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儚き 鮮血の運命  作者: 透坂雨音
06 無限時空の反旗者達
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15 屋敷の攻防開戦



 帝国 屋敷


 ラキリアの案内で、アンダー・ホールを移動していく。

 途中でいくつか分帰路があったが、それでも迷わずに目的地に向かう事が出来た。


 屋敷に戻った時は、人気のないその様子にいくつもの巻き戻りの最後の光景を思い出してしまい、背筋が冷たくなったが、すぐにそうなっていた理由が分かった。


 玄関でフィーアが倒れていたからだ。 


 助け起こすと、強がりながらも苦笑いが返って来た。


「あはは、レン達を逃がした後、欲かいてこのざまってわけ。つっよいわね、アイツ。そんな顔しないの。大丈夫よ、見た目ほど酷くはないわ」


 減らず口が叩けるなら、命に別状はないのだろう。手加減されたのだろうか。

 屋敷に人気が無いのは使用人達が逃げたからだ、考えてみれば当然か。少し焦っていた様だ。


「だって、ライトってアタシのお得意様や可愛い店の従業員を散々苦しませてくれたんでしょ? どうしてもやっぱり、一発殴ってやりたいって思うじゃない? 結果はこんなだったけど」


 その従業員の一人であるレミィが声を詰まらせた。


「フィーアさん……」

「いたた……。アイツ等は中庭に向かったわ。行っておいで。決着はアンタ達が付けろって言う天の導きなんじゃない?」


 小さな頭を優しく叩く様にして、フィーアは元気づける。

 レミィはそれに、己の頬を叩いて応じたようだ。


「そうですね、はいっ。任せてください!」


 痛みをこらえて呻くフィーアにラキリアとナトラを頼んで、その場を離れようとするのだがが……アルウェルはふとつい先ほど述べた彼女の言葉が気になって振り返る。


「あいつ等……?」


 複数形だった。フィーアは確かにそうさっき呼んでいた。


「あは、そこ気づいちゃうのね。情報屋見習いに雇ってあげてもいーわよ」


 謹んで遠慮する。

 今のはそっちの脇が甘かっただけだろう。


 フィーアは、底で屋敷の中庭のある方角を見つめて、先ほどは言わなかった人物の名前を口にした。


「クルオが、いるわ……。どういうつもりだか知らないけど。気を付けて」







 中庭に向かうと、もう二度と見たくないと思っていた人間の姿があった。

 顔を出さないものだから、てっきりこのまま関係なくアスウェル達の物語から退場してくれるとばかりに思っていたのだが……。


 そして、ライトの前に立つのはもう一人の人物。

 クルオではないそいつは予想していた人物ではない。ショートカットの赤い髪の女だった。


 全身傷だらけで立っているのがやっとと言った様子の彼女は、それでも力強い光を秘めた視線を相手に注いでいた。


「あれ、あの人って……。どうしてここに」

「やっと来ましたか。遅いですよ」


 こちらに声をかけてくるのは、この場にいないはずの使用人のコニーだった。


「肝心な所で抜けているのは相変わらずですね」

「どうして、コニーさんがここに?」

「後で話します。屋敷にけが人がいるのでしょう。そちらに向かいますから」


 たんたんと答えるコニーはやるべき事をやれと言わんばかりの様子で、屋敷の内部へと向って行ってしまった。

 そんなやり取りでレミィの声に気づいたのか、中庭にいたその人物……アイラが表情を明るくする。


「間に合った。私の勝ちだね。ほら、時間稼ぎくらい一人で十分だったでしょ?」

「やれやれ、元の世界で大人しくしていれば良かったのに、こんな所まで出張って来るなんて、君って本当にレミィと同じでお人好しだよね」

「それはもう仕方ないかな。カエルみたいにどこでも跳んで行っちゃうのが私の長所みたいだから。これが済んだらアクセル君達のお手伝いもしなきゃいけないし、大変だな」

「ははは、何だい? その言動、頭の悪い主人公みたいだ」


 ライト。奴の事など良く知りはしないし、知ろうとも思えないが、それでもそのやりとりの時ばかりは、苛立ちのようなものを感じれた気がした。

 よっぽどその女性の存在が予想外だったのか、腹の立つ戦い方をしていたのか。

 どちらにせよ、冷静さを削いでくれたのならありがたかった。


 剣を持った金髪の侵入者は、赤髪の女性ライトへと距離をゆっくりと詰めていく。


「あの時……ヒョウリの手によって友達を攫われた時、凄く後悔したよ。私も、コニーも、他の皆も。取り戻しに星の部屋の中まで行っても力が及ばなくて、結局は逃げるしかなかった。私あの時、すごく悔しかったんだよ? でも……、人の力をなめないでね。貴方みたいないい加減な登場人物に負けるほど、私や皆の抱えて来た思いは弱くないもの」


 すぐ近く、目の前に立つライトを見つめるアイラは、きっとその姿を睨みつけると……、


「……やっ」


 懐から引き出した魔石を辺りにばらまいた。


「まさか……」


 一瞬、視界を埋め尽くすような閃光が周囲に広がって、爆炎が轟いた。

 自分もダメージを受ける事前提で、至近距離から必殺の爆発を放ったのだ。


「きゃ……っ」


 アスウェルはその場から吹きすさぶ爆風から、レミィを庇う。

 満ちた煙幕が晴れるには数秒かかるだろうと思ったが、聞き覚えのある音と共に、煙のカーテンが視界から一気に晴れていった。


「そんな……」


 そこにある光景を見て、レミィが息を呑み悲痛な声をもらす。


 後に残されたのは爆心地で剣を振りかぶった姿勢の、多少すすけた姿をしたライトと、その場に倒れるアイラだけ。


「……っ、やっぱり手ごわい。でも、強がってる、よね。右手ちゃんといれたから」


 最後にそう言い残して意識を失わせていった。


 剣を握る手を見つめて眉を顰めるライト。少しだけでもダメージが通ったのか。

 だが、それも無視できないほどではなかったらしく、表情を戻して奴はこちらに矛先を向け……。

 悠然とした態度になって、歩いてくる。


「さて、邪魔者は退場したようだ。待ちくたびれたよ。予定では終わらせて出迎えるつもりだったんだけど、歓迎の準備ができてなくて申し訳ないね」

「そんなの、のーさんきゅーですよっ。ライトさん、もうこんなひどい事は止めてください」

「こんな事って言われても、僕は別に悪い事をしてるわけじゃないだろう。何言ってるんだいレミィ、おかしいね。最後はちゃんと救ってあげるつもりなのに」


 剣を持ったまま両手を広げて、冗談でも聞いたような顔をする。

 余裕だな。


 こちらは二人で、アスウェルはもう何度も負けている。レミィと戦った事は記憶の限りではなさそうだが。ライトにとってこちらの実力や手の内は分かり切っている事なのだろう。


 実際、相手の方が実力がはるかに上であるのは事実

 だが、それでもアスウェル達は勝たねばならないのだ。


「皆の思いを踏みにじって……たどり着いた世界なんて。そんなのライトさんにとって都合が良いだけの世界じゃないですか」

「あはは、言ってくれるね。君だってそこのアスウェルに都合の良い道具にされてるだけなんじゃないのかい。妹の代わりとして」

「そんな事ありません!」


 そうだ、俺は、妹としてじゃなくレミィが必要だから助けるのだ。

 他の誰でもない。こいつじゃないと駄目だから、傍に立つし、立たせている。


「口だけなら、何とでも言えるよ」

「口だけじゃ、ありません。証拠です」


 そうして、イクストラと話を付けてその後に得た力をレミィは発揮する。


「そんな事ができるんだ。へぇ、ちょっと見くびってたよ、見直した」


 空に手をかざし星の力を得て、武器を強化して向かっていく。

 斬撃を飛ばす、……なんて芸当が人にできるかと思っていたが、レミィはやったようだ。


 地面に溝が彫られて、長槍の放った軌跡を刻みつけていた。


「腕を上げたのはそいつだけじゃない」


 こっちだって、安穏と過ごしていたわけではない。

 生憎と周囲には、離れした連中ばかりが集まったからな。


「面白い。どれだけ成長したのか。見せてもらうよ」


 そうして、ライトとの……おそらく最後になるだろう戦いが、幕を開けた。





 一方コニーは、屋敷の中で倒れていたフィーアを抱え起こして屋根上へ登っている所だった。


 コニーからの話を聞いたフィーアは納得したように頷いた。


「なるほど、盲点だったわ。どうりでどの世界でもアスウェルが見つけられなかったわけよ」


 角度のある足場に取り付けられているのは装置だ。

 帝国の過去の実験を応用して作られた、人を異形へと変える禁忌の装置。

 帝国軍の暗部はその実験体を、禁忌の果実から回収し、ナトラ・フェノクラムの予備や代わりとして使おうと考えていたのだった。


「遥かな遠き果てからようこそって言いたいところだけど、後よね」


 情報を教えてくれたコニーへ感謝したフィーアはその装置を破壊する方法を考える。

 いつまでもぼうっとしていられない。起動されたらこちらは逃げる間もなく終わってしまう。


「……」


 そこへ、安全な場所へ逃げていたはずの白い鳥が舞い降りた。


「ナトラ?」


 小鳥は白い光に包まれて人の姿へ、伝えたい事があるらしい。


「フィーア、落ち着いて聞いて。ラッシュ達が言っていたの」

「落ち着いてるけど、あの子達がどうしたの?」


 慌てた様子で言葉を紡ぐ少女は、どういうべきか一瞬考え込む素振りを見せた。


「貴方がどうして軍の施設のところまでついてこなかったのかって……」

「どうしてって、アタシはできない事をするほど馬鹿じゃないわよ」


 戦闘になった場合、ただの人間では足手まといになるに決まっていた。

 何が言いたいのだろうと、フィーアは意図が分からずに首を傾げるのだが、その会話内容はコニーにも不思議がられるものだった。


「本気でおっしゃってるんですか? フィーアさん、でしたよね。貴方からはアイラさんと同じ感じの匂いがするんですけど……」

「……?」


 どうにも理解できそうにない、と続きを促せばかけられたのは驚愕の答えだった。


「魔人なんですよね? 貴方は」

「え……?」




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