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  作者: 鈴元 香奈
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教師になった

 俺は教師になろうと決めた。西田のような生徒の力になってやりたかった。

 大人ならば、もっと何かができたのではないかと、俺はそう思ったんだ。

 俺は地方大学の中学理科教員課程に進んだ。


 篠田は、隣県の有名な大学を受験して三回落ちていた。噂では足切りされて受験会場へは行っていないらしい。それでもランクを落とした大学を受験するつもりはなく、専門学校へ行ったと聞いた。

 最後に会った時、

「田舎で育ったからまともな大学に入れないんだ。都会で育ったら私学の中高一貫校へ入って、有名塾に通っていた。そしたらあんな大学なんて楽勝だったはずだ。俺は運が悪いんだ。親だって受験の事を何も知らない。有名大学の名前さえ知らないんだ。小さい頃からちゃんと教育されていたら、こんなことにはならなかった」

 そう、悔しそうに言った。

 そうかもしれない。俺たちの環境は、大学受験する上でとても不利だろう。


 西田と会ってから、十三年、俺は二十八歳になっていた。

 俺が通っていた中学の教師になって六年目。少しはいい教師になれたと思っている。

 俺が通っていた当時は学年二クラスだった中学は、学年一クラスに減っていた。地方の少子化が進んでいる。少ない子に農業や漁業を継いで側にいて欲しいと思っている親も多い。

 近隣に大学は無い。大きな企業も無く、高学歴者と触れ合う機会は皆無だ。頑張って勉強をした先の姿を、生徒も親さえも想像することができない。

 大学進学率は平均より随分と低い。

 そんな環境を少しでも変えたい。大学の存在を、アカデミックな雰囲気を生徒に味あわせたいと思った。


 俺は、篠田が落ちた有名大学に見学をさせてもらえないかと連絡してみた。三年生の遠足で行ってみようと思ったんだ。

 答えは快諾だった。しかも今年博士号を取ったばかりの若い科学者と会える時間をくれると言う。

 その科学者の名前は西田研一と伝えられた。

 その名前で検索してみると、いくつかの論文がヒットした。英語で書かれた論文からは、内容を想像することも出来なかった。


 全く違う世界に育った同名の男。残酷だなと思った。

 一人は教育環境が整った豊かな家庭に育ち、一人は満足に食べる事さえできなくて、勉強どころではなかった。

 その格差に憤慨しながらも、科学者になるような人は、産まれも育ちも違う特別な人だと思っていた。

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