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儚き 鮮血の運命  作者: 透坂雨音
06 無限時空の反旗者達
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17 決着



 しばらくして、破壊の嵐をもたらした本人とオマケが降りて来た。


「派手にやらかしちゃったわー、悪かったわね。すっきりしたけど」

「レミィ。勝ったのね。無事でよかった」


 声を掛けて来たのはフィーアとナトラだ。奥には、気絶したアイナを抱えるラキリアも。


 自力で動けるかどうか分からなかったが、なるほど結局こいつらが運んでいたのか。

 逃げてろと言ったのに。


「邪魔にならなかったんだから、文句言わないでよ。助かったでしょう? 汚名返上よ」


 結果を見ればな。


 聞けば、フィーアはライトに裏で奴隷契約を結ばされていて戦力外へと追いやられていたらしい。

 信用を防いで勝ち取り、魔人である事を忘れさせていた事をかなり恨んでいる様で、我慢できなかったのだが、助かったには助かったがあやうく味方にミンチにされる所だった。


「はぁ……」


 思わずため息が出た。


 空気が弛緩しかける。

 だが悪い物ではない。これからの事や、レミィへの褒美やら、例を言わねばならない事やら、そんな幸せな未来の事を考えて、だったから……。


 しかし、そこに足音が近づいてくる。

 

「はは、知ってるかいアスウェル。この地下水道は、帝国の地下道のすぐ隣を走ってるんだよ。君達は一つ見逃してるよ。グラン・ロードの存在を……」


 ライトだと思った。けれど、違う。

 そこにいたのはクルオだった。


 アスウェルの友人で、お人よしの薬学士。陰謀や争いなどには縁のない。人間……。そのはず。


「今、起動させたよ。壁を壊したら、もれなく皆毒で死んでしまうだろうね」


 そう言って、右手をついている壁を、軽く手のひらで叩く。

 クルオの発した声は聞いた事のない、暗い響きを纏っていた。


「クルオ……」


「くく、あはは……。君はなぜ行く先々に僕が現れるか不思議に思った事はないのかい? タイミングが良すぎるじゃないか。いくら心配性な友人だと言っても限度がある。おかしいと思わなかったのかい? そもそも、君はどうして自分の家族が禁忌の果実に狙われたと思っている? 答えは簡単さ」


 クルオは壁に付けていた手を放して、懐から銃を取り出し、こちらに向ける。


「僕が禁忌の果実だからだよ。クレファンが攫われて、家族が殺されたのだって、僕の手引きのせいさ。君の前にいちいち現れるのたのは、追いついたんじゃない。最初から見張ってたんだ」

「アスウェルさん……」


 知らされた内容に、レミィがこちらを案じる様に窺ってくる。

 だが、それにアスウェルは、頭を撫でる事で応えた。


 今更。

 本当に今更な疑問だ。


 今まで、たった一度もアスウェルが考えてこなかったとでも思っているのか。


 クルオが敵かもしれない。

 ……なんて、数えきれないくらい考えた。


 冷静に考えてみろ。

 行動が怪しすぎるだろう。

 

 巻き込まないように一人で行動しているにも関わらず、行く先々に都合よく表れてこちらを止めようとしてくれる友人。情報屋にも口止めしておいたのに、いつの間にか位置情報が察知されている。

 これでおかしいと思わない方が、異常だ。


 だが、その度に思う事があるのだ。


「クルオ、お前の言葉は嘘だな。お前はただのお人好しの馬鹿で、俺の腐れ縁だろう」

「……」

「馬鹿にするなよ。何年お前と共に過ごしてきたと思っている。つまらない小細工をしたくらいで、俺を欺けると思うな。大方、誰かが成りすましてるか、操られているかの二択だろう」

「くそ……」


 クルオは、いや、クルオの皮を被った何かは悪態を付いて、繕ていた仮面を取り外した。


「痛みを緩和する暗示を教えてやると言って、間抜けな顔した薬学士が引っかかった時はいい拾い物だと思ったのに、案外使えなかったな」


 それは、クルオ本来の口調ではなく、冷めた物言いに変化していた。


「クレファンも殺せなかったし、この巻き戻りは僕にとって不利すぎる。もう一度やり直そうかな」


 ライト。あんな攻撃のなかでまだ生きていたのか。

 しかも、その物言い。まるで二年前まで巻き戻っていたみたいじゃないか。


「レミィがいた拠点にクレファンがいなかったのは、お前が何かをしたのか」

「まあね、時期に分かるよ。二年前に巻き戻った時に、その場のすぐ近くにいたんだから僕は運が良かった本当本当」


 そんなに前に戻ったのに、なぜお前は今まで何もしてこなかった。


「だって面倒臭いじゃない。最初から頑張るよりも。最後に横取りした方がさ、楽で良い。それにどうせやり直したら、なくなるんだしさ」

「……」


 はっきりと分かった。

 こいつとはおそらく永久に分かり合えない。


 ライトは動こうとするが、しかしレミィもアスウェルも続いた言葉に対処をするのに躊躇ってしまった。


「ああ、そうそう。この体はちゃんとクルオだよ。だからアスウェル、レミィ。そうやって血を昇らせて襲いかからないでくれよ。契約を応用して乗っ取ってる状態なんだからさ。僕の元の体はボロボロ

で使い物にならないからねぇ」


 そう、告げてクルオは宙から剣を取り出して、壁へ。


 制止は間に合わなかった。

 一瞬の間の後、固く分厚いコンクリートは砕けてしまう。


 その向こうに、ずっと探していた少女がいた。

 クレファン。

 アスウェルの妹。

 成長していないけれど、確かにそうだ。

 見間違えるはずがない。


 けれど、違う。

 中身は別人だ。

 死神の衣装を見に纏って、長槍を手にして立つ少女は……イクストラだ。


「選びなさい」


 そう、口ずさむ。

 結局手は貸してもらえなかったのか。


「運命を収束させる方向を」






 毒が満ちる。

 濃紫の霧が襲い掛かろうとして、けれど寸前でレミィの風の魔法でせき止められていた。


「はは、いつまでもそうしてるわけにはいかないよね。さあさあどうする?」


 だが、その範囲から逃れたクルオが走り去り、壁の中へと消えていってしまう。


「クルオ!」

「クルオさん!」


 やられた。

 あいつは駄目になったこの歴史をやり直す為に、クルオを道ずれにするつもりなのだ。

 そして言っている、助けたい人間を選べと。


 レミィは無事だった。このままいけばこの世界は抜けられるかもしれない。


 が……、クルオも見捨てるわけにはいかない。クレファンも。


「こんな所まで来て、失ってたまるか」

「駄目です」


 レミィが引き留める。


「アスウェルさん、……言ったじゃないですか。一人で頑張らないで。一緒に戦うって」


 ああ、確かに。

 

「そうです。ライトさんがどこかで言っていた。ヒント……石があれば。時計を貸してください。早く」


 説明するのももどかしいレミィはこちらからアスウェルの時計を奪い取った。


「何をするつもりだ」

「中和します。あれは私が作ったんです。毒だって、設計と逆に力を吸い出せばできないはずじゃない」

「待て」


 こちらを向いたレミィは、安心させるように笑顔を作った。

 

「この世界では誰も欠けちゃいけないんです。だから私は私にできる精一杯をしてきます。アスウェルさんは信じて待っていてくださいね」


 伸ばした手は、届かなかった。

 勝手にアスウェルの時計を抜き取ったレミィは、こちらを風の魔法で地下水路の奥へと吹き飛ばしたからだ。


「いくな……!」


 制止の声は届かない。


 駆けだした少女の姿は、壁の奥へと消えて行ってしまったからだ。


 遠くなって行く背中は、霧に霞んで見えなくなる。













「選んだのね。本当にそれでいいの?」


「はい。待っていてくれてありがとうございます。」


「この世界を書き換える起点は、誰も死なない事。気が付いたのかしら。それとも勘?」


「いえ、私は難しい事はよく分からないので。でも、たぶん願いだと思います」


「そう、らしい答えね」


「私とアスウェルさん、そして皆の願い。叶えるのに力が必要なんです、協力してください」


「ええ、そう……。貴達二人のその言葉を待っていたわ。いなくなった、いるはずだった存在である私を求めてくれるのね」




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