転校生
「一切の望みを捨てよ」
着古した制服の見慣れない小柄な生徒が、校門近くに設置された考える人の像を見ながら、そう呟いた。
それが、西田研一との出会いだった。
中学三年生の二学期、運動部は引退して受験が始まりそうな重い雰囲気の中、西田は転校してきた。
小柄なので一年生かと思ったが、三年生だった事に驚く。
制服の黒いズボンは、膝に穴があきそうなほど薄くなりテカっていた。カッターシャツも薄汚れて、とても三年間着ただけとは思えなかった。
俺は、西田の呟きが気になって、調べてみた。
地獄の門の銘文?
考える人は地獄の門の一部?
西田にとって、校門は地獄の門だったのか?
西田は、工場で働く母親とその愛人の男と、壊れそうな古いアパートに住んでいると噂されていた。
幸せそうではなかった。勉強も遅れているらしく、小学生で習う漢字さえ知らないことがあった。
授業中はいつも上の空。給食だけを食べに来ているような生徒だった。
クラスの皆は西田を馬鹿にしていたが、俺は学級員として、西田をクラスに溶け込ませたかった。
体育祭は五月に済んでいたが、文化祭はみんなで盛り上がりたかった。
だから、事あるごとに声をかけた。西田は少し迷惑そうにしていたけれど、話には応じた。
西田の噂が追加された。
借金を踏み倒して逃げている親のせいで、中学校だけでも数回の転校を繰り返しているという。
とても勉強どころではなかったと思う。
相変わらず、西田はまともに授業を聞いていない。しかし、学校には真面目にやって来ていた。その訳を問うと、「家にいたら男に殴られるし、飯も食えないから」と答えた。




