ナイトライダー
真央に付きまとっていた奴は俺の地元の先輩だった。
俺は中学から私立だったために面識はなかったが、相当危ない奴だという噂は聞いた事があった。
常にナイフを持ち歩き、女をナンパしては車で拉致ってレイプしているということも耳にしたことがある。
俺は夕子を思い出した。あいつも真央と同じ中学だったし、バイト先も一緒だ。
何か知っているかもしれない。
前に俺の携帯を取り上げ勝手に赤外線で番号交換されたのを思い出し、電話帳を探した。
鹿取という苗字すら忘れていた俺は探すのに少々手間取った。
「もしもし、夕子?」
「もしもし」
「真央の事で聞きたいんだけど」
「よくわかんない」
「あいつに付きまとってた奴ってお前と同じ中学だよな?」
「よくわかんない…」
何か様子がおかしい。すすり泣く声が聞こえる。
「どうした。落ち着けって。何か知ってるのか?」
「もうどうしたらいいかわかんないよぉ…」
いつの間にか号泣している。俺はゆっくりと語りかけた。
「わかった。もう大丈夫だ。俺に任せろ。何があっても守ってやっから、知ってる事話してくれ」
「…違うの。貞二くんが誰にもしゃべるなって。でも…、貞二くん殺されちゃうかも…」
「いいか、このままだと最悪な状況だって考えられるんだ。俺を信じてくれ。何があった?」
夕子はポツリポツリと話し始めた。
昨日の夜、真央が無断でバイトを休んでいた事。
今日の夕方貞二から電話がかかってきて真央に付きまとっていた奴の事を聞かれたこと。
そしてこの事を誰にも話すなと言われたこと。
今日の夜には何事もなく終わってるから安心しろと言われたこと。
「そうか。話してくれてありがとう。とりあえず誰か行かせる。今どこだ?」
家にいると言われた。
俺は馨に電話し、明日香ちゃんを夕子の家に行かせてくれと頼んだ。
馨は明日香ちゃんを送り届けた後、バイクで俺を迎えに来た。
「何かわかったんか?」
「やっぱり真央に付きまとってた奴が拉致ったっぽい。今、貞二が一人で追ってるはず」
「マジか…。人数いないとやばいんじゃね?」
「いや、真央のこと考えるとこれ以上話を広げないほうがイイ」
「だな。っつーことは俺ら二人だけかよ…」
「あいつは一人で突っ走ってるけどな」
俺らの腹は決まった。
今頃貞二は必死で探してるに違いない。
「とりあえず、あいつらの溜まり場探すぞ」
そういって俺はバイクの後ろに飛び乗った。
地元の公園やコンビニでそれっぽい奴らを見かけてはバイクで突っ込む。
そいつらがビビッた拍子に、俺が跳び蹴りをかます。
いつもなら乱闘になるところだが、俺らの気迫に相手は完全に戦意喪失状態だ。
そして凄みを効かせて奴らの居所を聞く。
そんな事を3回繰り返した時、有力な情報が手に入った。
それは以外にも女の子からだった。
3回目に突入したグループでも収穫がなく次に行こうとした時、そのグループにいた女の子が追ってきた。
その子も一度やられたことがあったらしい。
涙を浮かべながらその忌まわしい場所を教えてくれた。
その時馨が一度バイクを空ぶかせ、
「おめーの分のカタキもとってやるからなぁ!」
といって、ウィリーしながら発進させた。
いきなりだったから俺は落ちそうになった。
「バカ!あぶねーし。カッコつけんなよ。落ちてたらめちゃめちゃかっこ悪りーじゃねーか!」
「ははっ、まぁ、そのほうが俺らっぽかったかもな」
「たしかに」
その時何故かすぅっと緊張が解けた。
そう、俺らなんてもともとカッコイイもんじゃない。
たぶんボッコボコにされるだろう。下手したら死ぬかもしれない。
だけどいいじゃん。こいつと一緒なら。
どんなにかっこ悪い結果になったってこいつだけは分かってくれる。
ふいに言葉が出た。
「さぁ、いこーか」
「おっ、仙道さんだ」
そうして俺らは死地に向かった。