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空色の約束  作者: 吉乃
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夕方の公園

結局延長につぐ延長で4時間が経ち、カラオケを出る頃にはあたりは暗くなっていた。

真央はこの後バイトがあるらしく、それまで時間を潰したいと言い出した。

どうしようかと貞二がみんなに投げかけたが、積極的な返答は誰からも帰ってこず、だらだらとその場で5分ぐらいが経ってしまった。

その時、そばを通った女性と目が合った。

見覚えがあった気がしたが誰か分からず、目で後を追ってしまった。その女性もびっくりした表情で振り返りながら歩いていった。

おれはあっと思って思い出した。

あの時ゲーセンで会った美波さんだった。

会社帰りだったのか、スーツっほい服装で同僚らしき人達と歩いていた。

お互い連れがいるので会話をする感じではなかったが美波さんが手を振ってきた。

俺はその雰囲気の違いに驚いた。馨にいたっては全く気付いてなかった。

とりあえず、はにかみにも似た笑顔を作りつつ、小さく手を振った。

「誰?」

すかさず真央が聞いてきた。

「え?あぁ、…知り合い」

「当たり前じゃん、見ず知らずの人が手振るわけ無いじゃん。そーじゃなくて。友達?」

俺は結構見ず知らずの人に手を振られる事はあった。

この間電車で窓際に立っていた時、駅の反対方向の電車から女子高生二人組に手を振られた事もあったし、米倉先輩がクラブに連れて行ってくれた時も知らない女性と目が合うと手を振られた。

「別に。友達ってゆーか、普通に知り合いだよ」

実際友達とは思えなかった。

一度しか会った事無かったし、年も離れてるからかも知れない。

「あ、もしかして彼女?」

明日香ちゃんが突拍子も無い事を聞いてきた。

普通に否定すればよかったのに、何故か慌ててしまった。

「あっ、やっぱり彼女だ〜。大丈夫?こんなとこ見られて」

女って何でこうなんだろう。ホント野次馬とおせっかいが特技だよなぁ。

「ってゆーか、馨も知ってるべ?あれ美波さんだよ」

たまらず馨に助け舟を求めた。

「は?マジ?」

おぉぃ、こいつホントに気付いてなかったんか…。

結局俺はどーゆー知り合いかはうやむやにして公園へ行こうと言った。

と同時に歩き始めたため、やむなくみんなついて来た。


途中のコンビニで飲み物とお菓子を買っているとメールがきた。

<偶然ってすごいね〜。まさかまた会うなんてね。ちょっと感動したぞ♪>

<マジ、びっくりっすね。しかも最初気付かなかったっすよ。めっちゃ大人っぽいし>

<はは、一応社会人なもんで。でも気付いてくれて良かった。気付かれずに手を振り続けてたらバカみたいだったから>

<馨は気付いてなかったっすよ。あとで教えたらきょろきょろと探してましたもん>

<え〜、ちょっとショック…。でもしょうがないか。馨くん初めて会った時も百合ばっか見てたしね>

<え、そんなことないんじゃないすか?あいつ緊張してたみたいだし。ぶっちゃけ俺も緊張してました。ホントはもっと話したかったんすけどね。美波さん達キレイだし>

<あははは。ありがとう。最近そんな事言ってくれる人いないから素直にうれしいぞ。でも馨くんが百合狙いなのはバレてるから、気にしないで。私には全然メールくれないけど百合とは結構連絡取ってるみたいだし。だけど忍君はぜんっぜんメールくれないよね>

初耳だった。あの野郎、意外とやるな。

<美波サン達は社会人だし、忙しいと思ってあんまりメールしなかったんすよ。ホントは連絡を心待ちにしてたんすけどね〜>

と、ずさんな性格をごまかしてみた。

<ん〜、分ってないなぁ。女の子からメールとかってなかなかできないもんだぞ。でも忍君はモテそうだし、おばさんにかまってる暇はないのかな?>

モテてたらこんなにカラオケ張り切らないっつーのと思いつつ、

<そうだったんすかぁ。あ〜、俺こんなんだからモテないんすよね。基本ビビリなんで。しかもおばさんだなんてそんなん全然思ってないっすよ。美波さんこそキレイだしモテそうだし。相手にされないのは俺のほうっすよ>

<じゃぁ、今度は気軽にメールしてね>

<了解っす〜。今夜にでもまたメールします♪>

<は〜い。期待しないで待ってま〜す♪>

脈があるんだか無いんだか分らない感じのメールのやり取りが終わった頃にはコンビニから公園に移動し、俺はブランコで携帯を閉じた。


タイミングを見計らったかのように真央が隣のブランコに座った。

「忙しそうだね」

さっきからやたらトゲのある言い方が気になる。

「どうしたん?何か今日変だぞ?」

「別に…。携帯見ながらニヤニヤしてる人に変とか言われたくない」

そう言ったまま押し黙った。

無言の空気に耐え切れなくなり、聞いてみた。

「そーいえば、最近貞二とイイ感じじゃん」

「…、告られたよ」

はい、地雷踏んでしまいました。

なるべく冷静を装いつつ話を続けた。

「そう。え?いつ?」

「…、さっき」

はい、すかさず2発目も。さすがに狼狽した。

「そ、そっか。でどうするん?付き合うの?」

「どうしたらいいかなぁ。忍君はどう思う?」

「どうって…。お前次第じゃないの?」

このあたりから俺の中で変な考えが頭をよぎった。

(もしかして俺に気があるのか…?)

内心ドキドキしながら真央の言葉を待った。

「それはそうなんだけど、それで忍君はいいの?」

言葉に困った。俺の中で恋愛感情は意識して持たないようにしてきた。

だから真央に対しての感情もこれまで考えた事も無かった。

俺はふいに考え込んでしまった。

見かねた真央がまた話し出した。

「忍君はすごいよね。私らに対して平等に優しいじゃん。何かホントに仲間って感じがする。でも他の人は違うもん。誰かしらに特別な感情を持っているのがたまに見え隠れするんだよね」

「まぁ、普通はそうなんじゃない?俺は優しいんじゃないと思う。人に対する愛が足りないってゆーか…」

「ううん、そうじゃない。夕子から聞いたけど、中途半端に付き合うことできないって断ったらしいじゃん。私は寂しがり屋だし、その時他に好きな人がいなかったらこの人でもいいかなって思っちゃうことあるから」

「いやいや、俺だってたまにそうゆう時あるぞ。ただ夕子ちゃんに関してもそうだけど、お前らはそうゆう存在じゃないんだよね」

「そうゆう存在って?」

「いや、何つーか、みんな揃ってる方が安心するってゆーか。それぞれが特別だから関係がこじれたり疎遠になったりするほうが辛いし」

「あぁ、何か分かる気がする」

「それより、ちゃんと貞二の事考えてやれよ。あいつだってバカじゃないからそれくらいの事は考えてるはずだよ。それでもお前に告ってきたんだろうし」

「そうかなぁ」

それっきり真央は話さなくなった。

そして俺はさっき頭をよぎったうぬぼれた考えを恥じた。

みんな普通に接してる風に見えて色々考えてる事にも戸惑った。

俺はそうゆう感情の蚊帳の外に置かれてる気がして急に自分が子供っぽく感じる。

貞二のほうを見た。馨とハイタッチしているのが見えた。

多分、馬鹿なことやって瞳ちゃん達を笑かしてたんだろう。

ふと貞二と目が合った。なにやら気まずそうに笑うのが見えた。

「それよりさっきは貞二に何て返事したんだ?」

みんなのほうを向いたまま話しかけた。

「いきなりだったし、ちょっと考えさせてって…。ホントは迷ってるの」

その言葉がみょうにひっかかった。俺は真央のほうに向き直り、

「おいおい、ホントにいきなりだと思ったんかよ。ってゆーか、態度見てれば分かるじゃん。もっとあいつの事考えてやれよ。バイクで送ってもらったり都合のいいように振り回すなよ!」

真央はうつむいたまま何も言わなくなった。

俺は言った後にちょっと後悔した。なぜなら真央の気持ちも分かる。

ストーカーに困ってる真央にとっては仕方ないのかもしれなかったからだ。

「ごめん、言い過ぎた。だけどそーゆーのって、勘違いするもんだからさ。特別な存在なんじゃないかって。基本的に男はバカで単純だから…、」

「私だって…、」

そう言って俺の言葉をさえぎった。

そして顔を上げ、こっちを見ると思いつめたような顔をした。

「私だってあの時…、忍君が送ってくれると思って話したのに!でもあなたは私を特別な存在には思ってくれなかったじゃない。…もういい、行くね!」

そう言って立ち上がった。

俺は何も言えなかった。今のが告白だったのかさえわからなかった。

真央はみんなに

「もうバイトの時間だから先行くねー」

と明るく言うと駅のほうへ歩いていく。

「え〜っ、まだ全然時間あるじゃん。どーしたのー?」

と慌てて女の子達が後を追った。

馨と貞二は俺と真央達を交互に見ながらどうしていいかわからずにいた。

とりあえず馨が

「じゃあねー。ばいば〜い」とでかい声で叫ぶ。

瞳ちゃんと明日香ちゃんが振り向いて手を振っているのが見えた。

俺らは彼女達が見えなくなるまでその場でぼーっと見送った。

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