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空色の約束  作者: 吉乃
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渋谷デート

だらだらと準備をし、約束の時間になった。

美波さんは仕事が長引いたらしく、ちょっと遅れていた。

俺はボーっと待っているのも嫌いじゃない。

ガードレールに腰掛け同じように待ち合わせをしている人を眺めていた。

みんな手に手に携帯を握りしめている。

何故かみんな不安そうに見えるのは気のせいか。

そして待ち人が来るとぱっと表情が明るくなる。

男女のカップルはもちろんだが、取引先の会社員同士でも同じような表情をするのが面白い。

普段どんな苦手な奴でもその瞬間は表情が明るくなるもんなのかな。

今度誰かで試してみよう。

そんなことをふわふわと考えていると、見慣れた人が近づいてきた。

美波さんだ。俺の表情が明るくなるのを自分でも感じた。

「お待たせ~。忍君、私服の時は全然違うね。何か大学生みたい」

「いや、今日は落ち着いた感じにしてみました」

「あ~、それは私を気遣ってってこと?ふふっ、ありがとう。どこいこっか?」

「俺の知ってるとこはガキっぽいっすよ。だから美波さんどっか行きたいトコあります?」

「ん~、忍くんに任せるよ」

ちょっとだけ思案した。

俺のレパートリーなんて、せいぜいマックかファミレスかドトールぐらいしか思いつかない。

おしゃれなバーやレストランなんて行かないし、払えるだけの金もない。

かといって今日の美波さんは会社帰りでスーツ姿。

俺は前に米倉さんに呼ばれていったことのある店を思い出した。

「ロコモコって食べれます?」

「あ~、ハワイのね。好きだよ」

「じゃぁ、そこで」

俺はかすかな記憶を頼りに歩き始めた。

幸運にも迷うことなく到着した俺らは、

店の前のメニューをちょっと確認した後、階段を降りていった。

店内は思いっきり夏だった。アロハを着た店員が元気にオーダーを取っている。

雰囲気間違えたかなと美波さんのほうを見ると、

「すご~い、何かカッコイイ」

と感動してくれた。

俺は米倉さんに感謝しつつ、店員に促され席に着いた。

ロコモコとドリンクをオーダーしたあと会話がなくなってしまった。

俺は美波さんをちゃんと見たのはこれが初めてだったかもしれない。

メイクも服も髪型も前とは全然違う。大人っぽい雰囲気に少しの間見とれた。

「何か緊張する」

困ったような笑顔を浮かべながら美波さんが言う。

「俺もっす」

そういいながら話題を探した。美波さんも同じ気持ちだったらしく

「百合がね…。」

と話し始めた。俺はちょっとホッとして話を聞く体勢になった。

「百合は最初、忍くんの事が気に入ってたみたい」

いつもこれだ。俺は全く気付かずにいくつもチャンスを逃している。

「初めて会った日も忍くんを見てかっこいいねって。じゃあ声かければって言ったらそんな事できないって。結局私が声かけることになっちゃって…」

百合さんの清楚な笑顔が浮かんだ。美波さんは続ける。

「で、番号交換したのに、忍くんは全然連絡くれないって。そのうち馨くんからよくメール来るようになったみたい。たまに馨くんとは会ってるみたいよ。んで、今ではすっかり馨くんが好きになっちゃったみたい」

泣きたくなった。昨日の馨の言葉の意味がよくわかった。

そして気付いた。おれはモテそうなだけで、実際はモテないんだと。

そんな気持ちでいるとロコモコが運ばれてきた。

「どうやって食べるの?」

そう聞かれても、俺だって1回しか来た事がない。

たしか上に乗ってる半熟の目玉焼きを潰して混ぜていたのを思い出す。

「俺もホントは1回しか来た事ないんでよく分からないんすけど、確かこう」

そう言いながらざっくりとかき混ぜた。

美波さんはしばらくそのしぐさを見つめた後、俺を真似た。

この頃、貞二達はちょっとした騒ぎになっていたが、

俺は全く気付かずに美波さんとの食事を楽しんでいた。


食事も食べ終わり美波さんとの会話もいつのまにか緊張が取れた。

「つまり、今日は馨の事を聞きに来たってことっすか?」

「そーゆーこと。百合が馨くんの誕生日にプレゼントをあげたいんだけど、年も離れすぎてるし、趣味が全然分からないんだって。忍くんなら何か知ってるんじゃないかって」

「そーだったんすか。俺、美波さんにデート誘われて、完全に舞い上がってましたよ」

「またぁ、心にもない事言わないの。でも私だってそのためだけに忍くんを誘った訳じゃないんだけど…。」

何か、おかしな空気になった。

その時、俺の携帯が鳴った。俺は照れを隠すように

「あ、噂をすればっすね。馨からメールっす」

俺は一言断ってメールを見た。

「デート中わりぃ。ちょっと緊急で。何か昨日から真央ちゃんが行方不明なんだって。友達全員当たったけど誰も居場所知らないらしい。忍何か知らないか?」

俺の顔色が変わった。それを敏感に感じ取った美波さんが、

「どうしたの?」

と聞いてきた。

「すんません、俺急用できたんで帰ります。埋め合わせは必ずします」

そういって荷物をまとめた。突然の事に美波さんはとまどっている。

会計を済ませ、美波さんを駅まで送った。

途中、聞きづらそうに

「何かあった?」

と言われたので

「友達が行方不明なんす。たぶん遊んでるだけだと思うんですけど一応探してみます」

と答えた。それ以外駅まで何も喋らなかった。美波さんもそれ以上聞いてこなかった。

駅に着き、もう一度美波さんに謝って別れた。

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