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儚き 鮮血の運命  作者: 透坂雨音
05 終焉世界のバッドエンド
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03 リライト



 帝国歴1500年 6月

 風の町 ウンディ


「じゃあ、レミィ。ここで少し待っていてくれるかい。僕は用事があるから」

「はい。分かりました」


 表面上は笑顔でライトを見送るレミィだが、しかしその姿が見えなくなった後に、張りつけていた仮面がはがれてしまう。


 公園のベンチに腰を下ろす。

 見上げた空には重苦しい雲が浮かんでいて、今にも雨が降り出しそうだった。


「……」


 じっと空を見つめ続けるが、ふと足音がしてにレミィは何となくそちらの方に視線を向ける。

 そこには一人の男が立っていた。


「やっと見つけた」


 その人は安堵したようにそう言って、ほっとしたような表情でこちらに歩み寄って来る。


「誰……ですか」


 癖のある茶色の髪の、目つきの鋭い怖そうな印象の男の人。

 羽織っているコートは黒で、腰には銃の入ったホルスターが装備されている。左側だ。それが何故か引っかかる。

 

 一見して、近寄り方そうな雰囲気の人間に見えた。

 だが、レミィにはなぜか、それが本来の姿ではない事が分かっていた。

 目の前にあるのは、本当の姿じゃない。


 本当は、もっと……。


 分からない。

 知らないはずなのに、なぜかすごくなつかしい。

 ずっと会いたかった人に会えた、そんなような気がする。


 もっと……、温かくて、優しい人なんだと、会った事もないのにどうしてそう思うのだろう。


「約束しただろ。一緒だと」

「貴方は、誰なんですか」


 名前は、何て言うのだろう。

 知らないはずなのに、……思い出せないだけの気がした。


「……ぁ」


 その人はこちらに近づいてきて、息が苦しくなるほど強く抱きしめてきた。

 左腕を伸ばして、けれど壊れ物を扱うようにそっと背中に触れて抱き寄せられた。

 抵抗すれば逃げられるくらいの弱い力で。

 知らない人にそんな事、される前には逃げてるはずのに、なぜか離れたくなかった。


 ほっとする。

 まるで大きな力に守られてるみたいだと。

 自分は何度も、何度もこの力に守られてきたような、そんな気がした。


「お前がいなきゃ、何も終われない。何も始まらないんだ」


 名前は……?

 なんていうのだろう?


「ミライ……?」

「こんな所で、真名(まな)を言うな」


 腕が離れていく。

 重なった分以上の体温を感じながらも、レミィはその人の顔を見上げた。


 すこしだけ、怖い……、けれどたまに優しくなる所が好きな顔。


「アスウェルだ」

「アスウェル……さん?」


 新しい気配。

 離れた所には、数人の男女が立っている。

 その人達は、レミィの目の前にいる人……アスウェルと知り合いのようだ。


 こちらの様子を、優しい顔で見ている。


 青い髪の女の人みたいなローブを来た男の人に、金の髪の貴族らしい身なりの少年と、赤い髪の使用人服の少女、緑の髪の踊り子の様な衣装を着た女性そして白い髪の自分と同じくらいの少女だ。


「準備はできてる。過去へ飛ぶぞ」


 右手を取られる。

 そして、手を繋がれて彼らの元へと案内された。

 それが何を意味する事なのか、分からない。


 けれど、不思議と恐怖心はなかった。


「……へぇ、まだ生きてたんだ。僕が殺したのに。君って凄く強運だね」


 嗤う様なライトの声。

 あの人が戻ってきたようだ。

 今までに聞いた事がない声だけれど、違和感は湧かなかった。

 今だからではない。

 きっと、今までに聞いてもおかしいとは思わなかっただろう。


 あの人はこちらにとても良くしてくれたけど、決して心を見せようとはしなかったから。


「君達の情報があったから、さくっと殺しておこうと探しに言ったのに、まさかこっちに来てたなんてね。油断したよ」


 まったくしぶといしやっかいだなぁ、本当に。とライトは肩をすくめながら言葉をこぼす。

 そうして、かれは装備品の剣を手にして、周囲に結界を張るのだ。


 応じる様に、貴族の少年が、使用人の少女が、踊り子の女性が、それぞれの武器を手にしてライトに向き合う。

 アスウェルも。

 左手で、ホルスターから銃をぬいた。

 そう、左で。

 右手は使えないからだ。

 その部分の服の袖は不自然になっていて、そこにあるべきものがないから。だから使えない。


「やる気? 過去に逃がすわけにはいかないんだよね、悪いけど、本気で相手をしたら死んじゃうかもよ。それでも良いのかい?」

「……」

「へぇ、分かって立つんだ」


 始まりは一発の銃声。


 争いという火が、酸素をくべられて一気に燃え広がる。

 ライトの力は強大だ。

 たった一人で禁忌の果実を退け続けて、帝国の追手もどうにかしてしまう。

 だが、それでも彼らも負けてはいなかった。


 善戦している。

 それぞれが、それぞれの全力を尽くして、相手に向かっている。


 そこでレミィはもう、ライトを守ろうとは思えない。

 守るべき者なら、居場所なら、もう他に見つけてしまったからだ。

 記憶が、心が訴えかける。


 本当に大切な物を、自分が大切にしていた物を。


 退いてきたアスウェルに手を繋がれた。白い髪の少女がこちらに歩み寄って、時計を手渡してくる。

 それは、水晶屋敷に失くしたはずのレミィの時計だった。


「どうして、これを」

「禁忌の魔女、破滅を呼ぶ者、そして、落ちた存在……毒姫」


 時計は完璧に修復されているようだ。

 白い髪の少女は小さく微笑む。


 彼女はレミィの言葉に応えず別の事を述べ続けている。


「貴方達の巻き戻りが不安定だったのは、二人が一つの力を分け合っていたから。だから、そもそも二人が同じ場所に揃わなければ、力は発動しないの」


 巻き戻り。何の事だろう。


 手に平の中の時計がまばゆく光り出す。

 光源は二つあった。

 もう一つは、アスウェルの持つ時計。


 光は強くなって周囲の色全てを、塗りつぶしていく。

 気が付いたライトが、こちらを止めようとするが。


「あの時の俺だと思うなよ。お前の余裕がお前を殺す」


 アスウェルは銃を構えて、そして撃った。

 紫電の光を纏った雷光の一撃を。


 土が抉れ、空を切り裂いていく。

 結界が無ければ打てなかった一撃だろう。

 そう、ライトは油断していたのだ。

 後の事を考えて、騒ぎを起こすのは面倒だと、手を打ってしまったから。


 彼の足ならば、時間をかけてアスウェル達をいたぶらず、必殺の一撃だけを放ってその場から逃げられたのに。


 油断が彼の足を引っ張ったのだ。


 一撃の光にライトが呑まれていった所で、時計の光が辺りの景色を塗りつぶした。


 気が遠くなる一瞬前に。


「ミライ、大きくなったね」


 そう自然と口から出ていた。




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