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空色の約束  作者: 吉乃
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木庭貞二という男

そしてもう一人、木庭貞二(きばていじ)という奴が俺らのグループにいる。

中学の時は全然目立たなかったが、中3の終わりに事件があった。

下校時間の最中、突如学校の周りにヤンキー達がバイクや車で集結した。

その数15人ぐらい。

さすがに学校中がビビッた。教師達も及び腰なのが印象的だった。

みんなが帰れないでいると、ひとり貞二が近づいていった。

そして何事も無かったかのようにその中の一台の車に乗り込みバイクを引き連れ帰っていった。

その頃の貞二はまだ髪も真っ黒で、学校支給のかっこ悪いバックを担ぎ、ズボンも引きずらない本当に普通の中学生だったから、みんな唖然とした。

その後、米倉さん達のグループが騒然となった。

「あいつは誰だ?」

とその話題で持ちきりになり、同学年の俺に聞いてきた。

といっても、俺もクラスが違うし、話した事も無いため全くわからなかった。

そして結局俺が調べる事になった。

次の日から、周りの奴に貞二について色々聞いてみたが、友達も少ないようでよく分からない。

(直接聞くしかないか…)

正直めんどくさかった。

米倉さんグループは力のある奴を求めていた。

私立の坊ちゃん校は他校からかなりなめられる。

米倉さん自身はちょっと違って、楽しくいられれば良かったしケンカが多いほうがより楽しいと思う性質だから、軍団のようなものには興味はなく、貞二については何も聞いてこなかった。

俺もその考えに共感していた。

しかも、米倉さん以外から舎弟扱いされるのも気に食わなかった。

そんな感じだから積極的に近づこうとは思わなかった。

しかし一週間ほど経った頃、貞二のほうから話しかけてきた。

その時俺は学食にいた。

学食は高校生だけが使用してよく、中学生はパンやおにぎりなどの購買部にのみ利用が限られていたが、俺は米倉さん達のいつもいる席で馨と一緒に普通にラーメンを食べていた。

馨が先輩達の水を汲みに行っている間に俺の嫌いなメンマを大量に移していると、貞二が話しかけてきた。

「今日、一緒に帰らねーか?」

先輩達の会話が止まり、一斉にこっちを見た。

それまで話したことない奴に話しかけられとまどった。

「ラブホとか行かないなら…」

と俺が答えると、先輩達が爆笑した。

貞二はバツが悪そうにしていた。さすがに悪いと思い言い直した。

「ごめん。でもおまえ唐突すぎ。俺、午後からサボっけどそれでいいなら」

と俺は答えた。

先輩達から「忍ちゃんケツは守れよ!」と冷やかしの野次が飛んだ。

貞二はなんていっていいかわからず、その場にたたずんでいる。

その時米倉さんが助け舟を出した。

「おい、あんま中坊いじめんなよ」

その一言で野次が止んだ。

「こいつ友達少ないから、仲良くしてやってくれよ」

米倉さんは柔らかな笑顔でそう言った。

こーゆー時の米倉さんはホントにいい人だ。

いじめといじりの違いが良くわかってるんだと思う。

「おい忍、こいつに何か買ってきてやれよ」

そういって米倉さんから千円渡された。

俺は貞二にラーメンでいいかと聞くとうんと頷き、

俺も一緒に行くといってついて来ようとした。

その時また米倉さんが、

「忍は午後からふけんだろ。キミも今のうちにカバン取ってこないと午後から抜けれないんじゃね?先、取って来いよ」

結局貞二は

「すんません、ありがとうございます」

と言ってその通りにし、俺がラーメンを持ってくる頃には荷物を持って戻っていた。

それっきり米倉さんは貞二に関わる事はせず、先輩達とマージャンの話で盛り上がっていた。

俺は馨を交えてギクシャクとした会話をしながら伸びきったラーメンをすすった。


その日は午後から貞二と学校を抜け出した。

ホントは池袋に行こうとしていたが、まだ親しくもない貞二と遊ぶ気にもなれずあてもなくプラプラと歩いていた。

何を話したらいいかわからず、会話は途切れがちだった。

そんな空気の中、空気を読まずに貞二に聞いた。


「なぁ、この間、やたらいかついやつらと帰ってたよなぁ。意外だな」

「あー、うん。その話なんだけど…、あれ以来、お前らのグループの人達がちょくちょく睨んでくるんだよね」


貞二が困ったような顔をして言った。


「でも米倉さんは興味なさそうだし、他の先輩達も自分から何かするような人達じゃないから、大人しくしてればまぁ問題ないよ」


俺はそう言いつつも、先輩達が貞二のバックに少なからず恐れを抱いているのを知っていた。それはあえて言わなかった。


「俺は大勢でツルむのとか好きじゃないからなぁ。特に、オレ強ぇぜオーラだす奴とは馴染めない」

と貞二が呟く。

俺はあんだけバイクや車引き連れて帰ったヤツが何を言っているんだろうと思っていると、


「だって何が面白いのかよくわかんねぇ。人から恐れられるってスゲー孤独じゃんか…」


暗い表情でそう言う貞二の横顔を見た。

そしてその言葉の意味を考えた。

確かに米倉さんはある意味孤独だと思う。口に出さずとも自然と他人を寄せ付けないオーラがある。それはいきがった態度とは違う。

関係ない人に対して無関心というか、なんというか…。

少ない脳みそで考えてた俺はいつの間にかポケットに手を突っ込んだまま立ち止まっていた。

貞二が気付き振り返る。

目が合った。

冷ややかで何に対しても興味がなさそうな、寂しく悲しげな目をしていた。

ふいに俺は思い出し、言った。


「お前、人生つまんねーんだろ…」

「あぁ…、かもな」


ちくしょう…俺の時と違ってかっこいいじゃねーか。

俺が心の中でそう悔しがっていると、


「でもさ、お前も俺と同じだと思ってたのに…、最近楽しそうだな」

「だろ?羨ましいべ?」

「…ちょっとな。だから今日話しかけたのかもしれない」


意外と素直な奴だと思った。俺はなんとなく好感が持てた。

それからたわいもない話をしながら帰った。

結局、あの事件については聞かなかった。

まぁぶっちゃけ途中からどうでもよくなって忘れてた。

だって目の前にいる貞二が俺に映る全てで、そいつは俺と似た目を持つイイ奴だった。

ただそれだけのことだった。


それ以来、貞二とは教室で話をするようになった。

だが米倉さん達の所にはそれっきり貞二が顔を出す事は無かった。

結局米倉さんは、貞二のヤンキー事件について卒業まで聞いてこなかった。

周りの先輩達は気になっていたようで、俺にしきりに聞いてきたが

「よくわかんないっす」

と答え続けたためそれっきりになった。

そしてその事件について直接貞二から話されたのはずっと後のことになる。

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