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空色の約束  作者: 吉乃
22/36

不安な一夜

初夏の風がゆっくりと吹いている。

時刻はちょうど0時を指していた。

病院の前のスロープにもたれかかりながら馨が携帯をいじっていた。

「だいぶ男前になったんじゃね?」

俺の声に気付いた馨が顔を上げる。

「チッ。あの看護婦のババァ。大げさすぎんだよ」

頭の包帯を押さえながら不満そうな顔をする。

「なぁ、痛み止めの薬少し分けてくれよ」

俺はさっきから頭のてっぺんがジンジンしている。

今頃になってブロック塀でやられたところが痛み出していた。

しかし馨は俺を上から下までじっくり見たあと

「どっかケガしたんか?」

と言い放った。

「おいぃ!自分でやった事忘れてんのかよ」

そういって俺は頭のてっぺんを指差した。

「おぉ、そうか」

馨はがさがさと袋を開けオレンジ色の錠剤をいくつか取り出した。

俺に手渡しながら

「脆くなってたとはいえ、あんなに粉々になるとは思わなかったよ。お前すげー石頭だなぁ」

と悪びれる様子もなく言った。

「めちゃめちゃ痛かったっつーの!意識ぶっ飛んだもんよ。今度覚えとけよ」

「わりぃ。でもまぁ、あれだ。朝のお返しだよ」

「朝…?朝って寝起きの関節技のことか?んなもん全然釣り合い取れてねーし」

「そうか?ちょっとだけだろ」

そう言って携帯をいじり続けている。

ホントこいつとはやってられん。

俺はそんなストレスを紛らわそうとタバコを探した。

ズボンのポケットに入っていたタバコがぐちゃぐちゃになっているのがわかった。

そして衝撃の事実も発覚。

「あーーーーーー!」

俺の叫びに馨も顔を上げた。

「どうした?」

「まじショック。このパンツ買ったばっかなのに…」

俺は今日の美波さんとのデートのために最近買った白のブーツカットジーンズをはいていた。

それが一連の乱闘の埃と土煙のせいで見事に茶色くなっている。

「んなことより貞二大丈夫かな?面会謝絶だろ?」

俺は泣きそうな顔でズボンをはたく虚しい努力を続けながら

「さっきマル暴のオヤジさんに会って話し聞いたら大丈夫そうな事言ってたぞ」

と答えた。

「あぁ、オヤジさんも来てたんだ。ま、当然か」

「何だ、知ってたのかよ。貞二の家のこと」

「だいぶ前に貞二から聞いたんだ。だけど忍には話さないでくれって」

「何だよそれ…」

「知らねーよ。本人に聞けよ」

それ以上馨は話そうとはしなかった。

その時、一台のタクシーが病院の前に止まった。

中から凄い勢いで人が駆け出してきた。

真央の両親だった。

父親を見るのは初めてだったが、母親はよく近所で犬の散歩をしているため多少の面識があった。

俺らは軽く会釈をした。

するとそのまま通り過ぎた父親が血相を変えて戻ってきた。

そして狼狽しながら叫んだ。

「お前ら…、お前らのせいでなぁ!娘が…、真央がどうゆうことになってるかわかってんのかぁ!」

いきなり怒鳴られて困惑した。

後ろから追いかけてきた母親が弁明してくれた。

「ちょっとお父さん!この子達は前からずっと真央を助けてくれてた子達なの!ごめんね半村くん。この人ちょっと動転してて…。」

そういって母親は何度も頭を下げた。

父親は納得いかないという顔を浮かべていたが、母親に押し出されるように病室へと向かっていった。

「まぁ、気持ちは分かるよな…」

馨がポツリと行った。

俺も同じ気持ちだった。

もちろん親になった経験なんて無いから全ては分からないだろうけど、

もし妹が…とリアルに想像しかけたが脳が拒絶していた。

今もあえて真央のことを考えないようにしている自分がいる。

馨もきっと同じ気持ちだったんだと思う。

さっきまで馬鹿な会話でごまかしていたのにそれができなくなった。

お互い無言になり、タバコを吸う本数が加速していく。

しばらくして夕子と明日香ちゃんが病院に駆けつけた。

「真央は?」

到着するなり聞いてきた。

俺らが何も答えられないでいると二人とも涙ぐんだ。

「貞二くん…は?」

明日香ちゃんが恐る恐る聞いてきた。

「かなり…、重傷。」

意識が無いとは言えなかった。

突然夕子が「わぁ」っと泣き崩れた。

「私が…、私が早くみんなに知らせなかったから…」

何て言ってあげればいいかすぐには言葉が出てこない。

夕子の大泣きする声が夜の闇に響く。

「大丈夫。貞二は殺しても死なない奴だから。明日にはケロっとしてるよ」

そう馨が笑って声をかける。

その時病院から看護師が一人出てきた。

確か俺の隣の処置室で馨に包帯を巻いていた人だ。

「あなた達、もう遅いんだから家に帰りなさい。親御さんが心配するでしょう」

四十過ぎのいかにもベテラン看護婦といった感じのその人が、腕を組み毅然とした態度で言ってきた。

すかさず馨が口を開く。

「あぁ、お姉さん。さっきはありがとうございました。僕ら全員、友達が倒れたから今日は病院にいるって親には連絡してあります」

こいつさっきババァって言ってなかったか?しかし今回ばかりは馨の口のうまさに助けられた。

その看護婦は組んでいた腕を腰にやり、しょうがないわねという表情をし

「そんなところで泣かれちゃ近所迷惑よ。さっさと中に入りなさい」

そう言って俺らを中へうながしてくれた。

あまり中まで入るのは気が引けたので入り口付近の長イスに並んで腰掛けた。

さっきの看護婦さんが近づいてきた。

「いい?おとなしくしてなさいよ。それとここはホテルじゃないんだから眠っちゃだめよ。寝るんだったら家に帰って寝るように。それから君!」

馨を指差す。キョトンとする馨。

「君はなるべくなら帰りなさい。ちゃんと休まないと高熱でるわよ。ってゆうかもう熱あるんじゃないの?」

そう言って馨の顔に手の甲を押し当てる。

「やっぱり。…ちょっと待ってなさい。」

少しして氷袋を持ってきてくれた。

その時大音響のサイレンが病院の前で止んだ。

新しい急患が運ばれてきたらしい。

突然周囲が慌ただしくなる。

その看護婦もパタパタと靴を鳴らしながら去っていった。

その頃には夕子も少し落ち着いてきた。

明日香ちゃんが夕子の肩を抱きながら

「看護師さんってかっこいいね。怖いもの知らずの馨くんがタジタジだもんね」

「うん。何かあの服着て強気に出られると言う事聞かなきゃいけない感じになるよな。今度ドンキでナース服買ってくるから明日香ちゃん着てみてよ」

「そしたら言う事聞いちゃう?」

「聞いちゃう聞いちゃう」

泣いてた夕子がクスリと笑った。

「ちゃっかり聞いてんのかよ」

馨のつっこみでみんな笑った。


夜明けが近づいていた。

夕子は泣き疲れて明日香ちゃんの肩にもたれたまま眠っている。

明日香ちゃんも夕子の頭の上に顔を乗せてそのまま眠っているようだ。

馨は顔を冷やしながら無言で痛みに堪えていた。

相当熱が高そうだ。顔が真っ赤になっている。

さすがに俺も昨日からの疲れでへとへとだった。たまに意識が飛ぶ。

「木庭くん、意識回復したわよ」

さっきの看護婦さんが二人を起さないように小さい声で教えてくれた。

寝ちゃだめって言ってたけどホントはとってもイイ人だ。

「真央はどんな状態ですか?」

「中村真央さんね…。処置は無事終わったけどその後ちょっと取り乱しちゃって。今は鎮静剤の注射打ったからまだ眠ってる」

本当は他人に話しちゃいけないことなんだろうけど、一晩中待っていた事や一緒に運ばれてきた事も考慮してくれたんだと思う。

こっそり教えてくれた。

そしてこれ以上待ってても今日は面会できないと言われた。

貞二も命に別状は無いみたいだし、いったん解散する事にした。

帰り際、貞二と真央の事をみんなにどう説明するか話し合った。

真央に関しては結局友達と遊んでて無事だったということにした。

貞二に関しては真央を探してる途中にあせってバイクで転倒し、入院してることにした。

真央が入院してる事は言わないでおこうということになった。

みんなには聞かれたら答える程度にとどめようということにもなった。

それぞれが色々な思いを胸に秘め、家路に着いた。


俺はやっとの思いで家にたどり着いた。

そのままベッドに倒れこんだ。

長い一日だった。ってゆーかここんとこまともにベッドで寝ていない。

もう色々ありすぎて頭の中がぐっちゃぐちゃだ。

もう限界…って思った瞬間眠りに落ちていた。

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