仕事
時計の短い針は4を指している。
栄は朝早くに起き、頭はボサボサのまま用意を始めていた。
「おい、おまえら。餌だぞ。」
「キ、キ、キ、キ、キ、キ。」
栄はブロッカーにネジを一本ずつあげた。それをブロッカーは溶かしながら吸収している。
「そんなに少量で済むなら、あんなに街を食わなくても良かっただろうに。……おまえらに言っても仕方ないか。」
「キ、キ、キ、キ、キ、キ。」
「さて、仕事だな。今日は…えっと、あぁ、ここだここだ。随分と田舎だなぁ。車でも3時間かかるな。」
「キ、キ、キ、キ、キ。」
「というか、朝にこの情報送ってくるのやめてほしいな。あ、どうしよう、私の車にはおまえら三匹も乗らないしなぁ、高嶺に借りるか。」
栄は高嶺に電話をかける。
「………んー、はーい。茜ちゃん何?」
「仕事の要件だ。」
「はい。どうしました?」
「今日、おまえの車借りていいか?」
「私のですか?まぁ、いいですよ。」
「ありがとう。今日は少し遠くてな。電車で行ってもいいんだけど、ブロッカーがいるからな。」
「あー、部屋には置いていけませんもんね。」
「じゃあ、後1時間くらいで行くから。二度寝するなよ?」
「わかってますよ。じゃあ、おやすみなさい。ブツ。」
「あいつ…はぁ、」
「さて、私も顔とか洗わなきゃな。」
栄は全ての用意を済まし、家を出ている。
(はぁ、サイボーグだから、体は疲れないけど、精神的にくるなぁ。こんな時間に仕事だなんて、人間扱いされてないみたいだ。なんでこんな朝早くから仕事してあんな夜遅くまで仕事しなきゃいけないんだ。)
栄はそんな不満を顔に出しながら暗い静かな街を歩いていた。ブロッカーは金属音を鳴らしながら、街を歩いている。
「おまえらの足音、昼間は気にならないけど、この時間はやっぱりうるさいな。」
「キ、キ、キ、キ、キ、キ。」
「やっぱり、金属でできてるのか?でも、触ってみても、弾力があるしなぁ…」
栄は胸ポケットから短刀を出し、体の部分を切り取った。
「キ、キ、キ。」
「あはは、ごめんな。……こうやって切り取ってもすぐに砂になって消えるし、体は元に戻るし、なぜか刃物以外は効かないし、本当に謎だらけだ。」
「キ、キ、キ、キ、キ。」
「あら?栄さん?おはよう。」
まだ日も上りきっていない時刻にパーマを当てた上品そうな女性が栄に声をかけた。
「あ、斎藤さん。おはようございます。こんな早くにどこか御用で?」
「えぇ、主人と子供達と旅行に行くのよ。それで私はコンビニでおにぎりを買ってきたの。」
「朝早くからご苦労様です。大変ですね。お母さんは。」
「ふふ、私は楽しみがあるわよ。大変なのはあなたでしょうに。いつもこんなに早いの?夜は遅いわよね?」
「まぁ、大体この時間ですね。サイボーグなので、辛く扱っても壊れないし。」
「壊れないだなんて…」
斎藤は栄の頭を撫でる。栄は気分が高揚するが、それを見せようとはしなかったが、顔には出ている。
「うん…辛かったら言いなさいな。私たちには何もできないけど、愚痴くらいなら聞いてあげるわ。頑張って、いつもありがとう。」
「ん、ありがとうございます。」
「あなたたちもただついていくだけじゃダメよ?この子を手伝ってあげてね?」
「キ、キ、キ、キ、キ。」
「ふふ、いい子たちね。」
「じゃあ、私は行きますね。良い旅を。」
斎藤は栄とブロッカーのある姿が目に焼き付いた。それはただ虚しくある影を宿した姿だった。
(栄さん…サイボーグだって人間なのよ…頼れる人を見つけないといけないわ。それにしても…あのブロッカーたちは他のとは少し違うのかしら?ただついていくだけなんて。ブロッカーには常にエサを食べているイメージがあるけど、個体によるのかしら?)