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空色の約束  作者: 吉乃
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缶コーヒーとオヤジ

病院に着くと簡単な手当てをしてもらい開放された。

処置室を出ると刑事が待ち構えていた。

「久しぶりだな、半村」

「あれ?何でオヤジさんがいるんすか?」

俺は不思議だった。てっきり少年課の刑事が来ると思っていた。

「まぁ、ちょっとな。それより最近智也とは遊んでないのか?」

「たまにっすね。オヤジさんこそ家で話さないんすか?」

「ぅむ。まぁそんなことより…」

話をはぐらかされてしまった。

実はこのオヤジさんは米倉さんのお父さんだ。そして刑事をしている。しかもマル暴。

中学時代からオヤジさんとは面識があった。まぁホントはそんなレベルじゃない。

米倉さんとバカやって警察に捕まると、俺らは少年課ではなくマルボウに連れてかれた。

暴力団対策のこの課の人達はどっちが本職か見分けがつかないほどイカつい。

そして延々とこのオヤジさんに説教を食らった後、魔の教育的指導が待っている。

警察道場でケツが痛くなるほど投げられるのだ。

おかげで、柔道を習ったこともないのに完璧な受身と少々の投げ技が身についてしまった。

しかし米倉さんとつるむ機会も減り、最近はそこまでヤンチャな事をしてなかった為、この日久しぶりに会った。

俺は、今回のことについて聞こうとするオヤジさんに

「とりあえず、のど渇いたんすけど…」

と言うと、渋々ロビーの自販機の前まで移動しコーヒーを買ってくれた。

ひんやりとしたイスに並んで腰掛けた。

救命救急の所とは違い、ひっそりとしている。

薄暗いロビーに「カコッ」という缶を開ける音が寂しく響く。

それを合図に話し始めた。

「どうゆう事になってる?」

「よくわからないっすよ…」

「分からないじゃないだろう。久しぶりに道場行くか?」

「勘弁して下さいよ。ホントに知らないんすよ」

「じゃぁ、何であそこにいた?お前が犯人の一味って訳じゃないだろう」

「貞二も真央もダチっす。ピンチだって聞いて助けに行ったんすけど、すでに犯人達はいなくて…」

「じゃぁ、何でお前や井出が怪我してんだよ」

「それは…」

俺は言葉に詰まった。ごまかすように缶コーヒーを一気に飲み干す。

すかさずオヤジさんの語気が強まる。

「いいか、もうこれはガキのケンカのレベルじゃないんだ。婦女暴行と殺人未遂だぞ。立派な刑事事件なんだ。あとは警察の仕事だ。知っている事を全部話せ!」

警察の仕事?その言葉に俺もケンカ腰になった。

「ふざけんな!真央がストーカーされている時に警察は何かしたんかよ!事が起こってからしか動き出さない奴らに何を任せろってゆーんだよ!あぁ!」

俺はオヤジさんの胸ぐらを掴んだ。

が、その腕をものすごい力で引き離された。

その拍子にそばにおいてあった空き缶がイスから落ちて音を立てたが、オヤジさんの怒声でかき消された。

「じゃぁ、ガキのお前に何ができるんだ!言ってみろ!」

ド迫力の声が廊下の向こうまで響き渡る。

救急受付から何事かと顔を出す看護師。

しかし異様な雰囲気にまたすぐに引っ込んだ。

俺は言葉が出なかった。確かにそうだ。

実際、真央の事も守ってやれなかった。しかもチャラチャラと他の女と会っていた。

貞二や馨の男気も無駄にした。

権藤も取り逃がした。

だからってもうこれ以上人任せにするのだけはできなかった。

いつの間にか、言葉にならない怒りと不甲斐なさでブルブルと震えていた。

そんな俺の気持ちを察してかオヤジさんの語気が若干穏やかになった。

「お前の気持ちもわかる。が、そうゆうわけにもいかないんだ。木庭貞二がちょっとな…」

「まさか…」

急に不安になった。

かなりやられてはいたが、頭の傷もそんなに深くはないように見えた。

ただ場所が場所なだけに最悪の事態が頭をよぎる。

俺の不安そうな表情を見てオヤジさんは違う違うと手を振った。

と同時に掴みっぱなしだったもう一方の俺の腕を放した。

「命に別状はない。たぶんもうすぐ意識も回復するだろう。まぁ、折れた足は時間がかかりそうだがな。問題はあいつの家の事だ」

俺は家と聞いて今度は怪訝な顔をした。

「お前知らなかったのか?あいつは指定暴力団木庭組組長、木庭誠一郎のお孫さんだぞ。父親は木庭興業社長、木庭一彦。要はヤクザのサラブレッドだよ」

全然知らなかった。

そして同時に貞二の中学時代の事件も納得してしまった。

単に従業員が迎えに来ただけだったんだ。

そういえば、貞二は全く家の事を話さない。

しかも俺らとは地元が違うため噂も流れてこなかった。

さらに俺らに対してそうゆう雰囲気を出す事もなかった。

俺自身があまり家の事を話したくないので、これまで貞二の家のことなんて聞こうとも思わなかった。

「だからオヤジさんがこんな所まで」

「そういうことだ」

いまいましげに言い放った。

「だけど何も知らずに友達でいるなんてお前らしいな。智也には伝えてあったんだがな。絶対あいつとは付き合うなと。組長の孫と刑事の息子が一緒につるんでるなんてシャレにならないからな」

確かに。もし米倉さんと貞二が一緒にとっ捕まったらそれこそオヤジさんの立場がない。

それじゃなくてもしょっちゅう補導される米倉さんのせいでオヤジさん的にも署内で少なからず影響はあったはずだ。

たぶん米倉さんもあえて貞二と関わらないようにしていたんだと思った。

もしかしたら、周りの先輩達にも貞二の事を嗅ぎ回るなと言っていたのかもしれない。

「まぁ、お前は昔からそんな奴だったな。智也の周りにいる奴らとは少し違ってたからな。道場で泣かなかったのもお前ぐらいだよ」

俺はこのオヤジさんが結構好きだ。俺の父親よりよっぽど男らしいし優しい。

ガキの俺らの事もそれなりに考えてくれるような包容力と余裕がある。まぁ若干口うるさいトコもあるけど。

「そんなお前だから、例え犯人を知ってても口を割らないかもな。だから心配でもあるんだ。これからはヤクザも出てくる。もうお前らの範疇は超えてるんだ。もしかしたら木庭組に呼び出されるかもしれんぞ。あいつらは口を割らそうとしたら何だってやる連中だからな。まぁ学友ということでそこまでひどくはされないだろうが、気をつけろよ」

途中から俺を脅して吐かせようとしてるのが見え見えだ。

「これは警察の威信もかかってる。ヤクザと警察、どっちが先に犯人を見つけるか。先にあいつらにとっ捕まったら行方不明者が一人増えるだけだ。そして事件は迷宮入り。その前になんとしてでも捕まえて法の裁きを受けさせなければいけないんだ」

「そんなこと言われても、知らないもんは知らないっす…」

オヤジさんはもの凄い形相で俺を睨みつける。

さすがにちょっとビビったがここで引くわけにはいかなかった。

結局何も喋らない俺に見切りをつけたのか、気をつけて行動しろと釘を刺されて帰された。

帰り際、貞二の病室をのぞこうとした。

しかし、「面会謝絶」と書かれた札の前に強面の男達が何人か突っ立っていた。

俺は諦めて病院の外に出ると、顔に包帯を巻きつけた馨が待っていた。

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