半村家の人々
「あいつの気持ちも考えてやれよ。」
馨はその一言だけいってマンガを読んでいる。
俺だってわかってる。だけどどうすりゃいい。
俺に他に好きな人がいるんならそれでいいんだろうけど、そうじゃない。
今日もたいして好きでもない女と会おうとしてる。それが貞二的には気に入らない。
だからって修行僧のようにしてろってか。
それとも真央のことをもっと考えてあげなきゃいけないのか?
女を本気で好きになれないこの俺が、親友の好きな奴を好きになれる訳ないだろう。
結局答えなんて見つからなかった。
「なぁ、俺はどーすりゃいいんかな?」
俺が聞くと、馨はマンガから目を放さずこともなげに言った。
「忍が考えたって、どうしようもないじゃん。考えて行動できる奴じゃないんだし。それより今日美波さんどうするの?」
「あぁ、どうしよ。」
「てゆーか会ってくれば?俺らなんかより全然恋愛経験豊富そうだし、相談してくればいいじゃん。」
なるほど、それもありだ。
俺の少ない脳みそであれこれ考えるより、女性の意見を聞いてみたいと思った。
そのあと、俺なりに今後の接し方を考えればいいしな。
「そうするわ。じゃ、俺帰る。色々ありがとな。」
「おぅ、今度何かおごれよ。」
「今度な。」
そういって馨の部屋を出た。
実際おごった事はないんだが、お互いが常に対等でいられる合言葉みたいなもんだ。
一日ぶりに家に帰った。
ただいまも言わず、さっさと部屋に行く。
最近、親は何も言わなくなった。
もう学校と警察からの呼び出しさえなければそれでいいという感じだ。
父親はほとんど家に帰ってこない。
ゴルフ関係の仕事をしているため、週末は地方のトーナメントに行っているし、平日は次のトーナメントの打ち合わせで出張している。
一年のうち300日くらい出張してるみたいだ。
だから全く家庭の事なんて気にしていない。
母親は俺への教育熱は冷め、兄貴と妹にしか興味がないみたいだ。
しかし兄貴はこの春から国立大学へ進学し一人暮らしを始めた。俺によく言うことは
「やりたいことやるなら、やることやって堂々と遊べよ。お前は中途半端なんだよ。」
確かにそうだと思う。だからやることだけはやっている。
当面の目標は留年せずに高校を卒業することだ。
兄貴がいなくなってから母親の目はもっぱら妹に向けられている。
しかし、中学受験は俺の失敗からか、妹にはさせなかった。
その分習い事をたくさんさせている。
ピアノ、バレエ、日本舞踊、茶道、華道。
その中でも華道は中学生にして師範クラス。
なぜなら母親が華道教室を自宅で開いているからだ。
とまぁ、俺の家は絵に描いたような中流階級の家庭。
結局、この家で浮いているのは俺だけ。
俺は捨て子だったのではないかと思うときもあるくらいだ。
とりあえず部屋にあった着替えを持って洗面所にいく。
昨日から着っぱなしの制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。
バスタオルで髪を乾かしている時、瞳ちゃんからメールが来た。
「昨日は楽しかった。ありがとう。ところで真央と連絡取れないんだけど、忍君なんか知ってる?」
何て返そうか迷った。この感じだと瞳ちゃん達には何も言ってないみたいだ。
とりあえず当たり障りのない返事を返すことにした。
「こちらこそありがとう。また遊びいこう。真央の事は分からないなぁ。ちょっと心配だし、一応連絡取れたら教えてよ。」
「わかったぁ。でも私、これから撮影だからメールできないかも。逆に忍君も真央と連絡ついたら教えて欲しい。」
「おぅ、わかった。撮影がんばれ~。」
さすがにちょっと気になったが、俺が色々連絡するのもどうかと思い、そのままにすることにした。
だって今時、一晩くらいどっかで遊ぶことだってあるだろう。
その後、いろんな奴からメールや電話が来たが、どれも遊びに行こうというものだった。
その度に予定があるから無理と断った。
何でこんな日に限ってと思ったが、昨日で追試が全て終わりみんな暇なんだと気付いた。
そのうち電話やメールがウザくなり、シカトした。