第100部 翠と碧……襲撃……
今回は、五話連続の延長スペシャル特番よ!? 心して読みなさい!
1970年12月31日
*)厄災の日?……
いよいよ大晦日。晦日の餅搗きイベントは済んだ。明日はお正月の晴れの日。こんな日の昼過ぎに立花の双子が家にやってきた。私は二人のバイトの事を心配して尋ねたら、
「そうね、やもめの独身たちは故郷に帰ったので、お店も午後からお休みなの。」
と言う返事だ。なんか、十一月に入って若い男の客が増えだしたという。それは学校で聞いていた事と同じだな、と頭に浮かんできた。その時は別段不思議だとも思わなかった。近くには大学も在るのだから。この事実を二行の会話が示していた。
「今年も大勢の男たちでとても忙しかったわよ。ね~翠。」
「そうだね、昨年以上だったかしら、ね~碧。」
いつもと変わらない仲のいい姉妹。そう言えばこの二人とは随分と会ってはいないのを思い出した。私と立花の双子が仲良く縁側で話し込んでいたら、お使いから帰って来た大地が血相を変えて私の後ろに座り込む。
「どうしたのよ大地。そんなに荒い息づかいで。」
「うん、なんでもないよ。運動不足で走って帰ってきただけだよ、気にするな。」
そうは言っているが、どことなく険しい顔つきの大地だ。辺りをキョロキョロしだしたらと思ったら、
「なぁ、クマは何処に行った?」
「まだお休みだと思うよ。なんでも夜に餅を食べ過ぎたと言いながらさ、先ほど大根を一本囓ってまた寝たみたい。」
「ケッ、大根で消化出来る程のヤワな餅ではないだろう。」
「なによ、その言い方、喧嘩売ってんの。たぶん、私が丸めた餅の事よね。」
「まぁ、そうかもしれね~、そこのお二人がよ、」
「え?……なんで、可愛い姉妹だよ。」
私には大地が言う意味が解らないので、二人への感想を述べてみた。大地としたら埒が明かないからか直に訊きだした。でも、私の握った餅がヤワでないとはどういう意味かしら。あ、な~なんだ、答えはクマの腹の中か!
「おい、お前らはどうして博多に帰らない。何か用事があるのか。」
「いやいやいや、さっきのお昼にやっと仕事が終わってさ、それで退院のお祝いにお見舞いに来たのよ。大地くんはなにをいらついているのよ。」
「そうよ大地は言い過ぎるのよね、ゴメンね……二人とも。」
「いいわよ、気にしていないから。それで今日は除夜の鐘を聞きに行くの?」
「まだ身体も本調子というか、弱ったままだから外出は出来ないかな。」
「大丈夫……?」
「うん、無理。やっと熱が引いて楽になった程よ。散歩すら出来ないわ。」
「そっか、年越しそばを食べには出られないのか。」
「持って来てさ、それから亜衣音んちで作ろうよ! 碧。」
「あ、それいい、翠、そうしようか。」
「鍋を借りられるのならば文句無し。そうする? 亜衣音ちゃん。」
「歓迎してよ亜衣音ちゃん、今晩はガールズトークで盛り上がろうね。」
翠の言った私の名前の語尾に、んち、が付くのはやはり博多弁か!
「そうね、家だったらいいかな。ねぇ大地はどう思う?」
「勝ってにしろ。俺は無理だからな。」
とうとうふて腐れたような大地だったが、最後の言葉は意味深長……。
「おい双子、少し太ったか!……尻がでかくなってるぞ。」
「キャッ、バカ大地。」「太ってません!」
「大地、何を言い出すのよ、も~ごめんね。気を悪くしないでね。」
「う~亜衣音ちゃん。旦那の教育をよろしく!! ねぇ~翠。」
「そうよ亜衣音ちゃんの大きなお尻で抑えてくれないとね、ねぇ~碧。」
「亜衣音ちゃん、早く大地くんを尻に……しいちゃえ! ねぇ~翠。」
教室で見るとはなしに視線に入っていた双子ちゃんのお尻は、私たちの入院というかたちで随分とご無沙汰になっている。だから大きく見えたのかもしれない。いや、着ているスカートがタイトスカートのやや短い……可愛いものだったからそう見えたのかもしれない。
(そう言えば、太ももも大きいかしら)などと、私も感じていた。大地は大きい声で言い切る。
「もう帰れ!」
「バカチン!」「煩い、帰る!」
「もう来るな!」
「あかんべ~……。」x2
大地にしてみたら、とんだとばっちりが返ってきたもんだ。大地は家の奥に双子は庭から外にと、相反する方向へと進んでいった。
「うぐぅ~、私、どうしたらいいのよ~!」
とうとう立花の双子を道路まで見送りに行けなかった。
「少し、ブルーだな……。」
問題は自分だけでは無かったのだった。次のトラブルが目の前に迫っていた。これも私に原因が?……いや、無いよね?
*)杉田欣二郎
「智治、今帰ったよ。」
「あ、お義母さん。孫の為にいつもご苦労さまです。」
「智治、世話になる。」
「誰ですか……? この男は、」
「これは欣二郎。お前のお義父さんだ。今日から仲良くな!」
「ギャビ……バベ……ボ!!」
「それがな、とある事故でワシの婿にすることなってな……すまん。明日にはこの家から出て行くさかい、今晩だけ泊めてくれないか。」
欣二郎……。田中いや白川大地に続く、私の血を受けて第二の人狼となった男。色んな事件があって杉田夫妻には、どうも報告が上がらなかったらしい。智治お爺ちゃんからしたらホロお婆さまは霧の母、義理の母である。本当に妖怪らしい年齢なのだが、六十を少し上回る年齢にしか見えない。私の入学式では、老婆? の風体だった。が、東京へ出てきて急に若返るとは、これ如何に。
「お義母さん、桜子には……とても自分の口からは、そのう~言えません。」
「いいよ判っておる。ワシから報告する。智治、言って無かったか? 文化祭の数日後に報告したはずだがな。間違ってワシの婿にしたと。」
「んな事、聞いてもおりません。年寄りの空耳です!」
「ホ~ッホッホ~! 出来れば救急車を呼んでおいてくれないかい。」
「?……誰が?」
「ワシに決まっておろう。桜子は負けん気が強いからの~、包丁が飛んで来るだろう。智治は避難したいいぞ。そうだ、四人で亜衣音の元に避難せい。」
「ホロお義母さん。呉々も新築の家ですので、桜子の反抗が酷い時には外に出て家だけは守って下さいよ。」
「お婆ちゃん、お帰りなさい。」
「明子ちゃんも帰ったか、早々ですまんが孫たちを連れて早う避難せい。」
「?……。」
「クワバラ、ナンマイダ~、桑原……。」
日本の意味不明な言葉の「桑原」だ。智治お爺ちゃんのおまじないは全国共通らしい。
「智治め、手を合わせて行きやがって……。」
「失礼な奴ですね、ホロ!」
「どれ、四人が避難するまで欣二郎。玄関前で待っているぞ。」
「ウッス!」
本当に欣ちゃんは、ホロお婆さまのお婿さんになると納得したのだろうか。この知らせを受けて私は大地を連れて杉田家を訪問した。なに、横庭を廻れば数秒だ。私はホロお婆さまの奇怪な行動に質問する。
「ホロお婆さま、玄関ドアを外してどうなさるのでしょうか?」
「あ、あ~、智治から聞いてきたのだろう。家を壊さないでくれと頼まれたからのこうやって事前にだな……。」
「だったら桜子お婆さまを庭に呼んで来ましょうか? 若しくは裏の公園とか!」
「あ~公園な、大晦日で誰も居らんだろう、それがいいのう……欣二郎。」
「はい、ホロ!」
うひょ~、欣ちゃん。ホロお婆さまを呼び捨てだわ。でも、本当は私の旦那様のはずよね、ごめんなさい。私の心の声は誰にも聞えない。そう言えば大地は覚えているよね? 私、段々と寒気が……。
「亜衣音、もういいぞ。ワシらは公園で待っておる。」
「先に訊きたいんだけれども、私の主治医からは家を貰えたんだよね。」
「あれは~、ほれ、公園の土管だ。ここなら自由に使ってもいいらしい。」
「なんだ、まだなんだね。今晩はうちにお出でよ。」
「そうかえ? でもね、この欣人狼がさ、獰猛になっちまってな、」
「欣二郎……欣人狼……んが増えただけで、なんとも複雑だわ。」
「では桜子お婆さまを呼んでまいります。」
この後の事は、見ない、聞かない事にした。私が事情を説明したら桜島の大噴火の如く、怒って、お玉やしゃもじ、フライパンまでも持って公園へ肩を揺らして出て行った。
「公園の小山が無くなって池が出来るかな!」
直ぐにパトカーのサイレンが聴こえてきたからさ、大丈夫だよね! ホロお婆さまと欣二郎さんの……今晩の宿泊先は!
「私、とても良いことを提案したかも! 明日は三人にお餅が出たらいいな?」
*)なんこ鍋
年末最後の夕食は、おおよそ大晦日らしからぬメニューだった。でも仕方ないかな、私の代二のお母さんから贈って頂いたのだから。亀万のお寿司……そりゃ食べたかったよね、大地。
「あぁ?……俺は飯ならばなんでもいいぜ。」
もうバカ大地。少しは私の事、いや都合も考えやがれ、この~。先の事件で機嫌が超が付くほどに悪い。そう言えば大地、公園に向かって石を投げてもいたな。
大地の買い物も終わって夕食の準備は済んだはず。お爺ちゃんとお婆ちゃんももうお座敷で寛いでいるし、杉田家も揃ってはいないか、新しい家族はホロお婆さまと新郎はいや人狼は、警察の厄介になっていた。
「ねぇ智治お爺ちゃん。ホロお婆さまの左手を見ました?」
「いや、俺にはそんな余裕は無かったよ、左手がどうした。」
「うん、薬指に金の指輪が光ってた。警察に泊めるのは可哀想よね。お父さんへ言ってみようかな。」
「いや、爺さんの方が権力を持っていそうだよ、だからここは爺さんに言うべきだろう。」
「え~事情を説明するのが面倒だよ、でも、欣ちゃんは私たちの命の恩人だし、」
「なぁ亜衣音ちゃん。あの爺様が何も知らないと思うか?」
「そうね、とっくに知っている方だよね。タヌキだから。」
「そうに決まっている。ここは一つ沙霧さんと穣さんにも手伝って貰えばいいだろろうね?」
「うん、そうします。それで二人を迎えに行きます。」
私の気苦労はなんの事はなかった。直ぐに自宅前にパトカーがサイレンつきで止まるのだった。それからお爺ちゃんやお父さんが家に向かえ入れてくれたのだ。うん、よかった良かった。でも、近所の目がぁ~……。
家族が揃ったところで欣二郎さんが紹介されて、夕飯が始まったのだが……。あちゃ~……大地は外方を向いている。桜子お婆さまは火砕流が~!
大地がこの味をしめて、鍋底を擦って雑炊を食べている。
「大地、私を欣二郎の元へ……出て行かせたいのかしら?」
と、小声で言っても大地は無視を決め込むつもりなの? 逆に鍋底を擦ると嫁が逃げるという、諺をただ単に知らないだけなのかな。もう大地の馬鹿、私が恥ずかしいじゃないの!
「リーン、リーン、」と、玄関の電話が鳴り出した。
「私が行って来ます。………………はい、白川です……、亜衣音ちゃ~ん。立花のお母さんから電話よ~。」
「は~い、お母さん。」
私は母に呼ばれて電話に出た。「はい、亜衣音です……、」
美歩の家から電話が掛ってきた。美歩は私の家に見舞いに行く、と言って出たまま未だに戻らないのだという。経緯は、あの双子が急に訪問してきて誘われて三人で出かけたという事らしい。それも昼からだという。
「え”……そんな、私の家にはあの双子は来ましたが、美歩ちゃんは来ていませんよ。その後も連絡の一つも無いのですよね。はい、あ、はい、そうです……、」
美歩のお母さんからなのだが、電話先からは娘を案じる、オロオロとした言葉が聞えてくるばかりだった。
「はい、私も車を出して貰って双子の家に行って来ます。私たちも直ぐに捜索のお手伝いを致します。えぇ、本当に双子の姉妹は来ましたが、美歩ちゃんの事は一言も聞いてはおりません。……はい、分りました、見つけ次第に……はい、ご連絡いたします。」
私もオロオロとして電話をきった。
「わ~どうしよう。美歩が攫われたのかしら、また私たちの所為で巻き込まれたんだわ。」
私の両目は宙を彷徨う。天井を向いても節穴が見えるだけだが……。
「だいち~……、」
私はどうしてよいのか分らずに大地の名前を呼んでいた。直ぐに大地は来てくれたのだが、
「……。」
「大地、ひとつ訊いてもいい?」
「モグモゴ……なんだ、誰からだ。」
「私とシシャモとどちらが大事なのかな。」
「もちろん亜衣音に決まっているよ、モゴモグ……。」
「なによそれ、モゴモゴと意味が分らないわ。あ~それよりも大変よ、美歩ちゃんが攫われた節があるのよ、ど~しよう! 天井じゃないわよ。」
「それ本当かい? ただ単に家に戻りが遅くなっているだけとか。あの欣二郎とデートしているとか。」
「あ?……あぁ、だったら座敷の見慣れない男は誰!」
「あは~、バカ欣ちゃん。そうか、で?」
「あ、そうだった。美歩は立花の双子と一緒に私の見舞いに行く、と言って昼過ぎに家を出ているのよ。でも来たのは双子だけ。どう考えても双子の仕業よね。」
「今晩は蕎麦を持ってまた来ると言ってたから、十時を過ぎたら来るからさ、なぁその時に訊けばいいだろう。」
「大地は面倒くさいのね、十時にはあと四時間もあるわ。探しに行こうよ。」
「何処に行けばいいのさ、四谷かよ。」
「いいえ地獄じゃないよ、渋谷よ。下宿先に行くのよ。」
「親にはなんと言うんだい。あれは世田谷だろう?」
「そうね、年越し蕎麦に呼ばれていたのを忘れていたとか?」
「だな……出せ!」
「え?……何をさ。」
「前の戦利品の財布、百個が在るだろう。」
「財布は捨てたわよ持っていない。大地がタクシー代をもって頂戴。」
「だったら中身の金、金を出せ。」
「……うぐぅ~、私のへそくりなのよ~後で返してくれる?」
「あぁ、明日のポチ袋を全部渡す、いいだろう?」
「うん、中身を入れたままだよね?」
「う……半分でどうだ。」
「いいわ、なんとか親を説得してみる。」
私はお母さんに友達からの招待を忘れていたから、直ぐにでも出たいと話した。もちろん母も二つ返事で了承してくれると考えていたが甘かった。
「あらあら、お友達は来てくれると話したのは、どの口かな~?」
「あ、え~そんな事は言ってないよ。大地と行くからと言ったんだよ、ねぇ~大地!」
「はい、お義母さん。俺がなんこ鍋を食いたいと言っていたからで、向こうもまだご馳走かな? と、勝手に思い込んでいたんです、すみません。」
「へ~、だったら穣さんに送ってもらおうかしら。」
「お義父さんはもうお酒が入っていますし、一家の主さまが宴会を抜けるのはどうかと思います。」
「お母さん、二人でタクシーで行けばいいのよ。タクシー代は自分で出すからさ、ねぇ、ね~お願いします。」
「そうね~皆、お酒が入っていますね。代行運転はまだ先の時代だし~……。」
「俺が送って行くよ。ならば安心だろう?」
「カムイコロさん。貴女には夜の警備で多大な迷惑を掛けていますわ、今宵だけでもと、貴女の好物を麻美に送らせたのにとても残念だわ。明日もお休みして欲しかったんですよね。」
馬のホルモンは、先の言葉で母のリクエストだったと知れた瞬間だ。牧場の馬で無い事を祈るのみ。ホロお婆さましか馬の解体は出来ないからきっと違うよね。それにしても、カムイコロさんの好きななんこ鍋とは。それだけ私たちへの貢献が大きいのだと、母の行動で知らされたようで、私、恥ずかしい。
「いいよ、そんな事は。迷惑だとも思ってもいない。飯も屋根も在るだけで幸せなんだよ。いいから任せなって。」
母に向いていたカムイコロさんが私に向き直って……、
「お前ら、俺が付いて行くのには、反対か?」
「いいえ、大……賛成でございますが、カムちゃんの分のお蕎麦は無いと思います。ですから……、」
「沙霧さん、そういうことだ。俺の年越し蕎麦の十袋を今くれないか。」
「そ、そうですね……十袋は~さすがに渡せませんが、半分でよろしいかしら。」
「へ~俺を人数に入れてなかったか? あぁ? 沙霧さん、」
「はい、……十袋用意致します。」
母の返事には間があった。大食いを忘れていたに違いない。だから人数分しか用意していないとか。
「ちょっとカムちゃん。お母さんを苛めないで下さい。」
「お~すまない。沙霧さん今のは全部冗談だ。一応だが手土産は持参したいから握り飯を作ってくれ。たくあんもたくさん切ってくれると嬉しいがよ。」
おにぎりはカムイコロさんがタクシーの中で全部平らげるのだが。
「可笑しなカムイコロさん。はいはい……澪、それから明子ちゃん。お手伝いをお願いね。」
「お母さん。私も手伝うよ。」
「いいから貴女たちは外出の準備をなさいな。たぶん何も用意してはいないでようが? 違いますか?」
「はい、ありがとう。」
「大地くん、亜衣音を守って下さいね。」
「えぇ、もちろん!!」
「へ~そう言うことね。お婆ちゃん夫妻にも頼んでみるわ。」
「大地、バカ!」
「え~なんでだよ。」
「もう、私たちの所業がお母さんにバレたじゃないのよ。だからホロお婆さまと欣ちゃんまでもが、行くはめになったわよ。」
「なんで、あのバカチンは要らない。」
「ほら、私を守ってとお母さんが言って、大地は了承したからよ、解る?」
「……チーン! あ、遊びに行くのに守ってやるとは言わない、あぎゃ~!」
「大地くん、素直でよろしいわ。亜衣音の事が絡むと頭脳名跡になってしまう。」
「なんですか、その名跡とは。」
「意味なんか無いわよ、ただ単に古い頭というのかしら?」
「褒めてないですね、」
「大地、ありがとう。」
「問題はお父さんよね、桜子お母さんにババを引いて貰いましょうか。」
恐ろしいほどの聞き耳の達人……それが桜子お婆さまなのです。それで、それがあったからこそ、激戦を潜り抜けられたとか!? 生活安全課を敵に回す度胸もなんとも言いがたいところもあるのだが、いつまでたっても本人は若い女だと思い込んでいる。そこが若さの秘訣らしい。決して熊の生き肝を食す……とは違うのだという。隣国では若く保つために、さらに奥地の国からえげつないモノを輸入していると!? ここまで来ると人間は卒業……鬼の部類と思う。鬼籍に入ってしまえ!……と個人的には思う。
「あぁ~? なんだって?」
「聞えていますよね、お願い~~!!」
「いいよ、娘の頼みだ。……ほら! 穣。少し付き合え。」
「え~なんですかいきなり。」
「いいから来い、智治も付いてきてよね。」
「はいはい……。」x2
桜子お婆さまは二人の男を従えて何をさせるのかな。まさか、助太刀じゃないよね。だが、その実、マシンガンの入った段ボール箱を持たせて戻ってきた。あの箱には旧生活安全課のロゴマークが記されてあるからだ。
「私も行くわよ、これは戦争よ!」
「ウギャ~……。」
私は堪らずに悲鳴をあげた。でも桜子お婆さまは、鼻で「ふふ~ん!」とひとこと言っていただけだった。
「亜衣音ちゃん。桜子は酒を飲むとマシンガンが十倍もの威力になるんだ。」
と、智治お爺ちゃん。それ、ほんと? それは口だけにして欲しいわと言うと、
「あぁ……沙霧も澪霧もよ~く知っている。桑原桑原。」
家の前のでは、「パパ~ン!」x3と、車のクラクションが鳴った。玄関からはニコニコ顔のお爺ちゃんが鼻を擦って歩いてくるのが見えた。
「あ……お爺ちゃん。も~なんでこうなるのよ~……。」
「おう、ワシはジジイじゃからタクシー代しか出せぬのでな~、」
「う~……ありがと。無事に帰って来ますから大地のご飯は残しておいて下さい。それから双子たちの護衛はお任せしました。」
「酒飲んで待ってるからな。」
「うわぁ~、大地の、バカ~~~~~!!! なんで、どうしてこうなる!」
私は大地をバカ呼ばわりにした。母に釣られた大地が全部悪いに決まっている。
「……日本レコード大賞は……菅義偉さんの、……今日でお別れ……です!」
「お父さん、途中でテレビのチャンネルを未来に変えないで!!」
「俺……んな事、何もしてないぞ。」
「続きまして都内のニュースです。昨夜遅くに暴力団と暴走族の乱闘があった模様 です。今朝早く、多くの男たちが逮捕されました。渋谷の病院に運ばれた……少女Aが最重要人主犯格だと考えられております。……今日はお正月……、」
「ええぇぇ……? 少女A……亜衣音のA??」
*)娯楽映画の開始……ゴジラ対モスラ姉妹……
直ぐに電話のベルが鳴りだした。立花の双子からの電話だった。場所はタヌキ公園……、いつぞやの美歩の代わりに私が戦った処だ。怒り心頭の私は、
「場所の指定があったわ、多摩川の砧公園よ。」
「亜衣音、財布を返しに行くのか!」
「返さないわよ、あんなボロいお財布だもの、転売も出来なかったわ。中身抜いてね、それで財布は多摩川に、ぜ~んぶ捨てちゃった……テヘッ!」
私は笑ったものの、この後はどうしたいいのか全く分らない。呆れた大地にもいい案は無い。そもそもがどうして立花の双子なのか、他に黒服の男どもも居るのかも分らないのだから。族が援護してくる? そんな事を考えたら頭がクラクラとしてきて、その場にヘタってしまった。
「そっか、私には歩ける力さえも無いのか。」と、独り言を言っていた。
家の前のでは「パパ~ン!」x3。と、催促の車のクラクションが鳴った。
「お爺ちゃん。少し待ってくれるように言ってきて!」
「あれは俺の子分たちだ。もうじき百台は集まるだろう!」
私はホロお婆さまに向かって両手を合わせたら、「ウンウン」と、返事が返ってきた。だから私は思いきり……、
「「「「「パパ~ン!」」」」と、我が家で一番大きなフライパンで叩いてやったわよ。
「わ~亜衣音ちゃん。フライパンを買い直して頂戴よね。」
「はい、お母さま。」
「くそ~、立花の双子は、インファント島に住む双子の妖精だったか!」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
と、百台はウソのようだ、数台だけが集まった。
「亜衣音、そのフライパンはもう要らないから使ってね。」
「え~何を焼こうかな、目玉焼きとか!」
「お玉は右手に持って戦いなさい。だからフライパンは左手がいいわ!」
「澪お姉さま?……その意味はなんですか!」
「後ほど、分るわよ。さしずめ……盾と剣かしら!」
「は~い、そうですね。大地が役に立たないときに使います。」
「俺が役に立たないときとは、そりゃあなんだ。」
「なんでもな~い。大地、行こうか。」
「あぁ、お義母さん、行って来ます。」
「沙霧、任せて!」「沙霧さん、握り飯、ありがとうよ。」「孫を守るからね。」
「俺の嫁になる女性だから、指一本触れさせない!」「バコ~ン!」
「お前は、ワシの婿だ!」「お~~れの部下はなんぼ来ている!?」
「へい、元ボス。二十人です。」「ボス?……誰だ?」「亜衣音さま!」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
一時間ほど前、多摩川の砧公園の夜間の照明完備の市民憩いの地では、(の、を四つも五つも並べたのだが、日本語にはなってないだろうね)
「おい、肉は焼けたか。」
「はい、このナマズの肉が大きいです。」
「இஇஇ……。」
「では、この鯉がいいでやすか。」
銀治郎……おたんこなすの極小……野郎が仮出所して私の来るのを待っていて、横には美歩があられもない姿で立ちすくんでいたのだった。
「亜衣音ちゃん……助けて!」
「その内に来るさ、さぁ早くしろ!」
「イヤ~ン、……。」
後方の兵隊たちも暖を取りながらバーベキューで腹を満たしている最中だ。で、焼かれている肉は、多摩川のカモ肉だろうか。
あんなこんなバカ騒ぎを見ている立花の双子は、ケラケラ笑ってご機嫌の様子。その二人の横には数人のグラサンの男たちが立っている。後ろには黒塗りのベンツが停まっていて、またその後方には多くの車が積まれてあった。近くの空き地から運んで来たのだろうか、殆どが原型を留めてはいない車だった。
「お前ら、準備は出来ているのか。」
「はい、万端です!」x5
年末は大晦日の十九時過ぎ、通りに行き交う人は居ない。車もまばらたいうべきか。二十一時からは紅白歌合戦も控えている。だからどこの家庭も夕食は早いだろう。レコード大賞は「今日でお別れ」だ。私も今晩で家族とはお別れか!
*)いざ……砧公園へ……
私、こんなフライパンを持っていたら、けれん味は出来ないかもしれない。と、もう憂鬱になってタクシーに乗車した。(けれん味=はったりをかますこと。)
「私が、唯一の搦め手かもしれない。」
「大丈夫さ、俺が付いているよ。」
「あんたは私の、そうね……お茶請けなのよ。まずったら承知しないからね。」
「なんだそれ?」
そう深い意味は、お茶には甘いお菓子が添えられる。このお茶請けがまずいとは、大地がヘマをやらかしたら許さないと、言っているだけだ。
「で、お客さん、どちらまで!」
「砧公園へ……ゆっくりでいいわ。」
「族退治ですね、応援致します。駄賃は要りません。」
「そう、そういう事ですか、お爺さま!」
さすがのお爺さまも、この年末の事件は予想が出来なかったらしい。銀治郎らが釈放されて一月余り。闘争の気配は全く無かったのだという。
「亜衣音……そのう言いにくいのだが俺に、お前の身に着けているモノをくれないか。今度の戦いは死闘になるような気がする。」
「大地……うんいいよ。それだけ本気で私を守ってくれるのね……うれしい!!」
そうか、男という生きモノは愛する女のモノを持っていれば、安心する生きモノだとか!? それならば大地には、私のモノを渡しておいて心置きなく戦ってもらおうではないか!
「いいわ、でも大地、窓から街を眺めていて!」
「あぁ、横向いている。」
私はモジモジしながら、お酒は飲んではいないのだけれども顔は火照って熱くなってきた。
「んしょ! こらしょと、……大地いいわよ。」
私の温かみが残っているうちに大地に渡したい。なので大地の左手にそ~っと握らせた。
「わ、私のいつぞやのハンカチじゃないからね、か、感謝しなさいよ。」
「う……これって……!?」
「そうよ、私の今年最後のモノね、大事にしてよね!」
「うきょ~……もう!……最高……!」
「これで、その、いいのかしら。わ、私は大地ノモ欲しいとは思わないから気にしないでね!」
「俺、ズボンだけ!」
「バッコ~ン!」
もう大地ったら今晩に、私をいきなり襲うつもりだったのね。
「いて~な、俺は……待てなくて……そのう~。」
今度は大地がモジモジして、口ごもっていた。私は大地の顔を両手で挟んで私に向けさせた。……そうして私の温かい二つのモノを大地の顔に当ててみた。
「こ、今年はこれが最後だからね、か、か~んしゃなさい。」
「俺、頑張る!」
大地は大地で、私の二つのモノに両手を当ててもみ……・・・としだした。私が脱いだのを確認しているのかな、でも、少し長すぎではありませんか、大地さん。
と、同時に前方から漏れるため息の声……は、スケベか!
「やれやれ……、」
タクシーの運転手さんは左手を伸ばして、ルームミラーを左にずらしていた。
ちょっと運ちゃん、それってなによ、私を見たい訳!
「自分の顔を見ていなさい。」
たまにすれ違う対向車のライトで映し出される……妖艶な私の顔は、
「うっ……髪が伸びている!?」
私は大地から溢れる人狼の力を、それこそ奪わんばかりに吸っていた。でもこの雲助はいったい何者なの!?
大地は逆らうことなく大人しく私に従っていた。次に見えた私の顔は、
「耳が尖っているわ!?」
「お嬢さん、胸に鉢金を仕込んでありましたか、道理でご主人が手を出せなかった訳ですね。」
「そ、そうよ、それのどこが悪いかしら!」
「いやね、てっきり、もっと下の方だと思って読んだ読者の方が、不憫でなりませんわ。今晩は冷えますので、腰は冷やされませんように……。」
「ふん、知らないわよ……!?」
因みに、鉢金とは戦闘においておでこを守る為に着ける、一種の防具のことである。これは私にと、澪お姉さまから頂いたものだ。私をオオカミから貞操を守る為に……だったか? それを引っ張り出して胸に巻いていたのだが。でも一度も使わずにいた。……だって、大地が可愛そうだものね!
「うわ~、大地が干からびた!?」
「もう戦線離脱でしょうかね~。」
「んなこと、ありません。」
「後で私が元の姿に戻しますから、お嬢さんには、姐御と言って慕ってくれる兵隊も大勢いるのですから、ここは一つ……姐御ハダで胸を曝け出したらどうですか?」
「サラシを頂戴な!」
「へいへい用意しております。ず~っと昔に、桜子さんから預かっておりました。そうですね……古田と、申せば思い出して頂けるのでは?」
古田とは、「人狼 Zwei」に出てきた、元生活安全課の子飼いの犬である。どこか、人狼の子孫のような男だったはず。
「タクシー業界では、七十を過ぎても働く者が多いですよね、いずれはタクシーと心中するのも、乙なものでしょうか。(倅をありがとうございます。)」
「今度、桜子お婆さまに尋ねます。」
「そうですね……。」
意味不明な会話の途中で砧公園に着いてしまう。だが砧公園の手前の三百メートル前なのだがな。
「ここで下車されてください。そこの旦那さまは生き返らせて直ぐにでもお届け致します。お気をつけて……。」
「えぇ、ありがとう。今生の別れにならなければ、いいのだけれども……。」
「……。」
私は大地を車に乗せたまま置いていく。大地はそのまま眠っていれば死ぬことはないのだから。
「ボカ~ン!」と、後方で大きな音がした。続いて、
「ごら~古ダヌキ……なんばしょうるとか!」
そうだった、この二人は旧知の仲だよね。うんうん久しぶりに会えて良かったね。私はサラシの感触を確かめながら歩いていた。もう会話は聞こえてこない。
「ヒェ~、元ボス……生きていたのですか……。」
「この男は亜衣音の大事な……男……お前! 古田か!」
「はい、これは別れ離れになっていた、息子です!」
「離れ離れ……だろう。いやそれはどうでもいいが、そうか、お前の倅だったとは思いつきもしなかったよ。」
「白川の黒ボスが私を探し出されて、それで、恥ずかしながらも戻って来ました。どうか可愛い嫁を守ってください。」
「嫁……っ、そうか、お前の息子の嫁だよな。」
「はい、でもこの二人には内密にお願いします。」
「分かった、任せろ。」
「ボス、これでお別れです……。」
「何を言うか、今度、酒飲みに来い。」
「へい、ありがとうございます。……(どうか、ご安全に!)」
これが最後の、大地の父であった。大地とは小さい時に別れていたので大地にはバレてはいなかった。
「息子、いい嫁に貰われて幸せだな、俺の命を今お前に吹き込む……。」
そう言えば、人狼は死んだ後はどうなるのだろう。初めて疑問に思う。蒼い光になって天に召されて、次の人生を見つけるのだろうか。
私は独りで敵陣へ乗り込んだ。
「……おう、姉ちゃん。どうした?」
「ねぇお兄さん。ここは何処辺りになるのかしら。寒いから私も……そのう仲間に入りたいな。」
「今な、狸汁で精力を増進中なのさ、そうか仲間に入れたろうじゃん!」
「わ~ありがとう。それで私にも砧中の狸をお鍋に入れていいかな。」
「いいぜ、後は俺様と楽しく過ごそうか?」
「わ~それってお兄さん、願ったり叶ったりと言うのかしら。……だったら鍋に頭……入れたらどうよ。」
「あ~ぁ? なんだとう??……俺様に頭を? 今なんて言ったぁ~?」
「豚の頭は沖縄の料理らしいわね。今、私の料理スキルを見せてあげる。」
「なんだとう……。」
「やい、てめぇ~痛い……、」
「痛い、」
「ふん、ば~かめ!」
「いや~ん!!」
私は男どもに良いようにあしらわれて、地面に座らされている。頼みの大地はまだノルウェー産の汐鯖なのだろうか。早く来てくれないと、私が塩揉みされてしまいそうだ。因みにノルウェーの鯖とは、どうも他に漁獲できる魚種が無いらしい。それは本当か!
きっと遠くで私のカチコミを見ているであろう、桜子お婆さまとホロお婆さまや欽次郎とその部下たち。きっと笑い納めで忙しいのね、誰も助けには来てくれない。幸いな事にこの騒ぎはまだ銀治郎には伝わっていない。
「おい、暇だなぁ~。まだ来ないのか……えぇ? 双子の姉妹。」
「う~ん、まだのようね。馬鹿の兄貴。」
「こんなに暇だと、気が短くなっていけねぇ~。おい美保、次はコーヒーだ。」
「は…い、今ご用意いたします。」
「おう、それでいい。大人しくしていろ。」
「はい、ご主人様……。」
美保のメンタルは壊れる寸前のようだった、銀次郎をご主人様と呼んでいる。
美保の心中は……、
囚われの私は泣くことも許されない。同じ仲間だと信じていた立花の双子なのに、私を騙して銀次郎へ売ってしまったあくどい女。二人して私を見ては笑っているし、たまに不気味な顔を作って私を嗤っているわ。……亜衣音ちゃん、早く助けてくれないかな、この前のように……でも、亜衣音ちゃん、病み上がりだから無理かな。シクシクと泣きながら私は銀次郎に出すコーヒーにゆだれを注いで、序でに雑巾の絞り汁を入れてみたけれども、心は晴れない。
「亜衣音ちゃんは、今まで、このような仕打ちを受けていたのだね。凄いな~こんなでは私、亜衣音ちゃんに合わせる顔がないな。」
(美保、もう少しだから我慢して!)
「えっ?……今亜衣音ちゃんの声が聞こえたかな? 何処、何処にいるの?」
「できたなら早く持って来んかい、鈍間!」
「すみません、愚鈍な女ですもの。」
百章目の折り返し点よ、ターボにニトロを流して急加速よ!! ……みんな、頑張って読んで頂戴。
「おやおや、孫は苦戦しているねぇ~。」
「俺は直ぐに兵隊を連れてカチコミに行きます。」
「これこれ欽次郎、そう慌てるでない。ここは大地に任せようではないか。」
「あ……お婆さま。大地は干からびていました、使い物にはなりません。」
「あちゃ~……どうするよ、嫁。三本目は絶望かぇ?」
「ホロお婆さま、私を嫁呼ばわりは許しません。まぁなんとお下品な!」
杉田家にも、なんだか確執がある気配。智治お爺ちゃんはさぞかし苦労した事だろう。世の女たちは……強いのだから。
「欽次郎……行ったれ!」
「あいよ、俺の活躍を見ておけ!」
*)砧公園……開戦…… そして私は無双……二人の人狼……
「お前のバイクを寄越せ!」
「へい、元ボス!」
「……それ、言わないでくれる? 今でも俺はボスだよね?」
「へい、元ボス!」
何を言っても今では、元ボス! なのだという。もう時間も無いからと、欽次郎はバイクに跨がって飛び出した。さしずめ……織田信長のようだ。続いて多くの部下たちもバイクや遅れて走って戦隊へと加わる。
「なんだ? てめ~は、」
「俺の女になにしやがる!」
「欽ちゃん……。」
「はは~ん、こいつがボスを伸ばした女か、もう返せない。……お前ら、この木偶を片付けろ!」
「ボス、出世のチャンスでやんすね!」
「あぁ? そうだな。手土産にするか。」
「続け~~~~~!!!!」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
「うぎゃ~、……逃げろ~!」
「ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、ピヒャラホラ、」
「ほらほらほら、どうした、逃げないのか。」
私を捕まえて遊んでいた中ボスは、小ボス、いや弱いボスだった。
「か弱いボスだったな~! カボスかよ!」
「きゃっ……なんなのよ~もうやめてよね~! 誰か私はボスよ、助けなさい。」
戦端が切られ多くのバイクが乱入していく。あの? 軍旗は……んまぁ、いや~私のパ・パ・・。入院中に無くなっていたモノばかりでそれは作られている。ピンクのリボンの色合い……それは母から贈られた最初のパ・・なのだからさ、はっきり覚えている。そう言えば紛失した件は未だに内緒にされている母。大方大地が持っている、とでも思っているのか。そんな軍旗を車のライトで強調して見せる奴……きっと銀次郎かと思いきや、突入するバイクの男が高々と掲げていると言うことは、欣二郎の方か!
私は独り、その場に取り残されていた。そうして聞こえてきた雄叫びは!?
「きぬたの大恩返し!!」
そう、私には男たちの叫び声がそのように聞こえた。何処かの携帯電話の宣伝広告の叫びではない。
「開戦の雄叫びには、向いていないわ!」
私は土手の上に登り欽ちゃんの兵隊たちを見守ったが、次々と打ち破られる……私の親衛隊たちだった。それはそうだろうか、敵さんたちはこの戦いに向けての戦闘準備に切磋琢磨して力を付けていたのだろうから。対して欽次郎は入院中の不幸かはたまた幸せか! 呆けていたに違いなかった。
「うっわ~~~、哀れな……私の親衛隊たち!! 大丈夫かな。」
対して桜子お婆さまは、「本部を叩けばイチコロよ!」とばかりにベンツの黒い車に機関銃を向けたのだが、報復の銃撃は後方の廃車の間から行われたのだ。
ベンツの中の人影は……案山子? うっすらと見えるように室内灯が点けられていたのだろう。時々動いて見えたのは紐で引っ張っていたようだ。遠くで嗤う声が聞こえてきた。間違いなく、聞き覚えのあるあの双子の蹴手玉しい声で間違いない。
「いつもよりも……とてもお下品な声だわ!」
「それ、お前が言うのか!」
「あ!……大地。もう三分経ったのね。」
「インスタントではないぜ、」
「だったら、フリーズドライ! ……もうすぐ読者の方たちはお正月だもの。おせち料理大半が夏から作られた、フリーズドライだとは知らない。とても残念な人たち!」
「今の時代は……お母さんが、お婆ちゃんが一からの手作りだよな。俺は二度と口には出来ないと思っていた。」
「良かったね!? 私のお婿さんになれて。」
「あぁ……とても幸せだぜ。……で、どちらの応援に行けばいいのかな?」
「欽次郎の方か!……でも、ホロお婆さまが向かって行ったから大地は「中入り」
美保の救出に行って!」
因みに「中入り」とは、敵への正面攻撃とは別に、虚を突いて側面からの奇襲攻撃を意味している。相撲の「中入り後」とは意味が違うが、これも搦め手だ。
「そうね、大地の奇襲が大きな戦局を迎えて、私たちへ勝利を導くものなのよ。だから、これからは。「中入り後」なのよ。
あながち、繋がりはない言葉とは言えない。今の戦局はただの前座だと言えば分かるだろうか。九州場所の優勝争いに左右される取り組みが始まる。それが、「中入り後」なのよね、もう終わったけども……。
「大地気をつけて!……あの双子は手強いわよ。太ももが大きくなっていたのよ。大地の目の付け所が良かったわ。柔らかい脂肪が今では筋肉かもしれない。」
「触っても堅いのか!」
「そうね、残念ね……大地?」
「よ、よせやい。俺~は双子を触るなんて、考えてもいないよ。」
「いいわよ、思いっきりと胸も触ってきなさい。きっとそこが、ウィークポイントだよ?」
「え!……いいのか!」
「バコ~ン!」
「ケッ、やはりだめなのか。」
「み、見えない……わ、私から見えないようにするのよ、バカ大地!」
「?!……うひょ~……。」
喜び勇んで駆け出していく大地。やはりバカ大地だ。奇襲をかけるという作戦は何処に行った。正面突破か! 私は歯ぎしりをしていたら、立花の双子はというと大地を迎え撃つ気らしい。美保を引き連れて土手の上に移動している。
「亜衣音ちゃ~ん、助けて~。」
遠くからは必死になって叫ぶ美保の声が聞こえる。
「あ、それ、助けるのは大地だからね、大地にお礼を言ってね!」
聞こえるはずはない。私は大地の援護に……、
「だいち~~~!! エアー・ショット。」
私は右腕を伸ばして叫んだ。大地は右手を挙げて合図してくれる。私の巫女の魔法は空気弾のような攻撃だ。一台の車を双子に向けて大きく飛ばして双子の目の前に落とした。大地は間髪を入れずに落ちた車を飛び越えて双子に蹴りを入れるのだが、
「バカね、あんたは嫁さんからもバカ呼ばわりよね、かわいそ~~~!!」x2
「いや~ん!」
「げっ、美保!」
「ほら、蹴手玉よ!?」
「うぎゃ~、・・・、チーン!」
頼みの大地は美保を前に出されてひるんだ隙に、好きに蹴りを、翠から受けて伸びてしまった。私には理解出来ない男の陣痛かしら!
「亜衣音ちゃ~ん、早く~~! 掛かってきなさい~。」x2
と、私を催促する二人。それとは別な声が聞こえたら?
「亜衣音ちゃん、助けて~~~!!」x2
おやおや、ドサクサに紛れた声も聞こえる。私が渡した鉢金は何処に使っているのだろう。……「バカ大地!」
「ほら、大地くん。お嫁さんからもそう呼ばれているわよ。」
「え~、私、思わず口に出していたのね。」
大地の行動を逡巡しながら考えて双子の元へ歩いていた。だから思わず口に出したのだろう。
「亜衣音ちゃん。いつもの大地への思いが、バカ呼ばわりなの? 大地君が、」
「かわいそ~~~!!」x3
「何よ、美保まで一緒になってさ。もう助けてあげない。」
「亜衣音ちゃん、私じゃないわよ、そこの大地くんだからね。早く助けて、」
私の巫女の力は右腕のみ。先ほどのエアー・ショットで弾切れである。どうするのよ、私!
「そう、それは命がけで飛び出した大地に頼むのね。で、双子は私をどうしたいのかしら?」
ここからは頭脳戦だ、言葉が大きく戦局を左右する。私は、怖がる振りをして土手に登り終えてから、来ないでと言いながら後ずさりをした。私と双子の間には大地が今でも呻いて転がっている。
「大地、早く私を助けなさいよね。」
「無理だと思うな。私たち姉妹はボデービルで鍛えてきたのよ。私の蹴りを受けて立てた男はいないわ、ね~碧。」
「そうね、私も一撃必殺よ。」
「だったらもう一度、蹴手玉をお見舞いしたらどうよ。それでめでたく私は大地と離縁出来るわ!」
「まぁ~この恩知らずの、ばしたが!」
「そうね碧、こいつは、ラリ! だわ。」
「良いわよ私は、尻軽で。美保から何と言われても欽次郎に嫁ぐわ。だから……、」
「ギュワ~~~!!……チーン!」
大地は二度目の股間蹴りを受けて、今度こそ再起不能になったに違いない。これで種なしになったことだろう。
「ウッ……、」
私は大地が蹴られる瞬間、右手で両目を覆って小さく呻いた。(大地、ごめん信じているから!)と、心で謝ってみる。その後も私は後ずさりを続けた。
(もう少し下がれば大地は二人の後ろを捕れる。)
双子は相変わらずに美保を掴んでというか、首に腕を回して全面に晒している。
「美保……なんでそんな格好なのよ。まるでジャパニーズメイドだわ。」
「し、仕方ないわ。銀次郎が出した着物を着ないと、私、犯されていたわよ。」
「もしかして銀次郎って、両親は居ないの?」
「そうみたい。私にその母の面影を追っているのよ、だから、割烹着!」
「その下は……?」
「言わせないで……は~クション!……くしゅん……。」
「え”……?」と、私は驚いて立ち止まったのは本当だ。それからマジマジと美保を見つめた。胸や腰の線がはっきりと夢想できた。
鼻水を流す美保がはっきりと見える距離まで近づいてきた三人。車のライトに照らされて見える美保に……私は、
「いや~ん、亜衣音ちゃんのH!」
この一言で私は夢想から覚めた。大地が大人しく翠から蹴りを受けた理由が理解出来たのだった。
「あらら、それで大地が不覚をとったのね、もう大地は……やはり使えないか!」
後ろの方でムクムクと起き上がる大地を見つめながら、そう思った。だってさ美保は可愛いお尻をして、
「むき出しだよね?」
「亜衣音ちゃん、失礼です。今日はピンクです!」
「あら、でも男にとってはむき出しよりも、刺激的だわ!」
大地が起きて行動に出すのが早かった。一瞬にして双子の後頭部を蹴ってしまい、つられて美保も前に飛んで行った。
「ワ~ォ!……もう少し加減したらどうよ、美保が尻を突き出して転んでいるわ。」
「いい光景だぜ、双子も同じだろう……?」
「あら、そうね。見事だわ大地。」
「惚れたか?」
「うん、凄く見直したよ……大地!」
「うきょ~……、」
と変な言葉を言って目を回した美保を、私が……抱き上げた。大地は双子の片腕を捻りあげるのだが、ここぞとばかりに双子は大地に、それも二人して大地に抱きついた。
「そりゃっ、」x2 「うきょ~……、」 「うひょ~!」
今度は私が意表を突かれて変な言葉で、対して大地は喜んだか!
「だから大地くんはバカなのよ。一撃で倒れる姉妹じゃないわよ。」
「なんで~、お……終い、じゃないのか!」
「ご冗談を!」
「そうよ、私たち姉妹は強いのよ。」
「あ……大地……、」
「亜衣音ちゃん、大地くんは私たち姉妹で頂くわ。いいでしょう?」
「貴女たち、二本の腕を掴んでも、その、オオカミには三本目もあるのを忘れたのかしら?」
「え”?……なによ、何も持っていないわよ。」
「大地……肘を!……いつも私にしている肘を出すのよ!」
「え!……いいのか、……ほれ、……ほれ、ほれほれ……、」
「いや~ん、大地くんが、いや~ん!」x2
いくら姉妹がボデービルで鍛えても人狼大地の足下にも及ばないのは明白。大地の肘が、腕が、姉妹の柔らかいものを、スリスリしている。この様子を見た美保は……ぽか~んと口を開けて見つめている。が、私は逆に大きな口で大地を嗾ける言葉を発している。
同じ口でもこれ程違うものなのか。
「大地、手の指を使いなさい。結んで開いてその手を上に……もみもみよ!」
「え”~~いいのか、嬉しいぜ!!」
「ぎや~~ィ~~ン!!」x2
これで大地は解放された。ぜーぜーと肩で息をしている二人は、なんというか、怖い顔? いいや困った顔だろうか、そんな情けない顔を作っている。
「あんたたち降参しなさいよ、今の大地は鬱憤が溜まっているわ。だって私がねここ最近はづっと拒絶していたからね。」
「なによそれ。言い得て妙な言い方ね、翠。」
「そうね、亜衣音ちゃんらしいわね、碧。」
「亜衣音ちゃん、大地君が可愛そうよ。……それ、「ずっと」だよ。」
「大地、二人を襲って頂戴。美保の分もお願いね。」
「いいのかよ、うひょ~!」
本当にオオカミに変身したような大地は、可愛い高校生の二人に襲いかかった。
「キュン!」 「う……、」
大地が狙撃を受けてその場に崩れ落ちた。姉妹を見下した私が悪いのだわ、またしても狙撃を受けてしまった。ならば次は私……、
「キュン!」と耳の横で聞こえた弾の音、直ぐに、
「う……、」と、小さく悲鳴を上げる。その場に倒れたのは……美保。
「次の銃弾が来る、どこから?」
「うっ……もう、しっかりとしろよ……な! 少し痛いか、」
欽次郎が撃たれていたのだ。
「え……? 欽次郎?? どうしてここに!」
「大地が、う、撃たれただろうが、俺を美保の上に横たえろ、最後まで美保は守って見せる。」
「欣……そうね、貴方は美保を好きだったよね。」
「あぁ……最後の一人は俺が守る。」
そう言い終わる欽次郎を私はそ~っと美保の上に乗せた。欽次郎の重みで気を取り戻した美保が叫ぶ。
「いや~欣ちゃん、死なないで!」
「美保ちゃん、大丈夫よ、私が直ぐに欽次郎を生き返らせるから!」
「いや~欣ちゃん、死なないで! 私の為に死ななくてもいいのよ、お願い欣ちゃん、死なないで、」
急いで私は身を伏せて欣二郎の傍に身を横たえた。そして使えない左手を噛んで血を流し、そうして欽次郎の口と傷口に私の血を流し込んだ。これで、多分大丈夫よね。だが私は失念していた、文化祭の時に受けた狙撃の弾だという事を!
大地は後ろから撃たれたから、弾創はおそらく肺だろうか。欣二郎はお腹だから私の指が入った。それで私の血を注ぎ入れる事が出来たというのに、あの弾は何から創られたのか、そう言えば分析の結果は何だったろうか、思い出せない。
傍では美保が泣き崩れているが、私だって大地にしがみついて泣きたいのを我慢しているというのに。ケラケラと笑う姉妹がとても憎らしい。翠が両手を上に伸ばして大きく振っている。
「亜衣音ちゃん、続きをしようか。もう呪われた弾は飛んで来ないわ。」
「碧、秘密をばらしたらだめよ、……亜衣音ちゃん、飛んでくるのは普通でもね当たれば亜衣音ちゃん痛いわよね。」
「あら、翠。私が伸すのだから無粋な指示は送らないでね。」
「碧、出来るのかしら?」
「だってこのリラは、昼に確認したでしょう? もうな~んも巫女の力は無いとね。」
「あら翠、間違っているわ、尻軽よ。」
「?……そうだった、ラリよ。」
私は後ろ、廃車を山積みした河原を見やりながら起き上がる。同時にケラケラと嗤う姉妹の声が聞こえてきた。
「そうね、昼の訪問で私は騙されたのね、私ね、翠、碧。私はとても嬉しかったのよ。ほんと、とても残念だわ。でも、二人は私の親衛隊だと言っていたわよね、覚えているよね。」
「えぇ言ったわよ、でもね、私たち姉妹は貴女を始末する為だけに福岡から買われてきたの。それから教育を受けたわ。辛いボデービルなんか、自慢のお尻も筋肉になってしまった。」
「そうよ、亜衣音ちゃんが死んでくれたら、私たち姉妹は普通に戻れるのよ。だからお願い、死んで!」
「……いやだよ、二人が買われたのならば、今度は私に飼われなさいよ。可愛がってあげてよ?……主に大地がだけどね。」
「そうね、嫌らしいオオカミはゴメンだわ。私たちはお金持ちのオジサマが好みなのよ、そう、藍のお父さんが、ね!」
「え”……そんな、藍ちゃんのお父さんが、やはり本当なのね。藍が可愛そうだわ。」
「私たち姉妹は亜衣音ちゃんを殺したら、そうしたら福岡の両親の元へ帰れる。私たちも貴女みたいに幸せになりたいのよ。」
「そうね、いっそ地獄に行きなさいよ。それがお似合いよ。私が送ってあげてよ?」
私は一縷の望みをもって大地に視線を送った。
「無理無理、無理よ。文化祭で経験したはずよね、死ななくても動けない。今はそうね治療も出来ないから、失血死かしら。」
「大せいもん払いは、大出血サービスだと、お父さんが言ってな。でも私は二人みたいにはいかないわよ。」
「それ、つまらない強がりね。だって巫女の力が無くなる呪いの弾だから。」
「う~……。」
私は他の戦局を視線を送る。欽ちゃんが私を助けたばかりにそれぞれの兵隊たちはお互いがつぶし合いをしている。唯一はホロお婆さまだけれども、その老婆が独りで無双しても戦局は良くない。時期にホロお婆さまも狙撃を受ける。
対して桜子お婆さまは独りで機関銃をぶっ放してはいるが、こちらも車の山で手も足も出ないようだ。それは敵も同じだろうか。
しかし、カムイコロさんがいない。何処かに隠れているとは思えないから奇襲をかける準備をしているかと考えてみるが、そうした時間を許しては貰えない。
「もうお休みはあげない。大地くんともお別れは言わせてあげないわよ。」
「う~~ん、それは困ったわ。では本当に巫女の力が無くなったのか、今見せてあげるね。」
そう言って私は右手を二人に向けて突き出してみる。そうすると二人は一瞬だが顔を曇らせた。それは何のこともない、私の後ろに回ってきた敵の車の照明に目が眩んだだけ?
……唱える。
「エアー・イン・パクト!」
と、同時に二人は左右に別れて跳んだのだ。だから私の力が無いとは、本当には信じていないと見てとれた。
「ふふ~ん、残念ね。今のは誤魔化しよ。右手の呪文はこれよ!」
「……エアー・ショット!」
どうも呪文と腕の関係は繋がりがあるらしくて、右手でエアー・イン・パクトは発動しなかった。だけれども今度の魔法の威力は小さいが、空気弾のような攻撃が出来たのは良かった。が、翠だけが明後日の方に飛んでいっただけだ。碧は一瞬驚いていて翠の行く末……鯉のエサを案じていたが、直ぐに私を睨み返してきた。
「もう~、驚かさないでよ。本当に巫女の力が残っていたなんて、どうしてかしらね、翠の見立てが外れたのかしら。」
「次は、翠だよね?」
「……? そうね、私が翠だと、よく判ったね、でも同じ事よ。」
私は右腕を翠に向けて前に歩き出した。今度は私が追い詰める番だよ、大地。この最後の巫女の力は大地からキスをして奪ったものだ。とてもではないが若い人狼の蓄えた巫女の力は及ばずに少ないものだ。
「翠には飛び道具がないのよ。だったらもう私の勝ちよ、大人しく逃げて行きなさい。今からだとお風呂に入っても、十分に除夜の鐘を聴けるわ。」
「そんな事に意味は無いわよ。いつも二人で抱き合って寒い夜を過ごしてきたの。 これ以上の悲しみは無いのよ。でもね、この二年間は亜衣音ちゃんやそこのバカの大地くんや美保、藍ちゃんが居てくれて良かったわ。いい思い出ができた。お礼を言うべきかしら。」
美保の欣ちゃんへの呼びかけの声と、しきりにくしゃみの声が聞こえてくるが大地は動く様子さえ見えない。が、私は翠を大地の横まで追いやりたかった。あわよくば大地が気がついて翠を、てご・め~にでもしてくれたら、御の字だ。
御の字とは、遊里語であり、江戸時代に遊女が使った言葉が語源となっている。おたんこなすと同じだ。日本語の語源は……面白い。
「ふん、なによ。そうね私たち姉妹は遊郭へ送られるとこをオジサマから救って頂いたのよ、命のオジンなのよ。」
「命の恩人でしょう?」
「? じゃかましい。また撃たれたいのね、いいわ今合図を送る。」
そう言って翠は思わず後ろに三歩下がってしまった。多分狙撃の流れ弾を受けたくはないからだろう。
「大地はもう死んでいるわ。いいわよ、私が独りで生きるのも耐えられない。
最後に大地の名前を叫ばせて!」
「いいでしょう、私が両手を挙げて下ろすまで時間をあげる。」
私は神に頼るつもりで大きく息を吸った。
「だいち~~~、だ~いすき~~~!!」
にやりと笑って翠は両手を振り下ろす……、それも地面にまで下ろしてしまっていた。私の怒鳴り声で最後の力を出した大地。その大地が翠の短いスカートを思いっきり引き下げていた。
「キャッ!」
可愛い声を出してスカートを押さえる翠は、そのまま地面に倒れてしまう。と、同時に私も地面に伏せた。予想通りに私の頭の、神……髪を数本も伴って弾丸がよぎっていった。
「大地、ありがとう。翠、今度は私が相手をしてあげる。大地の目の前で、そう……ね、品剥いてあげる!」
「亜衣音、ひんの字が違うだろう。」
引ん剝くと言うのか。下品極まりない、品が無い言葉だが、殿方には支援されるらしいのだ。第一に大地も目の色を変えている。
「大地、あんた、生きていたんだ。」
「あぁ、三度もお前の鉢金に救われたぜ。もう使えないかな。」
「あんた、バカなの?……弾を玉で受け止めたのね!」
「あぁそうだとも。お前の貞操を守ったぜ……?」
「うぎゃ~、恥ずかしい。大地が下のヘルメットにしていたなんて!」
「だって、この案は元自衛隊の作家さんが……。」
「そ、そうね、でも今はこの翠を再起不能にする事よ。」
「俺に任せろ、いくら鉢金で弾は防いでも、三回目はさすがに俺も気絶したんだ、このお返しは……。」
「いいからブチカマセ・・・!」
そういえば大地のズボンは、……穴がぽっかりと開いているのだった。
「いや~、私、大地くんから、……おか・される~~~!!」
「観念しなさいよね、私、JKの胴元もしているのよ。」
「翠、俺の子を産んでくれ!」
「ギャ・イヤサ~~!!!」
翠は大地の玉側に落ちてしまった。後ほど私は大地から怒られるのだ、
「玉側は多摩川だろうが、文字が違うだろう。俺は美保から見られていたんだぞ!」
美保は色々と注意していたというのに、喜んで翠で遊んだ私と大地は、敢えなく狙撃されて倒れてしまう。本当は、そう、私の方がバカだったのだ。
それからというもの、私は欽次郎に攫われてしまい、大地と欽次郎と美保は、カムイコロさんによって病院送りにされていた。
私が攫われた事により、この暴走族の争いごとは収束した。この場に倒れていた男と少女Aは警察に逮捕されている。碧は対岸へ泳いで逃げて無事だが、少女Aは翠だった。桜子お婆さまとホロお婆さまは、全身まっ黒けになって遁走した。これだけの銃撃戦をやっていたら、いくらお爺さまの力があっても庇うことは不可能だろう。
撃たれた三人は重傷だろうか、薄れゆく私の意識の中では、美保だけが可愛そうな顛末になっていたが、事実はどうだろうか……。私の意識は遠のく。
(あ~、本当に予想したように今日でお別れ……なんだな、もう会えないのか。きっと読者も苦しんで読んで、そうして私の悲劇の結末で喜ぶんだわ!)
序でに、下卑た声も聞こえてくる。それは私を捕らえた念願の感謝の声に聞こえた。女の喜びの声も続いている。
「お父さん、ようやくでしたわね!」
「あぁ、お前にも苦労をかけてすまなかった。」
(お父さん? 親子の会話なのかな、だったら首謀者と藍ちゃんが居るのかな?)
あぁ~、私の行く末が……どうなるのよ~!!
「ねぇ~、残った双子の六人と人狼の二匹はどうするの?」
「それは、来年だよ。この巫女から全部の血を抜いてやるのが、仕事納めさ。」
「だったらお父さん、早く逆さ釣りにして盥を据えて血抜きをしませう。」
「そう急ぐな、ウッシッシー……。」
私は本当に足にロープを掛けられて宙づりにされて、それから首から血を流す感じに襲われた……。(私、死ぬのね! クロ、私を天国に連れてって!)
ゴーン、ゴーンと寂しく聴こえる除夜の鐘……。
少しHで、最後は怖い……よね? でも、いいわ、このまま更新よ!




