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  作者: 鈴元 香奈
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殺人事件

 西田が転校して来て二か月が経ったある日、パトカーがやって来た。音は出していなかったが、教室の窓から見える駐車場に停まったパトカーは良く目立ち、窓際の席の奴らが授業中にもかかわらずざわめいた。

 しばらくして、教室に教頭がやって来て授業中の英語教師に耳打ちした。

「西田。教頭先生について行け」

 訝しそうに教頭を見ながら立ち上がった西田は、何も言わずに教室を出て行った。


 窓の外を見ると、パトカーに乗り込む西田が見える。

 その日、西田が教室に戻ることはなかった。


 西田がパトカーに乗せられて学校を出て行った訳は、家に帰ってテレビで知った。

「今村敦さんと内縁の妻西田亜里沙さんが、何者かに刺され亡くなりました。西田さんの長男研一さんは中学校に行っていて無事でした。犯人はまだ捕まっていません。近隣にお住まいの方は十分ご注意ください」

 テレビには見慣れた風景が映り、古いアパートの前から実況中継がされて、レポーターが西田の母親と、あの男の名を連呼していた。

 アパートの住人から、西田の悲惨な毎日が語られる。

 夜長中怒鳴る男。泣き叫ぶ母親。何かを殴る音の後に聞こえるうめき声。薄いアパートの壁は、隣の生活を曝け出す。

 転校してきたまだ暑い頃でも、長袖のカッターシャツを西田は着ていた。体育の授業はよく休んでいた。体には痣があり見せられなかったのだろう。


 一か月後、西田の母親と男を殺した犯人が捕まり、田舎の町はようやく落ち着いた。

 良くある金銭トラブルと言うやつだった。世間では珍しくもないのかもしれない。

 ただ、人口が三万人にも満たない小さな市では、驚愕の出来事だった。


 あのパトカーがやってきた日以来、学校に西田は現れなかった。

 文化祭を級友として一緒に楽しもうと思ったが、叶えられなかった。別れの言葉さえ言えなかった。

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