9LOVE6前の喧騒②
「おー、派手にやってるねぇ」
米倉さんは楽しそうに近づいてきた。
そして俺の姿を一瞬見た後、向き直り、群衆に向かって言った。
「はーい、みんな早く店ん中入ってー。じゃないと警察が来てめんどくさい事に巻き込まれるよー。急いでねー」
「警察」という言葉に敏感に反応した群衆は、さっきまでの光景を喋りながらエレベーターや階段を使いどんどんクラブのあるビルに吸い込まれていった。確かにみんな警察は嫌いだし群衆を散らすには一番効果的な言葉かもしれない。
周りに俺ら以外に人がいなくなった頃、ガードレールの後ろからデブが起き上がり喚いた。
「よ、米倉君だよね!俺、エデンの野原って言います。このガキまじでムカつくんすよ。何とかしてくださいよ」
「ふーん・・・。そうなんだ」
素っ気無い米倉さんの返事。
俺は体中の熱が冷めていくような暗澹とした気持ちになった。
会話で分かる。米倉さんと全然友達じゃねーじゃん。なんて薄っぺらい人間関係。こんなのが米倉さんの言う面白い世界なのか・・・。
ふと見上げると、さっきまでのフレンドリーさは全くない乾いた表情の米倉さんがそこにいた。
まるで良く出来た人形のように感情が消えていた。
一瞬の沈黙の後、米倉さんにの表情が戻り、先ほどと同じような気さくな感じで背中をおさえているデブに話しかけた。
「わりぃ、こいつ俺の後輩なんだよね。後でがっつりボコっとくわ。それでこの件無かったことにしてくんねーかな」
「え、後でボコるって・・・それじゃぁ・・・」
「文句・・・、ある?俺、謝ったよね?それともこれ以上事を大きくして今日のイベント台無しにする?責任とれんの?」
「あ、いゃ・・・、・・・結構です。それでいいです」
「そう。ありがとうな。これ、ドリンクチケット。好きに使っていいよ」
そう言って米倉さんはおもむろにポケットから紙切れを10枚ほど取り出し、デブに渡す。
「はい。あ、ありがとうございます」
「それから、コイツまだガキで尖ってるだけだから多めに見てやってよ」
そう言って俺を指さす。
俺はそのやりとりを見て反吐がでそうになっていた。
無意識にデブを睨む。
しかしデブは先程とは違い、突っかかってくることもなく、ヘラヘラと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「まぁ、米倉さんの後輩ならいいっすよ。まぁ、少し言い合いになっただけですから」
チッ、思いっきり俺に投げられてたくせによく言うわ。
上から目線のその発言に無性に腹が立った俺はもう一発入れてやろうと歩き出す。
しかしそれを察した米倉さんが俺の肩に腕を回し強引にエレベーターの方へ連れていく。
「すまん、堪えてくれ」
米倉さんは小さい声でそう言った。
これ以上揉めるなって事だった。
結局、俺と瞳ちゃんは米倉さんと一緒にエレベーターに乗せられた。
さすがにデブは一緒のエレベーターには乗ってこなかった。




