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空色の約束  作者: 吉乃
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月明かりの惨劇

俺らは街を爆走した。

いくつものテールランプをかき分けた。

途中から馨は喋らなくなった。

俺が話しかけても「あぁ。」としか言わない。

緊張感が高まっていくのを感じた。

そしてとある建設中のビルに着いた。

そこはもう何年も建設が中断しているらしく、工事用の資材や物が散乱している。

見覚えのあるバイクがあった。貞二のだ。

俺らはその隣にバイクを止めた。

エンジン音がやむとあたりは不気味なほど静かになった。

俺は転がっていた鉄パイプを手にした。

馨は積み上げられたブロック塀を一つ掴んだ。

打ちっぱなしのコンクリートの建物に足を踏み入れる。

自動ドアが取り付けられる予定だったのか入り口がやけに広い。

俺は鉄パイプを引きずりながら進む。

キィーという音が辺りに響き渡る。

「なぁ、ちょっと待てよ」

そう馨に声をかけられ振り向いた。

その瞬間、馨の持っていたブロック塀で殴られた。

いや、最初は殴られたことすら気付かなかった。

長年雨ざらしになっていたブロック塀が粉砕した。

その破片が視界の上からバラバラと降り注ぐのを見てようやく気付いた感じだ。

キーンという衝撃音が頭の中に鳴り響いた。

俺は訳が分からず、ぼーっと馨を見つめた。

「忍は寝てろ」

そういって俺を蹴っ飛ばした。

力の抜けていた俺は壁まで吹っ飛んだ。

手から鉄パイプが滑り落ち、「カンカーン」と音を響かせながら踊っているのが見えた。

馨はもうろうとする俺に近づき、

「わりぃ。だけど、真央ちゃんも忍にだけは見られたくないだろう。それに貞二が一人で突っ走ったことを無駄にはできない。後で迎えに来るから安心して寝てろよ」

そう言うと鉄パイプを握りしめ奥へと歩いていった。

カッコつけてる場合じゃないだろうと言おうとしたが不覚にも気を失った。


「オラーッ!」「死ねや!」

激しい怒声で目が覚めた。

どんぐらい気を失っていたのか。

たぶんそんなに経っていないはずだった。

「ガコン!」「パリン!」

遠くで物がぶつかり合う音がする。

俺は飛び上がるように立ち上がった。

音のする方へ駆け出す。

馨に蹴られたみぞおちがめっちゃ痛い。

二階に上がり周りを見わたす。

誰もいない。その時上のほうから物音がした。

俺はさらに階段を駆け上がった。

そしてその時飛び込んできた光景は一生忘れないだろう。

男6人が輪になって罵声を浴びせながら何かを蹴り続けている。

馨だった。その下にはうつ伏せの貞二がいた。

しかも貞二の左足は外側にありえない角度で折れていた。完全に気を失っている。

馨は体重をかけないように少し浮かしぎみにかばっていた。

男達はその隙間から馨の腹と顔を蹴り上げていた。

俺の中で何かがはじけた。

今まで感じたことのない感覚だった。

殺意や興奮といった感覚とも違った。

いや、感情そのものが消えていったのかもしれない。

何も考えていなかった。

俺は歩いて近づいた。

おもむろに一番手前の奴の髪を掴み、そのまま隣の奴に思いっきりぶつけた。

そこでそいつらは初めて俺の存在に気付いた。

そして髪を掴んだままそいつを背中から背負い投げした。

そいつは頭から地面に激突して気を失った。

仲間のチョーパンを食らった奴が後ろから襲い掛かろうとした。

俺は後ろ向きのまま蹴った。

そして反転しながらもう一方の足で勢いよく相手の顔面を蹴り飛ばした。

俺は体勢を崩し背中から着地したがすぐさま跳ね起き、

その勢いでもう一人に渾身の頭突きをかました。

一気に3人がぶちのめされた為か、残りの3人が窓際までさがった。

そこで俺は馨の方を見た。

馨は「フンッ!」と気合を入れて立ち上がった。

が、俺の足元で咳き込みながら仰向けに倒れた。

最初は暗くて分からなかったが貞二の下に真央がいた。

その上にボロ切れのような貞二が頭から血を流しながら覆いかぶさってる。

真央は仰向けで虚ろな目をし、貞二の頭をおさえて泣いていた。

真央の手とアゴの辺りにべっとりと血がついている。

馨が俺の身体を支えにして立ち上がった。

向こうの奴らも気を失ってる奴以外が立ち上がる。

2対5の睨み合いになった。

電気もない暗い建物の中で、誰かが持ち込んだランプの光が怪しく揺れる。

俺は奴らの足元を見た。

全員ひざが微かに震えている。

俺はさらに感情が冷え込んでいくのを感じた。

(こんな奴らに…)

そこでまた思考を止めた。

誰を見るでもなくその5人のかたまりにツカツカと近づいた。

一人が耐えかねたように突っ込んできた。

俺はしゃがみこみ相手のひざを避けながら脚払いをした。

前のめりに倒れこむ相手の顔に馨がトーキックを決める。

そいつは鼻を押さえながらもんどりうって倒れた。

その時、相手の一人が逃げ出した。

残りの奴らも雪崩を起したように逃げ出し、階段を降りていく。

俺は追いかけ、階段の手すりを掴むと一番後ろの奴を両足で蹴った。

そいつは体勢を崩し、前の3人を巻き込みながら落ちていった。

しかし、すぐに立ち上がると全速で逃げていく。

俺も追いかけた。その時、馨が付いて来ない事に気がついた。

その間にも、奴らはどんどん逃げてゆく。

しかし馨達も心配だった。

俺は「んがぁーーー!!」と叫び、悔しさを押し殺して3階に戻った。

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