考え
栄は約束通り一時間後に高嶺のインターホンを押したが、高嶺の返事はない。もう一度押す。繰り返し。
「よし…丸いやつ、ん、やっぱり呼びにくいな。名前つけるか?いや、名前なんてつけたら本当にペットになってしまう。」
扉が開いた。
「いいじゃないですか、名前つければ、ふぁ〜。」
「おう、高嶺。おはよう。」
「おはようございます。はい、これ鍵です。」
「あぁ、ありがとう。」
「車ってことは遠出ですか?」
「まぁな。」
「じゃあ、飲みに行けないですね。残念です。」
「あはは、その分仕事しっかりやれよー。期待してるぞ。」
「あはは、何ですかそれ。」
「キ、キ、キ、キ、キ。」
「ボル、サン、キュー。」
高嶺は頭部が丸、三角、四角のブロッカーたちを指差して謎の言葉を発した。
「何?それ?」
「丸いからボールのボル、三角形のサン、キューブ型のキュー。」
「そんなこと聞いてない。名前つけたらペットみたくなるだろ。」
「エサとかあげてるんでしょ?ペットですよ。」
「エサあげないと家食われるだろうが。」
「んー、」
高嶺は首を鳴らした。
「まぁ、法律で無闇やたらには殺せないし、ペットにするのが得策ですよ。私もブロッカーには慣れていますから。」
「何でおまえが出てくるんだ。」
「私と先輩は将来結婚しますから。」
「いや、しないよ。」
「します。」
「しないって。」
「する。」
「私はサイボーグだから、したくてもできない。」
「サイボーグだって結婚はできます。みみっちいこと言わないでください。」
「おまえも知ってるだろ。私がサイボーグになったわけ。」
「……国を恨んでますか?」
「そりゃな。」
「はぁぁ、国の犬とは結婚出来ないか…」
「いや、そういうわけじゃないけど、」
「じゃあ、何ですか?」
「私は、その、あの、普通の、女の子、として、生きて結婚したかったのに、こうなったから、その、夢が叶わなくなってっていうか、そんな感じ。」
栄は体が赤くなっている。
「先輩、人間だろうとサイボーグだろうと先輩は立派な女性ですよ。夢ならまだ叶います。俺となら。」
「私もおまえなら、私を女としてみてくれるから良いと思ったけど、そうなるとおまえに頼りきりで悪いからな。それだけは無理だ。」
「必ず、落としてみせますよ。」
「悪いな。車、ありがとう。ほら、おまえら行くぞ。」
「キ、キ、キ。」
(茜ちゃんが俺と結婚しないっていうのは俺に気を遣ってるんだろうなぁ。母さんが世界を股にかける企業の社長だから、茜ちゃんは自分はふさわしくないと思ってるよな。確か母さんはどっちかというと結婚に賛成派か…けど親父はサイボーグのことは人間としてみてないから反対されるだろうしな。どう説得するか。)
高嶺は三度寝した。