朝のグレープフルーツ
メールの着信音で目が覚めた。が、ボーっとして止めるのが精一杯だ。
一呼吸おいた後、やっとの思いで携帯を開く。
「美波」
その文字で一気に目が覚めた。起き上がると地球の自転を感じるがごとくクラクラする。
隣では仲良く馨も貞二も爆睡中だ。
恐る恐るメールを確認する。
<おっはよ~。昨日やっぱりメールくれなかったねぇ。でもしょうがないか。忍君ならほかに返さなきゃいけないメールいっぱいありそうだもんね。そのうちまたメールちょうだいね>
時計をみる。12時35分。
普通の会社なら昼休みのはずだ。
<メール遅れてすいません。昨日は馨達と飲んでて、今起きました>
ふらふらの頭を使い、やっとの思いでメールを送信する。
洗面所で顔を洗い、グレープフルーツジュースを飲んでいるとメールが返ってきた。
<実は知ってたよ。昨日、馨君からメール来たもん。何か大変だったんだって?>
俺はパタンと携帯を閉じ、馨をはたき起こした。
う〜ん、と言いながらまたすやすやと寝入っている。
俺は馨の足元に移動し、丁寧に丁寧に馨の脚を交差させ、その間に俺の脚を差し込む。
そして思いっきり身体を反転させながら、関節を極めた。
「起きろ、ボケー!」
「あだ、あだだだっ!」
その絶叫に貞二も目を覚ます。
脚関節を極めたまま俺はかまわず聞いた。
「お前、美波さんに何てメールしたんだ、ゴラァ!」
「べべ、別に何も。いてーって。話すから離して」
渋々、脚を放した。
馨は脚をさすりながら、残りのグレープフルーツジュースを一気に飲み干し、息を整えた。
「別に。何も言ってないよ。ただ、昨日会えなくて残念だったってメールしただけだよ」
「じゃぁ、これは何だよ」
そういって馨に携帯を見せた。
「あぁ、それね。忍がメールくれないって言うから。友達と真剣な話してるしそんな状況じゃなさそうだよってフォーローしてやったのに」
「そんだけ?」
「そうだよ。内容まで話すわけねーじゃん。マジ痛てーし…」
「わ、わりぃ」
「もぅ、かんべんしてくれよ。ってゆーか、たまにはメールしてやれよ」
そういって馨は俺の肩を小突いた。
その時、俺の携帯が鳴った。美波さんからだった。メールではなく電話だ。
俺ら3人は暫らく携帯の方を見て止まった。
「早く出ろよ」
貞二が痺れを切らしたように言う。
俺は電話に出た。
「もしもし」
「もっしも~し。おはよう。二日酔い大丈夫?」
「まだ頭イタイっすよ。ホント昨日はすいません。今仕事中っすか?」
「いま休憩中。もうすぐ戻るけどね。それよりさぁ、今日会える?」
「えっ?今日っすか。いいっすよ。時間は?」
「じゃぁ、6時に渋谷の西武前は?大丈夫?」
「オッケーっす」
「よかったぁ。あっ、もう戻らないと。じゃぁまたあとでね」
「ウッス。じゃぁ」
ピッっと携帯を切る音が聞こえて俺も切った。
「何か…、今日会うことになった」
俺に向かって刺すような視線で見守っていた二人に報告した。
「マジか。お前はホントうらやましいよ」
馨がやってられないという表情をしながらベッドに倒れこんだ。
貞二は俺のマルボロに火を付け一息入れると、
「そろそろ帰っかな」
と立ち上がった。
俺も帰ろうと思い立ち上がった瞬間、貞二の蹴りが飛んできた。
本気の蹴りではなかったが俺は半身で受け止めた為、後ろのラックにぶつかった。
「んだよ、てめぇ!」
「うるせー!お前は片付けてから帰れや」
「何切れてんだ、てめぇ!」
俺がつかみかかろうとした瞬間、馨が止めに入った。
「まぁまぁ、イキんなって。落ち着けって。貞二ももう帰れよ。なぁ」
「おぅ…、わりぃ。…またな」
そういって貞二は帰っていった。




