深さと広さ
学食前の広場に行くと、生徒たちが待っていた。
「嬉しそうね。西田君と面白い話ができた?」
三瀬さんが俺に気付いて声をかけてくれた。
「はい。久しぶりに会えて楽しかった。昔の事で礼を言われました」
「良かったわ。西田君は院生の時から知っていたの。学会で賞を取って取材したことが有ったから。その時、彼の苦労を知って、私は大学でのお母さんを自認しているのよ」
三瀬さんは俺の母と同年代に見える。活動的で明るい女性のようだ。身寄りの無い西田にとってとても頼りになる存在だろう。
「三瀬さんのような女性がいてくれて良かった」
三瀬さんは任せろと言うように胸を叩いた。
「それにしても、我が中学校から博士が誕生したなんて凄いわね。都会に比べて、色々な価値観に触れる機会が少ないから、私たちの役割は本当に重要よね。私はもっと田舎の村出身者だから、女に教育はいらないという人がまだいたりして、大学へ進学するだけで大変だったの。私たちが示さなければね。学ぶ大切さを、その先にあるものも含めて」
斉藤は決意に満ちた目を俺に向けた。
「そうだな。俺は理科教員として、生徒にもっと理科の楽しさを知ってもらいたいし、様々な経験を積ましてやりたい」
「素晴らしいわ。今度はノーベル賞受賞者が教え子から誕生するかもしれないわね」
西田の科学知識が深さならば、俺は広さを追い求めよう。役割は違う、でも、貴賤はないはずだ。
「学食、美味かったか?」
「カツカレー、量が多くて安くてびっくり。めちゃ美味かった」
「先生、ケーキがあったよ。お昼にケーキが食べられるなんてうらやましい」
「この大学を目指すか? でも、毎日ケーキを食べたら太るんじゃないか?」
「先生の意地悪!」
生徒たちも楽しそうだ。
「西田先生に会えてよかった。私も科学者になりたいと思った」
理科好きの生徒が目を輝かせている。
ここに来て、そして西田に会えて良かったと本当に思う。