叶わない
「というわけで、来たわけだが…ここはあれだな。人気店だな。」
ブロッカーたちは外で待機。
「どういうことですか?」
「私もここがオススメだったんだ。へい!マスター!」
「うるせぇ!オヤジさんと呼べ!!」
「な?」
「え?いや、どうかな?」
「ねぇ、店長、」
「なんだ?」
「いつものラーメン二つお願いします。」
「おう、その辺に座っとけ。」
「ほら、」
「そうみたいですね。」
栄たちは店長の前に座った。
「いつ見てもガラガラだね。」
「言うな。ギリギリなんだ。」
「いや、味は美味しいっすよ。オヤジさんすぐ怒るから。」
「なんだと!?」
「ほらそれ!!」
「あ、おう、悪いな。気をつけるわ。」
「店長ー、内装もオシャレにしよう。なんか汚い。」
「いいだろ?昔の店みたいで。」
「まぁ、たしかに今はどこでも汚れませんからね。逆に新鮮かもしれないですね。」
「そういうことじゃなくて、まぁいいや。」
栄のイヤリングがキラリと光る。
「あれ?おまえ、何つけてんだ?」
「これ?これは……婚約者の形見。」
「婚約者?ほう、おまえ結婚するのか。サイボーグはその辺縛りがないって聞いたな。おめでとう。」
「オヤジさん!しっ!」
港が店長に黙るよう促した。栄はイヤリングを触っている。
「いいよ、気にしないで。私も乗り越えなきゃいけないんだ…」
「わ、悪いな、そういや、形見って言ったな。婚約者の形見って言ったらそういうことだろうな。すまん。」
「んーん、いいんだ。でも、気にするなら値段半額で。」
「いや、今日は奢りだ。たんと食え。」
「わぁ!ありがとう!」
(現金だなぁ、栄さん。)
そのあと栄はかなり急いで食べて店を飛び出した。
「え!?栄さん!?ちょっ!あ、これ代金です!」
港は後を追う。栄は人気の少ないところで縮こまっていた。
「キ、キ、キ。」
「栄さん…どうしたんですか?」
港は驚いた。栄の目には涙が溢れている。
「私だって……うぅ…」
「……」
「みんな気を遣って、結婚した扱いをしてくれるけど…本当の結婚が私はしたかった…したかったんだよ…」
「それについては俺は何も言えないです。……気心の知れた相手に話すのが一番ですよ。」




