第105部 しぶんぎ座流星群……
2022年1月4日06時は、しぶんぎ座流星群のピーク時刻の見頃ポイントだ。
1971年1月3日
明日は、しぶんぎ座流星群の見頃だとテレビで言っていた。色々とあって流れ星を見る事を忘れていたんだな、だってこのバカ大地は星には興味が無いんだもの。昨日のニュースで聞いていたので待ち遠しいったらありゃしない。
「俺の所為だと言っているのか。」
「う~んと厚着して観るんだ!」
「俺が悪いのか!」
「ちゃんちゃんこの下にも、お母さんの手編みのセーター着るんだ!」
ここには大地が居ないのだから、さっきは幻聴に違いない。
と言う私には、外野からの甘い囁きは届かない。決まって、バカだのアホだのと罵るような言葉しか聞こえてはこない。悲しい、私の運命と同じだね?
十二月三十日から続いている我が家の宴会も、三日に苫小牧の兄弟が到着するので、さらなる宴会が始まる。あの懐かしい幸樹お兄ちゃんと未来お姉ちゃん、もうすっかり大人、という貫禄がある、美しい女性という雰囲気が漂う、のかな?
ではどうして兄妹の二人が遅れて到着したのか、どうして麻美さんと明さんと一緒にこの東京へ来なかったのか……。それはお父さんと大地が説明してくれた。
私は本当に兄弟に会えるというのがとても楽しみだったので、心ここに在らず状態だった。もちろん天体観測も楽しみなのだが、昼過ぎの十五時位には家に着く予定らしい。
「亜衣音ちゃん、今し方穣さんと大地くんが迎えに出たところでしょうが。」
「だぁ~って麻美お母様……、待てないもん。」
「大地くんの代わりに行けば良かったでしょうが。」
「いいえ、それは出来ません。天体観測を家族全員で行いたいのです。お庭にこうやって椅子を丸く置いて……並べてね。」
滔々と語る私に対して、相手は二日酔いのベテラン麻美さんだから、同じ事を何度も語る必要がある。うっかりよそ見していたら、小春日和の日の光で寝ている有り様なのだから。
お爺ちゃんは私には付き合ってくれないし、お婆ちゃんはニコニコとして庭で跳んで跳ねる私を見て喜んでいる。
お父さんは一人っ子だと聞いているから、女の子を産めなくて残念だった祖母は、今がその我が娘とか思っているに違いない。近所でも子供好きだという評判なのだから、きっと第二子が出来なかったものかと推測している。
「お婆ちゃんはさ、銭湯の料金がただだって聞いたけれども本当なの?」
「あぁ、そうさね。穣を銭湯へ連れていけばな、次から次へと赤ん坊がさ、自分の胸に現れるのさ。」
「へ~、近所の人はお婆ちゃんに赤ん坊の洗濯を頼んでいたんだね。」
「そうだね、いつも母親とかは赤ん坊の二人や三人が普通だったからさ。いつもその一人を面倒見ていたさ。」
「へ~、お爺ちゃんを放って銭湯で一晩過ごしたとか。あ、だったらお父さんはどうしていたのかな。」
「そりゃ~亜衣音、お爺ちゃんが面倒みていたさ。」
「必然的だったんだね。」
「だからさ、今でもあの親子は仲がいいだろう?」
「そうだね、いつも二人でお酒飲んでるし。」
「そうだろう、そうだろう……、」
取り留めの無い老婆と孫の会話であるが、微笑ましく見てるのがお母さん。対してお母さんが睨んでいる先には、「トドのお昼寝!」が横たわっている。その横が、麻美さんの、こぢんまりとした寝姿のアザラシか!
「お母さん、カムイコロさんはいつも夜家業だからね。」
「はいはい、大変助かっております。」
カムイコロさんは毎晩、熊に変身して夜警を担って頂いている。ありがたや~。
「おやおや亜衣音ちゃん、そこの椅子はどうするのだい。」
「この椅子はね、妹たちの保護者が座るものなのよ。こうやって丸く配置してそしてね、真ん中が私の特等席なんだ。」
こんな私を見つめる家政婦が見た……光景は、やはり理解されてはいないらしい。
「美保……。」
「はい、お姉さま。」
「いつもありがとうね。今日のお布団はお日様の匂いがするから楽しみ。」
ま~欣二郎と美保。内孫や外孫にも該当しない続柄だ。家庭においては私の下になるのは当然か。おっと、ホロお婆さまと一度籍を入れたので、子供という続柄を通り越して孫になってしまった。そうやって美保を騙しているのだが、バレるのも時間の問題かもしれない。ホロお婆さまのお婿様だったら、欣二郎さんは一気にお爺ちゃん扱いなのか……? そんな杉田家に嫁入りした美保は、お婆
ちゃんなの~~??
「この外面嫁御……。」
「なにかしら? 役立たずのお姉さま!」
「貴女たち、なに言ってるのよ。仲のいいお友達でしょう? 今は何と言えば良いのか分からないけれどもね。」
「はい、お母様!」x2
「そう、良かったわ。」
「ただ、口が悪いだけです、お母様。」x2
「……ギャビ!」
お母さんはなんとも言えずに退散していく。口では母も娘には敵わないらしい。
私は置いた椅子に順番に座って空を仰ぐ。雲もない晴天だ。これならば明日朝は最高の天体観測を家族全員で鑑賞できるものだ。
玄関先に二台の車が止まった。一台多いが苫小牧の兄弟が着いたに違いない。
「あら~お爺ちゃん、お婆ちゃんまで~……。」
瀬戸の老夫婦を出迎えた母の大きな声が聞こえた。こうなると一家総出である。
2022年1月4日06時は、ピーク時刻の見頃ポイントだ。名前がいいよいね、しぶんぎ座流星群だよ、自分・ザ・流星群だよね……? いぶしぎん、と言ったのは誰かな~?
苫小牧の兄弟だけではなくて、瀬戸の両親も一緒になって来てしまった。こうなると挨拶の後はお屠蘇でしょう? ならば続くは……宴会だよね~。
「大地、紹介しなくてはいけないね。」
「明子お姉さんの結婚式で会っただろうが、」
「あ、私たちの結婚式だね。」
「え~いいな。私たちはどうなるのよ。」
「美保……仮祝言だけだよね。お役所もお休みだし、まだ未婚だよね~、」
「言ったな~亜衣音ちゃん、こうしてやる。こちょこちょこ~……。」
美保にくすぐられて笑い転げる私に冷たい視線を送る大地。
「大地……、いや、いや、そこは弱いのよ、……助けて!」
「いいのかよ俺も混じってよ、」
「いいわよ、美保をどかして~~、」
「だ~いち、だ~い好き!」
「うぎゃ、それ、私の言葉だよ!」
大地が美保を掴んだ瞬間がこれだ。大地はすぐさま美保の餌食となってしまう。こうなると美保は強い。今度は私が美保を大地から引き剥がすのだが、如何せん未だに力は弱い。何度やっても、何度試しても美保は離れない。終いには……。
「美保~、お願い、大地を返して~!」
と、とうとう私は泣き出してしまう。さっきの大地の冷たい視線は美保に向けられたもので、私にではなかったのだ。
「欽次郎~~~!! ヘルプ・ミー!!」
「へ~い、ボス。どうしました……おい、こら美保、離れろ!」
「いや~ん、欽ちゃんのH!」
「うぐっ……。」
欽次郎は美保の一言で顔が紅くなり、もう手が出せない状態になった。この男が族の頭だとは思えない程の女に対しては、ものすご~くウブなのだ。
私は泣きながらに美保を叩いているが、こやつ……本当に人狼になったのか、力がとても強くなっていやがる。本当に大地は美保から抜け出されなくなって
いた。
「欽次郎~!!!!!」
私は大声で欽次郎の名をよんだ。直ぐに気を取り直した欽ちゃんは、私に耳打ちしてくれた。
「姐さん、美保の弱点は……ですよ。」
「OKよ、良いわよ、直ぐに下ろしてあげる。」
「ぎゃ~、いや~、止めて~亜衣音ちゃ~ん、私が悪かったわ。ゴメン!!」
「ホント、効果てきめんだわね、美保の下半身……ピンクだよ、ピンク!」
「ウグ~……亜衣音、嫌い。」
美保はスカートをめくられてピンクを死守していた。とある部分を必死になって隠していた。私はカムちゃんか聞いたお風呂の件を思い出したら私も紅くなる。
「あ、美保は遅れていただけだよ?」
「いや~ん、亜衣音ちゃん……私、私は人狼なのよ~・・・。」
今度は美保が泣き出してしまう。もうやれやれだ。ここは縁側だよね……と?? いう事はぜ~んぶ、見られていたのね。
もうニコニコ顔の瀬戸の親父さんは、麻美さんの義理のお父さんだ。お母さんやお父さんもためらうこと無く笑っている。
「わたし、お嫁にいけないよ~!」
「少しHでごめんなさい。」
そうこうしている内に、一台のタクシーが表に止まった様子。うわ~これってもしかしたら、美保の両親!? あの豪快な一言が聞こえてきたのよ。
「釣りはいらん、とっておけ!」
「お母さん、美保の両親だよ。」
「え~……そうね、未だに挨拶にも行ってなかったし、娘さんを拉致したままだわ。」
「お、お母さん。随分と物騒ですわ。」
「……。私、拉致されていたんだ、知らなかったな。」
美保のお父さんは、声が大きいのよね~。美保はか~っと顔を紅潮させていてオロオロとしてきて、この前は電話で両親をやり込めていたと、聞いたよ? 美保。
「あれはお母様だけだったわよ、お父さんは酔って寝ていたし……。」
蚊のように消え入る声で美保はつぶやく。
「美保、きっと結婚式の日取りだよ。」
こういう私に美保は顔を上げて可愛い顔に、パット切り替わるが、そんな保証はない。必ず大声で怒鳴られ、叱られて泣くのよね? 美保は、ざま~見ろ!
こうなると予想されてかお母さんは、緊張した面持ちで玄関に出て行く。お父さんでは役不足。「漢には女がよく似合う。」だよ? お父さん! 直ぐに父からは、「バカ言うな!」とお小言が届いた。結納金を誰が出すのか……問題だ。
「美~~保~~!!!」
ほら来た。美保が小さくなって玄関へ庭を回って向かう。「ケッケッケ~、」と笑う私に大地の空手チョップが脳天に落ちる。
「イテッ!」
「ば~か、人の不幸で笑うな。失礼だろうが。」
「う~、ごめんなさい。」
「美保に言え!」
「はい。」
それから玄関では声が聞こえないが、
「お父さん!……、」
美保の特大の声が聞こえてきた。それが最後の一言だったので以下不明だよ。
「亜衣音、長くなるなら、ここで締めようか。」
「そうだね大地。欽ちゃん……怖い? う~ん??」
「いや、族のボスは下りてるが、俺も漢だ……。」




