惰性
「……ん、あれ?ここは?」
栄が起きた目の前には白く広がる天井がある。横には幼馴染との写真。
「あ、茜ちゃん。起きた?」
「高嶺、私は…そうか、爆発に巻き込まれたんだな。」
高嶺は飲み物を運んできた。栄はそれをもらう。
「らしくないね。」
「何が…」
「爆発に巻き込まれるなんて。」
「まぁ、油断してたな。」
「ふーん、詳しく聞かないけど、あんまり無理しちゃダメだよ?」
「私は無理するために造られたんだよ。」
「……でも、俺は茜ちゃんと、」
「なぁ、高嶺、もう諦めてくれよ…私はおまえだけはもう苦しめたくないんだ。」
栄は頭を押さえている。
「茜ちゃん、俺を苦しめたくないなら結婚してよ。俺はそれだけで十分だから。」
「だから!無理なんだって!!」
「…無理するために造られたんだよね?」
「……揚げ足取るなよ……」
「茜ちゃん、俺は本気なんだ。俺は君をずっと見てきた。幼馴染の君を。君がどうしてそうなったのかも、君がどうしてこの仕事をしているのかも、俺は知ってる。それを知っても…いや、知ってるからこそ俺は君と一緒に生きていきたいと思ってる。」
「…やめてくれよ。私はもうこの仕事を続けているのはただの惰性なんだ。最初の目的なんかもう何もかも忘れたんだよ。」
栄はいつのまにか飲み物を飲み干していた。
「茜ちゃん、おかわりは?」
「……やめとく。」
「そう、何か食べる?」
「ん、お願い。」
「わかった、ちょっと待ってて。」
高嶺は嬉しそうに台所へ向かった。
(事故に巻き込まれて、今さっきに目覚めたやつにとる態度じゃないよな…でも、本当に私のことをわかってくれているからこそか…)
栄は横にある写真を見ながら、昔のことを思い出し始める。
(あの時からもう十年は過ぎたのか…時の流れは残酷な程に早く進むけど、傷は癒してくれないんだな…こんなこと考えても仕方ないのに、やっぱり考えてしまうのは、心が弱いからなのかな?)
栄の頰には涙が流れる。
「茜ちゃん、出来たよ。」
「…あぁ、ありがとう。」
「ごめん、何もなかったから、とりあえずおにぎり作った。」
「ううん、十分だよ。」
高嶺は大きなおにぎりを渡し栄はそれにかぶりつく。すると栄は幸せそうな顔になった。
高嶺はそれを嬉しそうに見ている。
「茜ちゃん…君の受けた傷は生涯かけても癒えるものじゃない…だから、涙を流しても良い。むしろ流してほしい。だから自分を責めるのだけは駄目だよ?」
「ん、ありがとう。」
(何で考えていたことが分かるのだろうか?)