バイクと共に
そして金曜日の夜。
米倉さんと会った日からあまり眠れていない。
頭で考えるより先に行動するタイプの俺には考えているだけという日々は苦痛だった。
だが、誰かと遊ぶ気にもなれず1人でいた。
外出といえば真央の病院の前まで行ってはタバコを一服して帰るという程度。
飯も食わず、睡眠もろくに取れていないにもかかわらず、何故か神経だけは異常に研ぎ澄まされていく感覚があった。
携帯の着信を知らせるランプが光った。
1コールも経たないうちに誰からの着信か確認し電話にでた。
瞳ちゃんからだ。
「お疲れ。準備できた?」
「電話出るの早っ!私は準備できてるよ」
「そうか。今から迎え行く。駅前のコンビニで待ってて」
「うんわかった。でもどうしたの?何か怖い。機嫌悪いみたい…」
「別にそんなことないよ」
そう言って携帯を切り、家を出た。
庭に停めてある貞二のバイク。
月明かりに照らされオイルタンクが光っていた。
俺はしばらくタンクに触れたまま目を閉じた。
今まで頭の中で繰り返し考えてきた事。
仇を取ることに何の意味がある?復讐から生まれるものってなんだ?自己満足?
いや、今の俺には自分の気持ちにケリをつける方法がこれしか思いつかない。
考えが未熟で子供と思われてもいい。だけど腐った大人になるつもりもさらさらなかった。
ただそれだけ。俺がやれることをする。他の誰かから意味ないことと思われても構わない。
またみんなで笑いあえる場所を取り戻す。だから全てを終わらせる為の戦いなんだと。
静かに目を開けた。迷いはなかった。
エンジンをかけ、ライトを着けた。
そして照らし出す光の先を追いかけるようにアクセルを吹かす。
闇を切り裂き走り出した。何かを吹っ切るように。