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儚き 鮮血の運命  作者: 透坂雨音
04 掘削摩耗のマッド
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終章 邂逅



「ここは……」


 目を覚ました男、エマは見覚えのない周囲を見回し首を傾げた。

 途切れる直前までの記憶を思い起こす。


 野を活動する獣に傷を負わされ逃げた。

 薄暗い森を駆け抜けて、その先。

 確か、迷い込んだ遺跡の中に入って、気を失ったのだ。


 わずかに身動きしながら、そんな状況背景を思い出していると女性の声がかかった。


「大丈夫ですか?」


 声の主の方へ視線を向ける。


「倒れてたから、アスカと手当しました。おかしな所が合ったら言ってください」


 灰色の髪に灰色の服を着た地味な女性だった。

 遺跡の内部が暗い(それもそのはず、地下なのだから)のも相まってよく姿が見えないのも理由だろう。


 明りは、手近なところにある小さな光る石のみ。


「アスカ……?」


 かけられた言葉に他に誰かがいるのだろうかと、見回すが人の気配はない。


 女性はその言葉の意味に気が付いて、腕をわずかに掲げて見せた。


「おいで」

「ピィ!」


 正体が分かった。鳥だ。

 羽ばたきと共に上空から舞い降りて来た白い鳥が、女性の腕へとまったのだ。


「私の、友達です」

「……・そうか」


 と、しかこちらは言いようがない。


「白衣を着ているという事は、どこかの研究院の方なのですか?」

「……」


 この女性は喋りたがりなのかもしれない。

 そういう利益を生まない会話は好きではないので、こちらに返す言葉は無かった。

 怪我の手当ての恩など知らない。勝手にやった事だ。頼んわけでもあるまいし、付き合ってやる義理はないだろう。


「疲れている。少し黙っててくれ」

「ごめんなさい」


 慰める様に女性の肩へ移動した鳥がさえずっているが、どうでもいい事だった。


 しばらく無言の時が流れるが、ふとした時女性がこちらへ話しかけてきた。


「包帯がちょっとずれてます。ごめんなさい」


 またお喋りかと思ったが違ったらしい。身を寄せて、こちらに巻かれたそれを正しい位置へと直していく。

 近くに寄った分だけ、暗闇に紛れて見えなかった顔が、その細部がよく見えるようになる。


 地味だと思っていたが、それなりに整った様子の女性の顔は、どこか見覚えのある顔だった。


 これは、研究候補として上がっているリストの一人、毒姫の顔によく似ている。

 毒姫には娘がいるらしいと聞いていたが……、まさかと思った。


「名前は」

「え?」

「お前の名前は何だ」


 鳥の名前を教えても、自分の名前を言っていなかった事に気が付いた女性は、はっとして答える。


「クロアディールです。私は、各地を旅している者です」

「……エマだ。エマー・シュトレヒム。職業は研究員」

「エマさんと言うんですか」


 淡雪が春のぬくもりにそっと溶けていくような、そんな笑みを零した女性……クロアディールを前にしてエマは思った。


 研究対象を発見したので、研究所から人をすぐに呼ばなければならないな、と。




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