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穂積みなみと世界の謎  作者: トモロ
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3p目

「そうですよね、違いますよね……」

 アインはうなだれる。飛行ユニットを腰から外して畳んだ。

「誰かから追われてるの?」

「はい。だから、鳥さんに呼ばれてこっそりと、来たんですけど」

 どこか様子がおかしい。落ち着きがない。目線が泳いでいる。

「あの、大丈夫?」

「いえ、恐らく、もう近くに来ていると思います」

 予感は的中する。集まった生命たちが騒がしい。卵への興味はすでにない。雑談で賑わっていた彼らは、アインと同じように周囲を警戒する。

「あぁ、やっぱりバレてた」

 肩を落とすアインの先。鋭い鉄塊の先端に、誰かが立っていた。「おい! 逃げんなよシスター!」

 叫ぶ。誰かは草原に降りて走る。驚異的な速度だった。それは少女だ。もうもも達の前についた。走った地面が抉れている。土の匂いが広がる。

「急にいなくなりやがって。みなみが困ってたぜ」

 息一つ乱れていない少女には、一対の角が生えていた。(つや)やかな黒髪に赤い瞳。制服の上からでもわかるほどスタイルが良い。ももとは違う制服だが、どこの高校かはわからない。

「プリシラちゃん。もういいでしょう? 私だって暇じゃないんだよ」

「うるせぇな。そんなこと知るか。大体、なんだこいつらうじゃうじゃとよ」

 プリシラは集まった生命たちを睨んだ。あるものは怯え、あるものは逃げるように帰った。

「ねぇ神様。彼女は?」

「プリシラ・メリオノラ。黙示録の獣と人間の混血よ。大丈夫。人相ほど悪い子じゃないから」

「おいそこの神。聞こえてるぞ」

 プリシラが指差した。ネフェルーベは動じない。彼女の影に移動する。

「私達、少し困っているの。穂積みなみって子を探しているの。その子が知り合いらしいのだけど」

 呼ばれたアインは、いつの間にかももの隣にいた。縋るようにももを見ている。

「みなみだ? みなみならそこに」

 振り返る。しかし誰もいない。プリシラはおかしいなと頭を掻いた。

「……どこいった?」

 誰も答えない。プリシラは周囲を見渡す。全員が首を横に振った。ため息を吐き、頭を掻く。

「まぁいいや。それで、何に困ってるんだ?」

 ネフェルーベはももの影に戻り、背中を押した。ももはプリシラに(おび)えていた。周囲の反応がそうさせた。しかし、夕暮れの神と横のアインが答えを急かす。「実は、これなんですけど」

 卵を差し出した。絶えず変色し、動き、重さも変わる。アインとプリシラも眉を潜めた。

「なんだこりゃあ。あたしは知らねぇな。アインはどうだ」

「私もわからない。鉱石とかでは、ないみたいだけど」

「宝石たちが、穂積みなみって子に聞けって。コーリング教の観察で近くに来てるからって」

「観察って……」

「あぁ、それでアインを呼んだのか。で、お前は?」

「私? 私は夏宮もも。さっきこれを見つけて。でも検索しても出てこないし、皆に聞いてもわからないから」

「なるほどな」

 プリシラは卵を手に取った。触る。握る。小突く。透かす。齧る。舐める。一通り試して、ももに返した。

「え、ちょっと舐めたなら拭いてくださいよ」

「拭くものが手元にねぇんだよ。アインから借りな」「よければ使って?」

 アインは修道服の袖を伸ばした。これで拭けというのか。ももは引いた。

「大丈夫。このまま置いとくね」

「なんだよ気ぃ悪いな。細かいこと気にしやがって」

 卵を奪い取る。一息、ふっと吹きかけた。「うわっ」

 それはただの息ではない。風を起こし、大気を巻き上げ、小さな嵐を起こした。軽い生命は吹き飛んだ。草原が荒れる。ももとアインは支え合った。卵は乾いた。

「おらよ」

 雑に卵を放り投げた。ももは咄嗟に受け止めた。その様子を見て、どこから現れたのか、新たな少女が口を差した。

「ちょ、ちょっと、そ、ほんと」

「あん?」

 三人が振り向いた。古い三角帽子を被っている。肩で息をしていた。背丈よりも大きな箒で、身体を支えている。

「やめ、止めて、プリちゃん。はぁ。やっと、追いついた」

 弱々しく立つ彼女に、「よぉみなみ。やっときたか」と迎える。

 穂積みなみは、疲れ切っていた。

 

 

○ミナミペディア○

個人用飛行ユニット:腰に装着するブースタ。安価なものほど体重制限が厳しい。

黙示録の獣:世界を壊せる存在。世界が統一されてからは丸くなったらしい。子煩悩。

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