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空色の約束  作者: 吉乃
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優しくない俺

エレベーターのドアが開く。

中には誰もいない。

俺は乗り込み屋上を目指す。

途中、ドアが開き見知った顔がどんどん乗り込んでくる。

俺はその度に笑顔を交わし話に興じる。

乗り込んでくる人たちと会話する事ばっかりですでにいる人のことなんか忘れてる。

もう誰が途中で降りて乗ってきたかなんて全く分からない。

そのエレベーターに乗り続けるには新しい人との会話についていくしかない。

そのうち一番最初に話してた人とその会話が思い出せなくなった。

最上階が近づく。

気付くと俺ともう一人だけになっている。

その人も寂しい笑顔と共に最上階で降りてしまった。

新しく乗り込む人はもういない。

ゆっくりとドアが閉まる。

人がいなくなったエレベーターではじめて呼吸をした。

屋上に着いた。

一人っきりの屋上にはただ泣き出しそうな薄暗い雲が流れていた。


目を覚ました。体中がだるい。

時計を見た。昼の11時を指している。

マルボロに火を付け大きく吸い込む。

ぼーっとした頭でさっきの夢を思い出す。

はっきりとは思い出せない。悲しい夢だった気がした。

昨日の事を考えた。

あの事件現場で俺の感情が失われていく感覚があった。

馨や貞二や真央。一瞬誰も見えなくなった。

相手の6人すらも。

そこには自分しか居なかった気がする。

ただ自分の気持ちを解放させただけなように感じる。

よく、優しいねって言われる度に違和感を感じた。

俺は「しょーがねーな」というのが口癖だ。

誰かの為に喜んでやってるように思われるのがイヤなんだ。

負担に思われたくなかった。

ホントは自分のためなんだ。

たまたま相手が喜んでくれる時はラッキーなだけ。

ホントは怖いんだ。

自分がこんだけやってるのにって思っても相手に余計なお世話と思われるのが。

だから自分のためって思ってるだけ。

今回も、俺が真央を助けに行ってよかったのだろうか。

俺が病院で一晩中待っていてよかったのだろうか。

ただ自分がそうしたかっただけなんじゃないか。

自分の卑しい部分に気持ち悪くなった。

吸うのも苦しくなりタバコを消した。

今回、真央に起ったことは俺と親密になる前のことが原因だった。

これからはどうなんだ。

俺の行動のせいで他の誰かが傷つくことはないのか。

昨日も権藤の居場所を探るためにまた新たに敵を作った。

そいつらの報復が俺に向けられるとは限らない。

だけどあの時はそんな事考えてなかった。

ただ自分の気持ちを優先した。

結局俺は誰よりも自己犠牲という言葉から遠い存在に思えた。

俺はむしゃくしゃした気持ちを払拭しようと腕立て伏せを始めた。

だんだん辛くなる。だけど止められなかった。

もうだめだと思うと自己嫌悪に襲われる。

自分の力だけで全てを守れるとは思えない。

だけど少しでも力が欲しいと感じた。

もう自分の気持ちとか誰かの気持ちとか関係なかった。

自分がどう思い、どう思われたいのかも。

そして何が正しくて何が間違ってるのかさえも。

自分を含めて俺の大事なものを守りたいとただそれだけを願った。

自分の鼓動と呼吸音しか感じられなくなるまでひたすら腕立てを続けた。


そして携帯が鳴った。

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