第10部 面食らったか……新任教師
登場人物
明神 未来
雨宮 藍
立花 碧
立花 翠
田中 大地
杉田 創先生
木之本 桜花先生
ソフィア
1968年4月8日(昭和43年)東京都・
*)自己創作、算数の試験
入学式の翌日は一時限目が数学だった。真新しい教科書をペラペラと捲りながら先生を待っていたら来た! 私はすかさず声を出していたのだ。先生は教壇に上がる前に立ち止まりクラス全員に目をやって歩を進めた。
「起立……礼、……着席!」
「おはよう……なんだ、こんなのは教壇に立って初めてだ。もう、決まっていたのか!」
「何がでしょうか、」
「クラス委員長だ、女がなったのかな。ま、いい……。」
私の号令で先生の行動が鈍ったのか少し動きがぎこちなく、用紙の数枚を床に落としてしまう。前屈みで拾う姿で言うのだから少し聞きにくい言葉となった。意外と年寄りに多い所作なのだよね。
「いいか~……お前らの実力を知りたいので今から筆記試験を行う。」
「え”~!」
「制限時間は三十分だ、まず用紙を後ろに回せ。」
「ふぁ~い!」
「なんだなんだ、まだ目が覚めてはいないようだが、時間中は寝るなよ。……で、最後は横に渡せ。」
この先生は自己紹介もなく、教壇に立った一言目が冒頭の言葉だった。試験勉強からようやく解放されて高校に入学したというのに、のっけから試験だ。それも初授業が試験だというのだ。ある男子が手を上げた。(挙げるは間違い)
「先生、この問題は解けません。なんですか、ミスプリントでしょうか。」
「いいやこれでいい。谷口が言う意味は数字との間が空いているからかな。」
「はい回答が出来るのもありますが、それでは簡単過ぎます。」
「ほほう簡単だと言うんだな、今、黒板に例題の数式を書くからな。」
この先生は目が光っているように見えたから珍しい熱血教師なのだろうか。とりあえず先生は三つの例題を書き終えたがやはり数字と数字の間が空いている。そう言えば何だか可笑しい事に気がついた。この先生は迷いも無く生徒の名前を述べたのだから、生徒全員の名前と顔が一致している? のかな。先ほど質問した谷口という男子もキョトンとしていて、この先生は出席をとるでもなく話始めた。
そして不思議な事に黒板の最初の文字が「回答せよ」なのだ。試験には解答という文字が使われるはずなのにな。
「三十分だ、いいか。この例題からすると、この空間に六を書き込んで二次方程式を回答するんだが、ここに当てはめる数字は、一以外の二から九を入れる。次問には0は無しだ。いいか、三問目はゼロから九十九までの任意の数字でいい。」
「先生なんですか、このデタラメな問題方式は!」
「おう俺は先生だとも。あははは……面白いだろう。自分の学力に似合う数字を入れて計算して答えを出す問題だ。これなら全員が百点を取れるのではないのか?」
確かにこれだと計算し易い数字を書き込んで回答すれば簡単なように見えた。だが先生の眼光は光を増す。
「確かに任意の数字を入れるのだが、桁数を増やせばそれだけ回答が難しくなる。俺だって大変なんだぞ、考えてもみろ。お前ら全員の未知の答えを導く為には俺だってお前らと同じように、苦労して計算し解答の採点をするのだ。俺はお前ら以上に大変だとは考え切れないのか。」
あ、確かにこの得体の知れない問題には、全員の回答が同じになる訳はない。先生は答えを間違わないように、二度くらいは見直すのだろうか。
「俺を懲らしめたいのなら思いっきり数字の桁数を書き込め。テストの仕返しだと考えてなアハハハ……。」
「先生ノートで計算しますが、よろしいでしょうか。」
「あぁノートは自由だ。何なら教科書も使っていいぞ。使えるならな!」
「先生、意地悪です。とにかく採点が楽になるように頑張ります。」
「いいぞいいぞ……全員で俺に挑んでこい。受けて立つ。」
『うふふふ……、』と、私は薄ら笑いが出てきたのだった。私は、
「先生、覚悟しておいて下さい。」
「おう白…川だったな、いいぞ任せておけ。それで俺に苦しませる方法を思い付いたのだな?」
この先生は本当に名前と顔を一致させている。私の白川というのも分かっていたはずだが、妙に間が空いていた。きっと私の表情を読み取るのが、それだけ時間が掛ったものと思われる。一瞬だが顔が引きつる。あ、さっきの号令の声と今の声を脳みそで照合していたのかもしれないと後で思った。
「はい……でも、怒らないで下さいね。」
「ほほう自信があるのだな、……いいぞお前らも俺に挑戦してこい!」
「は~い、」
「質問が無ければ、5分も…… 過ぎた……始め!」
私は問題用紙を一瞥した。「な~んだ、先生の名前は最後に書いてあるのか!」「杉田創」と書かれた三文字。丁寧に(すぎたはじめ)とルビも振ってあった。
先生なんかは口頭で名前も述べていたんだな、この変人!
「ようし思いっきり数字を入れて問題を創るぞ~。」と考えたその瞬間、過ぎたと杉田、それに名前は、始めと創が重なった。瞬間……遅かった、私は思いっきり笑ってしまったのだから。
「アハハハ……先生は既に自己紹介されてあったのですね。」
「わぉ、俺を早速バカにしやがって、お前にクラス委員長を頼むとするか。」
クラスの皆は意味不明でキョトンとしている。
「そういう意味じゃ……ありません、すみませんでした。」
皆は、「な~んだ、ここに書いてあった。」と言って安心したようだ。だが杉田先生はニヤニヤと笑っていた。
「杉田か、私のお爺ちゃんの名字と同じだな。笑っちゃった。」
と私は呟いた。
それから私は多くの桁数を入れて計算した。確かに難しい、心の叫びは、「う~……。」唸っていたらしい。独り言は自分には聞こえないようなのだから、隣の席の女子から注意を受けてしまって反省した。
「わ~ごめんなさい。以後、謹みます。」
「とても気が散りますのよ、もうやめてくださいね!」
「は~い、もういたしません、」
「アハハハ……。」x2
そう言って笑えば友達になっていたし名前が素晴らしかった。明神さんというのだからきっと前世は神だったのだろう。終始ニコニコしているのだから、毎日(拝む)。
「白川さんね、よろしく。」
そう言った明神さん、何だか私を観察していたようで時々だがクスクスと笑っていたんだよね、なしてや。
さ、時間を巻き戻して……巻き巻きするのよ。
「よ~し30分過ぎた。全問回答が出来たかな。」
そう言いながら杉田先生は教壇を下りて私の所に来たのだった。
「俺は白川の本音を早く知りたくなった。どれ……寄越せ!」
強引に突き出された腕に私はおもむろに手渡す。
「どれどれ……ん~これは問題だ。この最後の問題がウソだったら怒るぞ!」
「試験問題です、回答して下さい。」
「職員室に戻ったらいの一番に計算してやるよ。それにしても……他の問題は……雑魚だな!」
「どうせ、雑魚です。」
「ほら後ろの方から前に解答用紙を上げてこい。ボサッとするな。」
ある一列が途中で止まった。
「こら田中、やめるんだ。ちゃんと名前を書いたか~ぁ?」
「今書いております。」
「そうか、……どうだった。これは一律に問題を配付するのとは違う。創作だよ、これが俺ら教師の仕事だ、どうだ、分かったか!」
「せんせ~い、ずるされたのですか?」
「わははは・・・・。」x43
「こら! バカ言うな!……それと忘れさせてもらったが俺が担任だ。」
可笑しな事を言う先生だと囁かれてさらにクラスから大笑いが起きた。この教室は45人制だ。釘を刺されたような感覚を受けて私は笑えなかったのだから。
県立高校のクラスメイトは四十五人、一人だけ違うのだが男女同数なのだ。これは男を優先させて合格させた結果である。数クラスあるのに全部のクラスが男女同数とかそりゃ~ないしょ。
チャイムが鳴って杉田先生は私を見てクスリと微笑んだようだった。
「あ~私、いらない事を言ってしまったな~。私は今後睨まれるのだわ~。」
「ちょっと白川さん、よろしいでしょうか。」
「はい?」
「貴女、独り言は五月蠅いでしたわ!」
「はい~?」
これからは先ほどの展開になるのだ。
「面白い先生だわ……。」
「そうね面白いね、もう決定ね?」
「えぇ?……何が……。」
「クラス委員長よ。もう全員の了承を得ていると思いなさい。」
「え~やだ。断固辞退する。」
「ここには民主主義という暴力も存在します、諦めなさいな。あ~初の女子の委員長か~!」
「やだやだやだ、や~だ。」
「それに田中くん……貴女を見つめているわ。田中副委員長は決定ね!」
「う……ヤダ、」
「く~あの杉田先生、一限目はホームルームだったよな。どうして数学になった。他のクラスはホームルームなんだぜ。」
「黒板に書いてあるから……。」
隣のクラスから戻ってきた男子がそう言って入って来た。そう言われて黒板の教科の時間割が一限目と五限目の文字が他の文字と違っていた。
「誰だ~先生のスパイは!」
「宮地君で~す。朝一番に書き換えていました~。」
当の宮地本人は居なかったので戻って来て問いただされて、
「うん今朝校門で頼まれたんだ、俺は理由は知らないよ。」
「んな訳無いだろう。」
「それと、これ。副委員長の仕事だって。」
大きな紙を丸めて持っていた。
「ケッ、時間割の張り紙を作れかよ。おい、副委員長は誰だい。」
「ホームルームで決まるのでしょうよ。」
もう各々が自分勝手に話し出していた。
「うん、とても楽しいクラスになりそうだ。」
「そうだね、孤高のお姫様!」
「え”?……明神さん、なぜ知っていますの?」
やはり明神さんは私を見つめて観察していたんだわ、すると黒幕は藍ちゃんね。この明神さんがこの学校を受験していたと言うのも何だか解せないのではないだろうか。この疑問は少し頭を擡げたものの直ぐに頭からは抜け落ちたのだった。
一限目の終わった職員室では、
「杉田先生、あの子はどうでした?」
「のっけからやられたよ参った。どうしてあれが入学TOPでは無いのだ。」
杉田先生は白川の回答の計算を始めていた。にっこりと笑う女の先生は木之本という、実年齢は二十歳の先生だった。
「こんな難しくなる数字を入れやがって、……まだ不正解が出ていない……。」
「杉田先生、二限目はどうしたのですか、……、」
「あ~しまった、失念していた。」
そう言って職員室を飛び出して行く、それも二人揃って……。実に笑えない。
「木之本です、よろしくね。……え~、マヨネーズ、ヒノモト、ジャパネーズ、イングリィッシュ、テーチャ、」
「み・な・さ・ん、ワタシ、ソフィアよ、木之本さんの助手で~す、ヨロピク!」
「え”~!!??」




