第101部 もう一つの……戦い……
ここ多摩川の砧公園、少し離れた所の空き地には車やバイクの廃品の山が作られている。立て看には……「ホロコロス」には、殺すという意味もある。
コロとホロのスクラップ場……「ホロコロス」という名前らしい。ここは唯一のカムイコロさんの仕事場、いや、財産? 収益源のくず鉄置き場だ。この山が荒らされていたので持ち主が鶏冠を立てている。このホロコロスは見られないようにと、周囲には背の高い鉄板が打ち込まれていて、人が這い入る隙間も作られてはいない。なのに、間口が二メートルほどの出入り口が出来ていた。
「俺の~島荒らしが~!!」
と、鼻息を百倍にしてカムイコロさんが覗いてみたら、族たちが集まり車をバラシては部品を外していたのだ。中には車内を物色している小柄の男もいた。この時点で組長からの指示は無視されて、時間潰しにと車のライトを頼りに解体をしている。
「ウヒョ~……兄貴、ここはお宝の山ですぜ!」
「お前、この車なんだが俺の初代スカイイランに似ていないか?」
「あのケンとメリーの、いかした車に似ていますね。」
「なぁ、だろう……?」
(今は……イカレタ車ですが、)
「おいおいおい、ここには財布がたんまりとあるぜ!」
「中身はどうだ!」
「あ~残念。一円玉だけですよ。」
「全部拾って開けてみろ。」
「うきょ~こちらには万札がたんまりです。」
「兄貴、なんか紙が在りまして。……この金は持ち去り禁止ですって! ……? by 亜衣音。と書いてありました。」
「全部集めろ。」
こんな騒ぎのある表とは違い裏の方では、
「お父さん、ここはやばいよ、あの熊だけは避けたがいいよ。」
「組長、今のうちに避難されて下さい。今我々が見つかるのは愚策かと。」
「そうですよお父さん。もうすぐあの女も捕まりますって、ね?」
「あぁそうだな、少し土手の後方に下がって様子を見ようか。」
私らと戦っている銀次郎たちの子分と、後のアフロで敗走たちとは違う集団がいた。虎視眈々と私を拉致しようとしている集団だ。残念ながら私も桜子お婆さまたちもこの集団には気づいてはいなかった。この後は言うまでもなく……だ。
「ふん、てやんで~、こちとらは機関銃があるんだよ。で、人数はと・・・・。」
私らを甘く見ている銀次郎の子分たちだ。いや、銀次郎をあまり良くは思っていない、第二の勢力なのかもしれない。自分たちが乗っている車のパーツにしたいからと、必死になって集めている。唯一、高額で流せる部品ばかりだ。車体の部品も事故車向けにバラして保管をしている。
「兄貴、大きいのが来ます。」
「やいやい、ここは立ち入り禁止にしていたんだがよ、どうして入った。」
「ぎゃ~、熊がしゃべった!!」
「熊だ~!!」
「お、おい、早く撃て、殺せ!」
「この俺と張り合う気かい? 百年早いぜ。こちとらは機関銃がよ・・・。」
族たちは一斉に車の陰に隠れてしまい、数人が熊に向けて発砲するも、
「なんだい、豆鉄砲かよ。こんなのは痛くも、痒くはあるな。」
「ほらよ、こちらからは……? お~やべ~、これでは俺の商品が本当にくず鉄になってしまう、どうするかね~。」
カムイコロさんが思案している間にも多数の弾は飛んできている。顔に当たるとさすがに痛いではすまないので後ろを向いて……あらら、お尻をかき出している。と、突然……カムイコロさんが大きな悲鳴を上げる。
「ギィヤ~……痛いじゃないか、俺の穴にタマ突っ込んだ野郎は誰だ!」
怒り心頭の熊は後先を考えずに機関銃をぶっ放した。無数に飛んで行く……弾、たま、タマ。廃車の鉄板に多数の穴が空いている。
「あの熊、何処を狙っていやがる。」
「あの、部品を外した、くず鉄の山にですね。」
「あの、ここには飛んでこないのか!」
「あの、そのようです、まだ部品を外していないからでしょうか。」
「いやいやいや、違う、みんな~逃げろ~!!」
四方八方へと散る族の組員たち。
だがカムイコロさんの狙いは……ガスタンク。直ぐに大きな爆発が起きる、起きた。直ぐに大きな爆発が起きて猛炎が猛煙が族たちへと襲っていく。流れたガソリンに引火したのだ。
かくして……瞬時にして……、カムイコロさんは泣き出す事になる。
「俺の飯のタネが~~~~……灰に……、」
頭をアフロにした男たちが霧散していく、いくのだった。アフロは温かくて良いかもしれない。未だに見たことはないと思う。
「あんたも逃げたがいいぜ。」
「あんがと、そうするがね。」
カムイコロさんは泣いているに違いなかったが、熊の泣き顔って……どんなだろうか。流す涙の代わりに逃げていく族の尻に弾を撃ち込んでいる。穴に命中した族の男は、ニュー世代へと変化……しない。
カムイコロさんの足下に落ちる薬莢が……さしづめ熊の涙だろう。
「あは~、俺も全身がアフロになっちまったぜ、これだけ潰せば亜衣音も助かるというもんだ。」
暫くは呆けていたカムイコロさんも、気を取り直して私の援護に駆けつけるのだが、もう戦いは終盤で、私はものすご~くピンチに立たされていた。
「カムちゃん、助けて!」
「亜衣音~遅れてすまない。……あちゃ~もう無理だわ。」
この時の私には首を羽交い締めにされていて、銃を向けられていた。美保だってそうなのだ。頭に銃口を突きつけられたら、いくら巫女の力があってもそのまま撃たれたら私は死ぬに決まっている。カムイコロさんは、
「大地も撃たれたのか、う~この~~、」
「粋がっても……もう遅いぜ。熊の姉~ちゃんよ。」
「このバカ熊、今まで何処にいた。」
桜子お婆さまが熊の尻を蹴飛ばしたら、可笑しいの、カムちゃんはお尻を押さえて河原の厠へと走って行っていた。
「もう~~~~バカ熊~~~ケツに火をつけて~~!!」
私の罵声に見送られて熊は、火炎砲を一発……、尻から火を噴く。
「お父さん、そこの翠は置いていくの?」
「あぁ、そうだとも。そうしないと少女Aがニュースに出て来ない。」
「そ、そうよね、翠……短い付き合いだったけれども、ムショで暮らして頂戴。」
「いやよ、少女院には入りたくないわ、」
少女院は悲痛だと聞いた事がある。表だってニュースに上がることは無い。地元にも在るのだが、何かの件でレポーターのインタビュー記事を読んだかな。
「でもね、今動けなくしてあげるわ、殺人はしていないから出てきたらまた遊んであげる。」
この時、碧は対岸に逃げていて無事なのだが、翠を助けたくても何も出来ないのだ。そうして翠が大人しく銃弾に倒れる所を見ているしかない。
「いや~……ミドリ~~~!!」
「あ*、お前も俺に似て残忍なのだな。容赦ないとみえる。」
「お父さん、……ありがとう。褒めてくれるのね。序でにこの女には、こうやって口にハンカチを入れて、傷口を叩いてやればいいのよ、……どうかしら?」
「うぐウグうぐ・・・、こて!」
組長兼藍の父親、他には大学病院の関係者でもあるのだから頭脳は優秀なはずよね。自分らだけの逃げ道を用意しているあたりはご立派だわ。
後方の車が一台ずつ回転していく。最後の車が回転し終わると、私と銀次郎が最初に乗せられた。苦痛に満ちた身体でもこんな事もなんとはなしに感じとれていた。次の車に組長と娘が乗って二台が走り出す。最後が組員たち。美保は直前に解放されてその場にうずくまっていた。
ここで桜子お婆さまは最後の弾を送り付けるも、何も奇跡は起きなかった。こうやって私を拉致した車が遠くへ過ぎ去るのを見てるしかなかったという。遠くから聴こえてくるパトカーのサイレンに、桜子お婆さまたちも逃げる用意を直ぐに始めた。
「熊、あんたは臭いから却下。」
「桜子、ここは怪我人の三人が優先だろう、だからお前もダメだ。」
「前があります。」
「そこはワシに乗らせてくれないか。」
「ホロおばぁ……このドジ!」
「すまない、桜子は、ほれ、トランクじゃ。」
車の運転手は? 近くの若い男にさせたそうだ。十勝の山育ちは運転は出来ないし、それ以前に熊から人へ戻れていない。タクシーの運転手の古河は何処にも姿は無くて、死んだものと判断された。
同じく族の組員たちも霧散していくが、警察も方々(ほうぼう)から押し寄せるので、多摩川以外に逃げる道は無かった。
かろうじて逃げ切れた家族は、直ぐにお座敷に寝せられたが……、
「おい、誰か、俺をトランクから出してくれ!」
両親からは、次の車で逃げてきてくると思われていた私だったが、もう帰らないと告げられた母は台所で泣いていて、智治お爺ちゃんがそこで初めて桜子さんが居ない事に気がつき、トランクの中で上に下にと頭をぶつけ、全身打撲の有り様で智治お爺ちゃんに助け出されていた。(おい、読点はどうした!)
桜子お婆さまが事の顛末を穣お父さんへ報告したらしい。それから街中を熊が走っていたのを目撃されたのだが、一時間も後にカムイコロさんは無事に帰宅してきた。
惨敗で終わった事に消沈する桜子お婆さま。誰も咎めはしなかったのだが、とても悔しい思いをしていたから、逆に咎められないので良心が痛んだろうか。いや、可愛い娘の泣き声が耐えられないのだと思う。幾つになっても娘は子供なのだから。




