犠牲
栄はたちは玄関の外に出て、話し合っている。
「じゃあな。今日はありがとう。」
「送って行こうか?」
「あはは、それはか弱い女の子にやってやるやつだろ。私は強いからな。」
「関係ないけど。」
「まぁ、いいよ。私も今日歩いて帰りたいからな。」
「そっか、それなら俺がいたら足手纏いにもなりかねないから、やめとくよ。」
「うん、じゃあな、本当にありがとう。」
「キ、キ、キ、キ、キ。」
栄とブロッカーはゆっくりと高嶺の元を後にする。それを見送った高嶺は自分の部屋に入って深呼吸した。
「おまえら、出てきていいぞ。」
2人の男性が現れる。
「高嶺さん、高嶺さんのプロポーズを聞くためにここにいるわけじゃないんですよ?仕事、仕事してください。」
「あぁ、悪いな。」
「こちらが得られた情報は、あの栄が爆発に巻き込まれたこと。その理由は不明。ブロッカーはかなり高い知能があること。栄が惰性でこの仕事を続けていること、が今回の主な収穫です。」
「なぜあの栄が爆発に巻き込まれたのかを聞き出すのが高嶺さんの仕事なのに高嶺さん詳しくは聞かないと行ってるし。」
「まぁ、なかなかな。」
「国の方針に異論があるのは分かりますが、これは栄さんのためでもあるんですよ?」
「わかってる、でも、今聞くのは野暮だと思ったんだ。」
「しかし、国は栄さんのことを快くは思っていません。情報を得られなければただの戦闘兵器に改造されてしまいます。」
「そうなると、かなりの戦力を国は敵に回すことになるからそうはならない。」
「分かりません。国は最近新しくサイボーグを開発したと言っていました。そのサイボーグがどう栄さんに影響するかで変わってきます。その形態は今までとは異なるようですし。」
「え?新しくサイボーグになった人がいるの?」
「はい、なんでも自分からサイボーグになりたいと言っていたそうです。」
「あはは、それは困ったなぁ。」
「とにかく高嶺さん、俺らも仕事でやってるんですから、お願いしますよ。」
「では、また来ます。」
「あぁ、さよなら。」
(新しいサイボーグかぁ、茜ちゃんは怒るだろうなぁ。どう説得するかが問題だな。)
男性2人は高嶺の部屋を出た直後、栄と遭遇した。沈黙が続く。
「忘れ物ないか聞きに行こうと思っただけなんだけど、わ、悪いな、話、聞こえちゃった。」
(腹をくくるか、)
「なら、栄さん。あなたがなぜ爆発に巻き込まれたのかを教えて頂けますか?」
「やだ。」
「え?なぜに?」
「こら、港、……教えてください。」
「その話をするとおまえらは新しいサイボーグを作ろうとするだろう。……さっき言ってたみたいに、自分から志願するやつなら私も文句はない。けど、私みたいに、いや、やめよう。不毛な話だ。」
「…わかりました、私たちはもう帰りますね。」
「え?帰るのか?」
「さっさとしろ。」
「わかった。」
「………」
男性は去り際に、栄の肩に手をかける。
「少しの犠牲で多くの利益、ですよ。」
栄は俯いた。
(分かってるよ、そんなこと。だから私も手を貸してるんじゃないか…)
栄の拳はミシミシと音を立てる。
「キ、キ、キ。」
「あぁ、悪いな。忘れ物は……もういいや、帰ろう。」
栄は高嶺とは会わずにその場を立ち去る。
その様子を見ていた高嶺。
(騙すのも一苦労なんだよ。茜ちゃん…)
その後、男性二人は飲食店で暇を潰していた。
「にしても、最後のあれはきつすぎなんじゃねーの?」
「ああでも言わなきゃ、仕事を辞め出すとか言い始めるだろう。仕方ないことだ。犠牲は最小限に留める必要がある。」
「にしてもなぁ、栄さんだってそれくらい分かってると思うけど、」
「後は高嶺さんがなんとかしてくれるさ。」
「ははは、他人に丸投げかよ。」