出会い
(はぁ、学校行くの嫌だな…)
アルファは夢を見ていた。それは過去の出来事である。
「ねぇ、私学校行きたくない。」
「何言ってるのよ。きちんといかないといけないでしょ。あなたが登校型の学校がいいって言ったのよ?」
「それは、そうだけど。」
「………うん、少し頑張ってみなさいな。それでも無理だったらもう一度言いなさい。はい、味噌汁よ。」
「うん…」
アルファはトボトボと学校へ向かう。
「よう!ギリシア!」
その途中でアルファは一人の男子に思いっきり背中を叩かれた。
「やめてよ…」
「えっ?何?」
「やめてよ!!」
アルファは走り出した。
「あ、おい、」
アルファは学校に着いてからは席を動かない。
「ギリシア、ちょっと聞きたい事あるんだけど。」
「だからやめてよ。その言い方。何回も嫌だって言ってるじゃん!!」
「あはは、だって、名前がアルファ・ベータなんて珍しいだろ!これは譲れないって。」
「やめてよ!!」
「ヤダね、やめない。」
アルファは少しだけ嫌がらせを受けていた。それをしている人たちにはその意識はない。教室中から笑い声が聞こえる。
「もう、嫌だ!」
アルファは教室から飛び出してトイレに駆け込んだ。そこで栄とぶつかる。アルファは後ろにこけた。
「いたた。」
「あ、ごめんね。大丈夫?でも、あはは、何そのこけ方?」
栄はアルファがこけたのをみてクスクスと笑った。
「うぅ、」
アルファはまた飛び出そうとするが、栄はアルファの手を掴みそれを阻止した。
「ちょっと待った。ごめん、そんなに悪気はなかったんだ。つい出来心で。」
「………」
「何か訳あり?話聞こうか?」
「……いらない。」
「そう?じゃあ、私の話聞いてもらいたいな。」
栄はアルファの手を引いて、中庭のベンチに座った。
「はぁ…授業サボるなんて背徳感の塊みたいだよねー。」
「………」
「自分で行きたいって言ったんだから最後までやらないといけないとは思うけど、たまにはいいよねー。」
「………」
沈黙が流れた。
「えっ!?それだけ!?」
「何が?」
「いや、だって、話すことがあるって!」
「あ、うん。これだけ。」
「はぁぁぁぁぁ…」
「どうしたの?」
「なんでも、もう戻っていい?」
「戻るの?なんで?」
「だって、それは…」
「というか、戻れるの?」
「……ほっといてよ。」
「君有名だよ?A組に変なのがいるって。」
「なかなか辛辣なこと言うね。」
「すぐ怒るし、すぐ喚くし、みたいな。」
「それは!だって、その、」
「うん。知ってるよ。このまえ部屋の前通った時に聞いたんだ。」
「………」
「もうちょっといようよ。私も一人じゃ寂しいよ。」
「……わかった。」
「あ、私の名前は栄茜だよ。よろしくね。」
「私は、…………………アルファ・ベータ……」
「あっ、だからギリシアか…歴史の本に出てたもんね。」
「………変な名前なんだよ。だからみんなして馬鹿にするんだ。」
「へー、」
「興味ないの?」
「うーん、アルファは自分の名前のことどう思ってるの?」
「どうって、私は別にこの名前好きだけど、」
「なら、いいんじゃない?馬鹿にされても。」
「意味わかんない。」
「だって、名前なんて自分のものなんだから自分が気にいるかそうでないかだけの価値しかないよ。たとえ人に馬鹿にされたからって好きなことに変わりがなければ、その価値に揺らぎは出ない。」
「名前の価値…」
「うん。親がつけてくれた名前も他人からつけられたあだ名もそれは自分の思いの価値に起因すると思うんだ。自分が好きならそれでいいと思うよ。」
「うん、問題はそこじゃないけどありがとう。励ましてくれて。ちょっと意味わかんないけど。」
「あはは、アルファもなかなか辛辣だね。」
「栄さんには負けるよ。」
「えー、私の方がオブラートだと思うけどなー。というか、茜って呼んでほしいな。」
「茜?なんで?」
「なんでって?友達に呼ばれたらやっぱり嬉しいよ!」
「じゃ、じゃあ、思い切って、あーちゃんとかは!?」
「あ、いいよそれ!初めてのあだ名!」
「じゃあ、あーちゃんで。」
「うん、アルファは呼んでほしいあだ名とかないの?」
「私は…あーちゃんには、アルファって呼んでほしいな。なにか心地よくて。」
「うん、じゃあ、アルファで。」




