第106部 美保の……両親の急襲……
1971年1月3日
*)喜劇だわ……
「ケッケッケ~、」
「イテッ!」
「ば~か、人の不幸で笑うな。失礼だろうが。」
「う~、ごめんなさい。」
「美保に言え!」
「はい。」
「お父さん!……、」
美保の特大の声が聞こえてきた。それが最後の一言だったのでとても気になる。それから小一時間の時が過ぎた。お母さんどころか美保も、ご両親もお座敷には姿を見せなかったのだ。こうなるととても気になるのが、私、いや欽ちゃんも含めての二人だ。途中でお父さんから大地に声が届く。
「大地、行くから付き合え!」
「はい、喜んで~、」
「バカ、大地、喜ばずに真面目にしてよね。」
「お義父さん、どちらへ?」
「亀万だ、もうお寿司も出来ているだろうさ。」
「うわ~お父さん、もしかして?」
「そうだ、無駄でも準備はしておこうか。」
お父さんへは明子お姉さまを通してお母さんから情報が届いているのだ。そう今は……美保は……綺麗な着物を着せられている途中だ。もう着付けも終わってお化粧を念入りに行われているだろうか、澪お姉さまからかな、お母様かな! もうワクワクが止まらない。
「良かったね?……美保。」
何が何だか分からないのが麻美さんのご両親か。いや麻美さんのお義父さんは経験者? だよね、養子とは言え麻美さんを娘に迎えたからね? ここは麻美さんやお婆ちゃんが気を回しているのかな。
「暇だからお布団を入れよう~かな。」
「俺も手伝うよ、ボス。」
「そのボスと呼ぶのは止めてくれないかな、」
「はい、姐さん。」
「うぎゅ~!」
と諦めてお布団を各自の部屋に運んでいたら、美保のすすり泣く声が聞こえた。これだけでは判らないのだが、両親の部屋には入れて貰えない。澪お姉さまから入室禁止を頂いた。でもね、澪お姉さまが……可愛い笑顔でいるのよね!?
「それってお姉さま……。」
「ハイハイ、後のお楽しみよ……。」
うわ~、美保、花嫁衣装かな! きっとそうだ、両親の部屋と化粧部屋は間続きなのだから、「もしかして、襖が解放されているの???」
一度私の部屋に両親の布団も納めて階下へ降りようとしたら、階段下には白い着物の裾が見えた気がした。
「やった~、美保、おめでとう……だよね。」
「うわ~綺麗……。」
「きゃ~、美保ちゃん……。」
そう言う言葉が次々に私の耳に届くなり、私は一階へワープした。瞬間移動? とも言うらしい。
「イタタ……。」
私は痛い思いをしているが、誰も私を助けようとはしてくれなかった。ようやく帰宅してきた大地に拾われた始末。
「ここ痛いか、ならこのワサビが捻挫には効くぜ!」
「嘘よね?」
そんな馬鹿な……でも、右足の捻挫は本当だ、痛いな~。そうして二階の自室に押し込めて大地だけがお座敷に行くという、念のいった私への嫌がらせ、
「年始から、随分な仕打ちだよね。」
「怪我人は寝ておけ!」
激痛となった今、大地は氷嚢を用意してくれていた。だけれども、これでは動けないだろうと大地は、秘薬で臨時のシップ薬を作ってくれるという。
「待ってろ直ぐに用意するが、亜衣音はこの白い紙を切っていろ。」
「いいわよ、でも早くして。痺れて金切り声しかあげられないよ。」
「紙切り声に、しておけ。」
「ほぇ~~!!……大地の100点の答案用紙だ!」
大地は台所へ下りていき、私は大地の100点の答案を五cmの大きさに切っていく。大体が二十枚くらいが必要らしいので、次は私の10点の答案用紙を切っておいた。
「早かったろう。」
「うん、待ちくたびれた。」
「ウソでも嬉しいよ、……これがシップ薬が無いときには臨時で捻挫には良く効くんだ。」
「ワサビが……?」
「違う、入れていないだろうが。」
大地は大きめの平皿に透明の液体を入れて来ている。横には確かに緑の物体も在るのだ。私に、「巫女だから我慢出来るな!」と言うので、「うん、今ではお姉ちゃんなんだから我慢する。」と答える。
大地は私に寝ていろ、と言いながらも手早く、五cmの紙をその謎の液体に浸けて箸で取り上げて、私の患部に貼り付けていく。
「いや~、ぎゃ~、……冷た~い!!!」
冷水でも無いのにとても冷たく感じている。痛みを通り越して氷を当てられている感じなのだ。
「こうやって患部に、足首の全体にだな、均等に貼り付けるのさ。どうだ、効くだろう……!」
「う~~~ん、捻挫の痛みが三倍になったようだよ、これでいいの?」
「それでいいんだ、いや、それがいいんだよ。どうだ、冷たいだろう。普通の温度だぜ? あ、でも今は冷蔵庫の温度かな。」
「冷蔵……?」
「あぁ、種明かしは……卵の卵白さ!」
「ウソ……。これが妙薬なの、秘薬なの?」
「あぁ、俺が受けた治療なんだぜ、これが効くんだ。ハイキングで捻挫したら臨時のシップ薬になる。」
私がベッドで痛みに耐えかねて居るとき、大地の意地悪な計画が進んでいた。私は美保に言われて初めて気がつくのだが、
「ほら、完成さ。これでビニールで被いをして完成だ。」
「う~ん、効く~~!!」
「美保、綺麗だぜ!」
「大地の、バカ!」
寸足らずの大地の口、美保が着物をきていて綺麗だと言いたいと思うが、私は焼き餅しか口に出せない。
この後は勿論、私は大地からお姫様だっこされて美保の前に落とされた。
「美保、連れてきた、ほらよ……。」
「ドテ!」「イテ!」「み~ほ~~~とても綺麗……。」
「亜衣音、この場に居たいのならば、酒を飲め。痛いのは明日に送る事が出来る。」
「そうするよ、大地。」
大地の一言で酒を飲んだ私は、翌日からの激痛で動けないのだ。でも朝の六時には庭に出してくれた大地。またしても激痛で倒れた私……、そこはまた今度。
美保が上座に据えられて何も食べる事、能わず……。空腹で轟沈。盛大な腹の虫を披露していた、披露宴だけに……。欽ちゃんはお父さんの羽織袴で縮こまっているのがとても可笑しい。……これでも族の頭だもんね。
「わ~い、わ~い、またしても宴会だ~い。」
酒の肴にされた新郎新婦。主に新郎には美保のお父さんから痛い程の質問が飛んできている。それが、みな同じなのだ。欽ちゃんは真面に答えないから。あ~面白い……。
「欽次郎、どうやって娘を落とした……。」
「いや、お嬢さんからの申し出ですので、今までとは違うような……。」
「そんなはずなかろう。美保は許嫁すら断っていたぞ。」
「いや~気の迷いでしょうか。」
滔々……。今宵ももう真夜中。座敷で雑魚寝だね!
めでたいかな、美保と欽次郎さんの仮祝言がここに無事に終わった。
*)自分座流星群……と六芒星……
朝の六時前、大地に抱かれて庭に下りる。こんな朝早くに起きる人は居ないと思っていたら、六つ子たちが協力してくれた。
私は捻挫の激痛で殆ど眠れていない。寝返りも出来ないし、もう痛いやら涙も流れるやら、……そうです、私の日頃の行いが悪いのです。年明けからは真面目に仕事しますから……。
あ、そうです、六つ子の協力とは?
「亜衣音ちゃん、この娘たち、どうにかなりませんか?」
「それはお姉さまが昨夜の宴会で、妹たちを放置したからです。もう、とても
お腹を空かして泣いているのです。」
「あ……そうでした、ミルクもお酒も飲ませていません。」
「庭に出てお星様を見せれば泣き止みます。」
とても恐ろしい母親が、最低でも三人。それに父親も入れていいのだよね。苫小牧の兄と姉も起きてきたくれた。昨夜の私のスピーチが良かったのだろうか。私たちも見たいと言ってくれたのは嬉しかった。
庭に用意した椅子には、夜警のカムイコロさんが既に座っていて、私は妹たちへ譲るように頼んだ。
私は中央の椅子に座り、周りの六つの椅子には誰かが妹を抱いて座る。そうすると、あら不思議、誰もが泣き止んだ。
「ほら、私が言った通りでしょう?」
そんなこんなで、家族が、主に女ばかりが揃った。ほの暗い空に幾筋もの流星が流れていく。そこは十一人の巫女たちだった。中央に座る私は捻挫が瞬時に? 治っていた。どうして?
黒川 泉美 黒川 水琴 白川 小百合 白川 水脈 杉田 綾香 杉田 彩香 カムイコロ 白川亜衣音 杉田桜子 白川 沙霧 黒川 澪霧
明けの夜空に幾筋もの流れる流星群……。それが足下にも幾筋もの光が走りだし地面さえも光り出した…。
「え”……これはなに?」
「亜衣音、これって、もしや、」
「桜子、これはポル=バジンの再来だぜ、」
「クマ……、」
「あぁ、どうも無事のようだが、どうしたんだかな。」
「クマ、違うわよ、亜衣音が……、」
「うわっ、宙に浮いている。」
この騒ぎで麻美さんが突進してきた。ホロお婆さまも起きてきた。
「なんなのよ~、」
「麻美~、ポル=バジンの再来だぜ、ここに入るな!」
「えぇ、カムイコロさん。」
「桜子、呪文が言えるか!」
「宝石の順序なんて無いわよ、呪文は、『青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女 (せいりゅう・びゃっこ・すざく・げんぶ・こうちん・ていたい・ぶんおう・さんたい・ぎょくにょ)』 だったわよ。」
この瞬間に六つ子の胸から一本の光が夜空に駆け上がる。何かの姿に見えたが認識は出来ない。次ぎの瞬間には、夜空で交差した六本の光が交わり、その光が私の胸へと直撃した。私は、痛い……とてもではないのだが胸が痛かった。
この時、地面の魔方陣は最大に光っていた。同時に私の身体にの縦横に光の線が無数に走り出す。巫女の魔力が植付けられた瞬間でもあった。光の線が私の内に入り込むようにして消えて行く。
「ぎゃ~、痛い、痛い、お母さん、痛い~~~!!!」
「あ~亜衣音、どうしたの?」
「おい亜衣音、どうした!」
「ぎゃ~~~~~!!!! 大地~~~助けて~~~!!!」
そうして私の意識が飛んでしまう。未だに私は宙に浮いたまま。この様子は麻美お母様とホロお婆さまが見た光景と同じに見えたという。
「亜衣音、今降ろして……、」
「大地くん今はやめて。お前さんには苦しいと思うのだけれども、巫女の儀式だとしたら手出しをしない方がいいわ。」
「麻美さんは……判るのでしょうか?」
「いいえ、桜に聞いた事から判断しているのよ。ここに男が入るのは、兎に角まずいと思うわ。」
カムイコロさんが大地に向かい、
「大地、手出しはするな。直ぐに終わるはずさ。」
「だけどもよ、亜衣音がよ、」
「何よこれ、大地、なんの騒ぎなのよ。」
美保だ、大きな声に目が覚めて薄着のパジャマ姿だった。この魔方陣とも見える三角形を二つ重ねたような図形……。この後に、翠、碧、藍、未来が呼び出されて可愛い姿で現れた。と、同時に大地の横にいた美保は消えて瞬時に魔方陣の中に現れた。
「なんだい、どういう意味だ!」
呼び出された女の子の六人……いや七人になった。続いて真澄が智子が召喚されて出てきた。
召喚された七人は苦しみ悶えているのだが、誰もが見ているだけだ。眺める方をここのみんなが選んだのだ。
やがて六つ子からの光は消えて、私はゆっくりと地上に降りてきた。訳の判らない七人も私を見上げては、恐ろしい光景を見ているように怯えている。それから桜子お婆さまが椅子に座りながらも横に倒れてしまった。
「桜……おい、どうした。」
「お母様、今、ダイヤの巫女の力を返して頂きました。お母様、もうこれからは人として生きて行くのですよ。」
「はい、巫女さま。」
無意識に答える桜子お婆さまだった。カムイコロさんが尋ねた、
「え”……亜衣音、お前は始祖なのか!」
「カムイコロ、お前も人に戻りなさい。今まで苦労を掛けました。それから、沙霧、澪霧、もう貴女たちの仕事は終わりました。後はそこの七人が巫女として私の下に仕えます。」
「え”・・・、」x7
「私たちが巫女なのですね?」x7
「はい、もう貴女たちの頭の中には巫女の定めと、今後の役割が啓示されていますから判るはずです。」
「はい、始祖……いいえ、亜衣音さま。」x7
よたよたとして起き上がる新しい七人の巫女たち。私はそのまま意識が抜けたようにして、今では地面に横たわっている。
翠だけが立ち上がらずに、囚人服を腹から捲りあげて紅白の包帯を解いてから、シゲシゲと胸を見ているのだが、他の若い男もそうだった。
「翠、傷が無くなっているの?」
「碧、私の撃たれて半分になっていたお乳が元に戻っているのよ。」
「わ~良かった~~!」x2
こんな奇跡も起こせるのかと眺めて、うっかりとしていた私のお母さんは、私を見て大地に声をかけた。
「大地……、起こしてあげなさい。」
「はい、お義母さん。」
大地は七人の間をぬって私の元に行った。私を抱き上げたその様子が老人のようにヨタヨタとしていた。
「う~、重い。これが亜衣音だと言うのか!」
次にまた魔方陣が光りだして今度は欽次郎さんが召喚された。一瞬の光に幻惑した大地が尻餅をついた。そして私は欽次郎の上にも横になってのし掛かっていたのだ。それから二人が光に纏われて意識を無くしてしまう。
私と大地、欽次郎さんはお座敷に運ばれたのだが、三人とも両手を引っ張られてようやく運ばれた程に重かった。
「う~、こんなのあり得ないわ。桜……。」
「麻美、そうだね。私たちのポル=バジンの儀式って意味が無かったのかしら。」
「そうとも言えないのが巫女の運命なのよ。そうね、今は普通に戻れた私たちですもの。きっとポーランドやロシアの巫女たちも普通の人に戻ったのじゃないかしら?」
「そうね、きっとそうだよ。」
巫女からは二人の娘しか産まれない呪いを無視して産まれた三人の娘、その私が先祖返りした、生まれ変わりのようなのだ。
こうした事から六人の妹が産まれたのは必然なのだ。六芒星の魔方陣はこの幼い六人の赤ん坊が起こしてくれた奇跡なのだ。遠いシベリアの地の蒼き狼の力が、霊脈となりて夜空で繋がり、流星となって私に降り注いだものだ。
遠いシベリアの地で起きた奇跡、蒼き狼の力が霊脈を通って東京へ流れてきた。六芒星となって私に降り注ぐ奇跡だよね。




