が素晴らしい……。巨漢、いや巨女だ。
岩野夕霧……、色白で細面、何処か北欧の血が混じったような風貌で綺麗な女の子だ。
「他は馬術部の面々だから紹介は無しよね!」
一応の紹介が終わり私たち新入生は特別室へと案内された。校長先生も来る気らしい。杉田先生の後をついて歩く姿はなんとも形容しがたい程に、うなだれている。これはどうしてだろうね、大地。小声で大地に問うても答えは返らない、解るはずも無いのだから。
緊張のあまりか、私とお母さんの入れ替わりに気づいた者はいないようだ。それだけお母さんの演技が上手いのだろうか、そこを疑問にも感じるが、父に至っては喜んでいる表情がありありと……? そこは趣味の問題なのかもね?
先頭を歩く杉田創先生とは、何者だろうね。急に姿を消した時は交通事故であの世に逝った? という学校の秘密まで出来ていた。もしかして偽名?? その先生が立ち止まる、教室に着いたようだ。
「ご父兄の皆様は教室の後方でご自由にお座り下さい。」
「皆さまは、こちらへ!」
校長先生が私たちを席に案内してくれるのだが、これは意地悪な席順だな。生徒の直ぐ後ろが父兄に席だという。ニンマリと笑う創先生……これからの予定を説明してくれているが、いきなり英語の試験用紙を配りだした。動きながら説明するあたり、生徒の観察をも兼ねているのか。
「あら先生、私にも試験を受けろと言われるのですか?」
「はい、特に白川亜衣音さんのお母様だけですがね、何しろ英語の科目を担ってもらいたものでして。あ、因みに私の専門は数学なのですよ。英語はさっぱりですので、よろしくお願いします。」
そう言えば母も何かしらの仕事に就くことが決まっていたんだっけ、失敗したかな、この入れ替わりは……。
「よろしければご父兄の皆様にも、試験を受けられてもいいのですが?」
そう言いながら創先生は勝手に試験用紙を置いていく。お父さんなんて英語は出来ないよね、お爺ちゃんもね。
家族や級友の親の事はひとまずおいておく。問題は三人の家族の方だ。私の観察眼では経験が足りていないよね、目の奥に潜む陰謀……解らない。私は自分? に声をかけた。
「亜衣音、しっかりと名前を書いておくのですよ。いつも忘れているでしょうが。」
「はい、お母様、最後に確認致します。」
良かった、意味が通じたようだ。テストの時間中は問題に集中……、そして答案用紙を提出前になって、それぞれの名前を書くのだ。誰にも悟られないようにね、だから私は「白川沙霧」と書き、母は「白川亜衣音」と書けばいいのだよ、沙霧さんはちゃんと出来るかな。出してしまえば分からないよ。
問題は……簡単ね! これ位直ぐに済むわ。中学の内容だね。しかしだ、二問目、三問目と問題が下に移るほど難しくなっていく。四問目からはもう解答出来ない。難しい……いや、私の勉強不足なだけだろうか。
二十分を経過したときに創先生が声を掛けてくれた。
「どうだ、素晴らしい問題だろう。必死になって俺が作ったからな、頑張ってくれよ。新入生諸君!」
そんな……私の前で言われなくてもいいのに、大地は答案用紙を半分に折って、裏に何やら書き込んでいる。恐らくは不安なスペルを書いて確認しているのだろうか、頑張って……大地。
「もういいわ、このさい……私流で解答してやるんだからね。でもでも、お母さんの解答内容がとても心配だわ……。」
でも……この英語の試験は、個人で内容が違っていたのだ。そんな事はつゆ知らず、全部同じ内容だと思って疑わない高校の課程が悪いのよね。だって、共通の試験だよね。
この杉田創先生は一癖二癖もあるのだから参ってしまう。
私が思うところ、成績に合わせて個人でも試験内容が違っていてもいいのだと考えているんだ。だって私に難しい問題では大地にも難しい……。でもでも大地の試験に私が解答したら、二十分で終わるはずよ。
高校の試験はですね、先生が問題を解答する時間を二十分程度で……というのが基本なんだよ、知った?? 授業時間は五十分でいいのかな、その半分以下で解答出来る内容で問題を作るのよね。問題を読んで解答を書いていく、この時間が二十分なんだ。
「何の事はないわよ、私は十五分でお終いよ!」
私の苦悶する様子を見てニタニタと、まぁ~イヤらしい……。採点で思い知らせてやるんだからね。この時点で私の解答内容が二転三転していく。
「なによこの問題、英訳しろとはバカにしてるの! ロシア語で模範解答を書いておくから先生、苦悶、悶えて死になさい!!」
で、最後の問題が、「Daphne odora」を訳しなさい……。出来るわけないでしょうが、なによ、ダフネ……、女神さま……? 私をバカにしてるの??
「そうね、eternal、とでも書いておくわ! 今年は暖かい冬だから、もう蕾も見られそうね。それとも食わず嫌いが良かったかな?」(Alocasia odora)
とうとう杉田先生の罠に嵌まってしまった私、クワズイモ……おろかしあ……? 愚かしい……私……? へん、いいわよ、イモ姉ちゃんでこの高校をシメテやるんだからね!
私はこの高校を卒業するまで、母のなが~~い制服のスカートを着て登校することに決めました……もうスケバン!!……よ。
グラサンをしている年配のオジサマたち、何処かで見たような気がする。この問題はすぐさまカムイコロさんが解決してくれた。一応のカリキュラムが終わって下校時間になり、裏門に呼び出された私たちの代表としてカムイコロさんは黒服のグラサンさんを伸してしまった。私のボデーガードですものこれ位は当然よね。
私はカムイコロさんが守ってくれたので、事なきを得たが、お母さんの方が心配だ。転入生は別行動だったから帰宅時間が私たちよりも遅かったのだ。母を見つけた瞬間……湯沸かし器みたいに私の怒りが鶏冠になって生えてきた。
「お……お母さん!」
「あら、亜衣音、大丈夫よ。でもね、ごめんなさいね、身を包む制服を半分にしちゃったわ。もうボロボロね。」
「でも、お母さん……、誰に襲われたのよ。私は黒服だったけれども……。」
「同じよ。お母さん、久しぶりにハッスルしちゃったな!」
「見れば判るような……、あ、で、皆は大丈夫だった?」
「嬉しいのよね、……美男子が寄ってきてね、私にだけ声を掛けてくれたの。それでホイホイと体育館裏に付いていったら……三人もいたわ。」
「沙霧……思いっきり青春しているんだな、羨ましいヨ・・・!」
「お母さん……お化粧も崩れてはいないし、相手は小学生だったとか?」
「違うわよ、大きな男の子だったわ!?」
複雑な気持ちの父と娘。この入れ替わりは母の気まぐれだったが、その母娘の交換がなかったら今頃は私、病院送りになっていたかも。明日には死亡診断書が書かれていたとか、、、
「亜衣音、貴女にはダサいかもしれないわ、私のセーラー服をあげるね?」
「うん、欲しい、それで、いいえ、それがいい!」
少しスカートの裾が綻びた……真っ黒なセーラー服。可愛い!! 一目で気に入り、すぐさま着替えて大地の前に行くと、
「お義母さん、綺麗です!!」
「ばこ、ボコ~ン!」
「大地……最低よ!」
「え?……お前、亜衣音か!」
「バコ~ン!」x?
「ごめん!……お前、今日は変だぞ……。」
「ぼこ~ん!」
私、今日の出来事の腹いせに大地をボコボコにしてやったわ……よ。




