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儚き 鮮血の運命  作者: 透坂雨音
06 無限時空の反旗者達
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12 帝都1月16日



 帝国歴1499年 1月16日

 アスウェル達は、突き付けられた難題に対応するために、帝国にあるアレイスターの所有する屋敷別邸にいた。


 人質になっているナトラを助けるために、下手したら滅びるかもしれない帝国の為に……、などという理由はそんなになく、アスウェルの講堂理由は至極単純自分の為、そしてレミィの為だった。


 あの少女にはできることなら安全な所にいて、戦いの場などにはでてきてほしくないのだが、約束したのだ共に戦うと。最後まで二人で抗うしかない。レミィはどんなに反対されても、アスウェルの隣に立ちにくる気でいるだろうし。


 その肝心のレミィはと言うと、屋敷に来てからは敵との戦いに備えた準備にアレイスターに稽古をつけてもらっている最中だった。


 屋敷の中庭のスペースで、帝国軍兵士(その手のプロ)が見たら腰を抜かすような訓練を。


「動いてる百個の的に当てろなんて無茶です、って思ったんですけど……慣れればできるものなんですね」


 勘違いするなと言いたい。

 慣れてできる様になるものじではないだろう、それは。

 風で飛ばした木の葉なんてものは狙って落とせるものでもない。


 レミィは、風の魔法を打ち出して、それらを高速で当てにいっている。


「ああ、そうだ。ああ、……やはり射撃の筋がいいな。これなら弓を持たせても、使えそうだ」

「ほんとですかっ」


 遠距離攻撃はアスウェルの担当だろう、薦めるな、そして十八番を奪うような事を言うな。


 自分より年下の少女に、射撃でも埋めようのない差を付けられてたまるか。

 どうにもあいつにはその手の才能があるらしく、アレイスターに指導されてからはメキメキと腕を上げてきているのだ。


 アスウェルとしてはこれ以上変な力を身に付けさせたくないのだ。ただでさえあいつは変な成長して、身の丈に合わない力をつけてるというのに。


「ふん、記憶がない影響か、今までは能力の大きさに合わずに力に振り回されていたみたいだな」

「そうなんです。魔法を使おうとしても、実戦だったら上手く行くんですけど、ちょっと気を抜いちゃうとすぐに変な感じになっちゃって」

「普通なら慣らすのに相応の時間がいるが、そう悠長に特訓してられないな。コツだけ教えてやる」

「はいっ、お願いします、アレイス君」


 やる気をみなぎらせて、アレイスターとの特訓に精を出すレミィを眺めながら、帝国に来てからの日数を数える。半月。半月だ。


 期間はもう一月の半ば。


 人質に取ったのなら、地図くらい書いて寄越しておけと思ったのだが、帝国に来てからも場所を指定されるような事は起きていないのだ。


 ナトラを使った禁忌の果実は、兵器を盗み帝国に混乱を起こして、すぐさまアスウェル達との戦いに終止符を打ってくるとばかりに思っていたのだが、どういう事なのか。


 このまま時間が無為に過ぎれば、二月になってしまう。


 この世界の中で帝国歴1499年2月はターニングポイントとなっているのだ。

 観測の力でナトラが読んだ、運命が収束する場所。

 レミィを疑っていた世界では同年の一月半ば。

 和解して衝突を回避した次の世界では二月。

 精神的に追い詰められた狂気交じりの世界では七月の初め、と。


 期日が収束地点へたどり着いてしまえば、ライトの書き換えた第二のオリジナルとなってしまった最悪の世界に戻って、また過去へ巻き戻らなくてはいけなくなる。魅力的なシナリオという物はまだよくははんめいしていないが、未練や不安ややり残しのあるこんな状態なら、間違いなくオリジナルの歴史に負けてしまうだろう。二年もの時間をやり直すのは相当な骨だ。


「君が、焦るのも分かる。でも今はフィーアさん達を信じて待つんだ」


 そんな胸中を読み取られたらしい。クルオが近づいてくる。

 

「別に一人で飛び出そうだなんて考えてはいない」

「本当かい? 以前の君な決着は一人でつけるとか言って飛び出していくと思ったんだけど」


 確かに以前だったら、そうしていたかもな。

 だが今は違う。


「フィーアさんは情報屋として、有名なんだろう? 彼女は見てて凄いと思うよ。本当に、組織の人達をまとめる手腕もそうだし、情報を集めるのだって、相手が嘘を言えばすぐに分かるから」


 フィーアは見た目こそ、ちゃらんぽらんだが中身はかなり優秀だ。それは今まで何度も巻き戻ってきたアスウェルにはよく分かっている。


「きっと、奴らの居場所を突き止めて来てくれるさ」

「さっさとしてくれと言いたいがな」

「全く、素直じゃないな。あ、訓練終わったみたいだ。タオル持って行ってあげなよ」

「今はいい、お前がやれ」


 騒がしい空気には今は近づきたくなかったので、クルオに押し付けて考え事に集中する。


 クルオに言われずとも心配はしていない、焦りはするがフィーアの腕なら、かならず時間内に目的の情報を掴んでみせるだろう。


 アスウェルにできるのは、準備を万全に整えるために、出来る事を順にこなしていくだけだ。


 中庭を歩いて行って、中央付近にある禊ぎ場へと向かう。

 ちょくちょく利用しているので、整えられているが、昨日は風が強かったので木の葉や草などが浮いている。掃除が必要だろう。


 ちょうどその変をうろうろしていたレン達に、場所を整えておくように頼んでおいた。

 この世界では、夜まで待つ必要がないのが面倒でなくていい。

 クレファンに似た想像主が、相変わらず後継者予定のままでいる事に関係しているのか知らないが。


 レン達使用人には、一応一連の事については事情を説明してある。

 ウンディに残ると言う選択肢も用意しておいたのだが、こうしてみた光景が示す通り、彼女達は帝国に共に来ることを選んだのだった。

 

 それだけではなく、ネクトにまでは入るのはやり過ぎのような気はしたが。


「レミィは幸せ者ですわね。アスウェル様のような方に気に留めていただいて」

「妹だからな」

「あらあら、からかいがいのない方」


 フィーアが何かしら言ったのではないかと思うのだが、そんな内心を呼んだらしいレンが首を振って否定してくる。


「フィーア様を悪く思わないでください。あの方は、私達がネクトに入る事を反対していらしたのですから」


 前に話した時はそんな様子などみじんも感じられなかったのだが。本当だろうか。

 飄々として様子で、「いやぁ、参っちゃうよね」などとほざいていた記憶があったのだが。


「それはきっとあの方なりの誠意なのでしょう。責任を持つなら、自分が言い出した事と同じだと、そうおっしゃっていましたから。あの方はおそらく余計な事は話さない方なのでしょうね」

「……」


 それは、身に覚えがある。

 帝国の貧民街についての事がそうだったな。

 フィーアもフィーアで意味で誤解されやすい性格らしい。


「ええと、禊ぎ場の清掃でしたわね。分かりました。今日中に済ませて、夜には使える様にしておきますわね」






 その日の夜。

 アスウェルは、レミィの部屋を訪れていた。

 禊ぎ場を使って聖域経由で治療する前に少し話がしたかったからだ。


「黒歴史ですー、私は今とっても恥ずかしいです」


 いきなりなんだ。


 恥ずかしそうにするレミィの唐突な話題が分からない。


 ベッドにいつもの様に並んで腰かけると、レミィが顔を真っ赤にしてそのような事を告白してきた。

 内容の意味はよく分からなかったが。


「私が別の世界にいた事は知ってますよね」


 治療が進むにつれて過去の事を思い出していくレミィは自分がここではない世界にいた事もはっきりと思い出していた。


「私はこの世界ではできない色んな事が出来ます。でも、それは黒歴史のせいだったんです」


 だから、その黒歴史は何だ。普通の歴史とどう違う。


「あぅ、は、恥ずかしい歴史の事です……。中二病的な事を言ったり、やったりする事、なんです……。こう、悪い人を糾弾したり、懲らしめたりするときに、高い所に上って格好付けたり、制裁する時に横文字並べながら偽名発声する子で、で、ですぅ……。あうぅ……。消したい。冷静に顧みると、すごく消したい過去ですー……」


 いまいちよく分からないのだが、普段の様子を見ていれば、大しておかしな事をしている様に聞こえないのだが。

 何を問題にしているのか、レミィは。


「私のいた世界って、魔法とか存在してなくて、だから私……すごく夢のある事が好きだったんです。自分で魔法陣を考えたり、どんな力があるのかって考えたり……。私、他の人よりおっちょこちょいですし、よく失敗してましたから、特別な力みたいな物の憧れも強くて……」

「つまり、それがお前のこの世界での能力に繋がっていると言うオチか?」


 長くなりそうだったので、先回りしてそう言ってやれば頷きが返って来る。


「アレイス君が言うには、そういう憧れが強く残っていたから、この世界の常識にとらわれず、試みる事が出来たんだって」


 ようするに、召喚術や、魔石からの魔法は、誰もやろうと思わなかった事。だから最初に手を付けたのがこいつになったという事か。


「……いい事だろう」

「アスウェルさんは黒歴史がなんだか知らないからそんな事が言えるんですよぅ」


 抗議する様に懐を軽めに叩かれた。


 レミィはそれからも、魔法も使えもしない世界なのに、究極奥義とか必殺技を考えてるのは痛い事なのに……、とブツブツ言い続けている。


 それからもしばらくは脈絡のない話をしたり、雑談に興じていたのだがふとレミィが、躊躇うような素振りを見せた。


「アスウェルさんは、復讐したいって思ってるんですよね。今でも」

「ああ。それが生きる目的だからな」


 だが、とそこに付け足すのはの、これまでに思わなかった、事だ。


「復讐で何かを犠牲にしたりはもうしない。他の大切な何かよりも優先する事はもうないだろう」

「それって……」


 屋敷での時間の積み重ねと、クルオの思いを知って、大切な存在ができて、それでもう復讐を第一に考える事は出来なくなっていた。


「俺は生きるために、復讐の道を歩いてきた。復讐する事が、迷う俺の導だったんだ。でも今は必要ではなくなった。クレファンの仇を討つ事も、連中との決着をつける事も忘れてはいないが……」


 アスウェルはもう、あの時の様にはならないだろう。


 お前はどうなんだ、レミィ。


「私も、復讐は幸せになる為にするべきだって、そう思います。過去に捕らわれて不幸になるのはきっと、本末転倒ですし。私は私の為に復讐をしますけど、アスウェルさんや皆さんが大切ですから」


 やはり、向いてるのは同じ方向なのか。

 アスウェルには、レミィが必要なのかもしれない。

 そう、運命で決まっているのだと。


「一緒に頑張りましょうね」




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