終章 手紙
異変を察知した事が幸いだった。消失した屋敷からなんとか事前に抜け出していたコニーは、帝国に宿を構えて日々過ごしていた。
「このあいだ、アスウェルさんを見かけたような気がしますけど。まさかですよね」
備え付けにある机でするのは書き物だ。
あて先は、アイラ。
ただし、よく彼女はスコットの店にいるらしいので、スコットの名前も付け足しておく。
「レミィさんは発見ならず。見つけたら捕獲……じゃなくて、保護してあげてくださいっと」
ここは不便だ。
毒の瘴気に侵されていて、いつ人が狂ってしまうか分からない世界らしいのだから。
だが、そんなリスクを冒してでもここにいなければならない理由があった。
書き物を終えた後は、息一つつく。
思い返すのは、屋敷での日々の事だ。
レンもアレスも他の物達もとても良い人たちだった。少々礼儀や態度に問題があったり、お人よしすぎたり、後輩を甘やかしすぎたりするのが問題だが……、
「あれ、少々どころか欠点だらけ……?」
ともかく嫌いになる理由がないくらい良い人たちだった。
レミィの様子を見る為だけに、屋敷に潜入したのが少し後ろめたくなるくらいで。
最初に会った事のレミィは、何も真っ白な状態の赤子の様だった。
以前の姿を知っている身としては当然の事とはいえ、見ていると痛々しくて、すごく悲しくなった。
けれど、彼女は凄く前向きで、コニーの口調をまねて良く喋るよになったし、屋敷の手伝いも拙いながらこなせるようになった。
前とまったく同じようにとは言わないが、それでも確実に良くはなっていたのである。
それなのに……。
「また、どこに攫われて行ってしまったんでしょうね。貴方は」
屋敷は消失して、使用人たちのいなくなってしまった。レミィの行方も分からずいるのだが、おそらく彼女を最初に攫った人物が関係しているのだろう。
知らないどこかでまた、出会た時のように心細そうにしていなければいい、とそう思った。